とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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ねえ、店長

「お客さん、着きましたよ」

「ん、ああ。ご苦労さん。どれくらいかな?」

「6350ディニーになります」

「はいよ」

 

料金を受け取り、釣り銭を返す。

今日の儲けは燃料費を引いても結構な額になりそうだと、ミフネは客を見送りながら思う。

これなら貯金分と経費を差し引いても、少し余裕がある。

久々に何か土産でも買って帰るかと、ミフネが思案していると、遠くで銃声と爆発音が聞こえてきた。

 

「……離れるか」

 

大方、どこぞのアウトロー同士の抗争か、騒ぎを起こして治安局に追われてるかだ。

ただの一般タクシードライバーには関係無いし、そんなものに巻き込まれて余計な出費はごめんだ。

ミフネが運転席に乗り込みシートベルトを絞めて、アクセルを踏み込もうとした瞬間、数人が騒がしく後部座席のドアを開けて飛び乗ってきた。

 

「大将! 出して! 出してくれ!」

「出たきゃ勝手に出ろ若造」

「ミフネさんお願い! 早く出して!」

 

何かのコメディアニメの如く絡み合ったすし詰め状態で喚くのは邪兎屋の四人。

ニコ・デマラ

アンビー・デマラ

ビリー・キッド

そして、ミフネは見覚えの無い猫宮又奈

中でも同じ知的機械人なのにやけに喧しいビリーがせっついてくる。

 

「大将、頼むって! 同じ機械人じゃねえか!」

「ミフネさんお願い! 料金なら経費込みで払うから!」

「……聞いたぞ」

 

このアウトロー共に進んで関わる気はないが、料金を支払うなら客だ。

ついでにボイスレコーダーを片手に、ニコにミラー越しに目を向ける。

 

「録音はしている。払わなかったら治安局に叩き込むからな」

「……親分、これまずった?」

「……かもしれないわ」

「なんでもいいから早く! もう来てるぅっ……にゃぁっ?!」

 

猫宮が叫ぶと同時にアクセルを踏み込み、ハンドルで車体を振り回し、一気に加速する。

カーアクションさながらの中、ミフネはバックミラーにぶら下がるキーホルダーを眺めて言った。

 

「で、お客さん。どちらまで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、店長。聞いてよ!」

「どうしたんだい? アイリ」

 

癖のあるショートボブの赤髪が目の前で跳ねる。

ミフネ・アイリ、ミフネの愛娘でアキラも感心する程度に利発な娘で、時折アルバイトをしてもらっている。

 

「お父さんったら、また靴下片方無くしたんだよ!」

「またって、そんなに無くすの?」

「そうだよ。この前なんて、同じ柄なんだから気にするなって言うんだよ。靴下代だってバカになんないのに!」

 

頬を膨らませて怒る姿は年相応だが、発言が所帯沁みている。

どうやら、ミフネ家の家計はアイリが握っている様だ。

 

「それにさ、この前はやけにボロボロになって帰ってきて、何かあったのか聞いてもガキが気にするなしか言わないんだよ! 最近メンテナンス用のオイルだって増えてるのに、余計に体が軋んでるのに!」

 

アイリの叫びにアキラは苦笑するしかない。

アイリが言っているのは、恐らくアキラとリンが巻き込んでしまった裏稼業の事だ。

ヴィクトリア家政からの依頼だったが依頼の品を奪われ、その窃盗犯をミフネが客として乗せていた。

その流れでヴィクトリア家政VSミフネの戦いが発生してしまい、かなり迷惑をかけてしまった。

 

「……ねえ、店長。もしかして、店長絡みだったりする?」

「いや、そんな事ないよ」

「怪しい……。店長達がプロキシなのは理解してるけど、あんまりお父さんを巻き込まないで」

「うん、分かったよ」

 

これはミフネが、アイリに内緒で依頼を受けている事については黙っていた方がよさそうだ。

ミフネはアイリにより良い人生を送ってほしいからと、大学の入学費用と学費の貯金の為に時折、アキラ達の裏稼業の手助けをしている。

そして、その稼ぎは全てアイリには教えていない口座に積み立て預金として預け、もし自分に何かあった時だけアイリに教えてほしいとも頼まれている。

 

「……まだ何か隠してない?」

「いや、隠してないよ」

「怪しいー、怪しいんだー」

「隠し事なんて無いよ。あ、そうだ。ミフネさんが言ってたよ。あんまり派手な格好をするなって」

「またぁ? お父さんったら、今はあれが普通なのにスカートが短いとか、腹を出すなとか、昨日なんて腹巻き持ってきたんだよ! 腹巻き!」

「あ、あはは、それだけアイリの事が心配なんだよ」

「でも、限度があるじゃん。帰りが遅いって、まだ六時だったんだよ。もうちょっと信じてくれてもいいじゃんか」

「アイリ……」

 

眉を下げて、悲しそうな顔をする。

アイリの言う通り、ミフネはアイリに過保護だ。

最近には珍しい程に過保護で頑固で古臭い。

だが、アキラは知っている。本人は頑なに秘密にしているが、ミフネはアイリが何かの賞や学校で優秀な成績を修める度に、それらを全て記録してその度にその話を自慢気にしてくる。

つい最近も、テストで学年三位になったと話していた。

そして、それはアイリがミフネに話さなければ知り得ない情報だ。

だから、アキラは後で怒られる事を覚悟で、アイリに伝える事にした。

 

「ミフネさんはアイリを信じてるよ」

「えー、じゃあなんであんなにうるさいの?」

「アイリがテストで良い成績だったとか、リレーで一位だったとか、すごい嬉しそうに話してたからね」

「え?! は? なんで!?」

「この前なんて、帰ったら夕飯が用意されてたってすごい嬉しそうだったよ」

「お父さん……!!」

 

照れ隠しのアイリの叫びに思わず笑みになる。

そして、その話をすると必ずする話がある。

 

「それで、その話をする度に絶対に言うんだ。俺がアイリを守る。だが、ずっとは無理だ。だから、あいつがちゃんと一人で生きていける様になるまで、俺はうるさいくそ親父でいいってさ」

「お父さんがそんな事を……」

「多分、ミフネさんは信じてない訳じゃなくて、アイリ達の世代との付き合い方が下手なだけなんだと思うよ」

 

だから、アイリの事は信じてるよ。

と、告げたかったのだが、それを外からの爆音が遮った。

 

「なに今の音?!」

「アイリはここに居て!」

 

アキラは音の原因を探るべく、店の扉を少し開けて外の様子を伺う。

すると、騒ぎの原因が駆け抜けた。

 

「……今のは」

「……お父さんだね」

「アイリ?!」

「ついでに一瞬だったけど、ビリー兄にニコ姉、アンビーに猫ちゃんも……。あれだけお父さんを巻き込まないでって言ったのに……!!」

 

怒髪天といった様子のアイリは、赤髪を逆立て携帯を手に電話を掛け始めた。

 

「もしもし、お父さん?! 今すぐRandomPlayまで来て。うぅん、仕事中とかいいからニコ姉達を降ろして、今すぐに来て……!!」

 

言うだけ言って電話を切ると、アイリは実に深い笑みを浮かべて、アキラに言った。

 

「店長、ちょっといい感じの鉄パイプ的な棒持ってきて」

「あの、アイリ……? 暴力は……」

「い、い、か、ら、早く!」

「分かりました!」

 

それから約十分後、ニコ達を車内から叩き出したミフネは愛娘からの折檻を脳天に受けた。

そして後日、神妙な面持ちでアイリの買い物の荷物持ちをするミフネの姿が六分街にて目撃された。




ミフネ・アイリ
とある事情により、十年前にミフネに引き取られた。
実の両親の記憶はあり、ミフネが実の父親ではないと理解している。
成績は優秀で、学校での友達も多い。
とある目的の為、アキラ達に頼み込みRandomPlayでバイトをしている。
異様に高いエーテル適応体質でもある。

◯◯年後のミフネさん家

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