とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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解体屋事件
舞い込む厄介事


その日は喧騒が絶えない新エリー都にしては、やけに平和な日だった。

一人の市民の悲鳴が響くまでは。

 

 

 

 

「被害者は四分街在住の自営業、知的機械人の男性」

「一命は取り留めましたが容態は深刻で、話を聴くのは不可能に近いと……」

「また、身体の一部が欠損しており……」

「治安局では夜間並びに人通りの少ない場所への外出を控えるよう……」

 

と、ここまでキャスターが原稿を読み上げたところで、少女とも言える童顔の女性がチャンネルを変えた。

 

「リン……、折角見てたのに」

 

レンタルビデオ店〝RandomPlay〟のもう一人の店主であり、アキラの妹であるリンが彼の非難を他所に溜め息混じりでチャンネルを弄る。

 

「もうすぐアイリが来るでしょ。お兄ちゃんは機械人の人が被害者のニュース垂れ流すつもりなの?」

「でも、今の時間は大体がニュースであの話題ばかりだよ」

 

アキラの言う通り、どのチャンネルも件の事件で持ちきりだ。

機械人を主として襲い、時として車両や重機等の精密機械すら解体し、事件現場には解体された機械人と機械しか残っていないというこの事件。

既に十人以上が犠牲になっているが犯人はおろか、それに繋がる手掛かりすら見付かっていない。

 

「まあ、ニュースの話だから隠してる部分はあるだろうけど、手掛かり一つ無いってのは気になるね」

「そうだよね」

 

身近に荒事に関わりのある機械人が三人居る兄妹には、気が気でない。

そうでなくとも、アルバイトのアイリは養父であるミフネの事になると大変だ。

二人は一日でも早く事件が解決へ向かう事を祈りながら、ニュース以外の番組を探した。

 

「ごめんください」

 

と、二人が頭を捻りながらチャンネルを変えていると、ドアを開けて長身の女性が入ってきた。

 

「あ、朱鷺(シュエン)さん。いらっしゃい」

「わー、朱鷺さん久しぶり」

「ええ、お久し振りです」

 

朱鷺、治安局特務捜査班の班長であり、二人とはレンタルビデオ店としても、裏稼業であるプロキシとしても関わりのある治安菅だ。

そして、もう一人

 

「邪魔をする」

青衣(チンイー)まで、今日はどうしたの?」

 

青衣、こちらも朱鷺と同じく特務捜査班のメンバーであり、兄妹との関わりがある。

だが、二人が揃って現れる時は大体が何らかの事件絡みだ。

 

「実は捜査に協力していただきたい事がありまして……」

「うむ、ミフネ殿の連絡先を知りたいのだ」

「ミフネさんの? それはまたどうして?」

 

娘のアイリがここでバイトをしているという事は、二人も知っているし、ミフネ自身も〝RandomPlay〟の常連だと知られている。

だから来たのだろうが、流石にほぼ身内同然とも言える相手のプライベート情報を、理由も聞かずに教える事は出来ない。

だから、理由を聞いたのだが朱鷺は少々苦い顔を浮かべている。

 

「朱鷺よ、無理を言っているのはこちらだ。明かせる情報は早々に明かすべきだ」

「そうですね。実は……」

「よう、店長。借りてたビデオ返しに来た……ぞ?」

 

そんな時だった。件のミフネがビデオの束が入った袋を片手に現れた。

 

「有名な治安官が二人お出ましとは、店長なにしたんだ?」

「いや、僕達じゃなくてミフネさんに用があるみたいだよ」

「俺? 俺ぁ何もしてねえぞ」

「いえ、そうではなくお知恵をお借りしたいのです」

「知恵?」

 

ミフネが首を傾げると、青衣が資料の束を手渡す。

 

「巷を騒がす解体屋、その逮捕に旧都より軍属であった貴殿の知恵をお貸し願いたい」

「解体屋? ああ、ニュースでやってる奴か。……はぁ、店長。奥のソファ借りるぞ」

 

カウンターに返却のビデオを置き、アキラの返事を待たずにソファに座り、資料を捲り始める。

 

「ねえ、青衣。なんでミフネさんの協力が必要なの?」

「詳しくは明かせぬが、旧都陥落の影響で以前の情報には欠落が多い。特にエーテル研究関連や軍の所属等はな」

「そうなんだ……」

 

ちらりと、リンは資料を見るミフネに目をやる。

ミフネは旧都陥落前は軍に所属していて、陥落後は軍を辞めてタクシードライバーに転職している。

軍での立場がどうだったか。それについては分からないが、ミフネの身体はアイリの両親が造ったと聞いている。

つまり、アイリの両親は軍用知的機械人のボディを造れる技術と立場を持つ人物であり、ミフネはその二人と繋がりがあった。

となれば、アイリの両親はそれなりの立場に居て、ミフネも同様となる。

故に、二人はミフネに助言を求めてきたのだろう。

だが、肝心のミフネは

 

「んん? あー……」

 

資料を捲っては、頭を傾げて空いた手で掻いている。

液晶に映る目も片方が閉じた様な線になり、明らかに悩んでいる。

 

「あの、ミフネさん?」

「……いかんな。この歳になると本当に記憶が消える。覚えはあるんだが、なんだったか……」

 

モリ、ハタ、と恐らく人名を数名続けて挙げるが、どれも違うと頭を振る。

 

「やらかしそうなのはケンリョウとジンザンだが、あいつらはこんな真似はしない。ハタやカヤマはもう死んでるし、仮に生きててもこんな真似はせん……」

 

ミフネはまた頭を深く捻り、背後に立つ青衣の方を振り返る。

 

「なあ、もう少しはっきりした写真はないのか?」

「写真ですか……」

「ふむ、ちなみにどのような?」

「被害者の写真」

 

当然と言い放つミフネに、朱鷺は僅かに眉根を寄せる。

被害者の写真とはつまり、事件現場の写真に他ならない。見せる事自体は、持って来ているから難しくない。だが、それを元軍属とは言え一般人に見せていいものか。

判断に迷っていると、青衣が隣で頷いた。

 

「……こちらです」

「すまんな。無理を言った。……ふむ」

 

事件の資料と新しく渡された写真を見比べ、ミフネは記憶を探る。

何時か、何処かで見覚えがある。それは何時で何処だ。

何枚かの写真と資料、それらを見比べ、ミフネの中で何かが繋がった。

 

「ん、ブラムス?」

「あの、ブラムス氏が何か?」

「ブラムス、ブラムス……。ミハイル・ブラムス、アニー・マッケンジー、越谷三朗、リェン・シューメイ。……思い出した」

 

目を見開き、ローテーブルに写真と資料を並べる。

 

「こいつらは軍の情報部に居た機械人だ。そして、こいつらはある事に関わっていた」

「ある事?」

「昔、ちょっとばかり後ろ暗い事に関わり過ぎて、頭がおかしくなった奴が居た。意味の無い拷問を繰り返して、気に入ったパーツを奪う狂っちまったサディストのコレクター。そいつの逮捕だ」

 

ミフネが頭を掻き、資料と写真を二人に返す。

 

「名はフレデリック、ワイヤーを使った閉所での戦いが得意な奴で、死角から襲ってくる」

 

まあ、気を付けろ。

ミフネはそう言うと黙り、瞑目する。

そして、立ち上がりアキラとリンに財布の中身の大半を手渡してきた。

 

「ミフネさん、これは?」

「暫くアイリの面倒を頼みたい」

「え、なんで? ……まさか」

「ああ、連中のフレデリックの逮捕は失敗。俺が監獄にぶちこんだ」

 

だから

 

「奴の最終的な狙いは俺だ」

 

重々しい溜め息が無言の〝RandomPlay〟に落ちた。




アイリの両親
旧都にてエーテル関係研究と知的機械人のボディ制作に携わっていた。
ミフネの現在の身体はアイリの両親が制作したワンオフ

◯◯年後のミフネさん家

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