とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

29 / 59
銀の怒り

これは、少し不味いか。

飛んでくる弾丸を斬り落としながら、森は狙撃手が居るであろう廃墟を睨んだ。

 

「貴様、何者だ!?」

 

二度目の問にも、返ってくるのは弾丸だった。

埒が明かない。この別角度から来る射撃の謎も解らない中、敵の正体すら掴めない。

射撃の癖から、複数人ではない事しか分からないこれが、どうやって放たれているのか。

森が演算機能を最大限に働かせ、答えを導こうとしている横で、明らかに苛立ちを隠さないミフネが動きを見せた。

 

「ミフネ、お前なにを?」

「ああ? んなもん、バカスカ撃ってきやがるクソ野郎に目にもの見せてやんだよ!」

 

銃弾を装甲で弾きながら、ミフネが走り寄るそれはこの施設で使われていただろうトラックのコンテナ。

ミフネはそれを抱き着く様に抱え、一息に頭上まで持ち上げた。

 

「相変わらずの馬鹿力だな!」

「もやしは黙ってろ! おら、止めれるもんなら止めてみやがれ!」

 

撃ち込まれる銃弾をものともせず、ミフネは狙撃手が隠れる廃墟へコンテナを放り投げた。

銃弾がそれを阻もうとするが、コンテナは放物線を描いて廃墟に激突し、多量の粉塵と瓦礫を巻き込み瓦解する。

 

「……やったと思うか?」

「本当にヒュプノス小隊なら、この程度で死ぬかよ」

 

舞い起こる粉塵に紛れ近づく。

本当に相手の狙撃手がヒュプノス小隊なら、この程度てば死なない。この程度で死ぬなら、討伐隊が組まれる事もなかった。

ヒュプノス小隊は、狙撃手だけで構成された部隊だが本質は獲物を狩る狩人の集まりだ。

あの小隊を全滅させる為に討伐隊は半壊、森は胸部吸気モジュール全損、ミフネも片腕を失った。

 

「では、どう来ると思う?」

「んなもん、こう来るだろ」

 

森の鼻先を掠める様に過ぎ去り、ミフネの装甲に弾かれた二発の銃弾。それは的確に二人の装甲の隙間を狙ったものだ。

 

「さっきより狙いがいいな」

「つまり、こっからが本番って事だ」

 

両前腕のロックを外し、森が伏せた。

そして、両腕をハンマーよろしく振り回し粉塵を巻き上げ、邪魔をする瓦礫は腕を繋ぐチェーンが切り裂いていく。

 

「……まあ、この程度は避けれるわな」

 

重い金属音を喚かせ、両腕を回収したミフネが見下ろす先、そこにそいつは居た。

 

「……やはり、強いな」

 

声に重さは無く、軽く高い。素体もミフネの様な重戦闘用ではなく、ヒュプノス小隊が使っていたものだ。

狙撃手が使う外套で覆い隠しているが、シンプルな軍用素体に、ヒュプノス小隊最大の特徴である両側頭部にある相互監視と高感度センサーを兼ねた複眼式カメラ。

その姿に刀の柄を握る森の手に力が入る。

奴は間違いなくヒュプノス小隊だ。

 

「で、お前はどうやって生き延びたよ? 軍もてめえに向けられた銃口、そのままにする程間抜けじゃねえ。……お前、本当にヒュプノス小隊か?」

「ミフネ。……どういう、意味だ?」

 

ミフネの言葉に、森は疑問する。

確かに、この狙撃手の腕前はヒュプノス小隊と言うには足りない。だが、目の前で2丁拳銃を向ける姿は確かにヒュプノス小隊のそれなのだ。

ヒュプノス小隊にのみ刻まれた隊章と装置、それがあって何故問うのか。

 

「単純に実力だ。連中が相手ならこんな簡単に姿は見せねえし、仮に見せても銃口突き付けるだけで済むかよ」

 

それにと、ミフネは語る。

 

「さっき振り回した腕。ヒュプノス小隊なら撃ち落としてた。それをしなかった。いや、出来なかったんだろ?」

 

狙撃も、全体的に狙いが甘かったしな。

ミフネは密かに賭けに出ていた。嘗て、ヒュプノス小隊討伐時に片腕を失ったのは、戦闘中に針の穴の様な装甲の隙間を平然と撃ち抜かれたからだ。

だから、本当にヒュプノス小隊なら太いチェーンソー程度当たり前に撃ち抜くだろう。

 

「…………」

 

対する狙撃手は黙ったままだ。

確かに、この狙撃手がヒュプノス小隊なら二人の内どちらかは損傷を得ている筈だ。

なのに、ミフネも森も損傷らしい損傷は無い。強いて言えば、ミフネのジャケットと帽子、装甲に痕があるくらいだろうか。

 

「口が利けん訳じゃあねえだろ。なんとか言ってくれや」

「……あの人も」

「あん?」

「あの人も……、そうやって殺したのか?」

「あの人?」

「ヒュプノス小隊隊長、ヨハン・ハインドリーだ!!」

 

銃声と叫びは同時だった。

無人の筈の瓦礫の山からの銃撃、そして2丁拳銃からの銃撃に二人が気を取られた瞬間、狙撃手は自身から噴出させた煙幕の中に消えた。

 

「ヨハン・ハインドリーだと?!」

「あいつの関係者か!」

 

ヨハン・ハインドリー。

ヒュプノス小隊隊長で最初のヒュプノス小隊だった。

実力は折り紙付きで、当時の防衛軍では最高の狙撃手とも噂され、人格もやや難はあるものの理想的な機械人兵士という評価だった。

 

「お前が、お前達が、あの人を殺した!」

「ちょっと待ってくれ! ヨハンは……!」

「バッカ、伏せろ!」

 

ミフネが森の頭を掴んで押し下げる。

左右別角度からの同時狙撃、ヒュプノス小隊が確実に獲物を仕留める時に使う戦法だ。

 

「くそっ、ここで精度を上げてきやがったか!」

「ミフネ、ヨハンは……」

「ああ、あいつは自爆だ。あいつが自爆してくれやがったお陰で、俺達は後に引けなくなった」

 

煙幕を裂いて飛んでくる銃弾を弾き、ミフネは歯噛みする。

ヒュプノス小隊討伐、その最中に隊長であったヨハンは突如として討伐隊に突撃を敢行。

そして、体内に仕込んでいたのだろう爆弾を起爆させ、討伐隊に重大な損害を与えた。

それが原因で狂気を深めたヒュプノス小隊との戦闘は泥沼となり、討伐隊は甚大な被害を受けた。

こうしてみれば、ミフネと森がヨハンの自爆の引き金を弾いたと見れる。だが、そもそもの話をするならば、ヨハンやヒュプノス小隊がそうなったのは、かの小隊を設立した将校が原因だ。

 

「だぁっー! しつけぇ!」

 

徹底的に姿を見せない狙撃手に、ミフネは苛立ちを隠さない。アンビー達の援護に加え、最大の目標であるサティの救出。正直、時間が無い。

しかし、この多方向からの連続狙撃の仕掛けが分からない以上、下手に突っ込む訳にもいかず、相手がヒュプノス小隊関係者だと分かった以上、まだ隠している手があるかもしれない。

 

「どうした?! まだ足りないか?」

 

なら、これならお前は動くか?

その声に、森は顔を上げた。

何故か自分に向けられている。そう思ったからだ。

そして、薄くなった煙幕の奥でそれを見た。

 

「サティ……!!」

 

明らかな爆弾が体に巻かれたサティ、それを見た森がミフネの背後から飛び出すのと、銃声が響いたのは同時だった。

◯◯年後のミフネさん家

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。