とあるタクシードライバーの日々 作:サビサビボンプ
荒くれ者
「俺ぁ、タクシードライバーの筈なんだがな」
ハンドル片手にぼやきながら煙草を取り出せば、横から制止する手が伸びてくる。
「何をしてますの? この車は禁煙でしてよ」
「へいへい」
はぁ、面倒な事受けちまった。
ミフネは口には出さず、嘆息する。
今ミフネが乗っているのは何時もの愛車ではなく、大型トラック。それも郊外仕様のハイパワーなじゃじゃ馬だ。
そして隣には郊外の走り屋〝カリュドーンの子〟のサブリーダーの〝ルシアーナ・デ・モンテフィーノ〟と、お付きの猪のシリオン三名。
車内は広いが、ミフネの巨体だと若干の圧迫感がある。
「しかし、あなたタクシードライバーなんですの?」
「本業はな」
「それにしては手慣れてますわね」
「軍に居た頃に乗り回したからな」
何故、こうなったのか。
それは三日前に遡る。
特にこれといった事件も起こらず、久々に本業で過ごしていた時、店長達から依頼が入った。
「つまり、例の郊外の走り屋の手助けか」
「うん、シーザー達手が足りなくなったみたいで」
依頼内容は郊外の走り屋〝カリュドーンの子〟の業務である運送の代理ドライバー。
聞く話によると、少々のトラブルと大口の依頼が重なり、運転手が足りなくなったとの事。
シーザー達と繋がりのあるビリーに、最初は依頼しようとしたらしいが、ビリーは邪兎屋の仕事で手が離せず、そこで信頼出来る運転手を探していたところ、ミフネに白羽の矢が立った。
「報酬はこのくらいで、期間は……」
「あー、それなら大丈夫か。代わりにアイリの事を頼めるか?」
「オッケー。じゃあ、お願いねミフネさん」
と、こんな流れで仕事を受けたミフネなのだが、まさかこうなるとは。
「次、また来ますわ」
「あいよ」
サイドミラーで後方を確認するルーシーがそう言えば、ミフネは確かな手付きでハンドルを回す。
そして、左右に車体が揺れる度に銃弾や爆発を後方へと置き去りにしていく。
「なあ、なに積んでんだこれ?」
「ただの食料品ですわ。郊外では珍しい、が付くだけの」
「で、これか。若造」
車載の無線機で荷台に居る人物に呼び掛ける。
『はい、大尉!』
「元だ。しっかり荷物見ながら、連中を牽制しろ」
『イエスサー!』
「もう軍人じゃねえぞ」
言って無線を切ると、耳慣れた音が響く。
以前の一件でミフネが捕まえた元ヘファイストス機械人素体研究所警備隊の知能機械人のエンカイ。
郊外でのやんちゃにより、郊外の法で裁かれる事になったが罪状は軽いもので済み、償いも兼ねて今は〝カリュドーンの子〟の下働きとしてこき使われている。
「あら、エンカイはあんなのも積んでましたの」
「三觜式素体は高機動高火力が売りでな。まあ、その分装甲が薄いからすぐにへばる」
「エンカイ! 根性入れなさいな!」
『イエス! お嬢!』
銃撃が更に激しくなり、後方に続く襲撃者の数が減り始める。
幾分派手に吹っ飛んでいるが、あれで死なんのだから頑丈な連中だ。
しかし、何か気になる。
「郊外はシリオンが多いと思ってたが、連中そうでもないか?」
「チームごとに特色がありますから、どうとも言えませんわ。でも……」
「なんだ?」
「気にはなりますわね。この積み荷、珍しいとは言え、ここまで必死になるものではありませんわ」
「となると怨恨か勘違いのどちらかだ」
ミフネは再度無線機を入れ、エンカイに指示を飛ばす。
「若造、ちょっと連中に聴いてこい」
『イエッサ! 何をでしょうか?!』
「こちらは食料品運搬中、ご用向きはなんなりやってな」
『イエッサー!』
言うなり、エンカイは荷台から飛び降りた。
ルーシーは一瞬目を剥くが、ミフネは構わずアクセルを踏む。
三觜式素体は高機動が売り、それは強襲を是とする造りであり、戦地では時速100㎞を超える軍用車から飛び降り、そのまま敵に襲い掛かる。
その為、三觜式の関節機構とフレームは強度と柔軟性に富み、全身がバネで出来ていると評価されていた。
故に、公道を走るトラックから飛び降りる事等朝飯前で、更に追手にそのまま襲い掛かり拐う程度は遊びの範疇でしかない。
『大尉!』
「元だ。いい加減覚えろ。で、なんだ?」
『連中は雇われで、目的は積み荷ではなく、こちらの妨害の様です!』
「ご苦労」
襲撃者の車に飛び付き横転させ、一人を尻尾で巻き取り戻ってきたエンカイが得た情報は、襲撃者はチームではなくバラバラに雇われた食い詰めた傭兵で、依頼主は〝カリュドーンの子〟に負けたチームらしく、助手席のルーシーが憤慨している。
『お嬢、落ち着いてくだせえ』
「落ち着いてますわ! まったく、負けた憂さ晴らしでこんな真似……! 腹立たしい!」
「落ち着け、お嬢ちゃん。まあ、これで潰せるだろうよ」
「潰す?」
「若造、連中生け捕りにしろ」
『イエスサー』
「ちょっとなにを?!」
「食い詰めたとは言え傭兵、騙され裏切られが常の連中だ。なら、契約書の類いは絶対に確保してる。何かあった時の大義名分としてな」
「……それを確保すれば、依頼主は言い逃れは出来なくなる。ですわね?」
「そういうこった。若造、お嬢ちゃんにケンリョウとジンザン仕込みの技見せてやれ」
『サー! イエスサー!』
そこから先は早かった。
襲撃者を尻尾に巻き付けたまま、獣の如く襲い掛かり、瞬く間に襲撃者を無力化してしまった。
「エンカイ、なかなかやりますわね」
「まあ、あれでも荒くれ者のNo.3だった奴だ。あの程度の相手に苦戦はせんさ」
と、目的地が見えてきたぞ。
そう言い、ミフネはアクセルを踏み込んだ。
「よう、面倒かけたな」
目的地に着き、荷下ろしの最中に快活な声の少女。〝カリュドーンの子〟のリーダーにして、郊外の覇者代理の〝キング・シーザー〟が、義手を軽く挙げつつ現れた。
「おう、そっちはどうだったよ」
「こっちも似た様なもんさ。ただ違うのは、依頼主が端役も端役だったくらいだ」
「だろうな」
別の目的地に荷物を届けていたシーザーの方にも、同じ様な襲撃者が現れたらしく、こちらは彼女が正面から突破し全員がお縄についている。
「しかし、なんだって今回はこんな事になったんだか」
「それだけ恨み買ってるってこったろ。上に立つ者の宿命だ」
「しかしなぁ……。なんか妙なんだよな。ライトが聞き出した話だと、俺達の妨害だけで他は何にも言われてねえらしい」
「そっちも同じか」
「ああ、あそこでお嬢ちゃんにケツ蹴り上げられてる若造が聞き出した」
見ると、ルーシーに文字通りケツを蹴り上げられてるエンカイが情けない声を挙げつつ、荷物の仕分けをしていた。
「……シーザーさんよ」
「どうした? オッサン。お嬢ちゃんでもいいんだぜ」
「有難うよ。あいつを始末せず使ってくれて」
「なんだ、そんな事かよ。確かにエンカイはやらかしてくれたが、損害はルーシーが騒ぐくらいでオッサンがしっかり焼きを入れてくれたしな」
それに
「あいつは結構気が利く。この間だって、きなくせえ依頼の罠に気付いたのはエンカイだ」
「まあ、あいつはそういう奴だ。小心者の小物、いつもケンリョウとジンザンの後ろでコソコソしてた」
だから
「同胞を始末せず受け入れてくれた事、感謝に堪えん」
ハンチング帽を脱ぎ、胸に当て頭を下げる。
心配はしていたのだ。あまり良好な仲とは言えない同胞の部下だが、あの日々を知る者が居なくなるのは流石に堪える。
「頭を上げてくれ。ここは郊外、新エリー都にも居場所が無い連中が行き着く場所で、俺はそこの覇者代理。余程の奴じゃなけりゃ受け入れるさ」
「感謝する」
いいってば。
照れ臭そうに笑うシーザーだが、ミフネはエンカイのやらかしを店長達から聞いている。
物資の乏しい郊外で、未遂ではあるが町を襲おうとまでしたのだ。
始末されてもおかしくない。だが、このまだ年若い覇者はそれを笑って赦し、同胞に受け入れてくれた。
嘗ての機械人達の扱いを知るミフネからすれば、破格の待遇だ。
「しかし、オッサン。良い腕してるな。もし、タクシーで食えなくなったらうちに来いよ」
「ああ、考えとく」
「エンカイ! キリキリ働きなさいな!」
「イエスマム! お嬢!」
同胞の声を聴きながら、コンテナに腰を下ろし煙草に火を点ける。
――なあ、隊長よ。あんたが言う程、悪い世じゃねえぞ
脳裏に過る己の上官の姿。軍人というより思想家の様な男。終ぞその腹の内を知る事は無かったが、あの世で今の世をどう見ているか。
ただ踊る紫煙を眺め、嘗ての日々に思いを馳せた。
エンカイ
元ヘファイストス機械人素体研究所警備隊第三部隊所属。
上官であるケンリョウとジンザンからも小物扱いだったが、それでも可愛がられていた。
旧都陥落時、部隊を率いて脱出を図るもケンリョウとジンザンは死亡。その後、自身も戦死を偽り軍から抜けた。
隊長
ヘファイストス機械人素体研究所警備隊の隊長で、ミフネの直属の上官。
当時の防衛軍機械人兵士では最強とも唱われていたが、本人は自身の地位よりも機械人兵士達に対する扱いを憂慮し、その為の活動に力を入れていた。
それ故に、防衛軍上層部からは危険分子として森達特務憲兵隊から監視対象とされていた。
旧都陥落時に戦死
◯◯年後のミフネさん家
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