とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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短いですが、ここで




「たいちょー、じゅんびできた」

 

自慢気に胸を張るサティだが、襟が縒れているしシャツもズボンからはみ出ていた。

 

「サティ。ほら、ちゃんとしなさい」

 

森は不思議そうな顔をするサティの身嗜みを整えると、ニット帽ではなく制帽を被った。

 

「たいちょー、ほんきモード?」

「いや、これは違うぞ。だが、ある意味そうかもな」

 

森はもう一度、自身とサティの襟を正し、黒いスーツとコートに塵が付いてないか確認する。

 

「よし、さあ行こう」

「イオねえちゃのとこ?」

「ああ、そうだ」

 

風で揺れる窓を見る。

そこは本当に透ける様なあの日の様な青空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぇっっきしょいっっ……!」

「ちょっと! やめてよ恥ずかしい! てか、お父さん鼻無いのにどうやってくしゃみしたの?」

「っせぇよ。つーか、お前らこそいつまで買いもんすんだ?」

 

森が治安官三人に手錠片手に追い詰められている頃、ミフネはブティックで荷物を抱えてくしゃみをしていた。

 

「すみません。トシゾーさん」

「あー、お父さんがイオさんいじめたー」

「うるせえ。晩飯、どっかに食いに行くんだろうが。さっさと決めろ」

 

時刻は夕暮れ間近、サラリーマンが帰宅を始める時間帯だ。

 

「ねえ、お父さん。これとかどう?」

「だから、なんでお前は腹を放り出した格好すんだ。腹壊してもしらんぞ」

「壊さない!」

「まあまあ、二人共。ここで騒ぐのは迷惑になりますよ?」

 

客は少ないとはいえ、それでも公共の場。

イオに窘められ、二人は口を噤む。

しかし、またすぐにイオとアイリはああでもないこうでもないと、ミフネから見たら全て同じに見える服の物色し始める。

 

「ん?」

 

再び買い物を続行する二人に呆れるミフネ、その彼の臭気センサーに一瞬だけ反応があった。

 

「トシゾーさん?!」

「お父さんどうしたの?!」

 

あまりに一瞬だけの反応だが、長い経験と記憶からアイリとイオを抱え込み装甲を閉鎖、そして叫んだ。

 

「全員伏せろ……!!」

 

そのミフネの叫びの一瞬の後、ブティックのバックヤードで爆発が起きた。

 

「ひっ!」

「な、なに?!」

 

爆発は小規模だったが、ブティックは可燃物の宝庫だ。瞬く間にバックヤードは赤く燃え上がり、けたたましい警報が混乱を加速させる。

 

「無事か?」

「な、なにが……」

「話は後だ。アイリ、こいつを連れて避難しろ」

「お父さんは?!」

「避難誘導だ。急げ」

 

おら、行け

ミフネは二人に怪我が無い事を確認すると、突き飛ばす様に押し出し、ブティックの店員や他の客に呼び掛ける。

 

「口に布を当てて頭を低くしろ! 責任者!」

「は、はい!」

「先導して避難路から出ろ! あと、あそこに人は?!」

「ひ、一人アルバイトが……!!」

「分かった」

 

店長の言葉にミフネは装甲だけでなく、各部吸気口も閉鎖し炎の中に入る。

熱自体は大した事は無い。炎の勢いも、爆発に比べたら落ち着き始めている。

まるで、それを狙ったかの様な火災。

 

 

――くそ! なんだってんだ?!

 

 

過去の記憶、忌々しいイカれ野郎の顔が浮かぶ。

だが、有り得ない。奴は確かに死んだ。粉々になった素体と論理コアユニットを森と確認し、軍も正式に死亡を認めている。

 

「おい、大丈夫か」

「は、はい……」

 

在庫を載せていたラックの下敷きになっていた機械人のアルバイトを見付け、ラックを押し退けて抱き上げる。

 

「一応、装甲と吸気口を閉鎖しろ」

「だ、大丈夫です。閉鎖してます」

 

炎を押し退け、ミフネは一気に駆け出す。

センサーに反応は無いが、奴の手口を真似ているなら最悪の事態を考えなくてはならない。

黒煙を払い、火の勢いが止まり始めた店内を走り店を出る。

 

「お父さん!」

「トシゾーさん!」

「後にしろ! 伏せろ……!」

 

到着した消防隊に状況を説明していた二人が駆け寄り、ミフネはアルバイトを抱え直し空けた片腕で二人を抱え覆い被さる。

瞬間、衝撃がミフネの背を叩き、ハンチング帽が舞った。

 

「……大丈夫か?」

「は、はい」

「なんとか……」

 

最後の爆発は狙いすましたかの様にミフネの背を打撃し焼いた。

イオとアイリ、目を回したアルバイトの安否を確認しつつ、背面装甲表部の緊急冷却が始まる。

 

「大丈夫ですか?!」

「こっちはこいつが目ぇ回してるが、目立つ外傷は無い」

 

救急隊に状況を説明し、火災の現場を見る。

燃えてはいるが、消防隊による消火活動で既に治まりつつある。爆発も大した被害は出していない。

 

「ミフネさん!」

「あ? 婦警さんか」

 

煙草を手に取ろうとするのをアイリに邪魔されていると、野次馬から朱鷺が姿を現した。

 

「朱鷺さん!」

「アイリちゃんも! 無事でしたか?」

「こっちは問題ねえ。しかし随分早いな」 

「まあ、ちょっと色々あってな」

 

問うと、ひょっこりとサティを連れた森とセス、青衣も顔を出す。

 

「なぁんでおめぇ、連行されてんだ?」

「知らん。私はラーメンを作っただけだ」

「は?」

 

片手でアイリの頭を抑え、煙草に火を点ける。

 

「ミフネさん、路上喫煙は禁止です」

 

しかし、すぐに朱鷺に取り上げられてしまった。

ミフネは頭を掻くと溜め息を吐いて、四人に問うた。

 

「で、どういう取り合わせだ?」

「実は……」

「……いや、ここで話す事ではない。場所を変えよう」

 

朱鷺が説明しようとするが、何かを警戒する森が遮る。

その様子にただならぬ気配を感じたミフネは、イオとアイリを呼ぶ。

 

「おい、晩飯は中止だ。行くぞ」

「あの、トシゾーさん。どちらに?」

「治安局。そこで出前取ってもらえ」

 

最近こんなんばっかだな

飛んでいったハンチング帽を拾ったセスから受け取り、ミフネはもう一度溜め息を吐いた。
















「素晴らしい……」

男は恍惚の感情を顔ではなく、声で表していた。

「同胞の危機に我が身を省みず駆け付ける。小さい、極小ではあるが我輩が求める世界がそこにある……!」

両手を顔に当て、笑いが漏れ出す。

「しかし、悔やむ。何故に君達は肉の体に与するのか……」

笑いが止み、狂気に染まった機械の目で堕落した世界と同胞に嘆きを向ける。

「そうか……。そうだったのか。ミフネ・トシゾー君、森悟君。君達は囚われてしまったのだね?! なんと嘆かわしい!」

男は胸を掻きむしり、誤った怒りを顕にする。
だが、すぐに止まりある一点を見つめ始める。

「しかし、君にもまだ高潔なる鋼の魂がある。総隊長には申し訳ないが使わせてもらおう」

狂気そのものの目、それが見つめる先にはミフネではなく、アイリとイオの姿があった。

◯◯年後のミフネさん家

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