とあるタクシードライバーの日々 作:サビサビボンプ
一応、ラストシーンまでの構想はありますので、完全に止まる事は無いとは思いますので、気長にお付き合い頂けたら幸いで御座います。
また、今回はオリジナルの施設の名前が出ます。ご注意を。
ミルキーサブウェイ、いいですね。すごくいいですね。
あんな感じのノリやりたいな。
プカプカと夢を見ていた。
誰かの声、誰かの音を聞いていた。
ぼやけた視界から見える姿は近く、遠い世界から聞こえる声は短く、何を言っているのかは分からない。
「……やっぱり…13号は……」
「成長……遅れ…深刻……」
「規格……以下……廃棄」
分からない。だが、自分がどう呼ばれているのかは判った。
自身は姉妹達の規格に合わなかった廃棄物、その十三番目。廃棄物13号。
だから、捨てられた。
捨てられて、起きた場所は瓦礫の山の中。
どうにか這い出して、宛もなく歩いて転んで歩いて歩いて歩いた。
そして限界が来た。
夢の中で聞いた人に会ってみたかった。
優しくて強くて、頼りになる〝たいちょー〟という人に会ってみたかった。
「で、森隊長よ。算段はあんのか?」
エーテリアスのコアを握り潰し、ミフネが問うた。
「最優先目標はサティの奪還と保護、そして撤退だ」
両断されたエーテリアスを背に、森がそう答えた。
リェンの情報通りなら目的地である研究施設は近い。
「そうじゃねえよ。お前、どうすんだ?」
「どうするとは?」
「お前の話なら、そのクローン連中はまだ造られてる。……どうするんだ?」
ミフネの問に鞘を握る左手が強くなる。
ミフネが意地悪く問うている訳ではない事は理解している。
その証拠に茶化す雰囲気は一切無い。本当にどうするつもりかと問い掛けている。
「……終わらせる。少なくとも、彼女達は」
「そうかい。なら、俺は何も言わん」
ミフネも理解している。
彼女達クローン兵は、自分達機械人兵に対抗して造り出されてしまった存在だ。
生まれるべき命ではなかった。等と理解している振りをするつもりはない。
それを言うなら、自分達も戦う為の機械。賢しらな連中が言うなら、存在するべきではない兵器だ。
しかし、一度でも心と命を持って生まれたなら、それは生きるべきだ。
その存在を間違えない限りは。
だから、森の決断にミフネは何も言わない。
傲慢な話だが、森の話の通りなら救出したとしても、サティの様に生きられる者は居ないのだろう。
「ミフネ、戦闘音だ」
「なんだ? 軍でも嗅ぎ付けて来たか?」
「いや、それにしては音が少ない」
二人が身を屈め、ホロウに飲まれ滅茶苦茶になった工場跡地を進むと、エーテリアスと戦闘中の影を二人視認した。
「ん? あいつは……」
「まさか……」
その内の一人、白に近い短く揃えた銀髪を持ち、鋭い二刀を振るう少女。
その彼女の存在にミフネは疑問し、森は驚愕した。
「邪兎屋のとこの小娘じゃねえか。なんで、こんな所に居んだ?」
「ミフネ、知って、いるのか……?」
「お? ああ、邪兎屋っつう何でも屋の奴だ」
「そう、か……」
言うと森は立ち上がり、二人へと歩いていく。
「……無力化完了。先を……、誰!?」
「おーい、小娘。俺だ俺」
「ミフネさん?」
「アンビー、知り合いですか?」
突然現れた森に警戒していた二人だったが、後ろから手を振りながら出てきたミフネに、アンビーが警戒を解いたのを確認して、もう一人の狙撃手と思わしきアイマスクを着けた女も若干警戒を解いた。。
「この人はミフネさん。元防衛軍のタクシードライバー」
アンビーがミフネを紹介するが、アイマスクの女はまだ警戒を続けている。
無理もない。こんな所に知らぬ機械人二人、ひょっこりと現れたのだ。
ミフネは警戒を解く為、自身の過去の経歴を明かす事にした。
「ミフネ・トシゾーだ。まあ、元ヘファイストス機械人素体研究施設郡第二警護隊隊長って言えば信用出来るか?」
「ミフネ・トシゾー。貴方があの……。私は〝トリガー〟、オブシディアン大隊オボルス小隊所属です」
「あのが、どれになるかは知らんが、今はただのタクシードライバーだ。で、こいつが……」
ミフネの紹介を手で遮り、森はアンビーの前に立った。
全身が黒で統一された長身、外套の襟と制帽で目元以外見えない顔。だが、その肌色から人間やシリオンではないと判る。
「貴方は……」
「私は森悟。元防衛軍特務憲兵隊隊長だった男だ」
「そう。私はアンビー・デマラ。所属は……」
「シルバー小隊」
その言葉にアンビーの目が見開かれ、トリガーの指が引き金に掛かった。
それをミフネは黙って、煙草を吹かしながら見ている。森の情報と反応、そしてアンビーの容姿と装備から、大体の検討はついた。
どうするかは全て、当人達が決める事だ。
「私は、君の姉妹を、仲間を、家族を斬った男だ」
森の左手が動き、愛刀をアンビーに差し出す。
その太刀と森を交互に見やり、アンビーは問うた。
「それで?」
「君には私に復讐する権利がある」
「そう。……復讐はしないわ」
森の左手に手を添え、ゆっくりと戻させる。
そして、強い瞳で感情の見えない森の目を見据える。
同僚のビリーの様に判りやすくはない。ただのカメラアイが二つあるだけの両目。だが判る。
この人はずっと囚われてきた。だから、ここに来た。
だから、終わらせる。
「私は終わらせる為に来た。シルバー小隊も貴方の復讐も全て」
「だが……」
「私は貴方を許す。それに貴方が来なければ、皆はもっと酷い目に在っていた筈」
だから、私は貴方を許す。
単純明快なアンビーの言葉に、森は俯き右手で顔を覆う。
涙も出ない体の筈なのに、たった一言で何故かそこから何かが溢れ落ちてきた気がした。
それが何なのか。森には分からない。しかし、ずっと突き刺さっていたものが一つ、胸の中から無くなった。
そんな気がした。
そして、そんな森の尻を蹴り上げる足があった。
ミフネだ。
「だから言ったろうが。てめえの後悔や復讐をガキに背負わすんじゃねえって」
「すまない」
「大体、てめえは昔っからウジウジすると周りを巻き込みやがる。いい歳して恥ずかしくねえのか?」
「それを言うなら、お前もその雑な性格はどうなんだ?」
「けっ、こいつは元々だ。で、だ。こっちの目的だが、ちょっと面倒でな」
簡潔にこちらの事情を話す。
廃棄物13号〝サティ〟の事、何があって彼女が誘拐されたか。
これからどうするつもりだったか。
これらを説明し終え、共通の目的が見えてきた。
「では、そちらも最終目的は同じか」
「ええ、彼女を、ツイッギーを止める」
「なら、やる事は一つだ」
ミフネの言葉に全員が頷いた。
ヘファイストス機械人素体研究施設郡
旧防衛軍並びに旧都主導で設立された機械人素体研究用施設の集合体。
規模は研究施設と居住区、商業区合わせてちょっとした市町村規模のものであり、超大型エーテリアス〝ギガントマキア〟が出現したエリアもここ。
ミフネやアイリの両親が所属していた高羽研究所もこの施設郡内にあり、高羽親子はある理由からその研究所で生活していた。
また、高羽研究所は二ヶ所に分かれて点在し、最重要研究は第一、第二研究所は研究成果の保管所に近い扱いであり、〝ギガントマキア〟もここに保管されていた。
また、この第一研究所は施設郡の中央部に位置し、ここから二人の研究の一部でもサルベージ出来れば、現在の機械人素体並びにエーテル工学に関係する技術は、十年は未来に進めるとされている。
――トシゾー、君の身体は僕達が徹底的にロマンと技術を詰め込んだものだ。
その為にその機能を積み込んである。
――聞こえてる? ……まあ、無いとは思うけど一応ね。トシゾー、何かあったら愛理をお願いね。
その機能は貴方のその頑固さが鍵なんだから。
――掠れた音声ログより抜粋
◯◯年後のミフネさん家
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