妖小琳(ヤオシャオリン)と因習と夏 作:ノースリバーサイド小木木
────れでは、次のニュースです。
本日未明、午前、○○県○○市の山中にて山菜を取りに来ていた地元の住人が身元不明の女性の遺体を発見したと通報がありました。
20代から30代前半とみられ、衣服は着用しておらず数日以内の死亡したとみられています。
遺体の一部は切断され、全身を針のようなもので刺されており、刺し傷の一部は内臓まで達していたとの事です。
警察のその後の捜査で現場には争ったような痕跡があり、遺体の反応から生きている間に傷が付けられたと判明しております。
警察は死体損壊事件として捜査するとともに、殺人の容疑も視野に捜査しております。
それでは次のニュースです。
○○動物園のパンダの赤ちゃんが────
「暑い…死ぬ…暑い…」
何度言ったかわからないセリフを吐きつつ、グズグズに劣化したアスファルトを踏み締め山道を進む。
茹だるような暑さ、纏わりつく様な湿気、鼻腔にガツンとくる濃密な緑の香り。
全てが合わさり深い指数は鰻登りだ。
それだけではない。服の選択を完全に間違えている。真夏だというのに全身真っ黒の衣装であった。
黒い半袖のTシャツに黒のアームカバー、そして真っ黒のGパン。
スポーツ用のシューズを履いて出かけたのは救いであったが、身長130センチの身体には少しばかり大きいカバンが容赦なく体力を奪っていった。
「くそ社長め…そんなに遠くないって…!言ったくせに…!」
動画配信サイトで活動をしている彼女は話のネタになるのではないかと、社長から「おいしいネタがある、先方には連絡しておくから行っておいで」と言われこの先の村へ向かっていた。
自宅から最寄駅まで歩き電車で2時間揺られ、そこからバスの終点まで2時間、さらに目的の村まで山道をひたすら歩き1時間弱。
そんなに遠くないとも言われていたが全然そんな事はなかった。
朝早くから出発したので太陽はまだ真上を登ったばかりであったが体力はもう限界である。
一度カバンを下ろし大きめの落石と思われる石に腰を下ろした。ペットボトルに半分ほど残った水を一気に飲み干しグチを漏らす。
「ハァ…マジで騙されたわ…」
勿論圏外でナビは使い物にならないので用意した地図を広げる。
「一本道だからいいけど…現在地はもう分かんないわね…」
悩んでいても仕方がないと考え地図をカバンにしまった。
それよりも村に残る『因習』と『呪物』の方が大いに気になっている。実りのある取材にするべく期待に胸を膨らませカバンを背負い直す。
その時である。
前方より軽トラックが走ってきた。
道幅もトラック一台通るのに一杯一杯なので小琳は道の端に寄った。
「あんたが…えぇっと、ヤンさんかい?村に取材に来るって聞いてたが…」
軽トラに乗った男、お爺さんが声をかけてきた。
農協の帽子を被りとても日焼けをしている。深い深い皺は苦労をしてきた証であろう。
「あーそれは私です。あとヤンじゃなくて妖(ヤオ)です。妖小琳(ヤオシャオリン)って言います」
「あぁ矢尾ね。とりあえず荷物は荷台でええから。はよ乗んな」
言い方はぶっきらぼうであるが優しさを感じた。
カバンを荷台に置く。
軽トラはオンボロではあるが荷台は意外にも綺麗にされておりカバンが汚れる心配はなさそうだった。
いそいそと助手席に乗り込む。冷房の効きが少しばかり悪かったが外よりかはマシである。
快適快適…と顔が綻んだ。
「行くぞ」
「すいませんよろしくお願いぃ!?」
返事を終わる前に軽トラのエンジンが大きく唸りを上げバックを始めた。
速度も尋常ではない。メーターを見ると30キロを超えていた。
「えぇ!?お!お爺さん!?」
ガードレールスレスレである。道路に身を乗り出すように茂った草木が軽トラにピシピシとぶつかる。路面状況も良くないのでしょっちゅう跳ねたりもする。
「ももももう少しゆっくりぃ!」
お爺さんは何も言わず数百メートルバックを続け待避所に入り一時停止をした。
「シートベルト…」
パニック状態の小琳を一瞥し反応がない事に呆れた様子であった。
「まあええか…急ぐど」
ギアを一速に入れ急発進、ハンドルを右に切りブレーキ。
山中に響くタイヤが鳴く音、目の前にガードレール、その先は崖である。
「──────っ!!!!!」
狭い山道を凄まじい速度で転回し、凄まじい速度で山道を走り始めた。
速度は先ほどの比ではない。
もう少しゆっくりと言いたかったが声が出なかった。
妖小琳がずっと忘れられない夏が今、始まった。
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