妖小琳(ヤオシャオリン)と因習と夏   作:ノースリバーサイド小木木

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4話です


4話 村長と小琳

小林とシャオフェイに別れを告げ、再び軽トラックに乗って揺られる事10分弱、無事村長の家へ到着した。

山の麓にある10台ほど停められそうな駐車場の一番端に軽トラックを止め、益介に門の前まで案内された。

 

「荷物は見てるから置いとけばええ。門を超えて階段を登った先に玄関があるから勝手に入れ。誰かいるやろ」

 

どうやら益介はついてこないようだ。小琳は礼を言うと大きなカバンからスマートフォンと手帳、レコーダーをポケットに詰め込み階段を登りはじめた。

 

大体50段ほどだと思うが中々に急だった。

真ん中に備え付けられた鉄製の手すりがなければ普通の人ならば辛いだろう。

だが幸いにも小琳は健脚であった為に意外と平気だった。

階段の両脇は森…と言うより山の中であった。

鬱蒼と木々が生い茂り、あまり整備されてないようの見受けられた。

虫や野生動物が出てきそうでその辺りは平気なのだろうかと疑問に思いつつ、階段を登りきる。

そこには階段下の門よりも一回り小さいサイズの門があり、開け放たれていた。

 

「失礼しまぁーす…」

 

門を遠慮がちにくぐった。

返事が返ってくるとは思えなかったが一応挨拶をしておく。

辺りを見回すと目の前には見事な光景が広がっていた。

銅地村に入った時から見えていた大きなお屋敷と門から玄関までを繋ぐ石畳、綺麗に刈り揃えられた植木と石で作られた燈篭。庭と泳ぐ鯉。

いわゆるTHE日本庭園である。

小琳は内心「ふむふむ、見事なもんだね。いやぁ立派立派、いい仕事してますなぁ」と心の中で口髭を生やしつつ称賛した。

 

屋敷の方にも目をやると縁側で洗濯物を畳んでいた女性と目が合った。

40代くらいだろうか。腰ほどまである黒い髪をした割烹着を着た女性であった。

 

小琳は軽く会釈をすると女性は慌ただしく立ち上がり、玄関に向けて小走りで走り出した。

出迎えをしてくれると推察し小琳は玄関まで向かった。

益介からは勝手に玄関を開けて良いと言われているが、流石にそれは申し訳ないので待つことにした。

 

「ごめんなさいね。お待たせしました。」

 

先ほどの女性が若干息を切らせつつ玄関の引き戸を開けた。

小顔で色白く、なんだか幸薄そうな女性である。

 

「こんにちは、えっと…村長さんとお約束してます…」

「はいはい!妖さんね!上がってください」

「お邪魔します」

 

靴を脱ぎ揃え、スリッパを履いた。

 

「この家で女中をしてます畑中(ハタナカ)です。遠いところからよくいらっしゃいました。大変だったでしょう?」

「5時間くらい…かかりましたね。でも途中益介さんに送ってもらったので助かりました。」

「あぁ…あー…益介に…そういえば村長が使いに出したって言ってたわね。」

 

一瞬畑中は何かを思い出すように目線を上に向けていた。

 

「案内しますので、どうぞこちらへ」

 

少しばかり気になる反応であったが、小琳は畑中に案内されるがままに着いていく。

お屋敷の床は板張りとなっておりパタパタとスリッパの音だけが鳴り響いていた。

人の気配が感じられず視界に見える襖が全て閉まっているせいか、妙に蒸し暑い。

小琳は額の汗を拭い腕で汗を拭った。もしかしたら外よりも暑いかもしれない。

 

「ごめんなさいねぇ、広いからクーラーつけても意味が無いんですよ。お部屋は涼しいからちょっと辛抱してくださいね。」

 

申し訳なさそうに話す畑中も額からは汗が流れ出ており、汗で前髪を濡らしていた。

 

「全然大丈夫です」

 

正直大丈夫ではなかったが、客人である小琳が文句を言えるはずもなかった。

何度か右へ左へ曲がり、1人で出口へ向かうのは難しいな…と思った辺りで、畑中は少しばかり豪華な襖の前で立ち止まった。

今まではシンプルな白の襖だったが、目の前の襖には水墨画のような山の風景が描かれていた。

庭園や邸宅を見る限り、やはり歴史が長そうで面白い話が聞けそうだ。

 

「村長はこちらでお待ちです。失礼します!」

 

畑中は少しばかり大きな声を出し襖を開けた。

クーラーの冷気が小琳の足首を撫でる。キンキンに冷えた…とまではいかないが、外や廊下よりだいぶ涼げであった。

部屋の中は赤と黒を基調としたシックな雰囲気の洋室となっており、いかにも好々爺と言った風情の老人が椅子に座り笑顔でこちらを見ていた。

 

「あぁ、待っていましたよ。ようこそいらっしゃいました。」

「本日はお時間いただきましてありがとうございます。妖小琳と申します」

 

小琳は一礼し挨拶をした。

 

「そこまで畏まらんでもええですよ。たかが田舎の村長です。良かったらソファーにかけてください。あと千恵子さん。お茶を妖さんにお願いします。

 

今お持ちしますといい、畑中さんは襖を閉め小走りで去っていった。

畑中さんの名前は千恵子さんというらしい。

小琳は失礼します。とひと声かけソファーに腰掛けた。

 

「えっと…うちの社長から聞いていると思うんですけど…」

「はいはい、村の歴史とか風習とか。あと神社に納められた御神体を取材したいって聞いてますよ」

「はいそれと…」

 

小琳は遠回しに聞こうか少し悩んだが、まどろっこしいのでやめた。

 

「この銅地村に、変わった風習があると聞いて取材に来たんです」

「へぇ…その話はどこから…?」

 

若干食い気味に質問を質問で返された。

 

「私その…動画配信サイトで生計を立ててるんですけど、動画とかにしたら面白いんじゃないかとうちの社長が…」

「なるほど、確かに銅地村には変わった風習がありますけどね。若い方が聞いたらちょっと気味が悪いかもしれませんね」

 

その時、部屋の外から畑中さんの声が聞こえた。

 

「失礼しますね」

 

熱いお茶と麦茶が入ったポット、空のコップを持って畑中さんが入ってきた。

熱いお茶は村長の前へ。麦茶は小琳の前へ置かれた。

 

「あ、ありがとうございます。いただきます」

 

ちょうど喉が渇いていた小琳はコップの半分ほど麦茶を飲んだ。

 

「話の続きですが…妖さんは『同物同治』という考えをご存知ですか?」

 

小琳は知っていたが話の腰を折りたくなかったので黙っていた。

 

「中国の薬膳の考えなのですが、『体の悪い部分を直すために同じ部位を食べる』という考えなんです。例えば肝臓が悪ければレバーを、腎臓が悪かったら腎と形が似た豆、あと私みたいに足を悪くしてしまったら豚の足とか」

 

村長は自身の膝を撫で続けた。

 

「ただ銅地村では少し変わった食材もありまして、梟の目や蛇の血、よくある物だと熊や猪、シカ、大昔は猿を食べたって人もいたそうですが、まあ本当かは分からんですな」

 

その人のどこが悪かったかは分からないね。と言いつつ村長はハハと笑いお茶を啜った。

小琳は猿を捕まえて食べるシーンを想像してしまい、少し気分が悪くなった。

 

「ただねぇ…猪とか鳥とか熊とか。獲ったジビエを供養するお祭りがありますけどだいぶ先なんですよ。それに使う道具とかならお見せ出来ますよ」

「見てみたいです。ぜひお願いします」

「じゃあ千恵子さん。宮司に電話しておいてください。あと役場にも。祭りの資料とか出してもらって」

「すいません、あともう一つお願いが…」

 

小琳は村長におずおずと切り出した。

 

「この村って泊まる所とかって…?」

 

田舎とは聞いていたが予想以上の田舎であった。念の為にテントは持ってきたが流石に野宿は恐ろしかった。

 

「村には無いので公民館に泊まれるよう言っておきますよ。畳の部屋と給湯室がありますから、千恵子さん。お願いしますね」

「連絡しておきますね」

 

そういって畑中さんは再び部屋を出ていった。

 

「急な話なので早くても明日の朝になると思います。それと良かったら晩御飯とかいかがですか。先ほども言いましたがお店は無いので」

「是非お願いします」

「荷物は下ですよね。益介に持って来させましょう」

 

村長はよっこらしょと勢いをつけ立ち上がる。

 

「今日は宴会ですので…いやー…楽しみです」

 

笑顔で見つめてくる村長が、妙に引っかかる小琳であった。




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