とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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銀の終焉

どうして、とはもう問わない。

目の前にある世界、それが答えだ。

 

「アンビー君、来るぞ」

 

森の声が聞こえると同時、構えた二刀に嘗ての世界が叩き付けられた。

重い。単純な威力だけではない。威力だけなら、これよりも重い一撃を受けた事がある。

重いのは、これを振るう相手が自身がよく知り、自身をよく知る相手の成れの果てだからだ。

 

 

――ツイッギー……

 

 

名も知らぬ姉妹達、それらの感情そのものが叩き付けられるかの様な、二体による波状攻撃。

動きはよく知っている。知っていなければおかしい。

二体のエーテリアスの動きは、シルバー小隊のそれそのもの。

違うのは人体には不可能な瞬間速度とパワーだけ。

ただそれだけで、普段通りに対応出来る筈なのにどうしても対応が遅れる。

それに加えて

 

「ミフネ! そいつを何とかしろ!」

「やってんだろうが! もうちょっと待て!」

 

ミフネが対応するあの機械人。

人のそれからは離れた動きで、ミフネの攻撃を避けて反撃を与えている。

 

「かっ……?!」

「ミフネ!!」

「このっ、クソガキが!!」

 

それにミフネの動きが悪い。

一瞬、視界に入ったミフネの掌。そこで稼働しているタービン、あれが動き出してから二人の知るミフネより、動きが明らかに重い。

 

「ミフネさん、大丈夫?!」

「てめえは黙って、そのガキ共の相手してろ!」

 

全身から陽炎を吹き出し、両腕も赤熱している。

明らかに異常だ。そして、それは相手も同じ。

 

「……っ! この、随分懐かしいもんを!」

 

狙撃手はもう銃を使っていない。

攻撃は全て体から這い出す腕で行い、それも打撃ではない。

ただ、ミフネに手で触れる。それだけで、耳をつんざく激音が響きミフネにダメージが入っている。

 

「衝撃砲か」

 

森が剣戟の中で忌々しく吐き捨てる。

何十年も昔、防衛軍内で確立した自我を持つ高知能機械人兵士の反乱を危惧した将校達により開発された兵器。

機能としては単純に内部に衝撃を叩き込むといったものだったが改良され、遠距離から一方的に機械人の内部機構を破壊可能となった代物。

現行の素体には効果が薄れた兵器だが、それでも機械人にとっては忌々しい存在だ。

 

「ミフネ!!」

「てめえはそのガキ共の相手してろ!」

 

関節から蒸気を吐き出し、ミフネが叫ぶ。

まったく、あの二人も厄介なものを生み出してくれた。

〝これ〟の起動には動力炉に負担が掛かる上に、周囲の〝読み込み〟に時間が必須になる。

しかも、その間は腕の射出機構も何も使えなくなり、ほぼ全てのパワーリソースを〝これ〟に費やす。

だがその分、威力は絶大。

愛那と理人曰く、理論上は星見家の妖刀や雲嶽山の霊刀すら破壊可能らしいが、一人の機械人に搭載する兵器ではない。

 

 

――まあ、軍にこれを渡す訳にはいかんわな

 

 

迫る多腕を捌き、森とアンビーの方へこいつが行かない様に誘導をしつつ、電脳内で進行状況を確認する。

現状で七割、起動は問題無く出来るが、今まで位置では二人を巻き込む可能性がある。

 

「集中しろ小娘! そいつらはもう助けるべき姉妹じゃねえ!」

 

コンテナに叩き付けられながら、ミフネの怒声を聞いた。

解っている。理解している。

もう彼女達は姉妹ではない。倒すべき敵だ。

だが、それでも見えてしまう。動きが、技が、自身が率いたシルバー小隊の姿を見てしまう。

 

「アンビー君!!」

「しまっ……?!」

 

つい、目で追ってしまった。あの子の、ツイッギーの癖。とどめの一撃の一瞬、足が遅れる癖を。

そしてその一瞬は致命的だった。

 

「ぐっ……」

「森さん!?」

 

自分を突き飛ばし、腹を貫かれた森だったが瞬時に斬り返す。

 

「心配は要らない。腹に穴が開いた程度で、私達は止まらん」

 

口と腹からオイルを流しながら、森は立ち上がる。

自己の復旧は完了した。後は、アンビー次第だ。

 

「アンビー君。悔いているのなら立ち上がりたまえ。後悔は抱えて生きていく以外無く、抱えるには自分が何者か知る必要がある」

 

だから

 

「君は今、何者だ?」

 

何者か。

その答えは決まっていた。どうしてとも、何故とも、もう問わない。問う必要はなかった。

ただ、答えに迷っていただけだ。

 

「私はシルバー小隊隊長。……そして新エリー都の何でも屋邪兎屋の対ホロウ専門家の、アンビー・デマラ」

 

だからもう迷わない。

二刀を構え直し、真っ直ぐにツイッギー達を見据える。

こうなってしまったのは、全て自身の責任だ。

なら、最後の幕は自身で引く。

 

自分達を挟み込む位置に立つ二体、それに対した時、背中合わせに現れた姿があった。

 

「ハリン……?!」

「……記憶を失っても聞こえていたわ。ごめんなさい、隊長。行きましょう」

「……ええ」

 

終わらせる。

だから最後にこれを贈ろう。

 

「シルバー小隊――」

「――対エーテリアスTW-AN型弍式」

 

森は目を見張った。

 

 

――まさか、これ程か

 

 

あの日、自分が斬ったシルバー小隊は統率を欠いていた。

だが、統率を手に入れたシルバー小隊。それが二人だけだとしても、森が見る光景は圧倒的だった。

自分が相対した少女達の本来の姿。

あの日、もしこうだったら自分は今居ないかもしれない。

 

「二人共、私を盾にしなさい」

「……大丈夫なの?」

「心配は要らない。君達よりは些か頑丈だ」

 

引退した老骨でも、まだ動ける。

感傷は終わりだ。早く帰って、屋台を引く生活に戻ろう。

目まぐるしく変わる戦況、森が防ぎアンビーと11号が斬り込む。

パターンが完成した以上、二体に勝ち目は無くなった。

そして、もう一つの戦況も終わりが近付いていた。

 

「この、クソガキ……」

 

巻き付かれ、衝撃砲による打撃の雨に晒されノイズが走る視界で、ミフネは赤熱した両腕が回転を止めたのを確認した。

そして、その隙を見逃す程、狙撃手も狂ってはいなかった。

 

「ミフネ……!!」

 

森が警告する。ミフネに殺到する腕の群れ、その全てに衝撃砲が内蔵されている。いかにミフネが頑強だろうと、あの数はまずい。

どうにか救援に向かおうとする森だっだが、彼のセンサーがその窮地のミフネの変化を捉えた。

動力炉が脈動する。二人の天才が生み出し秘匿した雷が迸り、再び装甲が回転を始める。

 

「散々調子に乗ってくれたんだ。もう逃げれると思うなよ」

 

変化は劇的だった。装甲だけでなく掌のタービンすら赤熱し、エーテル由来の雷光が周囲を弾く。

中でも特筆するべき変化がある。

ミフネの両腕から走る雷光、それに触れた腕や瓦礫が塵芥の如く崩壊していく。

 

 

――なんだあれは……

 

 

センサー系が軒並み警告を発している。

数値だけを見ると今のミフネの両腕は、極小のホロウそのものだ。

 

「森さん!」

「ちっ」

 

気にはなるが、今はこちらに集中せねば。

森は太刀を巧みに操り、ツイッギー達の猛攻を二人に届く前に遮る。 

もう救えないのであれば、せめて同胞へは手出しをさせない。

森は万感の思いを籠め、太刀を振るった。

 

【システム〝ケラヴノス〟現在稼働率75% 動力炉直結駆動、又は制限解除を推奨】

 

これを使うのは二回目だが、それでも慣れない。

いや、慣れる事は無いだろう。

ノイズが走る視界と思考の中で、ミフネは狙撃手を見据え右腕を振るう。

 

「なに、なになになになになになになになになになにそれそれは?」

「ようやく喋ったか。まあ、そうなりゃ嫌でも喋るか」

 

狙撃手はミフネの右腕を防いだ。その筈だった。

なのに、防いだ筈の多腕は塵芥となり体すら半分が崩れていた。

 

「何処ぞの天才二人が人類の生存圏を拡げる為に作った代物だ」

 

てめえなんぞにゃもったいねえ。

体の制御を失い、陸に打ち上げられた大魚の様にのたうつ狙撃手に、ミフネは再度右腕を振り下ろす。

 

「俺らにあの世があるなら、ヨハンに挨拶してこい」 「あ……」

 

振り下ろされた右腕が触れた箇所から塵となり消えていく己。

それを見る以外出来ない狙撃手は、それでも腕を伸ばした。

 

「たい、ちょう、ヨハン隊長。わたシ、ハ……」

 

水底で踠く様に動いた手は、最期に何かを掴んだ。

それが何なのか。何だったのか。ミフネには判らない。判る必要は無い。

答えは安らかに消えていく狙撃手の表情だけでいい。

 

【システム〝ケラヴノス〟駆動停止 素体並びに動力炉の緊急冷却を開始】

 

展開していた両掌のタービンと両腕の装甲が止まり、莫大量の蒸気が身体の各所から吹き出し、陽炎で視界が歪む。

 

「……急ぐなよ。お前の相手はそいつらだ」

 

吹き出した蒸気に紛れ背後に迫っていたエーテリアス。

しかし、それは森により防がれる。

 

「終わったようだな」

「ああ、あとはそっちを早く終わらせてやれ」

「言われずとも」

 

二体のエーテリアスは既に致命傷を負っている。

直に崩壊するだろう。だが、それを待つ事はしない。

 

「君達の無念、恨み。その全ては私が背負う」

 

だから

 

「もう、眠れ」

 

柄の握りを緩め、力が向くままに受け流し、体を入れ替える。

振り上げた太刀の刃が向く先は、エーテリアスの首。

そこに音も無く、森の介錯が落ちた。

そして、その同時にアンビーと11号の刃もツイッギーに届いた。

 

「ツイッギー……」

「………」

 

倒れ崩れていく中、アンビーが彼女の名を呼び11号は何も言わない。ただ、ゴーグルの奥で目を伏せるだけ。

崩れていくツイッギーを見送り、無言で哀悼の意を示していた。

 

「たいちょう、はりん」

 

その最中、ツイッギーが口を開いた。

 

「ツイッギー」

「…私…また不合格に…なっちゃったの…? 戦闘は…やっぱり苦手ね……でも……隊長がいれば…私は平気……でしょ?」

「ええ、そうね。……疲れた、でしょう? ゆっくり、休んで……」

「うん……おやすみ…隊長……」

「おやすみ。ツイッギー……」

 

それが最期だった。

それを最期にツイッギー達は塵も残さず消えた。

森とミフネは彼女達を最敬礼を以て見送った。

軍に運命を弄ばれた彼女達には不適切かもしれない。だが、軍でしか生きてこなかった二人はそれしか知らない。

それでも、彼女達の死後が安らかである事を祈った。

 

「立てるか?」

「……大丈夫よ」

 

見送り、エーテルの残滓すら消えた後、11号が膝を折った。

それに森が手を貸すが、顔色がよろしくない。

 

「無理はするな。私はまだ動ける。せめて、背負わせてくれ」

「……それは命令?」

「いや、ただの頼み事だ」

「そう。なら、頼むわ」

 

そう言うと、11号は素直に抱き上げられた。

破損箇所が軋むが、閉鎖と復旧は完了している。

後は帰るだけ。全員の緊張感が緩んだ時、ミフネが口を開いた。

 

「言っとく。今日の俺の〝あれ〟は誰にも言うなよ」

「……ミフネ、あれはなんだ?」

「聞くな、語るな、忘れろ。もし、誰かに話したらお前だろうと殺すし、あのチビスケも殺す。お前らもだ」

 

何処に逃げようが隠れようが、必ず周り奴らごと殺す。

液晶に映るミフネの目は本気だった。

 

「それだけだ。帰るぞ」

 

三人はいまだに陽炎を引き摺るミフネの背中を見る事しか出来なかった。













――報告します
――ああ
――作戦は終了、シルバー小隊は壊滅を確認。そして〝ケラヴノス〟の稼働を確認しました
――やはりミフネか
――はっ、ミフネ大尉が所有していました
――防衛軍が持っていないなら、奴以外に考えられんからな。他は?
――森少佐も腕に衰えは見えません
――流石は〝死神〟。十年やそこらでは錆びんか
――また、ゾルデ伍長の戦死を確認しました
――そうか。まあ、フレデリック共々よく働いてくれた。としておこうか
――総隊長。では……
――ああ、讃頌会という隠れ蓑がある内に最終準備を始める
――はっ
――全ては我々の悲願成就の為。〝ケラヴノス〟、そして〝パンドラの箱〟をこの手に

◯◯年後のミフネさん家

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