とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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妄想エンジェル×ミフネとか考えたり




その報せが届いたのは、イオを迎え、家路に着いていた最中だった。

元情報部のリェンが使う機械人専門病院、その病室の前にミフネは居た。

 

「森、生きてるか」

 

ハンチング帽を正し、ミフネは扉を開ける。

そこには計器に繋がれ、胴を機械人用の治療コルセットで固められた森と、そこに乗り頬を膨らませるサティの姿があった。

 

「……どうにかな」

「何があった? 小僧の話じゃ、アラガキにやられたと聞いたぞ」

「情けない話がそうだ」

 

あっさりと認める森に、事態の深刻さを認識する。

アラガキは厄介だが、正面戦闘で森に勝てる実力は無い。十年のブランクがあったとしても、だ。

 

「まったく、私とした事が……。四十年あれば、身体のアップグレードもしている事を見抜けなかった」

「不意討ちでもくらったか」

「ああ。だがあれは……」

 

森が思考を纏める為、少し沈黙する。

ミフネも古い記憶を辿り、アラガキに積まれた兵装を思い出す。

しかし、どの記憶にも慌てふためいたセスから聞いた兵装は出てこない。

アラガキの火力は脅威だが、軽装の森の装甲を簡単に貫く様な貫通力のある兵装は無かった筈だ。

なのに、森は貫かれた。それも脊椎ユニットという、最も頑強に造られているバイタルパートの一つをだ。

 

「あ、ミフネさん!」

 

椅子に座り、思考を纏めていたミフネ。

病室に入り、その背を見つけたセスがミフネを呼んだ。

 

「小僧、何が起きた」

「はっ! 説明します!」

 

思わず、軍属時代の声音が出たミフネに、セスは姿勢を正し報告を始めた。

 

「……つまり、奴は赤牙組の残党を隠れ蓑にしていたのか」

「はい、リェンさんからの情報でアラガキの隠れ家を見つけ、オレ達は奴の確保に向かいました。ですが……」

「してやられたか」

「はい、オレが駆け付ける一歩手前で、アラガキの手が光ったと思ったら、森さんが貫かれました」

「だとすると熱線兵器か。だが……」

「ああ、腕に収まってかつ、瞬間的に私を貫く出力を出せる様な代物。破落戸やホロウレイダーの類いが用意出来るものではない」

「それに加えて、最新の合金フレームだろ? これもう治安局がどうこうの範疇超えてんだろ」

 

少なくとも、奴の外見に変化は無かった。

しかし、アラガキは最新の合金フレームと謎の熱線兵器を積んでいた。

ここまで来れば確実に軍か、TOPSの軍需企業が絡んでいる事は明らかだ。だが、問題は証拠だ。

 

「一応、朱鷺班長がバイロン長官を通じて軍に掛け合ってはくれてますが……」

「軍は動かんだろうな」

「まあな。ただでさえ、旧都陥落でやらかして信用が落ちてる。そこへ来て知ってる奴は知ってるアラガキだ。隠蔽か無関係を装うのに必死だろうよ」

「……一応、トリガー君に頼んではあるんだが無理筋かもな」

 

森が頼りにしたのは、旧知の仲であるイゾルデ麾化のオボルス小隊のトリガーだが、一介の狙撃手に無理を言ってしまったかと反省していた。

元部下からも芳しい報告は無く、リェンからもあれからは無い。

完全に手詰まりかと、三人は頭を悩ませた。

その時だった。

 

「……失礼。こちら森さんの病室で間違いありませんか」

 

顔半分をバイザーで隠したトリガーと、ゴーグルを掛けたサティとよく似た11号が神妙な面持ちで現れた。

 

「……トリガー君、11号君まで。済まない、手間を掛けた」

「いえ、それよりお体の方は大丈夫なのですか?」

「ああ、各部閉鎖が間に合ってな」

「まさか、貴方がやられるとはね。ブラックソードマスター」

「ん? ブラック…なんだって?」

 

森が思わず聞き返し、ミフネもセスと見合う。

何か聞き慣れない名が聞こえたが、トリガーは笑みを貼り付け資料を手渡す。

 

「先程、急拵えで纏めた資料ですのでまだ不備はありますが、大体の事は判りました」

 

渡された資料を捲り、ミフネと森は目を剥いた。

 

「まさか、あの作戦が隠蔽工作だったのか」

 

四十年前のアラガキ討伐作戦、それは防衛軍の一部の幹部が企てた隠蔽工作であった。

あの日、二人の前で自爆したアラガキは偽物で、それからの報告も全てが偽証。

森は資料を片手に頭を抱えた。

 

「あの作戦で、どれほどの犠牲が出たと……!」

「……関係者は全員死亡、それも旧都陥落の日にか」

「ミフネ!!」

「落ち着け。……腸煮え繰り返ってんのは俺もだ。目的は?」

 

激昂する森を抑え、ミフネは直立のトリガーに問う。

 

「……イゾルデ大佐曰く、資料に欠落が多く予測の範疇を出ないが、恐らく対テロ用の情報源にしようとしたのでは、と」

「対テロ用、か。解らんでもないが、こいつを当時の軍が確保しようとするか? 森」

「……いや、イゾルデ大佐には悪いが違う。それに気になるのは、誰がどうやってアラガキにそれを伝えたのかだ」

「まず人間とシリオンは省かれる。なら残りは同胞、しかもあいつと同じ考えの奴だろうよ」

 

機械人優性思想派閥か

森は古い記憶を呼び起こし、それらしい者を探る。

しかし、そのどれもがアラガキと繋がりはあるが、そこまで食い込める権限を有していない。

第一、当時の機械人にも階級は与えられていたが、実質的な権限は無い形だけのものだった。

 

「機械人優性思想派閥で一番に思い付くのは、〝スメラギ大佐〟だが……」

「隊長はあのイカれと違って穏健派だ。それに当時はアラガキとバチバチに対立してた」

「あの、スメラギ大佐って誰です?」

 

資料を読み込み、黙っていたセスが手を挙げ質問する。

 

「スメラギ大佐、十年前の旧都陥落まで軍の機械人部隊の実質的なトップだった人物だ」

「防衛軍最強の機械人とか呼ばれてな。最後は俺の直属の上司。つまり、ヘファイストス機械人素体研究所警備隊の隊長だった」

 

人物としても出来た人だった

森が語る人物像は質実剛健、清廉潔白。軍人の理想とも言える様なものだ。

 

「高羽研究所にも顔を出していて、愛那と理人達をよく気にかけていたな。アイリは妙に懐かなかったが」

「ああ、特務憲兵隊にも顔を出していた。アイリちゃんに警戒されて辛いとぼやいていたな」

「いや、アイリちゃんはいいんで。そのスメラギ大佐が機械人優性思想派閥なら、その人に話を聞いたり出来ないんですか?」

「隊長は死んでる。旧都陥落の日にな」

 

すみません

セスが謝るが、終わった事だとミフネが宥める。

だが、その筋から情報を集めるのは有りだろう。

スメラギ以外にも佐官クラスは居る。もしかすると、まだ繋がりのある者が居るかもしれない。

 

「トリガー君」

「それが、当時アラガキと繋がりのあった者は全員が行方不明か死亡が確認されています」

「死因は焼死と斬殺。確実に手慣れた者かプロの仕業よ」

「徹底してやがんなぁ、あのクソ野郎」

「しかし、そうなるとまた手詰まりか」

「あの……」

 

閉塞する五人、そこに新しい声が転がる。

 

「そろそろ面会時間の終了となりますので……」

 

看護師が恐る恐る伝えてくる。

急に搬送されてきた子連れ元軍人の機械人と妙に厳つい機械人に治安官、何故か居る軍人二人となれば一般人は警戒するか。

四人は立ち上がり退室しようとする。

そのタイミングで、森がミフネを呼び止めた。

 

「すまん、ミフネは残ってくれ」

「どうした?」

「少し、サティの事でな」

「では、ミフネさん。オレ達は先に。資料はオレから班長達に渡しておきます」

「ああ、気ぃつけろよ」

 

トリガーと11号もセスに続いて退室する。

それを見送り、森は自身にしがみついて眠るサティの髪を撫でて、ミフネに顔を向ける。

 

「……盗聴の心配は無い。セス君には無理を言って協力してもらった」

「お前、腹ぶち抜かれて目ぇ覚めた瞬間に話しやがったろ」

「ふっ、軍属機械人を甘く見るな」

 

まあ、正直言うとサティに叩き起こされた訳だが

森は軽く笑い、ミフネに二本の指を立てた。

 

「ミフネ、総隊長という呼称に覚えはあるか?」

「総隊長? あー、確か……。チビスケん時に出てきた狙撃手がんな事言ってたか。それがどうしたよ?」

「……アラガキもどうやら、その総隊長の麾化らしい」

 

ミフネは頭を抱えた。

例の狙撃手、軍関係である事は予測していた。

だが、まさかアラガキまで総隊長とやらの麾化だったとは。

 

「それが聞きたかったのか」

「ああ、トリガー君と11号君には悪いが、彼女達は軍人。何処から漏れるか判らん」

「警戒し過ぎだろ」

「警戒はすべきだ。特にもう一つはな」

 

森は真っ直ぐにミフネを見据える。

 

「ミフネ、〝パンドラの箱〟というものを知っているか?」

「〝パンドラの箱〟? んだそりゃ?」

「お前も知らんか。もしかしたら高羽博士関係かとも思ったんだが……」

「もしかしたらもしかするかもしれんが、俺もあいつらの研究全部は知らんぞ」

 

総隊長、〝パンドラの箱〟

繋がりの無い単語だけしか手掛かりが無い。

二人は溜め息を吐き、ミフネが腰を上げる。

 

「……この際だ。お前にゃ先に言っとく。そろそろ荒事から退こうと思ってる」

「そうか……。まあ、そうだな。アイリちゃんだけじゃないしな」

「ああ、食い扶持が増える。もう無理も出来ん」

 

ハンチング帽を被り直し、ミフネは扉に手を掛けた。

 

「おめえも歳なんだ。引き際は考えとけよ」

「そうだな。お互い、老いたものだ」

 

機械の身体で老いを感じるとは、本当に耄碌したものだ。

ミフネはいつもより丸めた背で、イオとアイリが待つ待合室へと歩みを進めた。

◯◯年後のミフネさん家

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