ギャルゲ主人公が俺ばっかり選んだ結果   作:のんびりスイミー

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第1話 物語はノーマルエンドを迎えました

 

 

「あーあ、高校一年。なんっにもなかったな……」

 

 高校一年最後の日。

 終業式を終えた俺たちは男子寮の自室。

 いつものように三人集まって何をするでもなく雑談を交わしていた。

 

 そこは7(じょう)の二人部屋。

 二段ベッドと炬燵(こたつ)があって男三人も集まるともう結構ぎゅうぎゅうだ。

 

 カーテンの外には雪がしんしんと降り続いていた。

 頬杖をついて窓を眺めながら、黒のトレーナーに着替えたばかりの男は独り言のように続けた。

 

「俺さー……高校生になったら、漠然と何かが変わるんじゃないかって、そう思ってたんだよね」

「何かって?」

 

 尋ね返すと彼――高梨(るい)はちらりと視線をこちらに向けた。

 16歳にしては大人っぽい顔つきで、それなりに容姿も整っている。

 

「そりゃ。全学生全寮制のうちの高校。ギャルゲの舞台かってところじゃん? ラブコメ主人公みたいなね」

「俺からしてみたら、塁は十分主人公やってたけどな」

「じゃあ何で彼女ができないんだよー」

 

 実際。

 ラブコメ主人公みたいな、というか、彼はラブコメ主人公である。

 

 なぜそんなことを言えるかというと俺はいわゆる転生者。

 前世の記憶というものを持っているからだった。

 その記憶によると彼はその界隈では人気の恋愛ADV(アドベンチャーゲーム)『決闘恋ニ関スル件』というゲームの主人公だった。

 

 まぁ、とはいえ、生れ落ちて十六年。

 家が近所だったので二人との付き合いも十年以上。

 流石にこの世界を未だ現実じゃないとは思えないし、朱に交われば赤くなる。

 というほどこの世界は前世の(ことわり)から外れていない。

 

 しいていえば、()というものが存在すること。

 あと、未成年でも飲める黄泉水(よみみず)という学生版のお酒があることくらいだった。

 

 塁に彼女ができなかった原因。

 ギャルゲ脳で考えれば原因は一つしかない(俺たちとばかり遊んでいた)と思うのだが、現実脳で考えれば単純に行動力が足りなかったの一点に尽きる。

 

「楽しくなかった?」

 

 嘆く塁に尋ねたのは向かいに座るもう一人。

 小柄で華奢な体つき、肩辺りまで伸ばした後ろ髪はさらさらで白い肌にびっくりするほど整った容姿。

 中性的……というよりは女性的な見た目の彼は倉持優雨(ゆう)

 そんな見た目だが、性別はれっきとした男である。

 まだ小さい頃であるが一緒にプールやトイレを供にしたことはあるのでこれは確かな情報だ。

 

 正直、この世界は先に述べたゲームの世界をベースにした異世界だが、彼は彼で別のゲームの主人公だと俺は記憶していた。容姿の通りいわゆる女装ゲー。

 いったいそんな世界に俺を放った神は何を望んでいるのか。

 16年たった今でもそれは謎のままだ。

 

「いんや、最高に楽しくはあった」

「うん」

 

 優雨は少し嬉しそうに笑ってちょうど皮をむいていたミカンを一房塁に差し出した。

 男にあーんされても嬉しくはないが、優雨相手だったら特に忌避感もないとそのままぱくりと口で受け取る。

 

「僕も来年は一学期から一緒に通えるから楽しみ」

 

 優雨は見た目も可愛いが性格も負けず劣らず可愛かった。

 彼は去年は二学期の終わりまで一族の務めとして別の学園。

 女学院に護衛として潜入していたらしい。

 その務めも年末までで終わり、特に男だとバレることもなく転校してきたらしかった。

 

 そんな女装主人公がいるか!

 そういいたい気持ちもあったが、バレないに越したことはない。

 

「あーもう……そうだな! ぐだぐだ言っててもしょうがない! 明日から休みだ。今日は限界まで飲むぞ!!」

「俺は別にいいが、優雨は大丈夫か?」

 

 優雨は分家ではあるが、それはもうやんごとなき家柄の跡継ぎだ。

 彼は一人部屋ではあるが、従者がよく一緒に行動していた。

 

「うん、今日は僕も大丈夫だよ。香枝にもナツたちと一緒っていってあるから」

 

 ナツというのは俺のあだ名。本名は梓川夏樹という。

 寮といっても全室1Kの間取り。キッチンには冷蔵庫もある。

 そして俺たちの冷蔵庫には大量の黄泉水(500ml缶)とつまみが入れられていた。

 

 とりあえず六本と肴にはナッツとスルメがいくつか。

 

「ちくしょう。来年こそは彼女作るぞーっ! 乾杯!」

「「かんぱーい!」」

 

 そういって缶の蓋を開ける。

 ぐっぐっぐと俺たちはそれぞれ缶を傾ける。

 味は少し苦味のある甘みの少ないソーダといった感じだ。

 アルコールは感じないのだが、酔おうと思えば不思議と酔うことができる。

 

 

 ……そう、きっとこの日までは、ここはギャルゲーだったのだろう。

 その後のことはよく覚えていない。

 ただ、俺も塁も、そして優雨もしこたまに飲んで飲んで飲みまくり、黄泉水読んで字の如く。

 もはや意識が朦朧として、なお幸せ心地のまま飲む手を誰も止めなかったことだけを覚えている。

 

 

 **

 

 

 眩い朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。

 なんだか鼻孔に少し甘い香りが漂っていた。

 

「ん?」

 

 見上げた天井は白い。

 普段二段ベッドの下で寝る俺にとっては見慣れない景色でさっと周りを見渡すとそこは俺と塁の部屋ではなかった。

 

「うぅ、さむ……」

 

 俺はなぜか衣服を何も身に着けていなかった。

 

 そして。

 気が付いた。

 

 

「ん……あぇ? ナツ……?」

 

 同じベッドの中にはなぜか一糸纏わぬ優雨の姿。

 俺は一瞬で冷たい感覚が背筋を走り、全身からぶわりと一気に汗が流れ出す。

 

「あれ? 僕……っ」

 

 そうして優雨も事態に気が付いたのか彫像のようにぴしりと固まった。

 俺と優雨は至近距離。

 

 瞬きも呼吸をすることすらもしばらく忘れ。

 お互いの瞳に写る自分の姿を、ただただ眺め続けるのだった。

 

 




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女の子ヒロインも出ますのであしからず。
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