とあるタクシードライバーの日々 作:サビサビボンプ
そして、突然ですがミフネと森の外見はロボット残党兵をモデルとしています。
ミフネ¦加山式日の丸人
森¦ほぼそのまま森正一
あくまでもモデルで、ゼンゼロ風にスタイリッシュにした感じで想像してます。
会
「よう、ちっと花を見繕ってくれや」
突然現れた巨体に驚きつつも、その正体が判ると花屋は白い花束を作り、ミフネに渡す。
「すまんな。手間を掛ける」
受け取った白い花束を肩に乗せ、空いた手でハンチング帽の位置を正し歩き出す。
「はぁ……、柄じゃねえなぁ」
見上げる空はあの日の様に透ける様な青空だった。
その日、ミフネは曇天の下で客待ちをしていた。
寄り合い所で待つ事も考えたが、今の時間は大手のタクシー会社の運転手が屯している。
個人のタクシードライバーには、少々肩身が狭い。
「……今日は上がるか」
とりあえず日当程度は稼いだ。妙な客が来る前に終わりにしよう。
そう思い、読んでいた新聞を畳む。
そして、愛車のエンジンを掛けようとキーに手を回した時、甲高い悲鳴と怒声が聞こえた。
「はぁ……。マジか」
普段なら近くの治安官に任せるが、生憎と治安官の姿が見えない。
無視するのも有りだったが、流石にそれを見過ごせる程、ミフネも薄情ではなかった。
「おい、なにやってんだ?」
車を降り、声のする路地に入る。
暗く湿ったチンピラがよく管を巻いているそこには、そこに到底似つかわしくない女性型素体の機械人と、彼女を囲むチンピラ数人が居た。
「あ? おいおい、見せもんじゃねえぞ」
「見りゃ分かる。見せもんにもならん破落戸が喚くな」
「んだとこらぁ!!」
どうしてこうも、こういう連中の沸点は低いのか。
溜め息を吐きながら、煙草を取り出し火を点ける。
「とりあえず散れ。市民の迷惑だ」
「このポンコツが! 俺達は赤牙組だぞ!」
「元、だろ。シルバーヘッドがくたばって、赤牙組は潰れたじゃねえか」
面倒だが、チンピラの興味をこちらに向ける。
その間に逃げるなりしてほしいが、女性に動く気配は無い。
ああ、面倒だ。
怯えるなら怯えるで、もう少しはっきりと悲鳴を挙げてくれれば、治安官なり周りの住人なりが来てくれるだろうに。
「大体、お前らなんだ? 女一人に三人、盛るなら店に行け」
「うるせえ!」
本当に面倒だ
バットにナイフ、チンピラが持てる最大限の武器でミフネに襲い掛かるが、そんなものは戦車に爪楊枝で挑む様なものだ。
案の定、ミフネが煙草を吸い終わる辺りでナイフは欠け、バットは凹み使い物にならなくなっていた。
「くそっ、なんなんだよこいつくそ硬い」
「おら、散れ散れ。治安官のお世話になりたくなけりゃな」
ミフネがわざと重く一歩前へ出ると、三人の内の二人が逃げ出した。
「おい、待て! ここで逃げたら……!」
「逃げたら、なんだ?」
「……くそっ!」
感情の見えない目に見下ろされ、チンピラは全員が逃げ去った。
吸い殻を踏み、ジャケットと帽子を直す。
本当になんだったのか。
「お嬢さん、大丈夫か?」
「あ、はい……」
「この辺りは狭い路地には入るな。ああいう連中の溜まり場だ」
改めて見るとミフネとは違い、随分と人間に近い素体だ。いや、ほぼ人間と言っていい。
――最新型ってやつか
自分の様な旧型とは違う。機械的だが人間の様な丸みのあるボディ、帽子でよく見えないが感情表現アニマトロニクスも生身の人間とそう変わらない。
青衣並みに人に近い。
――まあ、これ以上関わる必要もねえか
要件は済んだ。
あとはさっさと店仕舞いにするだけだと、ミフネは彼女に背を向ける。
「あ、あの!」
「……なんだ?」
「タクシーの方、ですか?」
「そうだが?」
「お願いしてもいい、です、か?」
息を吐き、もう一度ジャケットと帽子を正す。
「……お客さん、どちらまで?」
「むー」
先日の事もなんとか飲み込み、それからまた暫く経ったある日。
〝RandomPlay〟のカウンターで、アイリはむくれていた。
「もう、どうしたの? アイリ」
「なーんか、最近お父さんの様子が変なんだよー」
「ミフネさんの?」
アイリが言うには最近のミフネは、柄でもなく若者向けの雑誌を難しい顔しながら読んでいたり、普段は見ないテレビを観たりと様子がおかしいらしい。
「へー、でもミフネさんも若者文化に興味が出てきたってだけじゃないの?」
「新エリー都の最新景観スポット特集」
「はい?」
「六分街最新グルメ特集にファッション誌」
聞けば聞く程、ミフネが絶対に興味を持たないだろうものばかりだ。
「それに、テレビもニュースとかじゃなくて音楽とかそういうの」
「……怪しいね」
「やっぱり怪しいよね、リン店長」
乙女の勘がデッドエンドブッチャーの如く叫んでいる。
あの頑固爺になにかあった。
「いやでも、あのお父さんだよ?」
しかし、アイリは否定する。
あの偏屈で頑固なミフネに、まさかそんな事が起こるとは思えない。
そう、いまだにアストラの名前を覚えずアラジオとかアラマキとか言ってくる爺なのだ。
「でも、それ以外になにかある?」
「むー……」
言葉に詰まるアイリ。しかし、リンの言う通りにそれ以外の可能性と言われると思い付かない。
「大体、何時ぐらいから様子が変わったの?」
「えーと、確かちょっと前にやけに遅い時間に帰ってきた日があって、その辺りから?」
ある曇り空の日、ミフネは普段よりも遅い時間に帰ってきた。
それ事態はある事だが、今にして思えばその辺りから様子が変わった。
「まさか、夜のお店って事は、ないか。それはミフネさんだし」
「それは無いね。お父さんが行くとしても、森さんの屋台くらいだし」
話は変わるが、六分街と七分街の境目で幼女を連れた怪しい機械人と、えらく厳つい機械人が出没する謎の屋台として、森のおでん屋は有名だったりする。
理由としては周りには駐車場くらいで街灯もあまりないガード下に、突然ポツンとある屋台の暖簾を潜ったらその面子なのだ。それに加え、極希にやけに身形の良いシリオンや顔半分をバイザーで隠した女や幼女そっくりな女等が現れる。妙な噂にもなろう。
「じゃあ、一体なんでお父さんはいきなり妙な行動を?」
「考えられるのは、出会いがあったかそういう店に出入りしてるか。あとは無いとは思うけど機械人痴呆症とか……?」
リンの予想はまず無い。ミフネは年齢は年齢だが、機械人は総じて長寿で、定期的なメンテナンスでリスクは回避出来る。
その可能性はまず無さそうだが、ミフネは頑丈さに任せて無理をする事が多い。仮にあるとしたら加齢ではなく、今までの負荷になる。
だが、現在のミフネの主治医はあのグレース・ハワードなのだ。最近も診断を受けたばかりで、あのグレース・ハワードがその兆候に気付かない筈が無い。
「あのグレースさんが気付かない兆候とか、それ新しいなにかだし」
「そうだよね。あのグレースさんが気付かない訳ないし」
ならやはり、とは思うが、あのミフネがアイリ以外の異性を連れ立って歩くかと聞かれたら、その答えは否。
その可能性はまずあり得ない。
「うー……、一体なんなのさー」
閑古鳥が鳴く〝RandomPlay〟のカウンターで、アイリの呻きが小さく落ちた。
◯◯年後のミフネさん家
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