妖小琳(ヤオシャオリン)と因習と夏   作:ノースリバーサイド小木木

3 / 6
3話です


3話 小林診療所

 

後ろのシャオフェイを気遣ってか法定速度以下でゆっくりと進む軽トラック。

風を感じながら田園風景を楽しむ…という訳にはいかなかった。

荷台にいるシャオフェイが手すりを掴んで身を乗り出し、延々と小琳に話しかけているからだ。

 

「あなた小琳っていうのね。私はシャオフェイ、名前がとっても似てるわね生まれはどこかしら?私はお母さんが中国人でお父さんが日本人、お婆様、えっと…母方のお婆様がフランス人でお爺ちゃんが中国人だから私はアジア人らしくないんですって。それとね。益介おじさんは顔は怖くてあまりお喋りしないけど優しいのよ。この間も食べちゃダメって言われてるお饅頭をこっそり持ってきてくれて…」

 

延々とこれである。最初は受け答えしていたが今は適当に相槌を打ち話だけを聞いている。

 

「あの…いつもこんな感じなんですか…?」

 

小琳は小声で益介に問いかける。

 

「いや…いつもはダンマリだ。歳の近そうな客が来て嬉しいんだろ。ちょっとは付き合ってやってくれ」

 

益介の目は笑っていなかったが口角は若干上がっていた。益介とシャオフェイの関係はまだわからないが、親子に近しい感情を抱いているのかもしれない。

 

「小琳さん!あそこ!あの家が私が住んでいる家よ!」

 

荷台から指をさして教えるシャオフェイ。

その先には古めかしい日本家屋が建っていた。

敷地の入り口には「診療所・鍼灸院」とだけ書かれて簡素な看板が立ち、庭には綺麗な花々が咲き誇っていた。小琳はそれほど草花に詳しくはなかったが、時間をかけて手入れされている庭だという事だけは分かった。

診療所の看板の前で停車した軽トラックから降りた小琳はシャオフェイに声をかけた。

 

「凄い庭ね。えっと…シャオフェイさんが手入れをしているの?」

「先生と近所のおばさんと、たまに益介おじ様も手伝ってくれるわ」

 

シャオフェイは荷台から飛び降りた。

ワンピースはふわりと揺れ華麗に着地すると玄関へと走り出す。

 

「益介おじ様ありがとう!」

 

シャオフェイは元気よく感謝を言うと玄関へ小走りで向かった。

 

「ドロワか…」

 

神妙な顔をして1人ごちる小琳。背後に冷たく視線を感じたが今は無視する事にした。

 

「先生!先生!お客様よ!」

 

本当であれば先を急ぎ村長の話を聞きたかった。しかしよく見て見ると診療所はだいぶ古めかしく見える。

もしかしたら古い文献や面白い何かが見つかるかもしれない。とりあえず挨拶だけはしておこうと考えた。

 

なんの気なしに周囲を見回した時であった。

とある違和感に気がついた。

診療所の看板である。木の板で作られた簡素なものではあったが、上部に切られたような跡が見受けられた。

つい最近切られたものではなく、何か引っかかった。

まるで「診療所・鍼灸院」の上の部分に何かが書いてあり、そこを切り取ったかのような…

 

少し疑問に思い、益介に聞こうと思った瞬間であった。

 

「ほれ、あいつが小林だ」

 

玄関に目線をやるとそこには非常に体格の良い大男がこちらを見ていた。

身長は2m近い体躯、腕と足は丸太のように太く胸は筋肉で白衣がパンパンであった。

 

「──────っ」

 

小琳は言葉が出なかった。

絶句。というやつである。

田舎の診療所の医師と聞きヨボヨボの爺さんか婆さんを想像していたが予想以上だ。

年は30歳半ばと言った所だろうか。

田舎の医者の割にはだいぶ若い。

 

ノシノシと近づいてきた小林と呼ばれた大男は笑みを浮かべ小琳を見下ろした。

 

「初めまして、この村で医者をしている小林です。よろしく」

 

うっすらと笑みを浮かべ手を差し伸べる小林に小琳は薄らと恐怖感を感じていた。

口元の笑みとは裏腹に糸のように細い目は決して笑っておらず、なにか値踏みをされているようであった。

一言で言うなら「不気味」だ。

 

「ド、ドーモヨロシク…」

 

なんとか声を発し引き攣ったような笑みを返した。

 

「シャオフェイがお世話になったようで…益介もご苦労でした。」

「構いませんよ。客を送るついでです。もう…よろしいですか?村長もお待ちですので」

 

益介は妙に物々しい雰囲気であったが、小林を見て困惑している小琳に助け舟を出したと言う所だろう。

 

「もう行ってしまわれますの…?」

 

シャオフェイは残念そうに小琳を見る。

 

「調べものをする為に銅地村に来たから、また時間があれば寄るね」

「絶対!絶対よ!」

 

両手を握りしめ、上下にブンブン振るシャオフェイは非常に微笑ましかったが、もう行かねばならない。

まだまだやる事は山積みであった。

 

小林とシャオフェイに別れを告げ、再び軽トラックに乗り込んだ小琳。

ポツリと湧いた疑問を益介にぶつけてみた。

 

「シャオフェイちゃんって………この村の子ですか?」

 

黙って軽トラックのエンジンをかける益介。

ガコガコとシフトレバーを動かす音とエンジン音だけが響いた。

 

「どうだったかな」

 

先ほどとは違い、少し冷めた言い方だった。

そこから益介は村長の家まで一言も喋ることはなく、先ほどとは打って変わって気まずい雰囲気を感じたまま村長の家へ向かった。




備考
小林→村で唯一の医者、格闘技経験者。

診療所→1mほどの生垣に囲われた平屋、庭先には「診療所・鍼灸院」と書かれた看板が建てられ、小林と彫られた表札は少し新しく見える。

小琳→金と再生数と視聴者数確保のために頑張る配信者。とても可愛い。髪型はツインテ(可変式)

シャオフェイ→15歳、歳の割には幼く見える。同年代の友人は当然いない。好物は醤油ラーメン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。