とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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銀の罪

「ええ、そうね。馬鹿げた話だわ」

 

いやに清潔感のある機械の群れの中で、二人が話す声があった。

 

「でも、スポンサー様のご意向なんだから仕方ないでしょう。欠陥品でも、これくらい理解出来るわよね」

 

人影は二人、なのに話す声は一人。

その両方がある少女によく似た銀に近い白髪だった。

 

「まったく、そうでなければ追い返してたわ。……あの忌々しいガラクタの残党兵」

 

声そのものは静かだったが、それから滲む色は静謐とはかけ離れた憎悪と怒り、侮蔑のそれが入り交じった激しいものだった。

 

「本当、こんな事にならなければ、あんなものに頼らなかったのに……」

 

ああ、本当に忌々しい。

吐き捨てる少女が見下す機械のベッドには小さな姿が横たわり、静かな寝息をたてていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これがここにあってこうなったって事は、だ」

 

ミフネが目の前の破損した鉄の塊を叩く。

それはミフネと森には見覚えがあり、つい最近も掃射を食らわしてきた装甲車だ。

銃痕からここで戦闘があった事が判る。

そして、

 

「付近に反応はありません。やはり……」

「口封じかシンプルに巻き込まれたか。まあ、十中八九口封じだろうよ」

 

サティを拐ったと思わしき者達の姿は無く、運転席のドアも引き剥がされタイヤも破損、エーテリアスによるものか装甲も撃ち抜かれ内装も滅茶苦茶だ。

確実に生きてはいないだろうし、その確信はある。

 

「なら、さっきのエーテリアスは」

「誘拐犯も混じっていただろうな」

 

アンビーの言葉に森が付近を警戒しつつ答える。

誘拐犯は連中の仲間ではなく、安い傭兵かホロウレイダーの類いだったのだろう。でなければ、こんな口封じはしない。

 

「森、距離は?」

「リェンの情報だともうすぐだ」

「お二人共、その情報を何処で?」

「元情報部の奴からだ」

 

トリガーにミフネが短く答え、先に進む。

 

「元情報部、ですか」

「気になるなら、私から口利きをしてもいい。君は確かオボルス小隊だろう。イゾルデ大佐の部下ならリェンも信用する筈だ」

「あ? イゾルデ?! あいつ、大佐にまでなったのか!」

 

ミフネが驚き、声を挙げる。

 

「イゾルデ大佐をご存知なのですか?」

「おう、知ってる。警護隊に配属される前に、何度か一緒にな。しかし、イゾルデの部下か。となると、オルフェウスの奴も一緒だな? あいつ、まだキャンキャン喧しいまんまか?」

「オル……。いえ、彼女は……」

 

オルフェウス。その名を聞いたアイマスクに覆われたトリガーの表情が一瞬だが曇った。

 

「ん? どうした?」

 

一瞬だけの変化。ミフネはそれを見逃した。

しかし、違和感を覚えて問うたが、その答えが返ってくるより先に、アンビーが何かに気づいた。

 

「……ミフネさん。昔話もいいけど、何か変」

「変? 何が……っ!?」

 

ミフネが疑問した瞬間、先頭を行くミフネの頭が撃音と共に後ろに弾かれ、トレードマークであるハンチング帽が宙を舞った。

 

「ミフネさん……!!」

 

アンビーが叫ぶ。

今の着弾音からして、大口径の対物ライフルなのは間違いない。ミフネが頑丈なのは理解しているが、今の威力は不味いとアンビーは判断し、ミフネの前に出ようとするが森の手がそれを阻んだ。

 

「二人は私達の後ろに居なさい」

「何をっ!?」

「ミフネ、呆けるなよ」

「……30mm対機械人弾か。どうりで頭に響く訳だ」

 

森が二人を背に隠し、ミフネが頭を振り両腕を掲げる。

 

「おい、俺の前に出るなよ。お前らじゃ、掠っただけで手足吹き飛ぶぞ」

「ミフネ、私も……」

「おめぇの装甲じゃ、二発が限界だ!」

 

トリガーとアンビーが聞く音は、一発一発が必殺の打撃音だ。30mm対機械人弾、装甲車や軍用パワーローダーにも使用される対装甲徹甲弾。

人間の自分達が食らえば、確実に絶命は免れない。

 

「どっから撃ってきてる?!」

「トリガー君!」

「もう少しです!」

 

大口径で反動も大きい弾丸、そうそう連発は出来ない。銃器を扱うトリガーには、当然と言える事だ。

しかしこの射手はトリガーの知る常識から外れた連射で、ミフネの重装甲を削り取っている。

 

 

――何処に……?!

 

 

正面にある構造物から撃っている事は明白だが、射線にズレがあり、射撃の癖から複数人ではない事は判る。

問題はあの大口径弾を撃ち出す銃器を抱えて、どうやってここまでの速度と精度で狙撃を可能にしているのか。

 

「ミフネ! まだ保つか?!」

「舐めんな! こんなもんでどうにかなるかよ!」

 

盾となっているミフネに余裕はありそうだが、こちらに余裕は無い。目的であるクローン製造工場の破壊には、クローン技術の持ち出しの阻止も含まれる。

時間が無い。

切迫感がトリガーの判断を鈍らせようと、彼女の視界に纏わりつく。

焦るなと言い聞かせても、現実がひしひしと迫り来る。

 

「狙撃兵! 狙撃兵基本教育第一項!」

 

その曇り始めた視界を、重く太い声が蹴り飛ばした。

 

「え? はっ! 常に冷静に全てを俯瞰すべし!」

「なら、お前のやるべき事は俺を盾に敵を見付ける事だ! こんなもんで俺の装甲は抜けん!」

 

だから、落ち着いて狙え。

絶え間ない激音の中、トリガーは深呼吸をして相棒を自分達に覆い被さる様にしている森の肩に構えた。

弾丸は全て正面から、全て正確にミフネを狙う様にしてこちらの動きを封じている。

そう、全て正確に正面からきている。

大口径大火力の弾丸は全て、位置こそ変われど方角は変わっていない。

それが目の前の廃墟を砦としている。

だが、それだけだ。

目の前の砦以上に頑強な盾が、自分達を守ってくれている。

なら、なにも問題は無い。普段通り、何時もの通りに狙いを定めて引き金を弾くだけだ。

 

「森! 小娘!」

 

トリガーが引き金を弾き、銃弾が真っ直ぐに標的へ向かうと同時にミフネの声に合わせて、森とアンビーが廃墟へ向けて飛び出す。

トリガーの腕前は今の一瞬で理解した。もう弾丸は飛んでこない。仮に飛んできたとしても、もう弾道は見切った。次は斬れる。

廃墟の壁面を駆け上がり、トリガーの弾丸が届いた階に二人が到着する。

だが、そこには誰も居ない。破損し、花の様に銃身を咲かせた大口径ライフルが一丁落ちていただけだ。

 

「……そっちは?」

「こちらも気配が無い」

 

念の為、二手に分かれて階層を調べるが、あったのは放置されたライフルが数丁のみ。

弾道から見て、これらを使いあの弾幕を張っていたのだろうが、ここで二人に疑問が湧く。

 

「アンビー君、これをどう見る」

「分からない。単純に考えれば複数人居た事になる。だけど……」

 

その痕跡が無い。

あるのは狙撃手が居たという痕跡だけで、明らかに複数人が居た様な気配が無い。

 

「おーい、そっちはどうだ?」

 

少しして、ミフネとトリガーの二人も合流した。

しかし、二人も何も発見出来なかったのか。表情は苦い。

 

「何も無い。あるとしたら、このライフルくらいか」

 

森が持つライフルに弾は入っておらず、全て撃ちきって捨てた事が判る。

 

「旧型だが軍の制式ライフル、か」

 

ミフネが警護隊に配属される前に使われていた型式のものだが、整備性や馴染みあるという理由で今でも一部の部隊では採用されている。

トリガーも扱った事のある銃身、それを森から受け取り観察するが、何も変わった所は無い。

 

「しかしまあ、懐かしいな。確か……、んん?」

 

ミフネがトリガーが観察する銃に顔を寄せる。

確かに見覚えがあり懐かしい。だが、それ以外にも古い記憶を刺激するものがあった。

中途半端に削られ消された銃床に刻まれたエンブレムだ。

 

「おい、森。これ」

「ん? これは……」

「あれだ。ほら、あれだよ」

 

古兵二人がトリガーを挟み、よく分からないジェスチャーでお互いの記憶を呼び覚まそうとする。

それにトリガーとアンビーは非常に冷めた視線を向ける。

やがて、あれだなんだと言っていたミフネが思い出す。

 

「……ヒュプノス小隊!」

「ああ、それだ!」

 

森とミフネが互いに指を指し合い、古い記憶に頷く。

それにトリガーとアンビーの二人は首を傾げる。

軍に関わりのあったアンビー、今も軍に在籍するトリガーもヒュプノス小隊の名は聞いた事が無い。

 

「だが、あの小隊は……」

「ああ、生き残りが居たのか」

「二人共、そのヒュプノス小隊ってなに?」

 

アンビーが問う。

記憶を探り当てた二人の様子は、探り当てた時に比べて苦々しい。

 

「いや、まあ、そうだな。移動しながら話すか」

 

煙草に火を点け、ミフネは重たい気分を隠さず言った。

◯◯年後のミフネさん家

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