とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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機械のラプソディ

さて、と、ミフネは腰に手を当て見上げる。

ホロウ内特有の空は見えず、バラックの屋根に覆われた薄暗い裏路地。そこで唯一ぽっかりとスポットライトの様に日の光が射し込む場所がアニーが最期に生きた場所だ。

 

「小僧、車で軽く説明した内容を加味して答えろ」

「はい」

「仮にお前が襲撃するとして、相手は戦闘のプロ。場所はこの裏路地。どう襲撃する?」

「どう、ですか……」

 

ミフネの話によると、アニー・マッケンジーは戦闘のプロで、フレデリックに戦闘術を教えた教官でもあった。

そして、フレデリックは無音戦闘術に長けた軍人で、場所はこの裏路地。

隠れる場所は無く、背後から騙し討ちをしようにも戦闘のプロ相手。

生半可な行動ではすぐに見抜かれ、無力化されるだろう。

ならどうするか。

ミフネは情報が戦いの肝だと言っていた。

アニーは元軍人でホロウ調査員、個人的には美容に気を使っていた。という話だ。

加えてフレデリックとも組織的、個人的にも繋がりがあった。

これらの情報を活用する場合、どの札を切るか。

 

「……オレがフレデリックなら、自分とホロウに関する情報をアニーに流します」

「ほう?」

「リェンさん達はフレデリックを殺そうとして出来なかった。だからそこを突いて、このホロウ内に自身が潜伏しているという情報を流し、アニーを誘き出します」

「まあ、正解か。見てみろ」

 

ミフネが裏路地の壁、やけに老朽化して塗装が剥がれたそこに、よく見なければ気付かない程度の不自然な凹みがあった。

 

「ワイヤートラップの跡だ。この高さだと、アニーの首を狙ったやつだな」

「首……。あ、でも!」

「そうだ。アニーの首は繋がっていたから避けた。それであれだ」

 

ミフネが指差す先は、自分達の頭上にある壁。

そこに幾つか擦れた様な跡が、こちらに向かう様な形であり、それはアニーの最期の場に続いていた。

 

「この高さだと上に跳ぶより、下にしゃがんで避けた。そして、上から急襲されてそのままだな」

「上から……」

「アニーの遺体は、背中側の損傷が酷かった。一気に飛び掛かり、両手足の主要関節を破壊。そのまま趣味の解体へ、って流れか」

 

淡々と言うミフネに、被害者が感じただろう恐怖を憤りとした視線を彼に向けるが、頭上の跡を睨み付ける様子にすぐに心を落ち着けて、深く息を吐き出す。

 

「……そうだ。怒りも憎しみも抑え付けろ。吐き出す相手は間違えるな」

 

次に行くぞ。

ミフネが事件現場を後にすると、セスもそれに続く。

少し離れた場所に停めたパトカーに向かう途中、ミフネが煙草に火を点けた。

 

「小僧、フレデリックの得手は話したな」

「ええ、何度も聞きました」

「お前さんら治安官も言うが、犯人は現場に戻る。それはなんでだ?」

「え? それは……」

「まーあ、理由なんざ色々ある。そう、色々な」

 

紫煙を吐き出し、わざわざセスに見える様に灰を指で弾いて落とす。

火種が残る煙草はパトカーに向けられていた。

 

「例えばだ。どうしても殺したい奴が居る。だが、そいつは自分の行動範囲や計画に入ってこない。お前ならどうする?」

「……誘き出します。その対象が動きたくなる、動かなければならない情報や状況にして」

「正解だ。リェンの言う通り、お前さんは良い治安官になる」

 

だから、

 

「お前は手を出すなよ」

 

ミフネが鉄拳を構え、セスが武器を展開し距離を取った。

それと同時に莫大な腕を生やした異形に成り果てた機械人がパトカーを潰し、その狂気を二人に叩きつけた。

 

「ミフネ隊長!!」

「ああ、久し振りだ、なぁ……!!」

 

ミフネの前腕部、その肘側の装甲が展開し、顔を出したバーニアが火を吹き、拘束を引き千切るパワーと速度を鉄拳に与える。

 

「ああ、あああ、隊長隊長、隊長だ。お久し振りです」

「ふぅー……、まったく暫く見ん間にゲテモノになったな」

 

マントの中にある身体は今も採用されている軍用機械人の汎用素体だが、そこから生える無数の腕が彼の通常から外れた狂気を体現していた。

 

「ぼ、僕の成果ですよ! 隊長が言ってた強みです!」

「そんなつもりで言ったんじゃねえよ。バカガキが」

 

ミフネは目を閉じ、拳を握る。

そう、確かにミフネは自身の強みを生かせ。とは言った。

だが、それはこんな形ではない。

 

「守るべき、背を向けるべき相手から奪って、何が成果だこのバカガキ!!」

 

再度バーニアを吹かし、フレデリックに殴りかかる。

 

「ミフネさん!」

「舐めんなクソガキ!」

 

無数の腕がミフネの鉄拳を止めようと、幾重にも重なり絡み付いてくるが、その全てを力任せに引き千切り、フレデリックに肉薄し、重く響く打撃をフレデリックの腹に叩き込む。

 

「ガボッ!」

「ボケが。貼り付けるだけ貼り付けたハリボテで、俺に勝てると思ったか? あぁ?! フレデリック……!」

 

フレデリックに止めを刺そうと彼の胸を踏みつけ、目を笑みの形にした顔に拳を振り下ろす。

 

「でも、僕は強くなりました」

「危ない!!」

 

盾と警棒でフレデリックの腕の群れを叩き落としていたセスが叫ぶと同時に、ミフネの体が横薙ぎに吹き飛ばされた。

 

「ぐ、ぬ……」

 

吹き飛ばされたミフネは口からオイルを吐き出し、乱暴に拭い立ち上がる。

 

「なんだよ、これ……」

 

急ぎ、ミフネの前に立つセスは盾を構えながらも驚愕する。

 

「クソガキ……。お前、何処まで弄りやがった」

「全部、全部正義の為です! 隊長が、皆が教えてくれた正義の為です!!」

 

表情を映す顔面モジュールからはオイルの涙が溢れ、しかし表情は悲嘆ではなく歓喜のそれ。

そして、体は更に異形のそれに成り果て、機械人というより多腕が本体のエーテリアスとしか見えなかった。

 

「お前、一体何人の人々を!!」

「退け、小僧!」

 

セスを押し退け、ミフネの腕が射出される。

大出力のバーニアで射出された右腕は腕の束を破壊し、ミフネと腕を繋ぐチェーンソーが切り裂いて、フレデリックに向かうが外れてしまう。

 

「正義、正義です。隊長、僕は正義を役目を果たします」

「待て!」

 

射出した右腕を回収し、ミフネが叫ぶ。その彼を尻目に蜘蛛かそういった生物の様に自身から生える多腕で建物を這い回り、フレデリックは姿を消した。

 

「正義、正義だと? 馬鹿野郎……!」

「ミフネさん! 追いましょう!」

「そのパトカーでか?」

 

乗ってきたパトカーはフレデリックによって、キレイにスクラップに変えられてしまった。

 

「ど、どうしましょう」

「……とりあえず、ホロウから出るぞ。そっから治安局に連絡。念の為、リェンの警護を頼め」

 

煙草を咥え、溜め息代わりに紫煙を吐く。

 

「バカガキ、あの大馬鹿野郎が……」

 

朱鷺に報告する内容を纏めるセスの隣、ミフネは彼にも聞こえない声で呟いた。

◯◯年後のミフネさん家

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