とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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アンケートが御座いますので、是非ご協力くださいませ。

あとYoukai、割りとタチ悪いな、こいつ。




朱鷺達からの事情聴取を終え、ミフネは治安局の裏手にある喫煙所の壁にもたれ掛かり紫煙と溜め息を吐いていた。

事前に朱鷺が上を通じてオボルス小隊から入手していた耐火耐爆拘束具のお陰でアラガキは無事無力化し、今は治安局の特殊犯拘置所に移送されている。

すぐさま取り調べをするべきだと、ミフネは朱鷺に言ったが軍の方からも取り調べに同席を求める声があり、一度拘置所に収監する事になった。

何か嫌な予感がする。流石のアラガキもあの状態から逃げる事は不可能だ。

しかし、何か見落としがある様な気がしてならない。

 

 

――なんか違和感がある

 

 

アラガキは捕まり、後は奴の背後関係を洗い出し、〝パンドラの箱〟とやらの事実を聞き出すだけだ。

なのに、何か胸騒ぎがする。

だが

 

 

――俺にこれ以上、何が出来るよ

 

 

もう軍属でもなんでもない。ただの荒事に慣れたタクシードライバーに過ぎない。

権限も何も無い。ただの老い耄れた機械人でしかない。

 

「まあ、本当にここらが潮時だな」

「何が潮時なんだ?」

 

呟くともう一人の老い耄れ機械人が現れた。

何時も通りのシャツに短パン、ニット帽の胡桃割り人形の様な顔。

森だ。

 

「おめえ、もういいのか?」

「ああ、脊椎ユニットの交換だけだからな。まあ、これから暫くはリハビリだ」

「へっ、薄っぺらのもやしが」

「単純思考の人型戦車と比べられてもな」

 

森はミフネとは違う銘柄の煙草をポケットから取り出し火を点けた。

 

「アラガキは捕まったんだな」

「ああ、とりあえず片腕もいでおいた」

「やるな」

「何処ぞのもやしは油断して穴開けられたがな」

「片腕もいだけの奴が偉そうに」

「へっ」

 

紫煙を吐き、二人の老兵は傾き始めた陽が照らす空を眺める。

そして暫く、煙草が半分程になった辺りでミフネが切り出した。

 

「んで、おめえなんでここに来たんだ?」

「アラガキが捕まったと聞いてな。ちょっと一発斬ってやろうかと」

「刀もねえのにか?」

「ふん、あの程度カッターでもあれば斬れる」

「そうかよ」

 

二人は煙草を灰皿に押し付け、また新しい煙草に火を点ける。

そして、二人分の紫煙が踊り森が口火を切った。

 

「……本当に退くのか?」

「ああ。……流石にな。これ以上、俺らに何が出来るよ」

「そうか」

 

森はそれ以上何も言わなかった。

二人共、この世に生まれてからずっと戦火の中を生きてきた。

約七十年、ミフネはもう八十が見え始めている。

機械人としてまだ現役の歳だが、守る者が増えた身で無責任に鉄火場に行く訳にもいかないだろう。

 

「前も言ったが、おめえも考えとけよ」

「そうだな」

 

森も今回の件で自身の老いを感じている。

本来ならアラガキに遅れを取る事は無かった。

全ては自身の老いと油断、それが招いた結果だ。

サティにも随分と心配を掛けた。

 

「私は、アラガキの件を見届けてから退く」

「そうか」

「ああ」

「俺はまず、ワルガキ共を送ってからだ。そっから、色々と話を通す」

「そうだな。私もセス君達に話をしておこう」

 

それから何度か紫煙が舞い、二人の老兵は暫し無言の間を過ごした。

そして、煙草がフィルター手前まで燃え尽きた。

その辺りで、一人の影が現れた。

 

「ミフネさん、皆の事情聴取が終わり……あれ、森さん?」

 

セスだ。

 

「やあ、セス君」

「森さん、身体はもういいんですか?」

「ああ、暫くはリハビリ漬けだがな」

 

吸い殻を灰皿に放り捨て、森がもたれ掛かっていた壁から離れる。

 

「セス君、アラガキは?」

「今は特殊犯拘置所に移送され、オボルス小隊より寄与された拘束具で拘束されているそうです」

「そうか。イゾルデ大佐には手間を掛けたな」

 

見上げれば、もう月が見え始めている。

長い因縁が一つ、漸く終わった。実感は湧かないが、肩が軽くなった気がするのはそうなのだろう。

 

「小僧、ガキ共は?」

「今、出前を食べてます。……皆、すごい食欲ですよ」

「……森」

「金は貸さんぞ。只でさえ、リハビリ代で厳しい」

 

財布の中身を思い出しつつ、ミフネは溜め息を吐くと、壁から離れる。

 

「そんじゃ、行くか」

「はい」

「ああ。私も行こう」

 

そう言って先を行く何処か疲れを感じさせる二人の背中は、何処となく小さく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライカン達と手分けして、五人を保護者の元へ送り届け、正式な謝罪の予定を取り付け終え帰り着いたのは深夜手前の事だった

 

「……終わったか」

 

風呂から出るや、倒れる様に眠ったアイリを部屋に放り込み、ミフネは縁側に座り一人呟く。

終わったのだ。長い、四十年前から続く因縁が終わった。

 

「トシゾーさん」

「ん? ああ、済まん」

 

急須と湯飲み、灰皿を盆に載せたイオから、湯飲みを受け取り煙草に火を点ける。

 

「終わったんですよね」

「ああ、多分な」

 

隣に座るイオの言葉にまだ疑問は残るが、目下の問題であったアラガキは捕まった。

そう大目標であるアラガキは捕まえた。

後はもう治安局や防衛軍に任せるべきだ。

 

「なあ、お前」

「なんでしょう」

 

見え始めた半分程の月を見上げ、ミフネは紫煙を吐く。

もう大丈夫だ。胸騒ぎはするが、一人の老い耄れにこれ以上何が出来る。既に軍属でもなんでもないのだ。

〝パンドラの箱〟についても後から聞けばいいし、その時に動けばいい。

もう、止まってもいい頃合いだ。

 

「……もしもの、話だ」

「はい、もしもの箱ですね」

「もし、お前さえよけりゃの話だ」

 

もう一度紫煙を吐き、ミフネはイオに向き直る。

老い耄れとはいえ機械人、人間やシリオンより永い時間を生きる。その時間にこんな若い娘を付き合わせていいのか迷いもした。

だが、止まるなら受け入れてもいい筈だ。

年甲斐もなく騒がしい論理コアを押さえ付け、ミフネは言葉を作った。

 

「アイリも懐いてるし、俺も悪い気はしてない」

「はい」

「それに、今回の件で荒事から身を引こうと思っていてな」

「はい」

「だから、なんだ? お前さえよけりゃ……、一緒に暮らさんか?」

「ええ、喜んで。と、言いたいのですが……」

「何か、あったか……?」

 

やはり、年寄りの勘違いだったか。

ミフネが身を強張らせると、イオは微笑んでから自身の手を見た。

 

「私は死人です」

「ああ。でも生きてる」

「ええ、ですがアラガキ様の言葉を信じるなら、私は死人です。ですから、今のままではトシゾーさんの御言葉にお応え出来ません」

 

湯飲みを傾け、熱い茶を飲んでから言葉を続ける。

 

「ライカン様より市長様がお話を伺いたいとの事ですので、そこで私は私が知らない過去に決着を着けたいと思います」

 

なので

 

「その後で宜しければ、また同じ言葉を戴けますか?」

「ああ、分かった」

 

茶を啜り、一呼吸置いてから紫煙を吐く。

すると、徐にイオが手を差し出してきた。

 

「どうした?」

「いえ、煙草を一つ戴けないかなと」

「お前、吸ってたか?」

「吸ってませんが、トシゾーさんを見てると少し嗜んでみたくなりまして」

「酒で目ぇ回したお前がか?」

「まあ! 意地の悪い人ですね」

 

すまんすまん

そう言うとミフネは半分程に減った煙草の箱を差し出す。

しかし、イオは箱を押し戻すとミフネの口元にある短くなった煙草を指差す。

 

「それが、云いのです」

「これか? 新しい方がいいぞ」

「いえ、それでお願いします」

「そうか」

 

ミフネは白い灰を灰皿に落とすと、手の中で回し歯で潰れたフィルター側をイオに向けて手渡す。

 

「いきなり入れんなよ? 吸気系がエラー起こすぞ」

「ふふ、そうですね」

 

イオは潰れたフィルターを口に挟むと、ゆっくりと吸い込みやはり噎せた。

 

「エホッ!?」

「言わんこっちゃねえ。ほれ」

 

ミフネから湯飲みを受け取り幾つか噎せた後、茶を飲み息を吐いた。

 

「トシゾーさんはこんなものを?」

「俺のは古い銘柄でな。その分キツイやつだ」

「苦いというか辛いというか、とても刺激的ですね」

「へっ、不味いってはっきり言え。俺にゃあもう判らんがな」

 

イオから受け取った煙草を一吸いし、紫煙を吐き出して灰皿に押し付ける。ほぼ消え失せた味覚では何も感じない。

判るのはただ煙の燻した香りだけだ。

 

「程々にしてくださいね」

「ああ、そうだな」

 

お茶、淹れ直してきます

そう言って、イオは席を立った。

手にした急須が載った盆を揺らさぬ様に、そっと振り向く。

月明かりに照らされる巨体は、ずっと昔からそこに居る様にして動かない。

アイリから聞いた話では、ミフネは殆ど眠らない。元々が軍用、眠るという機能自体が有るには有るが、眠らずとも問題が無い造りになっているらしい。

だからただ一人で、短くない夜を縁側や自室で過ごす。

 

「……そこに居られたら」

 

どれだけ幸いなのだろうか。

イオはまだ知らぬ自身の過去に幾ばくかの恐れを抱きながらも、きっとあの強い手がどうにかしてくれると思い、僅かに染まった頬を冷ましながら新しい湯を沸かしに台所へと足を向けた。

◯◯年後のミフネさん家

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