とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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大変お待たせしました。勤務地が変わったり、体調を崩したり、おいパエトーンが発生て遅れました。




「おいおい、こいつぁなにがどうなってんだ?」

 

愛車を飛ばし辿り着いたショッピングモールは、混乱の真っ只中であった。

 

「ミフネ、もう少し近くに行けないか?」

「無茶言うな」

「変形しろよ」

「チビスケが家で見てたテレビ漫画じゃねえんだ」

「無理か?」

「無理だ。現実に人間そっくりなロボット作れる無駄に顔がデケエ博士は居ねえんだよ」

「……そうか、無機物だろうが容赦なく食える宇宙人も居ないか」

「居ねえよ。居て堪るか」

 

完全に足止めを食らった二人は、煙草を吹かしながらどうにかモールに接近出来ないかと、辺りを見渡す。

すると、やはりと言うべきか。見覚えのある姿を見つけた。

 

「小僧! こっちだ!」

「ミフネさん?! 森さんまで?!」

 

普段の巡回とは違う完全装備のセスが、治安官隊へ指揮を取りながらこちらに近寄ってくる。

 

「……大体予想はつく。セス君、状況は?」

「班長達が先行して突入班を集めてます。オレは避難誘導を」

「やっぱアラガキか?」

「はい、このショッピングモール近くの監視カメラに協力者と見られる者と行動している姿が確認されてます。でも、一体どうやって……」

「タネは協力者、恐らくはアラガキの論理コアユニットを獄中で入れ換えて、だろうな」

 

森が歯噛みしながらセスの疑問に答える。

森とミフネがアラガキの討伐に赴いた時も、この手を使ったのだろう。

腹の立つ話だ。

 

「んで、その協力者っては誰だ?」

「まだそこまでは判ってませんが、型式からして軍かと」

「……写真はあるか?」

「え? あ、はい」

 

ミフネは車窓から頭を出し、セスがポケットから出した端末の画面を見る。

そして、端末を引ったくると森に手渡し、慌てるセスに怒鳴る様に伝える。

 

「小僧! 突入は中止! 婦警さん達に急いで伝えろ!!」

「え? いや、でもここでアラガキを捕まえないと……!」

「セス君、理由は移動しながら話す!」

 

突然の言葉に抵抗したセスだったが、二人の様子からただならぬ気配を感じ、近くの治安官にミフネの車の移動を指示し、二人は車を降りてセスと共にショッピングモールへと早足で向かう。

 

「森、おめえは装備取って来い。その浮かれた格好じゃ何も出来んだろ」

「まずは説明してからだ。セス君」

「班長達に繋がってます」

 

森はセスから端末を受け取ると、朱鷺の声が聞こえてくる。

 

『森さん、突入中止とは一体どういう事でしょうか?』

「朱鷺君、今回ばかりは退いてくれ。理由は今から話す」

『森さん、貴方達には捜査協力等でお世話になってます。しかし、今は一刻を争う事態で……』

「あーもー! まだるっこしい! 婦警さん聞こえてるか!!」

 

端末を奪ったミフネが怒鳴る。その怒声に朱鷺が一瞬怯んだ隙にミフネは捲し立てる。

 

「いいか! アラガキの協力者はゲンジョウって奴で、このまま突入したらあんたらは全員間違いなく死ぬ!」

『は? それはどういう……』

「元軍の暗部で、対人対シリオンのプロだ。死ぬってのはそのまんまの意味だ! 兎に角、あいつは人を殺す事に特化してる。特に今回は室内戦、あいつお得意中のお得意の場所だ!」

 

だから

 

「少し待て! 俺らが情報持ってるからそれ聞いてからにしろ!」

 

一頻り捲し立てると、ミフネは森に端末を投げ渡し、一人モールへと突き進んでいく。

 

「あー、朱鷺君?」

『えっと、今のはミフネさんですよね?』

「そうだ。で、理由なんだが奴が言った通りでな。ゲンジョウは兎に角ヤバい。奴に関しては完全に軍が出動する案件だ」

『そこまで、なんですか?』

「ああ、今の戦力的に言えば、こちらに有利な条件を揃えに揃えて、その上で私とミフネが本気で掛かればどうにかなるか。という具合だ」

 

まあ、それでも

 

「今、現場に居る治安官の半数以上は間違いなく死ぬし、人質も無事では済まない。そして、私とミフネのどちらかも間違いなく死ぬ。だから少し待って欲しい」

『……了解、しました』

「君達の矜持を傷付ける様ですまない。だが、私達は君達の様な若者に死んでほしくない」

 

もうすぐミフネが着く。話は奴から聞いてくれ

そう言って、森はセスに端末を返す。

 

「セス君、済まないが私は装備を取りに戻る」

「はい」

「くれぐれも逸って動かない様に。奴の一太刀は、君を盾ごと豆腐の様に斬る」

 

装備を取りに戻る森を見送ったセスは、急ぎ朱鷺達が待機する指揮所へ向かった。

パトカーで囲っただけの簡易な指揮所で、ミフネの巨体はよく目立っていた。

 

「セス・ローウェル、合流しました」

「来たか小僧。つう訳だ。もう一回説明するぞ。今回、あのアラガキに協力してたのはゲンジョウって奴だ。こいつは軍内外の不穏分子を消す事を専門にしてた奴だが、アラガキ同様に死んだ筈が生きてやがる」

「ミフネさん」

「どうした? 婦警さん」

「森さんから聞きましたが、ゲンジョウの強さはそれほどなのですか?」

「ああ、あいつはマズイ。森みてえにヤッパを扱う事に長けてな。小僧の盾でも豆腐、俺もそう何度も受けられんし、油断した瞬間真っ二つだ」

 

ミフネの言葉に治安官全員が目を見開く。

ミフネの頑健さは今までの捜査協力でよく知っている。第一にフレデリックのパトカーをスクラップに変える一撃を受けて傷一つ付かない身体だ。

そのミフネが油断したら真っ二つにされると言う。

 

「……攻略法はありますか?」

「下手に網やらで捕まえるより、正攻法で潰す。……最悪、俺か森のどっちかは死ぬかもしれんがな」

「そんな事……!」

「それでも、お前らガキ共が死ぬよりマシだ」

「アイリちゃんはどうするんですか?!」

「あれを放っておく方がまずいんだよ!」

 

朱鷺とミフネが言い争いを始め、セスや周りの治安官が止めようとするが、ゲンジョウの危険性を知るミフネは一歩も譲らない。

否、譲れない。

ゲンジョウは相手が一般人だろうと平気で手に掛ける。その相手が例え赤子であっとしてもだ。

 

「いいか、ゲンジョウを取り逃がせば被害はアラガキの比じゃねえ。新エリー都全員があれに怯えて暮らす事になる!」

「だから、それを安全に捕まえる策が必要だと言ってるんです!」

「安全もくそもねえ! あれに視認されたら並みの人間じゃ終わりなんだよ!」

 

二人の言い争いが佳境に差し掛かり、これ以上は流石に見過ごせないと青衣が口を挟もうとした時、黒い影が差した。

 

「まあ、そうカッカッしなさんな」

「森さん」

「おう、早かったな」

「相手はアラガキとゲンジョウだからな。久々に本気で走った」

 

黒い制帽にコート、下の制服すら黒い。違うのは露出した顔と手の鈍い銀色だけ。

そんな森が太刀を片手に首や肩を回しながら、二人の間に入る。

 

「ミフネも落ち着け。相手がゲンジョウなら尚更、朱鷺君達の手は必要だ」

 

それに

 

「もし、お前に何かあっても私は二人の面倒を見んぞ。二人はお前が守れ」

「……手はあんのかよ」

「単純な手だ。私達二人でアラガキとゲンジョウに当たり、朱鷺君達には人質の救出。これが無難な所だろう」

「勝算はあるのか?」

 

青衣の問いに森は溜め息を吐く。

 

「……足止め狙いで私一人なら保って二十分程度、ミフネと二人なら一時間は保つ」

「お二人でも勝てないんですか?」

「勝てるが、さっきも言ったろ? 勝つには俺らのどっちかが死ぬ事になる。アラガキが火付けの専門家なら、ゲンジョウは殺戮の専門家だ」

「鍵はこの頑固爺の無駄に頑丈な装甲だ。ゲンジョウでも、こいつの装甲を両断するのは難しい」

「おめえがなよっちいだけだろ」

「やるか? 頑固爺」

「アラガキとゲンジョウの前に伸してやるよ。お喋り爺」

 

また喧嘩を始めそうになる二人、それを止めようとセスと朱鷺が身構えた瞬間、ミフネと森、そして青衣達機械人達が突然ショッピングモールへと振り向いた。

 

「ミフネ、今のは……」

「一瞬過ぎて分からん。だが、嫌な予感がしやがる」

「ふむ……。急激なエーテル反応じゃがエーテリアスとも違う」

 

本当に一瞬だけあったセンサーの反応、エーテル技術を使用した際に発生するもので、ミフネからも反応は出ている。

だが、その数値が異常だった。

エーテリアスや戦闘出力に入ったミフネと同程度の反応が一瞬だけ検知されたのだ。

 

「……朱鷺君、作戦を献策する」

「なんでしょう」

「私とミフネが突入する。その隙に君達は人質の救出をお願いしたい」

「それは……!」

 

先程、ミフネが言っていた事と何も変わらない。

朱鷺がそう抗議しようとした時、森は掌を見せて続ける。

 

「大丈夫だ。何も正面から突っ込まんさ。我々が陽動、君達が本隊だ」

「まあ、それが無難か。……婦警さんよ」

「はい」

「ゲンジョウに出会したら一目散に逃げろ。装備も何もかも放り出して、兎に角逃げろ。正面からあれの相手出来る生身はホロウ六課の連中ぐらいだろうよ」

「それを言うならアラガキも、生身で相手するには最悪の相手だが、ゲンジョウ相手だと気付いたら膾切りにされてたなんて事が起きる」

 

二人の老骨は溜め息を吐いた。

ゲンジョウの強味はその剣技と異常な反応速度だ。

機械人の知覚ですら認識が難しい速度の銃弾でも容易く斬り、斬られた事をターゲットや周りに気付かせない技。

アイリがまだ赤子だった頃、システムエラーによる命令の混線が原因で高羽夫妻がターゲットになり、ミフネとあわや殺し合いというところまで発展した。

システムエラーが早くに復旧し、被害は装備とバイタルパートと同等の強度である前腕装甲だけに収まったが、あのまま続いていたら危うかった事は確かだ。

森も同じだ。ゲンジョウとは軍内で対立派閥に属しており、そのせいで何度もぶつかった。

同じく刀を扱う者として、ゲンジョウの強さは破格だ。剣技だけならもしかすると〝虚狩り〟星見雅に相当し、殺戮への抵抗の無さは凌駕する。

 

 

――保つか?

 

 

森は左手に収まる太刀に目をやる。

対機械人用の太刀、堅牢な機械人を膾に斬る為の切れ味と強度を持つ一振で、ゲンジョウとの一戦までは刃こぼれ一つ無かった。

ミフネと同様に命令変更で事なきを得たが、あれが続けば危うかっただろう。

 

「森」

「なんだ?」

「どっちにしろやりゃなきゃなんねえんだ。勝つぞ」

「無論だ」

 

ミフネが差し出した煙草を受け取り火で点け、紫煙を吐いてミフネに渡す。

紫煙を深く吐き出す二人に、ここは禁煙だと咎めようとした朱鷺を片手で止め、ミフネの携帯灰皿にまだ長い煙草を押し込む。

これは戦場へ赴く前の儀式だ。オイルや酒、煙草を全員で回し呑み無事の帰還を祈願する。

 

「さ、行くか」

「どう突っ込む?」

「俺らが来た事はもう気付かれてんだろ。なら、思っくそケツ蹴り飛ばしてやる」

 

おい、地図寄越せ

ミフネがそう言い、セスから地図を引ったくるのを眺め、森はいまだに沈黙を続けるショッピングモールを睨んだ。

◯◯年後のミフネさん家

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