「んあ? ナツは今日もバイトか?」
今日はアオとのバイトの日。
夕方からのろのろと出かける準備をしていると炬燵でダラダラと携帯ゲームで遊ぶ塁がこちらに視線を向ける。
俺も塁もゲームはよくするが、二人の時に対戦ゲームや協力ゲームをすることは少ない。
大抵ソロプレイのものを順番にやってどちらかがそれをぼやーっと眺めていた。
「んー……まぁ、半分バイト、半分デートってところだ」
実際今日の予定はクラブハウスのサクラバイト。
アオの言っていた色々な条件のうちに男女同伴という条件が含まれていた。
普段であればそれなりに仲のいいクラスメイトに頼めば都合は付いたかもしれないが、今は長期休暇のど真ん中。軽く付き合ってくれそうな生徒は皆実家に帰っていた。
仕方ないので、前世含め初めてレンタル彼女なるものを使ってみる。
相場は1時間7千円。初回利用で1時間5千円。
さらに新人さんの場合、延長2時間お値段そのままなので、赤字にならないためにも1も2もなくその条件で申し込んだ。
「デートって……アオとか?」
「なんでだよ。ふざけんな。そういう冗談は俺は嫌いだ」
「おっ、おう。めっちゃ否定してくんな……」
タイミングよくピコンとスマホが鳴る。
『初めてなので少し緊張していますが、今日はよろしくお願いします』
そんな可愛らしい文面に思わず、ニヤリと口元が緩む。
お相手はHNだろうが、『
どうあがいても初見では読めない。
俺は前世含め女友達はそれなりにいたのだが、
しかし前世の今世。もちろんその考えが消えたわけではないのだが、せっかくの二度目の人生。否定するために……というわけではないが、一度くらい現実の恋というものを体感してみたい気持ちもあった。
今回のレンタル彼女もその事前練習だと思えば、3時間5千円というのは決して高いものではないだろう。
俺はバカな冗談をいってくる塁にこれが証拠だとばかりにチャットの文面を見せてやる。
「どうだ? 可愛い文面だろう。きっとこの文面に似て可愛い女の子に違いない」
「どういう理屈だよ。つかレンタル彼女て……ナツはそっち行くのか」
塁は勝手に画面をフリックして過去の契約チャットなどを眺めていた。
「俺はお前の先に行く」
「先ではないだろ……」
そんな会話を区切りにそろそろ電車の時間だったので俺は大体の帰りの時間を伝えて寮を出るのだった。
**
隣駅の駅前広場。
東口の時計台前が今日の待ち合わせ場所。
普段着る服は楽なパーカーが多いが、今日はノルディックなセーター一着。俺はお洒落というものを理解することはすでに諦めているのだが、北欧文化を盾にダサいという言葉を封殺できるノルディックなセーターは我が
約束の5時まであと十分。
正直言って、写真などもまだ貰っていないのでどんな相手が来るのかはまだわかっていない。しかし、相手がどんなイケイケなファッションで俺を迎えようが、こちらには北ヨーロッパが付いている。
負けるわけがない。
「あの、ナツさんでしょうか?」
約束の時間はまだだったが、相手も来たようだった。
「あっ、はい――っ」
その少女は。
白い肌に脱色したのか白い髪をなぜか左側の横髪だけ伸ばし、後ろは肩くらいで切り揃えられている。
そしてなんといっても奇抜なその恰好。
頭に大きな赤い薔薇を一輪。そこから零れるように赤と黒のチェック柄の派手なワンピースを纏っている。身長は155センチくらいで多分年下だろう。
想像していたより三十倍は可愛いだとか。
レンタル彼女って普通もーちょっとオーソドックスな子が来るもんじゃない?とか。
正直、年齢によってはアウトなのでは?
だとか様々なことが頭をよぎったがそれよりなにより。
彼女の恰好はいわゆるゴスロリ。ゴシックアンドロリータ。
その起源は18世紀のヨーロッパ文化を代表するロココ様式。
この女……時代で来やがった……!
フランス文化だと思うので、ある意味北ヨーロッパと西ヨーロッパの奇跡のマリアージュ。
「あっ、えっと。ユエさんですよね?」
「んん……ん゛んっ……あ、ああ。ボクは
急にどうした!?
今からボクっ子で行くのか!?
「あっ、アリストレアさんの方がいいですか?」
「いいや、好きに呼んでくれたらいい」
「あっ、じゃあユエで……」
「うん」
彼女はこくりと頷く。
「…………」
ユエはちょっと赤くなっていた。
全然慣れてない!
この娘はまさか俺から金を貰ってその上さらにボクっ子キャラを確立するための練習台にする気なのだろうか?
ごくり。
相手の謎の緊張がなぜかこちらまで伝わってきて思わず固唾を飲む。
「あっ、じゃあ行こうか」
「はい、じゃなくて……ああ」
安定してない。
「……薔薇、似合ってるね」
おもむろに褒めてみるとユエは隠すように耳の上についた薔薇をさっと手で触れた。
「ボクもノルディックは好きさ」
まさかの褒められ返された。
彼女は続ける。
「スイスはボクの心の前世さ」
スイスは中央ヨーロッパだ……。
そんな話をしながら、俺たちは目的まで歩いて行った。