とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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「ふふん」

「えらく上機嫌じゃん。なんか良い事あったの」

 

鼻歌を歌いながら、ミフネ手製の握り飯を食べるという器用な真似をするアイリに、隣の席に座るミホが問うてきた。

 

「ミホ。実はね……、お母さん増えるかも」

「へー、そうなんだー。……え、マ?」

「マ」

 

嘘だろお前

と、普段は出ない台詞がミホの口から出る。

小学生からの付き合いで、アイリの家庭環境はその辺の教師や大人より知っている。

ずっと二人だけのミフネ家、そこに新たな一人が加わる。

アイリから告げられた事実に驚きながらも、ミホは彼女の両肩を掴んで祝いの言葉を述べた。

 

「良かったじゃん! え、でもオジサンが?」

「うん、お父さんが」

「マジか。あのオジサンが……」

 

ミホの記憶にある一番最初のミフネは、あの家の居間で胡座をかいて新聞を読み、こちらを一瞥した後、置物の様に動かず、自分達が騒ぐとすぐに怒鳴る。

その癖、お茶と茶菓子をアイリの部屋の前に置いたり自分達が帰る頃には危ないからと、全員を自宅まで送り届ける。そんなよく判らない気難しい人だった。

 

「お相手はやっぱり機械人?」

「そ、お父さんと違って小さくて可愛い人」

 

そんなよく判らない気難しい人だったが、付き合いが長くなると解った。

あの人はただ単純に、自分より下の世代との付き合い方が苦手な不器用なだけの人だと。

そんなミフネが見初めた人物、気にならない訳がない。

ミホがソフトボールの様な握り飯の二個目を頬張るアイリを質問責めにしようと、言葉を発そうとしたタイミングで見覚えのある姿が現れた。

 

「うーす」

「〝テオ〟じゃん。こっちの教室に来るとか珍しい」

 

テオ、曾てアイリと一緒にホロウに迷い込んで、ミフネの説教と拳骨を食らった六人の一人。

犬のシリオンで焦げ茶の三角の耳が頭で揺れる少年だ。

 

「さっき職員室に行ったら、今日も半日だってさ」

「今日も? やっぱり、連続放火犯のあれ?」

「多分そうじゃね? 最近だと物騒なニュースってそれぐらいだし」

 

この最近、学校は短縮授業が多い。

まだ遊びたい盛りのアイリ達には嬉しい事だが、自分達が出歩きそうな場所には教師の見回りがあり、そう上手くはいかない。

 

「つかさ、アイリ」

「なにー?」

「さっき聞こえちまったけど、おやっさん。結婚すんの?」

「乙女の話を盗み聞くとか……」

「聞こえちまったからしょーがねえじゃん」

 

で、どうなんだよ

テオが問う。

クラスが離れ、部活も始めて以前程の交流は減ったが、それでも時たま遊ぶ仲だ。

気になるものは気になる。

 

「つか、新しく家族になるって、ドラマみたいに喧嘩とかなんねえの?」

「私は別に。ほら、私って生まれがあれだから」

「ホント、初めてそれ聞いた時理解追い付かなかったからね?」

「マジそれ。〝ニィル〟とかマジで混乱してたし、〝キエラ〟と〝トシアキ〟はまだ飲み込めてないからな?」

「そうかな。でも、パパとママ以外にお父さんとお母さんいっぱい居たし」

「色々語弊が産まれそうだからやめなー」

 

軽い調子でアイリは言うが、いまだに理解が追い付かない。

アイリの両親は研究で忙しく、アイリに構えない時も多かった。だから、高羽研究所の職員や研究者達が持ち回りで彼女の面倒を見る事が多々あり、幼かったアイリは自分には親がいっぱい居るという認識で、二人も暇を作っては構ってくれて特にこれといった寂しさの様なものはなかった。

だからアイリに新しい家族に対する忌避感の様なものは無い。

 

「研究所産まれ研究所育ち舐めんなー」

「だからそれやめなー」

「ホントやめとけー」

 

ミフネをしてワルガキ六人組と揶揄する三人の雑談は、朝のHRのチャイムが鳴るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Fairy、どうだい?」

『マスター、残念ながら該当人物は見当たりません。確実にカメラの範囲外を行動しています』

「用心深いって聞いてたけど、これはちょっと予想以上だね」

 

アキラとリン、パエトーン兄妹はFairyによる監視カメラのハッキングでアラガキの動向を探っていたが、結果は芳しくない。

 

『赤牙組所有物件の事件以降、白祇重工周辺のカメラにそれらしい姿が確認されてから、めぼしいポイントには現れていません』

「厄介だな」

 

森やミフネの話、トリガー達から渡された資料で、アラガキの用心深さは認識していたが、まさかこれほどとは思わなかった。

治安局も動向を探る為に、赤牙組の元組員に聞き込みをしているが、現時点で赤牙組を抜けている組員は何が起きているのかすら知らなかった。

そして、TOPS側企業も知らぬ存ぜぬの一点張り。それらしい物流も見当たらず証拠が無いと、捜査令状も降りてこないと朱鷺達が嘆いていた。

そして、それはトリガー達軍も同様で、今回の件は治安局の管轄内で起きた事で軍の介入が難しく、トリガーと11号の派遣が限界だという。

一応、二人の話に出てくる鬼火隊長という人物が、軍と治安局の合同作戦を提案して、指令部を突き上げてはいるらしいが、上層部は首を縦に振らない。

この辺りは、治安局と防衛軍のパワーバランスを考慮しての事で、市政側からも圧力が掛かっている。

 

「問題はアラガキの狙いが抽象的過ぎて、的が絞れない事か」

「反機械人団体とそこと繋がりがある連中って、ちょっとあやふや過ぎるよね」

 

ミフネ達が巻き込まれたというブティックも、ブティック自体に繋がりは無かったが、そのビルのオーナーに繋がりがあった。

だが、その繋がりもオーナーにその思想があった訳ではなく、寄付した慈善団体の裏の顔がそうであったというだけだ。

ただそれだけの繋がりでアラガキは標的にする。つまり、雑に言ってしまえばアラガキの標的は新エリー都中の企業や団体全てになってしまう。

 

「だから、治安局も混乱を避ける為にただの連続放火犯としか捜査と令状が出せない」

『その通りです。マスター。仮にアラガキ・ヒガネが生存していて、曾ての悲劇の再現を行っていると民衆が知れば、愚か者が騒ぎ立て二次被害を生む事は明白です』

 

新エリー都市民は危険に聡い。

曾ての旧都陥落を経験し、その身に迫る危機に対して攻撃的になる傾向もある。

現にインターノットでは数人の陰謀論者がアラガキの生存説や後継者説を謡い始めている。

今はまだインターノットの底辺の一部で騒がれているだけだが、これが面白半分で騒ぎを起こす配信者やインフルエンサーの目に留まり、連中が引き金を弾けば最悪の事態になりかねない。

 

「アラガキの最盛期は四十年前、その頃を知っている人達もまだ居る。その人達が思い出せば、機械人だけじゃなくボンプや他の知能構造体に関わる人達にも危険が及ぶ」

「最悪、四十年前に逆戻りなんて冗談じゃないよ」

 

内心で焦りが生まれる。

多少無茶でもFairyに新エリー都中の監視カメラをハッキングさせるか。

だが、それをしてアラガキの包囲をせばめられるのか。もしかしたら、今は郊外やホロウに隠れている可能性だってある。

リンが心配そうに見つめる中、アキラは考えを巡らせていく。

その時だった。

店番をしていたイアスが二人を呼んだ。

 

「ンナナ」

「イアス、どうしたの?」

 

リンがバックヤードの扉を慎重に開け、来客の姿を確認する。

 

「ライカンさん?」

「……突然の来訪、誠に申し訳ございません。実は折り入ってプロキシ様にご依頼したい事が」

「依頼かい? 他でもないライカンさんの頼みだ。引き受けたいけど……」

「申し訳ございません。事は急を要する事態で、私共の御主人様よりお二人にと」

「市長から……」

 

六課、そしてモッキンバードの件から繋がりの出来た過去を知る人物である〝メイフラワー市長〟。

二人の師でもある〝カローレ・アルナ〟とも繋がりがあり、今は二人の後見人の様な役目も務めている。

その彼からの依頼、アキラとリンの立場上、断り難いものだ。

 

「……判ったよ。話を聞こう」

「感謝致します。では手短に、ご依頼内容は巷を騒がせる連続放火犯アラガキ・ヒガネの確保」

 

そして

 

「ミフネ様、アイリ様が共に過ごされておりますイオ・バーンスタイン様の保護。この二つになります」

 

片方はもしかしたらと、予想出来た。だが、もう片方の依頼はまるで予想出来なかった。

アキラとリンは驚愕に目を剥き、ライカンを見た。

 




ワルガキ六人組内訳

アイリ¦人間。手が早いリーダー格
ミホ ¦人間。大体アイリと一緒に居る副リーダー
テオ ¦シリオン。一番最初にアイリと喧嘩して負けた。決まり手は良い感じの木の棒
ニィル¦機械人。テオの取り巻きだった。テオと一緒にアイリにボコられた
キエラ¦機械人。アイリをからかっていたが、キレたアイリにボコられた
トシアキ¦シリオン。以下同文

こんな感じで、ミホ以外はアイリの家庭環境を理由に攻撃して返り討ちに会い、そこからつるむ様になった感じで。
しかしこの娘手が早い。親の影響か
ちなみにミフネ家の家訓の一つは
〝一発殴られたら五発殴り返せ〟

◯◯年後のミフネさん家

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