とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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注釈

本作品の機械人の年齢について
本作でのゼンゼロ世界での機械人の年齢は、テスト合格時の論理コアの人格の精神年齢に合わせるものとなっており、未成年相当と判断されると作中のキエラやニィルの様に学校施設にて教育を受けるという形になります。
また、身体については進学等の成長に合わせて、素体の拡張等の処置を行い、コア人格の年齢に合わせていくというものになります。

ちなみに

イオ アリアタイプ
キエラ ヴェスポタイプ
ニィル エイファタイプ

と、こんな感じで外見にもメーカーや個人の趣味が反映されてます。
また、外見はあくまでも方向性はそちら向きという事になります。
あと、イオの背は低いです。アリアと同じかもう少し低いくらいです




「こっちこっち」

「まだ残ってたのかこれ」

 

六人はビルの隙間にある大型排水路、その脇の作業路を進み、廃材で組まれた橋を渡る。

昔、悪戯をしては町中を逃げ回る時に作った抜け道だが、数年経ってもまだ残されていた。

 

「なら、ここに……」

「ニィル、なにしてんの?」

 

橋を渡り、少しした辺りでニィルが脇に積まれた廃材を漁り、小さな金属の箱を取り出した。

 

「昔作った煙玉、完全防水で乾燥剤も入れてたからまだ使える筈ー」

「ああ、あれか。火はあるのか?」

「あるよー。今日の理科の実験で使ったマッチ」

「ナイス」

 

実験好きのニィルが箱の中身をポケットに入れ、六人は更に排水路の奥へ進む。

頭上のグレーチングから差し込む僅かな日差しと車と人の音。ほんの少し前までほぼ毎日、ここを通っていた。

 

「しかし、本当によかったのか?」

「トシアキー、アイリの超センサー忘れたの?」

「忘れてない。アイリが居なかったら、俺ら全員今頃土の下だ」

「アタシらはスクラップよ」

「連続誘拐魔、あれビビったよねー」

 

まだパエトーン兄妹と出会う前、巷を騒がせた子供専門の誘拐魔。その時も、アイリの直感で事なきを得たが、紆余曲折あって結局ミフネが動く事にもなった。

 

「アイリ、あいつどんな感じだった?」

「んー、お父さんの軍の上司とか、パパとママの研究資料寄越せって言ってきた人達と同じ感じ。ガワは良い人だけど話が通じないみたいな?」

「テオ、どうかしたの?」

「いや、ちらっとしか見えなかったけど、爺ちゃんが言ってたヤバい機械人に似てたなってな」

「ヤバい機械人?」

「ああ、前に機械人の歴史みたいな講習あったろ。その時の話したら、爺ちゃんが言ったんだ。親父達が産まれるほんのちょっと前に、旧都中を騒がせたヤバい機械人が居たって」

 

爺ちゃんの話の奴に似てた

テオはそう言いながら先行し、行先の安全を確認する。

今居る場所はホロウレイダーの塒だった場所に近い。治安局の警備で大分減ったとはいえ、それでも警戒は必要だ。

 

「アイリ、電話は?」

「……ダメ。やっぱり通じない」

「電波が通らない様な地下じゃないのにー。キエラはー」

「アタシもダメね。何か邪魔が入ってるみたいよ」

「妨害電波ってやつか?」

「だとしたら、かなりヤバい奴だな。ルート変えるか」

「上に出よう。人通りの多いとこならあいつも下手な事は出来ない筈。その間に治安局に飛び込めば、私達の勝ちだ」

 

六人は予定していたルートを外れ、人通りの多い場所へ抜ける水路を進んだ。

 

「あー、もう最悪! 今日は久しぶりにアイリ達と遊べたのに!」

「ごめん、キエラ」

「アイリが謝る必要ないの! 悪いのはあの変態、あいつが来なかったらこうならなかったんだから」

「落ち着け。治安局に飛び込めば終わる話だ。それに、アイリと連絡が着かないならおやっさんが飛んでくる」

「そうだよー。おっちゃんと合流出来たら一発だよー」

「おーい、大丈夫そうだ」

 

途中でキエラの不満が軽く爆発したがテオが宥め、交代で先行していたトシアキが全員を呼ぶ。

 

「この階段上がれば、治安局近くの無人区だ」

「まだ無人区なのか?」

「一応はね。ヴィジョンのやらかしで再開発が止まっちゃったって」

 

僅かな日差しを頼りに階段を上がり、鉄製の扉を押し上げ這い出る。

 

「制服も洗濯だし、ボディも洗浄ね、これ」

「キエラは気にしすぎー」

「ニィルが気にしなさすぎなのよ」

「ほら、二人共行くよ」

 

ミホが二人を引っ張り、無人区のビルの間を通り抜ける。

人の気配は無人区というだけに無い。だが、何か嫌な予感がする。

 

「皆、とりあえず……」

「……トシアキ伏せ!!」

 

アイリの突然の声にもトシアキは身を屈め、一瞬前まで自身の頭があった空間を抉る腕を避けた。

 

「……ふむ、良い感覚をしていますな」

 

黒い腕に貫かれ砕けた窓ガラスが降り注ぐのを無視して、トシアキは五人の方向へ転がり、そこから現れる機械人から距離を取る。

 

「全員ダッシュ!」

「……なんとっ!?」

 

言うなり、ニィルがポケットの煙玉に火を点け投げつける。

煙玉は真っ直ぐに飛び着弾、瞬間莫大量の煙がビルの間を埋め尽くした。

 

「ニィルナイス!」

「ほら走って走ってー。煙吸わないようにー。ついでのおまけー」

 

踵を返して走り去る六人、それを追おうとするアラガキだったが、ニィルが最後に投げた煙玉が炸裂した瞬間、吸気系がエラー警報を吐き出した。

 

「こ、れは……?!」

「おー、効いたー」

「あんたあれ、昔治安官にマジで怒られたやつじゃない?」

「そー、おっちゃんも咳き込むスペシャルブレンドー」

 

声が離れていく中、アラガキの機能が成分分析と復旧を進めていく。

成分はただの香辛料の組み合わせだが、その組み合わせは軍が使う対機械人用ガスに近い。

まだ子供と侮っていたが、まさかこのようなものを作れるとは。

 

「専門知識も無い子供がこれ程とは……。なんと誇らしい」

 

一瞬沸いた怒りは、歓喜に打ち消された。

機械人の子供がこのようなものを作り出せる。香辛料や食材を買うだけでも非難を受けていた時代からすれば、なんと素晴らしい時代になった事か。

そしてそれ専門知識の無いだろう子供が作った。肉塊と畜生を庇った事は気に食わないが、そんな自身の感情は些末な事だ。

 

「素晴らしい。あの子は是非とも我輩らの同輩に迎え入れたい」

 

機械人の更なる向上、あの子はその一助となり得る。

復旧が終わり目的が増えたアラガキは、またゆっくりと六人の追跡を再開した。

しかし

 

「はて、ここまで煙幕は酷かったか」

 

晴れた筈の煙幕が再び、アラガキの行先を塞いでいた。

 

「来てる?」

「見えないわ。ニィルの煙幕はしつこいもの」

 

アラガキから少し離れたビルの内部の一室、そこからアイリとキエラは外を窺っていたが、逃げながら撒いた煙玉はいまだに煙を吐き出し続け、アラガキの姿は見えない。

 

「エーテリアスも困る特製煙玉だもんねー」

「それに、これだけ煙を焚けば誰か気付くだろ」

「おかげで残弾ゼロー。次は無いよー」

「下手に動くより待つのが早いが、あれは無理だろ」

 

狡猾なホロウレイダーや、異常な誘拐魔を直に見た事がある全員がトシアキの言葉に頷く。

 

「なら、諦めて捕まる?」

「まさか。徹底的に抵抗するわよ」

「そうと決まれば動くよ」

 

警戒しつつ移動を開始し、もう一度どこかに連絡が着かないかを試す。

 

「キエラ、どう?」

「やっぱりダメね。結構いい通信系積んでるのに、ノイズだらけでぜーんぜん」

「キエラでもダメか」

 

耳元に搭載したデバイスで通話を試みるが、結果は変わらない。

これ完全に計画犯だろ。トシアキがテオと瓦礫で隣のビルへ渡す橋を作りながら呟く。

 

「あの誘拐魔の仲間?」

「いや、それは無いでしょ。何年経ったと思うのよ」

「なら、まさかだけどアイリ狙い?」

「え、また?」

 

アイリを狙った事件は時折あった。

その大体はアイリの両親の遺産を狙っての事だが、遺産らしい遺産は金銭的なもの以外無く、誘拐犯が欲する研究資料はほぼ全て零号ホロウの奥底か、アイリの記憶の中にしか無い。

その全てはミフネと、稀に森が叩き潰し事なきを得ている。

 

「アイリ狙いなら容赦しないわよ」

「そうだそうだー。アイリのパパとママの研究のお陰で僕達は生きてるんだー」

 

機械人二人が腕を振り上げ、他三人も頷く。

愛那と理人の研究により機械人特有の難病の治療方法が確立し、キエラとニィルは命を拾った。

 

「とりあえず今は逃げるぞ。ぶちかますにも、あれは無理だ」

「ああ、あの機械人は今までのホロウレイダーとかとは違う」

 

テオとトシアキの武闘派二人が橋を軽く固定しながら、共通の意見を述べる。

二人が目にした姿は森に近いが、その身から感じる気配は異質そのものだった。

初めて会ったホロウレイダーとも違う。もっと更に異質で理解が出来ない何かだ。

 

「もしかして、テオのお爺ちゃんの話の機械人だったりして」

「いや、まっさかー」

「……ねえ、なんか下の階の温度おかしいよー」

 

ニィルのサーモセンサーが下の階の異様な温度上昇を確認する。そこで全員が気付いた。

急激な温度上昇、こちらへ迫る高温と異臭。

 

「あの野郎、火点けやがった!」

「嘘でしょ! そこまでやる?!」

「橋は?!」

「大丈夫だ!」

「なら、先に行きなさい!」

「キエラは!?」

「生身は早くお行きなさい!」

 

キエラとニィルがアイリを押し込み、部屋の扉が焼け始めたタイミングで二人も隣のビルへ乗り込んだ。

 

「テオ!」

「おうさ!」

 

二人を引き込み、廃材で作った橋を力任せに叩き割る。

そこで自分達が居た部屋が赤く染まり、絶対的な熱量が六人の視界を埋め尽くす。

 

「……移動しよー。さっき一瞬だけどあいつ、下からこっちを見てたー」

「なら、こっちだ」

 

トシアキとニィルが昔に開けた抜け穴を潜り、隣の部屋へ抜ける。ビルはコンクリート製で延焼の可能性は低いが、火元である奴が移動している。

 

「よし、まだあった」

「使えそう?」

「ああ、テオの無駄にデカイ図体がつっかえなきゃな」

「舐めんな。抉じ開けてやる。アイリ、先に行け」

「でも……」

「いいから行きなさい」

 

トシアキが避難スロープを引き摺り出し、垂れ下がったスロープにキエラがアイリを押し込む。

 

「次はミホ、トシアキ、キエラニィルで最後は俺だ」

 

間髪入れずにスロープに滑り込み、無人区の広場へ降りていく。

トシアキの順でアラガキの姿見えないが、火は確実に燃え広がっていた。

 

「んがっ! ……よし、走るぞ」

 

出口でテオの肩が引っ掛かるが、宣言通りに抉じ開け這い出ると、全員が走り出す。

 

「この先は?」

「行きたくねえが、木造ブロック。最悪、水路に飛び込む!」

「最悪ね!」

「キエラー、各部閉鎖しときなよー」

 

無人になる前は居住区だった民家の間を駆け抜け、流れの無い水路が目の前に見えた。

その時だった。

 

「……いやはや、若人というのは中々に侮れぬものですな」

「マジかよ……」

 

泰然自若といった様子のアラガキが、水路の欄干に背を預けて六人の前で待ち構えていた。

 

「君達との鬼ごっこは楽しめましたが、我輩も暇ではない。早々にそちらのご令嬢を渡して戴けると幸いです」

「ご令嬢? こっちにゃ下町のお転婆姫達しか居ねえよ」

 

テオが傷んだ角材を拾い構え、トシアキもテオに並んで四人の前に立つ。

目の前の狂人は話は通じないが、会話は出来る。

ニィルの煙玉とあの火事で、どうにか治安官が来るまでの時間を稼ぐ。

そのつもりで二人は目配せしつつ、言葉を選ぶ。

 

「第一、なんでこんな真似しやがる。話がしてえなら、ミフネのおやっさんにでも話通しゃいいじゃねえか」

「ほう! 君もミフネ君とは知己なのですか。しかしさもありなん。先程から君達には同胞に対する敬意がある」

「敬意? 友達なんだから当たり前だろ」

 

トシアキの言葉に、アラガキは一瞬驚いた様に目を丸くする。

 

「……同胞を君達人間が友人と?」

「何が言いてえんだ? 機械人だろうがシリオンだろうが生きてるんだ。何が違うんだよ」

「…………ええ、ええ! 何も変わらない。確かにその通りですな」

 

もし、君達の様な子が居たら

アラガキの呟きは誰にも聞こえなかった。

もし、あの時代にそうやって行動する人間が居たら、何かが変わっていたかもしれない。

だが、そうはならなかった。そうならないと理解したからこうなったのだ。

 

「もう一回聞くぞ。何が目的なんだ?」

「我輩の目的はただ一つ。同胞たる機械人の権利向上、そして世界の支配権の奪還。これだけですよ。その為に必要なのです。高羽博士達が遺したという〝パンドラの箱〟が」

「パパとママが遺した……?」

 

ミホがアイリを見るが、アイリは首を振る。

二人の研究のほぼ全てはアイリの記憶の中に在る。だが、〝パンドラの箱〟というものに覚えは無い。

 

「そうです。貴女の御両親の遺物。それがあれば世界は引っくり返る! 正しき世界となるのです……!!」

 

だから

 

「貴女が必要なのです。箱を開ける最後の鍵となるミフネ・アイリ。いえ、高羽愛理。貴女が」

「お前みたいなイカれ野郎にアイリを渡すかよ」

 

テオが声高らかに宣言する。

 

「こいつはミフネ・アイリ、おやっさんが大好きでおやっさんのパーツの為にバイトして、毎日俺らと笑って怒って泣いて、騒ぎを起こすお転婆姫だ」

「そうだよ。アイリはそんな大袈裟な子じゃない! 誰かの為に泣いたり怒ったり出来る優しい私達の友達だ!」

「そうね。機械人だとか関係無いわ。アイリは私達の友達。高羽愛理? 確かにそうかもだけど、この子はミフネ・アイリよ」

「そうだよー。アイリは高羽博士じゃないよー」

「ち、ちょっと皆……」

「まあ、そういうこった」

 

五人はアイリの前に出る。

 

「てめえみてえな奴に友達渡すバカが何処に居んだよ」

「……そうですか。例え人間とシリオンだとしても見所のある若人、傷付けたくはなかったのですが……」

 

しかし、それも我輩のエゴか

アラガキは人差し指を一番に前へ出たテオに向ける。

彼の狙いはあの角材をぶつけ、その隙に背後の水路へ飛び込むというものだろう。

それは概ね正しい。アラガキの武装は炎、森を貫いた熱線以外は水を貫く事は出来ず、熱線も水中に逃げられては正確に狙い撃てる程の精度は無い。

見込みのある若人、機械人による支配が目的のアラガキとしても、このような若者は例えシリオン(畜生)人間(肉塊)であっても、殺す様な真似はしたくない。

だが、こうなってはそうはいかない。

見せしめとしてテオを殺し、抵抗の意思を削ぐ。

そう思い、アラガキは指先に出力を集中させ、テオを狙い撃った。

その瞬間だった。

 

「……何者ですかな?」

 

水路の上、アラガキの背後に二体の白いボンプが浮かんでいた。

 

『ミツケタ』

『ミツケタゼ、ワルガキハッケン』

「あのボンプって……」

「はい、私です」

 

すっと、アイリの頬に手が当てられる。

長く白い指に指貫の薄いグローブを嵌めた手、優しくもしっかりとした芯のある声音。

そして

 

『オマエジャマヤッチャウゾ』

『ヤッチャウゾアホンダラア』

「っ……!!」

 

アラガキの周りを浮遊するボンプが舞うに合わせて、アラガキに向けて降る雷。

〝あの日〟見たミフネのそれとは違う雷の主。それは

 

「リナさん……!!」

「はい、リナですわ。皆さん、よく頑張りましたね」

 

〝アレクサンドリナ・セバスチャン〟、ヴィクトリア家政の侍女頭だった。

 

「どうしてって、どうやって……」

「ミフネ様からアイリちゃんに連絡が着かないという事で、御協力をお願いしまして」

『アイリ、大丈夫?』

「リン店長!」

 

イアスと同期したリンが物陰から姿を見せる。

 

『妨害電波を追ってようやく追い付いたよ』

「ごめーん。でも、店長とリナさんが来たって事は……」

 

リナの雷を回避するアラガキだが、行方を突然の氷に阻まれる。

 

「はー、メンド……」

「エレン姉!!」

「エレン先輩!」

 

鮫のシリオンメイド〝エレン・ジョー〟が気怠そうに姿を見せ、アラガキに向けて大鋏を振るう。

 

「皆様、ご無事ですか?!」

「アイリちゃん、皆。大丈夫?!」

「イオさん、カリンちゃんまで! どうなってんのこれ……?」

 

いきなりの知り合いの集合に、目を白黒させるアイリ達。

そして、エレンの大鋏を捌いていたアラガキは、アイリとイオの姿を確認すると、含みのある笑みを浮かべた。

 

「よもや、〝パンドラの箱〟の鍵だけでなく〝アスクレピオスの残骸〟まで! これも、我輩の普段の行い故か!」

「〝アスクレピオスの残骸〟……?」

「こいつ、ウザったい……!!」

 

エレンの大鋏の軌道を読みきっているのか。

アラガキは余裕をもって、エレンとドリシラとアナステラの連携から抜け出し、熱線をイオに向けて放つ。

 

「っ?!」

「カリンちゃん!」

 

熱線はカリンのチェーンソーに阻まれ届かなかった。

それを見たアラガキはますます笑みを深める。

 

「おお、なんたる僥倖か! 我輩はやはり祝福を受けている!」

 

その台詞はまるで人形劇の役者の様な響きで、見る者を圧倒する。恐怖ではなく異質、日常に滲み出た異物として。

 

「……貴方は何者ですか」

『あっ、ちょっと!』

「イオさん、ダメだよ」

 

アイリ達の制止を振り切り、イオは一歩前に出る。

 

「これはこれは麗しき御令嬢。我輩は革命者、アラガキ・ヒガネです」

「ご紹介誠に感謝します。私はイオ・バーンスタイン。この子の、アイリちゃんの保護者です」

 

リナすら一瞬見惚れるカーテシーを決め、イオはアラガキに向き直る。

 

「貴方は何故、このような蛮行に至ったのでしょうか。その語り口から察するに、かなりの教養と立場をお持ちの筈です」

「そんな事は決まっておりますな。我が同胞たる機械人の解放、それしかありません」

「では何故、このような蛮行が私達機械人の解放に繋がると? これでは機械人への恐怖が募るばかりではありませんか」

 

それよりも

 

「中にはそういった方々もいらっしゃいますでしょうが、私共は解放など望んではおりません。私共は充分に日々を謳歌し生きています」

「それが偽りだと申しておるのですよ。〝アスクレピオスの残骸〟、いえ〝アスクレピオスの令嬢〟」

 

そう

 

「我輩は革命者にして守護者! 虐げられ忌まれる同胞達の解放の守護者なのです!」

 

イオは溜め息を吐いた。

言っている事は一部なら理解だけは出来る。だが、出来るだけだ。

主義主張だけ、手段は一切理解出来ないしする気もない。

 

「話を変えましょう。貴方は私が知らない私の事もご存知なのですか?」

「ええ、全てではありませんがね。どうします? 我輩、同胞なら無条件で迎え入れる準備はありますが」

「御断り致します。私の事は私の意思で知る事と致しますので」

 

それに

 

「貴方は革命者にして守護者と申されましたね」

「ええ、それが何か?」

 

勧誘を断られた事を意に介さず、アラガキは笑みをもって答える。

 

「奇遇ですね。私共にも守護者が居るのです」

「それは、そちらの者達ですかな?」

 

見込みのある若人達を貶さぬ様に言葉を作り、アラガキはイオに問い掛ける。

 

「ええ、この方達もそうですがもう一人。絶対的な守護者が居ます。……私達、ミフネ家には」

 

そうですよね。トシゾーさん

アイリイオがその名を呼んだ瞬間、アラガキは背後から音を聞いた。

万力の如く握り締められ軋む鉄の拳の軋みを、万感の怒りをもって叫ぶエーテル加速器の唸りを。

 

「ミフ……っ!!」

 

振り向き、防御の為に腕を挟み込んだが、それすら無意味だった。

前腕装甲底部のバーニアによって加速した鉄拳は、真っ直ぐにアラガキの腕を押し潰し、頭部装甲すらひしゃげさせ地面に叩き付けバウンドさせる。

そして、腹部に入る爆発とも思える一撃がアラガキを吹き飛ばし、路地に積まれた瓦礫に埋もれさせる。

 

「……アラガキィィッ!! テメエ、俺の娘と女、あと面倒見てるガキ共に何してくれてんだ? ああ?!」

 

身体中の排気部から蒸気を吹き出し、完全に戦闘用出力に切り替えたミフネが怒髪天の様相で現れた。

◯◯年後のミフネさん家

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