とあるタクシードライバーの日々 作:サビサビボンプ
「セス・ローウェル、戻りました!」
事件の聞き込みと定期パトロールを終え、治安局特務捜査班の新人のセスは、普段と変わらない様子で帰還を伝える。
だが、聞き込みの結果は芳しくなかったのか。その特徴的な尾は元気なく垂れ下がっている。
「お帰りなさい、セス君。情報はどうでした?」
「やはりというべきか、事件発生当初を知る人は居ませんでした……」
「まあ、フレデリックの奴なら当然か」
「え?」
班長である朱鷺に聞き込みの内容を記したメモを渡す最中、聞き覚えのない重い声が聞こえ、急いで声の方向に振り向くと、そこには見覚えのない機械人が椅子に座り新聞を読んでいた。
「あの、班長。こちらの方は?」
「彼はミフネ・トシゾーさん。今回の解体屋事件の捜査に特別に協力していただける方です」
「ミフネ・トシゾーだ」
名乗りながらその機械人は立ち上がり、被っていたハンチング帽を脱いで胸に当てながら頭を下げてくる。
セスでも軽く見上げる巨体、スマートで人に近いボディが主流になった現在で、かなり珍しい古めかしい見た目。
感情の見え難い液晶に映る両目は、見え難いがかなりの場数を踏んだ威圧感がある。
「セ、セス・ローウェルです! よろしくお願いします!」
「そう固くなるな若いの。フレデリック相手に真面目に当たるのは命取りだ」
「は、はぁ。……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「さっきから出てくるフレデリックって誰ですか?」
「セス坊、今からその話をする所じゃった」
青衣が湯飲みを傾けながら、座れと隣の椅子に視線を向ける。
それに従い、セスは指し示された椅子に座り、ミフネもまた元の席に戻る。
「あの、ミフネさんはこちらにお願いします」
「……はいよ」
身体と椅子を軋ませながら再度立ち上がり、朱鷺の立つホワイトボードまで歩く。
「では、ブリーフィングを始めます。全員、まずは手元の資料を」
セス、青衣、他の班員達全員がテーブルに置かれた資料を各々で確認する。
「容疑者はフレデリック・アーシェリー。元国防軍情報部所属の知的機械人。軍では諜報を主に機密に携わる立場でした」
「補足すると情報武官だ。言っちまえば、機密や治安の為なら市民すら敵とする立場だった。その中でもこいつはガチガチの武闘派、油断すると一瞬で御陀仏だ」
「有難う御座います」
資料とホワイトボードにプロジェクターで写される顔写真は、ミフネと違い人に近い造形で、親しみ易さの様なものがあった。
だが、それとは別に写真からですら伝わる異様な冷たさもある。
「容疑者は国防に携わり、その為の任務に就いていく中で正気を消失、手段が目的となった典型的な猟奇殺人犯である疑いが強く、資料からも重度の加虐性が見受けられます」
「………」
セスはふと、気になって資料を捲るミフネを見る。
無言の巨体は威圧感はあるが、先程の挨拶からもただの武骨者やホロウレイダーの様なアウトローとは違う。
だからこそ気になる。
ただの一般人がどうして特別協力員となったのか。
「ミフネさん。ここまでで何か補足は」
「そうだな。……この二人には言ったがフレデリックはワイヤーやトラップを用いた戦闘のプロだ。そして、長く関わってきた拷問のお陰で自分の身体を改造する事に抵抗は無い。むしろ、進んで化物に成り果てやがった」
ただの馬鹿野郎だ。
そう言うミフネの表情に変化は無い。
だが、そこに何かがある様な気がした。
だからこそ問うた。
「あの、発言よろしいでしょうか」
「どうぞ」
「ミフネさんは容疑者と関係が?」
「フレデリックは俺の元部下で、狂っちまったあいつを監獄にぶちこんだのも俺だ」
どうして、こうなっちまったんだろうな。
液晶に映る目に動きは無いが、どこか悲しげな色が見えた。
「元部下でしたか」
「ああ、部下って言っても一年かそこらだがな」
「その時から兆候は?」
「無かった。分かりやすく理想に燃えて、市民を守る軍人になるって息巻いたガキだった。真っ直ぐで、バカ正直で青臭い面倒ばかり掛けてくるクソガキ。それが俺の知るフレデリック・アーシェーリーだった」
その声音には深い後悔が滲んでいた。
「資料にある通り、フレデリック捕縛に就いた奴は俺が最後だ。だから、今回の作戦は俺が囮となり奴に引導を渡す」
「引導を渡すって、まさか……」
「相手は軍の監獄を抜け出した様な奴で、これまでも十数人じゃきかん被害者を出してる。逮捕しても必ず脱獄する」
だから、
「ここで引導を渡して終わりにする」
朱鷺と青衣の二人も苦々しい顔で黙る。
一治安官として納得出来るものではない。だが、ミフネの言う事も理解出来る。
相手は現役を含めた元軍人を、抵抗すらさせずに刈り取った猛者。
朱鷺達が動かせる戦力、ミフネから聞いたフレデリックの戦力。これらを計算しても逮捕は可能だが、こちらの被害も甚大となる。
そして、仮に逮捕出来たとしても脱獄を許さずにおけるか。再度脱獄を許した場合、その時の被害はどれ程になるか。
それらを合わせて考えた場合、治安官として最悪の選択するしかない。そう、答えを出していた。
「いや、駄目です」
しかし、その決定に異を唱える声があった。
「オレが止めます! 犯罪者は捕まえ、法の元で裁きを受けさせるべきです!」
◯◯年後のミフネさん家
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