とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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機械の心

「あー、小僧。この車、禁煙か?」

「禁煙です」

「そうか」

 

自身の車より少し狭い車内で、機械の巨体を縮める様にして助手席に座るミフネが、運転席のセスに問うとはっきりとした答えが返ってきた。

 

「小僧、そこを右だ」

「はい」

 

ミフネが案内をして、セスが運転して向かうのは機械人専門の病院。

そこの特別病室に用がある。

被害者のリェン・シューメイが意識を取り戻したと、治安局に報告が挙がり丁度手が空いていたセスとミフネがリェンへ聴取へと向かう事になった。

 

「あの、ミフネさん」

 

若干の気まずさがある車内、そこでセスがミフネに問うた。

 

「なんだ?」

「なんで、フレデリックの情報を? ミフネさんならもう知ってるんじゃ……」

「いいか、小僧。戦いってのは情報だ。とにかく先に相手の事を知る。これは基本で絶対だ。特に、フレデリックみたいな手札の多い奴相手はな」

「でも、意識が戻ったばかりの被害者に聞きに行く必要はないと思います」

「まあ、それに関してはお前さんが正しい。だが、今回は急がにゃならん」

 

いいか。と、ミフネが煙草の箱を懐から取り出す。

 

「今の奴にとって、解体殺人はこれだ。切れたら次が欲しくなる。あいつはイカれちまったが頭は働く。正面から戦っても俺を仕留めきる前に、お前らって援軍が来るぐらい予測してる筈だ」

「なら、尚更……!」

「だからこそだ。いいか? 酒煙草に限らず、中毒者ってのはそれに依存してる。依存対象の効果が切れたら、形振り構わずそれに飛び付くくらいにな。だから……」

「……その前にフレデリックの情報を集めて準備をして、なにもさせずに捕らえる。ですか」

「……分かってるじゃねえか。なら、もう少し飛ばせ」

「法定速度は守らないと駄目です」

「ちっ、しゃあねえ。……って、おいおい、マジか」

 

舌打ちをするミフネだったが、すぐに意識を切り替えた。

病院へ続く道、そこが大渋滞となっていた。

 

「なにがあったんだ?」

「オレ、見てきます!」

「バカ、小僧。無線使え無線。こんな渋滞、治安局がもう出張ってる筈だ」

「あ、そうか。……こちら27号車、セス・ローウェル。フリッド機械人病院前で渋滞、情報を」

 

数回、セスが無線でやり取りして得た内容は、病院前の工事現場でクレーンに吊るされた資材が落下し、その影響で道路が陥没してしまい、今緊急で交通整備に当たっているというものだった。

 

「どうします?」

「歩いて行くにも通行止めだろ。素直に待つしかねえが、お前はいいのか?」

「へ?」

「いや、交通整備」

「あ! いや、でも任務……。いやいや、でも……」

「あー、そうだな。小僧、こういう時に俺が軍に居た頃よく使ってた手がある。やるか?」

「え、それってどんな手ですか?」

「そうだな。こういう手だ」

 

言うなり、無理矢理足を伸ばして、ブレーキを踏むセスの足を蹴飛ばしアクセルを踏み込み、ハンドルを一気に回す。

 

 「ちょっ?! ちょちょちょ! 待ってください!」

「あー、緊急車両通過緊急車両通過。市民の皆様は道の端に避けてください」

 

詰まりかけた車間でスキール音を掻き鳴らし、パトカーが回転。そのままの勢いで裏路地へ突っ込んだ。

 

「ミ、ミフネさん! 違法ですよ!」

「緊急措置だ。ほれ、前見ろ。道が開けた」

 

ミフネの言う通り、渋滞から抜けて病院の裏側へ続く道へ出れたが、パトカーはゴミ箱やらなんやらを撥ね飛ばしたせいで傷だらけだ。

 

「これ、どうしよう……」

「ま、始末書程度気にすんな。最悪、俺がやったって報告しろ」

 

安全運転で病院の裏手の駐車場に停まり、ハンドルに項垂れるセスを置いて、ミフネはパトカーから降りる。

続いて、セスが慌てて降りる。

 

「始末書って……。ミフネさんの場合、免許減点ですよ。しかもかなり」

「マジか。……特別協力費って事でチャラにしといてくれ」

「班長、認可してくれるかなぁ……」

 

病院の受付で手続きを済まし、リェンの病室のある階までエレベーターで上がる。

その最中、ミフネが口を開いた。

 

「小僧、俺が呼ぶまで病室には入るなよ」

「なんでですか?」

「リェンはかなり用心深い上に疑り深い奴でな。ここで隠し事なんてされたら堪らん」

「いや、ここへ来て隠し事って」

「あるんだよ。俺らの時代の情報部ってのは、秘密主義って言葉に手足が生えた様な連中だ。前のフレデリックの件でも、奴の状態を隠してやがったからな」

 

気に入らんとばかりに、唾を吐き捨てる様な形に口を傾ける。

このブリキの玩具の様な口からは偏屈な言葉か文句しか出ないのかと思いつつ、セスは了承する。

 

「小僧、一つ言っておく」

「また、なんでですか?」

「俺のやり方は古いし、治安局のやり方じゃない。軍の、極論人殺しのやり方だ。学べとは言わんが、覚えておけ」

「はぁ……」

 

一体、何が言いたいのか。セスはミフネの意図を感じ取れない返事を返した。

 

「着いたか」

 

エレベーターの扉が開き、真っ白なリノリウムの廊下が見えた。

ミフネとセスはさっさとエレベーターから降り、リェンの病室へ真っ直ぐに向かう。

 

「……待ってろ」

「はい」

「リェン、俺だ。ミフネだ。入るぞ」

 

返事も待たず、ミフネは病室の引戸を開けた。

人間やシリオンのそれとは違う機材が並ぶ、病室というより工場と言える様な部屋の窓際。

そこのベッドに多種多様なパイプやチューブに繋がれた機械人が横たわっていた。

 

「ミ、ヴネ……」

「声帯モジュールをやられたのか。筆談も……、厳しそうだな」

 

痩せた老人の様な素体には手足が無かった。

 

「ミヴネ……」

 

リェンが視線を動かし、ベッドサイドにある機材に向ける。

それはスピーカーの様な型をしていた。

 

「外部声帯か。初めから電源入れとけ」

 

リェンの視線に促され、ミフネは外部声帯のスイッチを入れる。

すると、若干ノイズが混じっているが先程よりははっきりとした声が聞こえてくる。

 

「……ミフネ、済まない」

「謝罪はいい。俺も同罪だからな。で、フレデリックだったのか?」

「間違いなく、フレデリックだった」

「そうか……」

 

ミフネの目が閉じ、肩を落とす。

正直な話、フレデリックではない模倣犯か何かであってほしかった。

だが、現実は辛く厳しい。十年前に痛い程理解していた筈なのに、まだありもしない希望にすがってしまっていた。

 

「……リェン、今日は俺ひとりじゃない」

「だろうな。軍を辞めて、高羽博士の娘を守るお前が来る理由が無い」

「ああ、……小僧、入れ」

「失礼します。……治安局特務捜査班所属、セス・ローウェルと申します。本日は突然の来訪をお許しいただき感謝します」

「いいさ、若いの」

「では、早速ですが犯人の顔や当時の様子を出来る限りでお願いします」

 

セスはメモ帳を手に、リェンの証言を事細かに書き記していった。 

その間、ミフネは黙ったまま、ただリェンの言葉を聞くだけだった。

 

「……お体も優れないまま、有難う御座います」

「ああ、大丈夫だ。若いの、お前さんは良い治安官になるだろうよ」

「は? ……いえ、有難う御座います」

「リェン、フレデリックは戻れそうだったか?」

 

そして、黙ったままのミフネが口を開いた。

そのミフネの言葉に、リェンは枕に埋まる頭を横に振った。

 

「フレデリックは、フレディはもう戻れん。あそこまで狂ってしまったら、もう無理だ」

「そうか。邪魔したな。ゆっくり治せ」

 

ミフネは立ち上がると、リェンに背を向ける。

その時、リェンはその背に言葉を向けた。

 

「ミフネ、俺達は止められなかった。フレディを、彼を殺さなければならなかったのに、まともだった頃の彼を思い出して、引き金を弾けなかった……」

 

だから、頼む。

 

「彼を終わらせてやってくれ……」

「……任せろ」

 

リェンの言葉に振り返らず、背を向けたままミフネは頷いた。

 




高羽式重戦闘用素体
アイリの両親である高羽両博士が造った重装甲高出力の素体。
耐久力と出力、整備性に特化した素体。
ミフネのものは改良型の弐型

◯◯年後のミフネさん家

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