とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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銀の裏側

紫煙がたなびく。

ミフネとしては本当にどうでもよかった。

サティを救出した今、これ以上この件に関わる義理は無かった。

だが、それでも関わった理由は一つ。

 

「よう、今回は潔いじゃねえか」

「………」

 

この外套の狙撃手がどうにも引っ掛かるからだ。

前回の多方向からの狙撃、〝アルゴス〟をどこから入手したのか。一体、どこの部隊だったのか。

そして最後に何故、今回は固執している様に見えた森を見逃したのか。

動きを全く見せない狙撃手。だが、しきりになにかを呟いている。

 

「……い」

「あァ?」

「そうだ、そうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだ。私は使命を果たすんだ。あのお方に託された。その為にヨハン隊長の仇を討ちにきたんだ」

「ちっ」

 

くそが。もうイカれてやがった。

〝アルゴス〟の副作用、論理コアと電脳部の破綻。

同期した大量の情報を同時に処理し続ける事で、〝アルゴス〟を搭載された機械人は定期的に論理コアと電脳部のメンテナンスとクリーニングを必須とする。

だが、それらを繰り返せば不要な負荷が溜まり続け、いずれは破綻する。

この狙撃手もその症状だ。

 

「隊長、隊長隊長隊長隊長隊長隊長。ヨハン隊長、必ず貴方の首を持ち帰り、総隊長からの使命を果たします。そう、その為に私は俺は……!」

「こりゃ無理だな。記憶モジュールぶっこ抜いて、リェンに見させるか」

 

そう言ってミフネが一歩、足を前へ出した瞬間だった。

背中に衝撃、それも複数。

 

「またそれか! いい加減、タネを見せやがれ!」

 

両腕を射出、力任せに振り回し、辺りを巻き込む。

そして当たりを掴む。

複数狙撃のタネ、それは光学迷彩を施したアームだった。

 

「成る程、こいつを〝アルゴス〟に繋いでた訳か」

「〝アルゴス〟〝アルゴス〟〝アルゴス〟?」

「イカれるにしても、ちょっといきなり過ぎねえか?」

 

やはり、何かがおかしい。

エーテル侵食を受けた訳でもなく、この短時間でここまで症状が進むとは考え難い。

思案しつつ、ミフネが掴んだアームを握り潰そうとした時、その答えが狙撃手の外套、その背中で蠢いた。

そして、それを見たミフネの動きが止まった。

 

「お、前……」

「〝アルゴス〟? 違う違う違う違う違う違う。これはあのお方から授かった。そう、ヨハン隊長の為に!!」

「授かっただぁ?! テメェ、そいつは……!」

 

外套を突き破り、這い出てきたのは腕だった。

機械の腕の群れ、十年以上前と最近見たそれ。

ミフネにとって苦い記憶の象徴の一つ。

それは

 

「フレデリックはテメェらの仕業か……!」

 

回収した右腕を再度射出。今度は手加減無しの最大出力で点火したブースターで加速した拳は、真っ直ぐに狙撃手へ向かう。

気掛かりだった謎がようやく解った。

この多方向からの攻撃、やけに止めは自分でやりたがる癖。これらは狂ったフレデリックのそれだった。

多腕の群れに右腕を弾かれるが知った事かと、ミフネは両腕の装甲を展開し回転させる。

ありとあらゆるものを巻き込み粉砕するそれを、鉄球よろしく振り回し叩き付ける。

 

「フレデリック? フレデリックフレデリックフレデリック! ああ、彼ね! 彼はよく動いてくれた!」

 

だが、破壊輪をまるで宙を舞う紙の様に避けると、狙撃手はミフネに肉薄する。

 

「ちっ!」

「彼、彼は本当によく動いてくれたよ。我々の思う通りに……!!」

 

瞬間、ミフネの重装甲を突き抜ける衝撃が腹部に走った。

軍を離れて久方ぶりの知覚系ごと揺らす衝撃に、流石のミフネもたたらを踏み退がる。

 

「さ、さささ流石ね。総隊長の話通りの頑強さ!」

「カッ! ピーピー喧しい! てめえ程度じゃ俺は抜けねえ。大体、さっきから言ってる総隊長ってのは誰だ?!」

 

目、視覚素子から多量のオイルが涙の如く溢れ、口からも同じ様に垂れ流しになっている。

恐らく〝アルゴス〟による興奮と錯乱で記憶回路が焼け始めている。

 

「ついでにヨハンの首とか言ってたが、あいつは自爆した。身体は破片しか残っちゃいねえよ」

 

ミフネの言葉に狙撃手と周囲の腕の動きが止まる。

少し判断を早まったかと内心で舌打ちするが、記憶回路が焼け始めている以上、まだ理性が残っている内に情報を吐き出させたい。

ならば今は、もう少し刺激するのが一番早い手だ。

 

「ああ、お前あれか。その総隊長とやらに捨て駒にされたな。ヨハンは俺達の目の前で自爆した。首なんざ残っちゃいねえよ」

「……そ」

「まあ、当然だわな。狙撃手としてもお粗末な癖に、相手を間違えた復讐に囚われたバカなんぞ、適当な大義名分与えて鉄砲玉にする以外に使い道なんざねえ」

「うそ」

 

はっ、嘘かどうかはお前が理解してるだろ。

狙撃手の反応に、ミフネは鼻で笑う。

少し考えてみれば、こいつがここに居る事自体がおかしいのだ。

アンビー達シルバー小隊は、ミフネ達機械人に対抗する為に生み出された。

言わばミフネ達機械人はシルバー小隊の仮想敵。そして、その逆も然り。

この狙撃手が所属している組織が何者なのかは判らないが、〝アルゴス〟やフレデリックの件に絡んでいるのなら、その辺りの権謀術数を掴んでいない筈がない。仮に、この狙撃手がシルバー小隊の仲間なら話は別だが、その組織が敵対するシルバー小隊の残党に機械人の援軍を送る意味とシルバー小隊との関係。

恐らく、いや確実にこいつは捨て駒だ。

ヒュプノス小隊から続く〝アルゴス〟の試用試験、フレデリックの改造。機械人という器がどこまで耐えられるか。

その為だけに使われた。

 

「うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ、嘘だ!!」

「なら、なんでそんな必死に否定するよ? 信じてんだろ。その総隊長とやらを」

 

ミフネは残り少ない煙草に火を点け、深く吸い込む。

嗚呼、そうだ。こいつはただの実験体、シルバー小隊と同じただの被害者でしかない。

そして、それは彼も同じだ。

 

 

――フレデリック……

 

 

正気を取り戻し、手足を奪われた状態で今も治安局の捜査に協力する素直で青臭い若者。

なんだかんだ言いながらも、ミフネやリェン達が可愛がっていた将来有望だった若者。

その彼がああなった原因、それにこいつは繋がっている。

なら、どうするか。

同情して情けをかけて逃がすか。

同情して情けをかけて殺られるか。

どちらも違う。

ミフネが取る行動は一つだけだ。

 

「そうよ! 総隊長は言ってくれた! 今回の任務であの人を甦らせる条件が揃う! だから私は……!!」

「だったら来い。その手足纏めて引き千切って、現実見せてやる!」

 

ミフネは駆けた。

取る行動は一つ。記憶回路の焼き付きが始まったからには、こいつの口から出る情報だけでは心許ない。

なら、残るは論理コアを引き抜き、そこから情報を得る。

あまりやりたくない手だが、フレデリックの仇を取る為ならこれしかない。

両腕の装甲の回転を更に引き上げ、狙撃手に向けて突撃する。

 

「隊長、ヨハン隊長!」

「ヨハンは死んだんだよ!」

 

ミフネに巻き付こうと迫る多腕を藁の如く破砕し引き千切り、己の力と強度に任せて突き進む。

嘗て、防衛軍内で高羽式素体が正式採用に一番近い立ち位置に居たのは、これが当たり前に出来るからだ。

正式採用戦車よりも安価で、人的コストも戦車よりも安く済み、例え素体が破壊されても論理コアが無事なら機械人兵士はすぐに復帰出来る。

その中でも高羽式素体、特にミフネの強度と出力は郡を抜いていた。

だからこそ、この強行突破を可能とする。

 

「ヨハン隊長どうして?!」

「しつけえんだよ!」

 

迫り来る多腕はフレデリックのそれよりも多い。

だが、そのほぼ全てがスクラップから組んだ様な粗悪品。

ミフネの両腕の前には紙屑に等しく、雨霰と撃ち込まれる銃弾も同様だ。

ミフネの頑健で重厚な装甲の前には抵抗の意思すら示せない。

 

「これで……!!」

 

多腕の群れを突き抜け、狙撃手に肉薄する。

後は手足を粉砕して、抵抗を出来なくすれば終わる。

そう判断したミフネの腹に、狙撃手の両手が当てられていた。

そしてその瞬間、ミフネの巨体が弾き飛ばされた。

 

◯◯年後のミフネさん家

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