とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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妄想エンジェル編も考えたりしてますが、あのシーシィアとかいう治安官とこの頑固爺、ドチャクソに相性悪いなこれ




「アラガキィィィィ……!!」

「うわぁ……、お父さんマジギレモードだ……」

 

首周りの排気口から吹き出した蒸気で飛んだハンチング帽をキャッチしながら、アイリがイオの手を引き離れる。

排気口だけでなく口からも蒸気が漏れ出し、回転する前腕装甲は内部の赤熱が始まっている。

 

「……こ、これはこれは、ミフネ君じゃあないですか。なかなかに熱烈な再会ですな」

「ゴタゴタ喧しい! てめえ、誰の何に手ぇ出したのか解ってんだろうなぁ!!」

 

振り下ろされる拳に、アラガキは迷わず回避を選んだ。

自身の性能と実力は理解している。正面からの戦闘で、自身は森にもミフネにも勝てない。

そもそも造りが違う。森もミフネも、近接戦闘に特化した身体。

対する自分は工作活動型、元より正面戦闘は設計に入っていない。

 

 

――新しい腕に換装して正解でしたな

 

 

防御の為に挟み込んだ右腕はもう使い物にならない。

装甲ごと内部フレームがひしゃげている。視界にもノイズが走り、まともな視野は半分程だ。身体内の燃料タンクは無事だが、この距離では使えない。

たった二発、二発の打撃だけでこの有り様。

 

「しかし、ミフネ君。森君もですが、何故その様に荒ぶるのですかな? 我輩は皆の為に……」

「てめえの御託は聞く価値ねえんだよ!」

 

熱線を撃ち込むが、ミフネの装甲を僅かに赤く染めるだけで有効打にすらならない。

これが高羽式重戦闘用素体、高羽夫妻の趣味と理想を詰め込んだという天才の最高傑作。

 

「何故です? 君も解っている筈です。この世界は正しくなった振りをしているだけで、本当は変わっていないと!」

「ったりめえだろうが! 生きてる奴らが四、五十年で変われるか!」

「なにを?!」

「変われるならあいつらもあんな風に死なずに済んだ! 変われねえから変わる為に若えもんに託すんだろうが!」

「それは責任の先送りでしょう!」

「引っ掻き回して滅茶苦茶にしてるてめえよりマシだ!」

 

回避し切れず前腕の回転に巻き込まれ、ひしゃげた右腕が千切れ飛ぶ。

ミフネの言葉も解る。自分達の世代で変わらないのなら、次の世代へ変われる様に手順を組んで託すべきだ。

しかし、アラガキはそれを良しとはしなかった。出来なかった。

だから

 

「だからこそ、我輩は教授するのですよ! この世界に痛みを! 傷を! 我らの慟哭を!」

「この、自己満足イカれ野郎が! てめえが……」

 

削岩機の如く唸る右の大振りを回避し、アラガキは久しく無かった危機に胸を踊らせる。

 

「それを言うんじゃねえ!」

「何故ですかな? 我輩は過去の痛みを知り、それを忘れずにいてほしい。それだけですぞ」

「うるせえ! てめえの口から出していい言葉じゃねえんだよ!」

 

 

――癖が変わらないですな

 

 

ミフネの攻撃は基本、大振りの中に細かい一撃を混ぜてそれを当ててラッシュを叩き込む。

緩急が激しい上に威力も高く、一度でも巻き込まれれば抜け出す事は困難だ。

だが、それ故に回避だけに専念すれば難しいものではない。専念出来ればだが。

ミフネの恐ろしい所は、その大出力でも埒外の耐久力でもない。受ける事を躊躇わない度胸だ。

如何に重装甲でも攻撃を受ける事は避ける。だが、ミフネは躊躇わない。

いくら攻撃を受けようが、構わずこちらを叩き潰しに来る。

現に、いくつから熱線を浴びせているが、まるで意に介した様子が無い。

 

「我輩は世界に痛みを伝え刻む。そして為すのです。もう二度と同胞が虐げられぬ未来を!」

 

アラガキは自身とミフネの位置を確認し、千切れ飛んだ右上腕をリナ達が守るアイリ達へと向けた。

 

「てめっ!!」

 

ミフネは迷わなかった。

イオがその小さな身体でアイリを覆い被さる様に庇い、ミフネが更に盾として間に入る。

アラガキが使う燃料は衣服や皮膚に素早く浸透し、それらを更なる燃料として燃える。

少量でも付着し着火すれば、それだけで致命傷となる。

だからこそ、ミフネは迷わなかった。

そして、その隙を見逃すアラガキではない。

場の一瞬の硬直。その隙を突き、アラガキは距離を取って水路へ向けて駆けた。

 

「アラガキっ!!」

「では、ミフネ君。また会いましょう。今度は森君も交えて……っ!」

「それをさせると?」

 

水路の欄干へ足を掛けた瞬間だった。

水路の影から飛び出してきた白い影がアラガキの足を薙いだ。

 

「ライカン!」

「遅参、御容赦を」

 

鉄脚に膝を砕かれ、崩れ落ちるアラガキを手早く拘束し、ライカンが恭しく頭を下げる。

 

「治安局に話を通すのに、少々手間取りまして……」

「いや、良いタイミングだ。流石だな」

「お褒めに預かり光栄です」

 

遠く治安局のサイレンの音が近付いて来ている。

後はアラガキを完全に無力化すれば全て終わる。

だが、その前に聞きたい事があった。

 

「アラガキ、〝パンドラの箱〟。あと〝アスクレピオスの残骸〟ってえのはなんだ?」

「……ふ、ふふ、ミフネ君。君が知らないと?」

「知らんな。あいつらが作るものは基本とんちきか、ぶっ飛んだものばかりでな。そんな洒落たもんは聞いた事がねえ」

「おかしな事を言いますな。君が一番それを知っている筈では?」

「あ?」

 

ライカンの拘束の下で踠き、視線を皆に守られているイオとアイリに向ける。

 

「……まあ、我輩も全てを知っている訳ではありません。しかし、幾つか言える事があるならば、〝パンドラの箱〟とは高羽博士達の知の全てであり、それが我らの目的」

 

そして、

 

「〝アスクレピオスの残骸〟は〝アスクレピオス計画〟の残滓。高羽博士達が神に挑み、しかし愚者により止めてしまった歩みの足跡ですよ」

「回りくどい話はいい! 何かだけ答えろ!」

「トシゾーさん」

 

アラガキの顔を掴み、ミフネが恫喝する。

その横にいつの間にかイオが立っていた。

その表情はどこか覚悟を決めた様に見える。

 

「お前……」

「アラガキ様、質問を宜しいでしょうか」

「なんですかな?」

 

アラガキの返事に一拍置き、イオは問いかけた。

 

「私がその〝アスクレピオス計画〟の結果だとして、その計画は一体如何なるものだったのでしょうか」

「イオ様、それは……」

「知ってんのか? ライカン」

「はっ。御主人様より伺っております。……亡くなった知能機械人の蘇生計画だと」

「そう、ですか……」

 

アラガキの顔を掴む手に力が入る。

イオは既に死んでいた。

そしてあの二人の計画により甦った。

アイリも呆然とイオの背を見つめ、他の面々も黙って言葉の続きを待った。

 

「私は死者だったのですね。……得心がいきました。私があの場所以前の記憶が無い事、この名と想いだけしか持たなかった事……」

「おい、イオ……」

「そして、感謝を」

 

頭を下げ、イオは続けた。

 

「喩え道理に反する技術と言えど、私はそのお陰でトシゾーさんやアイリちゃん。皆様に会えました。私にはそれだけで充分です」

「……死者で構わぬと?」

「私は今、生きています。それが事実です。これ以上、何を望むと?」

「然り、ですな」

 

サイレンの音が近くに止まり、足音が近付いてくる。

アラガキも観念したのか、イオとの問答から動きを見せない。

これでようやく終わる。そう思い、ミフネはアラガキから手を離した。

 

「お父さん、イオさん……」

「このワルガキ共が。もうちっと分かりやすい所に逃げろ」

「そこ?! そこなの気にするとこ!」

「そうだそうだ! 私達必死だったんだよ!」

「うるせえ! ついでにお前もだ!」

「私ですか?」

「なぁんでお前まで来てんだ?! 待ってりゃよかっただろ!」

「ちょっと落ち着かなくて……」

「ミフネ様、それについてはこちらの落ち度で御座います」

「いーや、こいつが向こう見ず過ぎる!」

 

アイリからハンチング帽を受け取りながら、ミフネは深く溜め息を吐く。

無事に終わりはしたが、ここから忙しくなる。

五人の保護者への詫びに、今回の件での治安局への説明、一気にやる事が増えた。

 

「……ミフネ君」

 

溜め息を吐いて肩を落とすミフネに、アラガキが声を掛ける。

 

「君は全て終わったと?」

「何が言いてぇ」

「そのままの意味、ですよ」

 

ミフネが再び拳を握り、全員を背にライカンと共にアラガキを睨む。

 

「終わる。終わる筈がないのですよ。我輩も、我らも! これから始まるのです!」

「お前何を……」

「治安局です! 容疑者は!」

「あ、ああ、ここだ」

 

笑うアラガキに気圧されるが、到着した朱鷺にアラガキも身柄を指差す。

 

「……ミフネさん、また巻き込まれですか?」

「そう言わんでくれ。向こうから来るんだ」

 

お陰でまたジャケットがダメになった

朱鷺が引き連れた機械人の治安官が耐火式の拘束具をアラガキに嵌めていくのを見届け、ミフネは煙草に火を点けた。

 

「さあ、帰るぞ」

「うん。ほら、イオさんも」

「あ、はい」

「ライカン、車あるなら手伝え。ワルガキ共を家まで送っていく」

「畏まりました」

「その前に皆さん事情聴取です。治安局まで同行願います」

 

朱鷺の言葉にジャケットに着いた煤や埃を払う振りをして、物陰からこちらを窺うイアスに行けと合図する。

二人の正体を朱鷺は知っているが、それでも表沙汰にする訳にはいかない。

朱鷺も努めてイアスに気付かない振りをしている。

 

「……仕方ねえ。せめて、ガキ共には飯を出してくれや」

 

紫煙を深く吐き出し、面倒だと肩を落とした。

◯◯年後のミフネさん家

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