日本本土決戦 1998年8月、BETA皇土へ侵攻す 作:岡本めばち
【未完の本土決戦計画】著 白銀武
(発刊2025年 帝国出版)
1998年の朝鮮半島からの惨めな総退却は、すなわち戦線の全面後退を意味した。
未だ島嶼部に幾つか分散しつつも、警戒線を貼る以上の意味を有さない韓国軍は北九州で全面的に再編を行う事になった。
熊本などの工場地帯から大量に吐き出されたK1戦車などはそのまま産地直送で北部へ移動、重装備の6割を喪った──民衆を載せるために揚陸艦に積まずに棄てた──米機械化歩兵師団などの幾つかの部隊は、一時岩国へ後退して装備補充の真っ只中である。
幸い、70年台のBETAの地球来寇以来、ヒステリックなまでに動員計画を掘り出した日本帝国は、その後政権が幾つか変わったものの防衛召集計画はしっかりと練っていた。
これまで正規軍──すなわち帝国軍──の間欠を補充するか、渡海侵攻警戒として幾つかの島嶼部や沿岸部に警備召集がかかる程度であった。
実際問題、こうした警備召集はかなりの意味があった。
1980年台に戦線が後退し、満州及び黒龍江のソ連軍と中国軍部隊が海路脱出して以降、日本海沿岸部にごく稀に渡海侵攻するケースがあった。
せいぜいエネルギーの切れかけた戦車級や闘士級が1体、よれよれの姿で見つかると言う具合ではあるが、非戦闘員に滅法強いのがこの手の害獣である。
「いっそ抜本的解決のために、警察にも火力増やして応対出来んか」
と国防省と法務省の話し合いがされ、遂には警察予備隊と言う東ドイツに於いてシュタージが運用した軽装部隊を再現した様な連中まで作られた。*1
実はシュタージ、つまり秘密警察は国家人民軍に深いコネクションを有しており、Mig-23装備の戦術機三個大隊を中核に含んだジェルジンスキー議長衛兵警護連隊、通称ヴァッハレジメントを独立作戦部隊として投入していたのだ。
防衛戦争後期にはシュタージは国家人民軍のエースである666中隊も統合、海王星作戦と呼ばれるダンツィヒに陽動を置き、その隙にオーデル・ナイセの防衛線から東独第五軍*2を押し出し、漸減すると言う二重包囲作戦を行い、これを成功させている。*3
最もチェコスロバキア・オーストリア戦線崩壊の大混乱から東独正面以外が崩壊し、結果的に彼らの活躍も儚く終わった。
日本帝国における警察予備隊は、そうしたパラミリタリー組織の系譜を継ぐ存在となるはずだったが、これも90年台に「防衛召集計画の都合」から再編されてしまった。
つまり、日本の本土防衛計画はその主戦地、決戦場は見えていたが、そこでどう戦うかで困ったのである。
最も極めて最悪かつ何もしない場合、最初の一週間で関西まで打通されると言う試算と、欧州戦線の壊乱を見ていた派遣武官達が何もしてないわけでは無い。
国防省参謀本部の幾つかの決戦構想、所謂決号作戦計画は概ね5つの段階、方針が存在する。
1:水上部隊の果敢なる漸減行動、日本海軍力を総じての艦隊特攻による来寇する敵戦力の徹底的漸減。
2:定置した核機雷及び航空戦力による核爆雷と核魚雷の全面使用。
3:陸軍戦術弾道弾及び核地雷の無際限使用による徹底的水際阻止作戦。
4:上記抵抗線を突破せしむ場合は部隊の有機的後退による抵抗線の再確立、北部九州4県を核戦場とし来寇する敵戦力を撃滅。
5:更なる来寇継続せし場合は九州全土放棄後、関門から四国までの第二次線と岩国の最終抵抗線を断固死守。住民退去確認なしの全面核使用の承認。
つまり、根こそぎ全て吹き飛ばしても国土と国体と国家は残るので問題無い!と言う主張である。
明らかに人道に対する何かが問われる作戦計画である、非道とすら言える、しかし国家民族の存続のため「その程度の犠牲で済むんです」と裁可が通った。
これを上奏したのは陸軍参謀総長本人だが、嗚咽して出てきたと言う話すら残っていた。
更にこの決戦計画には、数点の付随計画もついている。
決号準備段階にあっては壮健な適正有す子女含め総動員し、これらを防衛召集して随時戦線へ投入、以て皇国の礎とし国軍の一部として勇躍投入すべし!
すなわち16歳以上の男女学徒の全面動員である。
軍務不適格の丙種と丁種のみならず、第三国民兵としての防衛召集および、外地亡命者の志願のみを排し無差別動員。
こうして動員は計画され、朝鮮半島戦線が崩壊と同時に全面動員を通過、各所に赤紙が配給された。
まず第一次動員は九州全県、山陰及び山陽、関西の学徒全面動員であり、随時これを拡大適用するという事になった。
【皇土侵攻】
事態を最初に感知したのは、海軍が払い下げた海上保安庁の無人艇集団である。
海上保安庁と一部大型漁船所有者を有する漁協組合は、黒潮船団などの幾つかを編成し、渡海侵攻を警戒する義務があった。
海上保安庁のこの無人舟艇は、450トンほどの小型船舶で、武装と言えるものは殆ど無い。
なにせ密漁者などはこれがうろつく範囲では早々出ないし、難民の場合は何もする必要がない、大概溺れる羽目になるからだ。
救助部隊を送るのは難しい以上、何もしないという選択肢を取るしかないのである。
そのような状況下ではあったが、この日、この無人哨戒艇14号が可居島の西150キロ圏へ進出していたのは台風警戒があった。
大戦の環境破壊で異常気象が恒常化しつつある地球ではさほど珍しい事では無かった、なにせアメリカですら異常気象災害に悩んでいる。
その為荒れる気象の観測を兼ねて、漁業者の安全の為警戒線を僅かに延伸した。
民生よりはマシな海中探査用のセンサーが、異常な振動を見つけたのは、即座に気象観測チームから上告され、確度は極めて高しと結論が出た。
時は7月14日、最初の侵攻軍が捕捉された。
『予定通リ海軍各諸隊ハ決号作戦ヲ発動、K-1号ニ従イ先ズ全艦突進。
身ヲ以テ命脈有ル限リ敵戦力ヲ漸減シ決戦勝利奏効乃途ヲ開クベシ。
戦局必ズシモ好転セズ場合ハ敵只中ニ突入全弾打尽クスベシ、モシナオ余力アラバ一躍シテ陸兵トシテ干戈ヲ交エル事。』
大海令に従い稼働可能な艦艇群を緊急出撃させた帝国海軍は、緊急出航としてはかなり人員及び艦艇に充足していた。
基より佐世保方面部隊は全面改革で攻撃的な提督に変更、デフコンは常に2とされてきた北九州であるから、平時からの訓練はスムーズであった。
錚々たる見目麗しき巨艦巨砲の令嬢たちは、行進曲軍艦も岸壁の応援も見送りもないまま緊急出撃に入る。
艦隊提督の山口提督からして前歴は潜水艦乗りという、実に滅茶苦茶な部隊とすらいえるが、そうではあろうと海軍である、挺身報国ただ一念だけが要求される。
「波が高いな、今日日の駆逐艦は動じんだろうが」
「5500トンでも”駆逐艦”ですからな!」
帝国海軍第6艦隊の旗艦たる改大和型戦艦<出雲>の艦橋に、高級将校たちの高笑いが響く。
1960年代に大和型の3隻を解体、建艦未工の<美濃>を改大和型に更新した海軍の戦艦閥は、ほぼ帝国海軍では一掃されている。
かつての花形の砲術と水雷は対艦誘導弾に全て取って変わられたのである、おかげで改大和型の<加賀>など55年に計画書から消される始末……。
幸い船渠で着工待ちの紀伊型だけが設計修正が連発、CICやVLSなどを備えた原子力駆動の戦略指揮戦艦として紀伊型が完成したのが1975年、以来帝国海軍は紀伊型4隻が主軸である。
つまるところ、彼らは要するに「仮に全艦轟沈しても良いから一匹でもいいので削減してくれ」という事を理解しているのだ。
無論ヤケクソではあるが、自暴自棄ではない、残念ながら帝国海軍にはそういう贅沢が許されない。
「まあトン数云々は我々が言えた話ではないがな」
「盛大に誤魔化しましたからな先達が」
艦隊参謀長らとの雑談も、ある種の生を惜しんでのことである。
筋が通らぬと言うかもしれないが、ある種の男にとって「さて死ぬと言われてどう死ぬか」というのはそういう風の表れをする。
要するに彼は彼なりに死ぬ気が無いのだ、天命に委ねてはいるが。
「聴音探知がまるで効きません、幸い随行の米潜水艦が幾つか情報を出してます。
例のSOSUSが思ったより効果を上げているのと、対馬のセンサー群が効果をあげてますから、目標は特定しています」
艦隊参謀長の報告に、提督は少しばかり安心した。
掛けた予算分仕事は出来たと言うことだ、後は我々が上手くやれれば後代恥さらしと言われずには済むだろう。
まあ負けたら後代が来ないのだが。
「規模は」
「仁川沿岸から入水したグループをA群、釜山から入水したのがB群、青島から入水したのがC群、三群合わせて37万から40万。
AとBは5ないし8万、C群はおよそ30万です。
人民解放軍東海艦隊は青島に重光線級が前進して来たため、阻止行動に移れんと申してます」
「当たり前だ、ルダやジャンフーじゃあ荷が重い……ましてシャントウなんぞではな」
提督の言葉は侮蔑と言うより同情の声だった、無いなりに努力しても未だ人民解放軍は膨大な陸軍を再建するため予算が苦しいのだ。
海軍には僅かな分け前しか回ってこない、だから最新艦艇が未完のソヴレメンヌイ級をぼったくられたハンチョウ級なんというザマで、歯を噛み締めて生きてるわけである。
その姿はどうも山口提督には、日清日露の自分らに重なるのである。
あのころの日本も小型快速舟艇が花形だった。
「予想上陸地点は」
「A群及びC群は北部九州、B群は対馬警備隊が現在交戦中です」
「陸軍はK-5案の用意を始めたそうです」
「早いな」
住民退去確認無しの無差別核戦力投入、最終的解決案。
無論理由は簡単だ、広島失陥など日本の半身が不随してしまう、背骨を折られるのと同義語だ。
従い軍の最後の手段は広島絶対死守を目的に、核を乱打して広島平野で決戦する。
だから第二総軍司令部は広島市にあり、教導団と第七戦車師団が前進して来た、ぶっちゃけてしまえば、帝都が落ちる方がマシである。
何故なら京都市や京都府が生産しているのは福知山地域の光学機器類などであり、北上して福井や富山の原発が食われる方が恐いのだ。
「広島失陥は日本の崩壊ですから」
「……トリアージか」
大工業地帯にして軍都たる広島、海軍陸軍全ての大拠点があるあの街を抜かれたら、もう戦う力がない。
恐らく決戦する力も肝も失ってずるずると敗退し続けるだろう。
そんな事をさせてはならない。
「目標敵侵攻群C群感知!」
「全艦データリンク!」
「核爆雷及び核魚雷投射はじめ!」
提督が叫んだ。
後方では通信員が大本営に「発第六艦隊 宛大本営。我敵先頭集団と会敵、これと交戦。現在時刻1121。終わり!」と連絡を発し始めた。
【
防衛召集で搔き集めた学徒兵などで再編し、更に半島から敗残兵を付け足した部隊と言うのは、字面と同じく中々悲惨である。
しかしながらそれしか無いのだから、悲観してばかりもいられない。
例え戦車はK-1や74式の混成、装甲車はほぼ余りのKAFVと60式装甲車、輸送車だけはちゃんと日本製の有り合わせ部隊でもである。
それでも悲惨ではない点があった、素晴らしい事に砲兵部隊は完全自走化されている、熊本に生産工場を移した結果、K9自走砲は大東亜連合軍正式装備として大量生産されているからである。
更に員数外の装備が幾つかあった、再編していた韓国軍は多連装ロケットを連れていた。
こうした装備部隊を固定配置部隊に再編した日本軍は、北部九州4県に水際阻止陣地を展開した。
『こちら加部島監視隊、敵集団は定置機雷原を分散して浸透し突破!予定通りの効果を認めず』
「くそっ!」
久留米に置かれた北部九州防衛司令部は、午後13時から触接を始めた敵軍と全面対決を始めた。
既に午後12時に対馬警備隊は構成人員の7割を喪失、洋上退却し艦隊が収容した。
敵の上陸予想地点は伊万里・唐津・糸島に3方上陸したA群とC群、およそ25ないし30万の敵勢であるから10万規模で三方上陸している事になる。
かつて攻め込んできた元寇は2回まとめて水軍水夫合わせて30万から40万だから、規模は同じである。
『弾道弾第3次攻撃弾着、広域に散っており効果を認めず!』
分散浸透、浸透強襲、大軍に区々たる用兵は要らないとはかつてのフランス皇帝が言った言葉だが、事実そうだ。
何故なら我の主力決戦部隊はどこに投じるべきかと悩むこととなる。
無論、第二総軍指揮下の第16方面軍、すなわち西部軍管区司令官は
まず、優先すべきは最悪に備える事。
彼は戦闘焦点、緊要地形たるは糸島と判断した。
当然の判断だった、糸島が超えた敵は何処へ行くか、福岡市街だ。
「西部方面戦車集団は糸島へ投じろ!戦術機は春日・築城・新田原も全部出して伊万里・唐津で漸減させる!」
方針を即断した事は軍に素晴らしい効果をもたらす、取り敢えず決まった事があれば何するのも楽なのだ、変更するとしてもである。
隠岐・対馬・壱岐の警戒線が崩れても、たとえ北九州が戦地になってもどうとでもなる。
無論不安点もある、朝鮮から退却出来なかった部隊には熊本の最精鋭たる第8師団がいる、九州防衛の機動師団たる精鋭で、師団定員8割は地元の生まれというものだ。
アレさえちゃんと帰っていればまだマシだった。
「戦車46連は現在伊万里で離せませんから、独立戦車4旅も出します」
高級参謀がはっきりと戦況画面を見据えて進言した。
方面軍司令部であるだけは有り、高級参謀及び参謀副長ですら大佐級で、参謀長と司令官は中将だ。
兵務部長や法務部長などは少将であるという点から、規模の大きさが現れている。
「任せる。しかしB群は何処に消えた」
「分かりません。海軍は現在総力挙げてC群撃滅を敢行しており、聴音探知が不可能ですから」
海軍派遣幕僚が分からないと手を横に振っていった。
分からないと言うだけで1944年の帝国軍より大した進歩であるが、それはそれとして分からないと困る。
高級参謀は司令官へはっきりとした眼を向けた。
「閣下、いっそ唐津までの線を棄てて再編しましょう」
「しかし水際撃滅は」
「もとより浸透強襲がされない前提の計画です、むしろ引きずり込んで密集を強要させましょう」
しかし参謀長が「いや、それはまずい!」と顔をグイッと乗り出した。
「伊万里、唐津の拘置がマズいのは兵理だが、連中は大半が死守以外出来んぞ」
「確かに何割かは死にます、固定陣地に籠る方がいいと言うのも分かります、しかしなんらその死に意味を与えれないでは顔も立ちません」
「今更固定陣地を出ろと言って聞くかね」
確かに理知的な意見ではあった。
健軍以来永遠不変、不可侵たる皇土を蹂躙されるのは受け入れがたいと言うのも分かる。
なまじ有能で勇敢で問題意識がしっかりとした軍人の宿痾だ。
「伊万里の部隊は諫早まで下げて、唐津の部隊を佐賀市へ遅滞戦闘させるのです。
今しかありません、あと60分以内に主力梯団が参戦しますよ」
早口にまくしたてるように、高級参謀は述べた。
「やむをえんな、K-3に移行。
糸島の撃滅を優先して伊万里、唐津線は適時後退して戦術核を投入する」
さあ、後退で何割失うかな……。
司令官の内心で不安がどよめいた。
【遅滞戦闘】
九州自動車道は爆走する軍の車列が満ち満ちていた。
BETAに航空作戦能力があれば恐らく数時間で機動部隊主力が弾け飛んでいるだろうが、1G重力下での飛行術を適応できない廉価な存在にはその機能はない。
1973年以来航空活動を抑止する事はしても、航空作戦は運用できない。
あ号標的といえどその程度の思考力なのが後々判明するが、それはしばらく後の人類の話である。
「すげえ、92式外骨格がぞろぞろしてらぁ」
白根スズ”大尉”は荷台から見える景色に思わず絶句した。
歩兵が着れる強化外骨格、いわゆるパワードスーツだが機械化歩兵装甲服は最近あまり用いられない。
単純にデカすぎて着ぐるみ戦術機のあだ名があるからだ、そのため帝国陸軍では教導団や戦車群・第七師団と言った一部部隊だけ87式を配備した。
逆に今、スズの目前の歩兵、つまり純粋な機械化歩兵が着ているのは衛士強化装備の更なる進化系の、”着る装甲服”なのだ。
73式機械化歩兵強化装備から順当に発展した88式、そして92式が今の日本の歩兵の装具である。
「例の”ウルトラマン”か?」
ぞろぞろと半島帰りの衛士達がトラックから顔を出した。
あだ名は日本軍の兵士らでも流行った特撮だ、実際超人染みた事が出来る、重たいカールグスタフと予備弾を運んで登山するくらい。
歩兵からすれば万歳三唱、尊崇の念新たにして愛国主義者になる事間違いなしの素晴らしい存在だ、この世の歩兵全ての味方である。
彼・彼女らが40㎜自動擲弾銃や軽機、更に小銃担いで白兵戦をして陣地は死守されるのである、決して怪しいロボットなんぞではない。
「にしちゃあ、若いよなぁ」
スズがぼぉっと呟いた。
もっとも自分たちの随行よりはマシだ、16歳以上で適正があるのでと送り込まれたガキを祖国防衛に投げ込むのである。
世も末だ!
無論、大半の学徒兵には緊張感という物がない、恐怖はあるが遠足気分が近い。
戦術機は相変わらずF-4Dだ、F-4EJはやっぱり予備機が無い。
なんなら練習機も火力支援に投じるから無いと言われた、根こそぎと言う訳だ。
「リペイントも出来んで本土決戦とはおー可哀想」
「うるせえ、このぉ!」
塗装治す暇がないからコリアン・ウッドランドのままだが、記章だけは日章旗だ。
猶更馬鹿馬鹿しい気分になる。
無論そんな気分も、前線が近づけば消えていく。
台風が接近しているが、交通管制と避難完了は円滑な兵力機動を担保している。
現代の軍隊は台風程度で作戦不能になる事は、まずありえない。
なるとすれば民間人の対応をしなければならない場合だが、本土防衛戦争なので予備役民兵と警察が担当している。
「オイ見ろ!」
誰かが声をあげた。
九州自動車道から乗り換えて、国道203号線から唐津へ向かうルートの途上の街で、戦車級や闘士級の死体が焼かれていた。
何処かから浸透して警戒部隊がぶっ殺したという事である。
「一部が抜けて来てんだな」
「でも悲観する事じゃない、死体焼却してんだからまだ少数だよ」
スズは余り本音ではないがそう言った。
正しく言えば”今だけな”という事は敢えて触れない。
【戦線後退】
本来の予定通りなら、広島から進発した増援が九州へ来る。
南部九州へ後退した各部隊はアンヴィルとして、そして広島からの部隊をハンマーとして撃滅するのが九州決戦構想だ。
極めて理論展開としては妥当と言える、
対米戦以降、米軍式軍事改革も受けはしたが、どちらかと言えば内部の敵──即ち円滑な安全保障を妨げて来た5摂家と近衛──との戦いのせいで、常識的な作戦計画を上げるだけで一苦労して来たのだ。
国の政治を良いように専横壟断する武家体制など国賊以上の侮蔑が当然である、平民の軍隊である帝国軍内部は著しく敵意があった。
そして本土決戦に際して、やはり近衛の動きはグダグダとしていた。
「学徒兵をデータリンクもせずに後方へ拘置ですと?正気とは思いませんな」
「私もそう言ったんだがねぇ」
広島市の第二総軍司令部の廊下で、参謀章を吊るした陸軍の軍人と、青服の近衛の将校が歩く。
敵地同然の陸軍、その総軍司令部だが彼が歩く姿を見ても侮蔑する者はいない。
他の近衛の場合は渋いツラで敬礼が良いケース、悪いケースじゃ見ないふり気付かないふりをするまでままある、それくらいに嫌われている。
ではどうしてこの男は嫌われていないのか、近衛16大隊の大隊長はその5摂家の一人にして当主であるが、彼が国家主義者と言う点が大きかった。
要するに「日本が強く存続すれば5摂家なんぞというのは方便以上ではない」というタイプで、弱卒弱兵の近衛にあってまともな機動部隊を運用している。
あまりに優秀だったので、陸軍から「佐官級待遇から始めませんか」と話しすら来た。
「まったく、京都の老害や凝り固まった連中は余計な事を……」
総軍の参謀中佐は嫌そうに呟いた。
「これでも私も近衛なのだがねぇ」
「失礼。しかしどうするんです、その学徒」
「まあ、臨時で私が預かった、これで名目上増強大隊だ、近衛の面子も立つとさ」
面子立たせてやりたいんなら、とっとと第19独立警護小隊などの連中投入しろと考えたが、連中は武御雷計画と不知火計画で不知火が優先されて予算が分けられた件を未だに恨んでいる。
おかげで武御雷は試作機10機ばかしが揃っただけで、不知火もF-15J生産が優先されている。
電磁投射砲計画にはスムーズに予算が通った、無理はない、あれが完成すれば武御雷100機より、不知火200機より価値がある。
だからこそ、この若き近衛の大隊長は電磁投射砲計画を推進するべきだと要所に囁いている。
お陰で陸軍海軍問わずに「滅茶イカす超兵器良いじゃん」と誑し込んだ。
「それで……やはり戦況はよろしくないかね」
「戦線後退と再編中です、糸島の敵をこの24時間で叩けるかが勝負のカギです。
しかし……敵は組織的に浸透強襲を繰り返しています、奴らも戦い方を学んだようです。
在日米軍はK-5案の発動を恐れています」
「フロンティア精神が無い、脅してでも戦術核がめて来いと言う噂だが」
「だからでしょうな、連中エノラ部隊を厚木から移動させて岩国へ動かしたらしく」
核攻撃任務仕様のサイレントイーグルは重量が重く、脚部にRATOを着けて離陸を補助する。
ただ米軍からすれば、最悪核で焼きながら後退戦は既定路線と言うアジア側の方針とは絶妙に反りが合わない。
もっとも陸軍海軍は「それで100万の国民救うんだから問題などあるか」としている、要するに全て「コラテラルダメージ」ということだ。
災害多発で大量死と言うものに慣らされたアジア地域故か、それとも東洋的文化史の呑気さが故か、如何はともかくアメリカは長引く戦争と大量死に辟易している。
敗戦は常に銃後から始まると言うのはある種の真実である、日本ですら数年前ならそう言えた、前線が迫ってそんな暇なくなっただけである。
「で、君たちは最悪どうする気だい」
「まあ米国債の売りをちらつかせて、B-1辺りじゃないかと言う話です」
「思い切った事するねぇ」
「海軍の作戦部長がしきりにさけんどります、決戦に際しては2000発撃つ覚悟が無ければ勝てないと」
米国にある程度の了承を獲得させる最後の手段、米国債の売り予告。
経済大国へ発展した日本の対米最強にして最後の切り札、もし本当だと噂が流れるだけで明日のウォール街では自殺が相次ぐ。
経済的繁栄の裏で買い漁ったアメリカの生命線。
どのみちアメリカはNOという事が出来ない、無効債権になったら大統領は逆さ吊り、売りが実行されればホワイトハウスは丸焦げになる。
お陰で在日米軍のアルフレッド・ウォーケン中佐は難儀している、と噂も耳にした。
「全作戦参謀、作戦室へ。作戦室へ。緊急呼集」
ただならぬ放送が雑談を中止させた。
慌てた様子の大尉が喫煙室へ入り、中佐へ耳打ちする。
「失礼、状況が急変しまして」
「何かあったかい」
「……カシュガルから打ち上げられた飛翔体が、佐渡島へ落着する危険があるようです。
先ほどNORADは警戒に入りました」
奴ら、遂に軌道降下作戦まで模倣したか!
【大混乱】
結論から言えば、佐渡島への軌道降下は失敗した。
当然だった、BETAはジュールベルヌ方式で星を渡るだけの、人類以下の宇宙航行手段である。
レーガン政権時代に合衆国が地球圏防衛兵器に作ったSDIの化学レーザー砲搭載戦闘衛星が、NORADの緊急操作により射撃して撃墜した。
大気圏に摩擦して要塞級がきえていったが、衝撃は成功してもしなくても同じだった。
ここにきて第二総軍司令部は、増援と予備兵力投入の可否を迷ったのだ。
軍と行政は前例がある限り無視できない、まして帝都直撃すら容易の可能性があればなおさらである。
軌道上制空権は引き続き人類のものとはいえ、衝撃は容易く計画を滅茶苦茶にした。
混乱状態を鎮めたのは、陸軍きっての秀才と呼ばれた首都防衛軍司令官の東原莞爾と言う高級将校が、台風の影響で北海道視察行から数時間遅れて参謀本部に帰還した直後だった。
「落ち着いて考えろ、仮に敵が帝都に落着しようと、我ら陸海軍の将兵と裂帛の意思さえ捨てねば、どうとでも調理出来るではないか!
我々は敵が撃って殺せると知ってるのだよ?極論、反応弾を空中炸裂させれば良いでは無いか」
酷い理屈ではあるが、筋が通っていた。
言ってしまえばカシュガルに敵が根拠地をこさえた最大の原因は、中国軍が大規模兵站能力を有していないと言う当時の国力問題が原因だった。
軽歩兵主体の不利をH-5爆撃機と核攻撃でゴリ押しして解決は、実際問題最初期のBETAを大半焼き殺して活動不能にした。
問題はカシュガルの奥まで兵を戦闘活動のままにする兵站段列だ、糧食に衣服に弾薬に部品が足りない、戦闘で磨耗するより人員が山々で活動する方が大変だった。
水は腐るし飯は運ぶのに手間暇かかるし弾薬は案外重い、長征にしてもバタバタと兵が倒れた事を毛沢東もよく知っている、本人すら倒れて担架で運ばれていたからだ。
結局、まとまった部隊を前線展開するのに時間が足りなかった。
人民解放軍の軽歩兵は三日以上の単独作戦能力を削って歩兵で50キロ歩く軍隊であった。*4
「しかし、帝都上空では」
「あぁ幾らか燃えるし死ぬな、それだけで済む」
考えてみればそうか。
参謀たちに落ち着きが戻り始めた、空挺部隊の降下に最高の一撃とは体制を整える前に殴り殺す事である。
ならば自分たちのやるべきことは最初から決まっている、さっさと陸上部隊をしばいて連中をマーケット・ガーデンより酷い目に合わせるだけだ。
参謀たちの落ち着きが回復したことに、少し東原莞爾は安堵した。
BETA大戦以来からの対ソ強硬派、軍部ではあまり居ない親米的保守派の──反米というよりなんでも自分でしたいのが軍人だ──彼は、自称愛国者にウケが悪かった。
軍人ではあるが政府官僚でもある軍部の役人、国防省の官僚は閑職へ追い込もうとしたが、当時陸軍とのコネが深い野党議員の榊議員が「欧州観戦武官として、フランスへ行かせては?」と持ちかけた。
実は彼はフランス語に達者で、ナポレオン戦争史の翻訳などをたびたび軍大学でもやっていた前歴がある。
こうしてバカの手の届かぬところで修行を兼ねて送り出されたが、大粛清で大鉈が振るわれた帝国軍は即座に数ヶ月前に帰国した彼を帝都防衛の任に就かせた。
「第十六方面軍あたりが適任では?」
「アレは切れすぎる、御国に必要だが目を離したら何するか分からん」
とは首相その人の言であり、尋ねた官房長官すら納得したと言う噂すらあった。
だがそれを彼は不愉快には思わなかった、畏れられていると無理解に侮蔑されてるは耐え難い差がある。
彼が混乱を鎮めたあと、即座に計画は再修正された。
九州の第五方面軍が糸島を最優先して機動している事などは追認し、直ちに支援命令を開始した。
広島へ進出している第一戦車群の機動も認可され、当時陸軍最新鋭の90式MBTは国鉄本線から全力で移動を始めた。
インフラ改善計画で大型貨車を通せるように主要鉄道線を改造したのは、70~80年代の列島改造論の成果であった。
当時の首相は何かと汚職やら不正に関与していたが、才覚はバケモンと呼んで差し支えなく、検察側もついに勝ち逃げさせてしまった。
「竹島付近に展開中の無人ソナーから緊急発信!」
「竹島?」
海軍の大西作戦部長が首を傾げる、対BETA強硬派で、真顔で「あと2000発の核を投射すればアジア戦線は必ず勝てます」と言い放つ類で、アメリカ人からすら恐れられている。
「なんでそんなところが」
無人ソナーは日本列島周辺海域に撒かれたモノだが、防災計画の面が色濃かった。
そして第二報はすぐに入った、舞鶴から緊急支援任務中の第四艦隊前衛潜水艦が「BETA海底移動音」を探知したのだ。
「消えたB群の狙いは……山陰か!」
「第四艦隊は直ちに移動を中止、敵B群と交戦させます」
「許可する。岩国の予備機にスクランブル命令!」
「山陰全県に緊急事態宣言を発令」
アメリカ空軍の青い制服を着た派遣武官が、ヘッドセットを着けた。
「さあ戦争だ」
そう呟くと、そのアメリカ空軍の中佐は暗号名「クレイドル」のスタンバイに入らせる。
近いうちに使うことになるだろう。
戦争機械に、再びエンジンが入った。
【肉弾】
九州戦線の唐津・伊万里の後退戦は第五方面軍参謀長の不安の通り、やはり苦難が多かった。
防衛召集の国民義勇戦闘隊や予備役部隊は後退戦の訓練を習う時間が無かったし、渋滞と事故が群発した。
段階的後退戦闘と言ってもまともに後退出来たのは自走砲の一部や地対地弾道弾部隊で、彼らの殆どは前線から距離が遠いおかげで混乱に巻き込まれなかったからだ。
それでも撤退命令は実行されている、例え伊万里防衛部隊が一部島原へ後退するのに失敗し、佐世保経由の五島列島への移動になったとしても。
『全戦術機、突入せよ!突入せよ!突入せよ!』
指揮車両からのト連送が発信される。
長刀や突撃砲を掲げて、戦術機が突撃戦闘に入った。
唐津から佐賀市へ侵入せんとする敵の群れに飛び込む戦術機、数およそ84機、ほとんどF-4だ。
突入第一派は近くにいた前線移動待機中の部隊だからだ。
無論後方から待機していた築城の不知火、新田原のF-15、春日から来た練習機の吹雪に、鹿屋と太刀洗のF-15が機動している。
だが1匹も分けてやるつもりなどさらさら無い、手柄は総取りしてやると気概が溢れている。
何故か?此処は本土だ。
「あんまり奥に行きすぎるなよー、味方のエアバーストで吹っ飛んだら靖国に行けんぞ」
白嶺スズも口ではこう言っているが、それなり以上には興奮していた。
結局食うに困って陸大を予備士官として合格し、正規の士官が大半好ましくないと思えても、ここは祖国だ。
特にスズは女性士官という奴が妙に好きになれなかった、女の腐ったようなと表現したくなる奴も結構いるのだ。
無論男性器のある無しが人格に関わるほど関係あると思えないし、彼女は性自認を尋ねられたら「地上襲撃機」と返すタイプだが。
「しっかりついてこーい、遅れたり逸れっと死ぬぞ!」
『はぁい!』
返事だけは威勢がいいんだから全く。
妙な訛りのある日本語で、緊急無線が流れた。
『航空支援機接近!警戒せよ!』
「CAS?!」
おい嘘だろ、この天候だぞ。
そうは思ったが真実その通りらしい、何が来るんだと思いつつ危険地域から少し下がる。
飛んできたのはある種正気と思えない姿だった。
戦術爆撃機のF-111アードバーグ、アメリカ合衆国空軍の対光線級吶喊、赤いドイツのファシストがレーザーヤークトと呼ぶが、西側陣営ではSEAD/DEADと言う事のために実戦化した対BETA戦前提戦術爆撃機だ。
ソ連ではSu-24という機体が同種の任務をする。
『光線級のせいで空軍は来ないんじゃ』
頭がボケてるのか、のぼせてるのか、新兵がそんな事を呟いた。
下の毛もろくに生えてない女子に、赤線地帯の行ったこともない男子学生の寄せ集めゆえだった。
「バカ、NOE飛行して山の影に隠れながら超音速で突撃するんだ、連中が来るぞ、道を開けてやれ!」
慌てた新兵たちが山々に張り付くようにして、道を開ける。
アメリカ軍機らしい、スラっとした機体デザインに可変翼の最新技術をぶち込んで作られた新大陸から飛んでくる最強の攻撃機。
アメリカ空軍の大天使たるB-1ランサー戦略爆撃機と同じく「救助隊は来ないと覚悟して危険な低空突撃」と言う、まさにヤンキー魂溢れるある種のバカみたいな機体だ。
欧州戦線では彼らとファントムあるいはイントルーダーが「ワイルド・ヴィーゼル」と言う特殊作戦任務航空団を編成し、光線級をブチ殺しつづけていた。
BETAの汚い血のカーペットをアードバーグが直進し、レーザーが撃たれるまでの12秒までの間に爆撃するのだ。
『騎兵隊ただいま登場!』
超低空を爆進したアードバーグは、全力出撃した岩国から燃料は最低限に全速で山間を突き抜けた。
狂気のトレンチ・ランと呼ばれる米空軍ワイルド・ヴィーゼルの真骨頂であった。
パイロンに満載したスネークアイ高抗力爆弾は、低空で投下後通過する際爆発に巻き込まれない様にエアブレーキをつけた改造型で、その大火力は凄まじい。
何せ一機につき12発は撒き散らすのだ、戦車級どころか要撃級すらあっさり千切れ飛び、3機編隊が四列に分かれて山間を吹き飛ばしまくるのである。
超音速で爆撃をして去っていくアードバーグは、やはり山間に隠れて姿を消した。
「さあお前ら!アメリカさんに全部やらせるつもりか!」
CAS終了直後、再び突撃は再開される。
再展開したらしい75式MSSRが連続掃射され、小型種を更に掃討する。
無論最近小賢しくなった敵は当然ただやられていない、幾つかの小集団はあえて山間に隠れ動きを止め、浸透しようとしたり横合いから抱きついた。
叩いても叩いても敵が出る上に、抱きつかれた機体を助けようとして誤射する新兵も出ている。
何より新兵は撃ちすぎるので弾薬の消耗が早かった。
「どいつもこいつも撃ちすぎる……!」
突撃砲の射耗が早い、豪雨の雨天で撃ち合いして相手を視認しづらい上に赤外線感知などが効かないと言うのも大きい。
興奮と恐怖から新兵が撃ちすぎる、死んだと言う確信が持てないからだ。
無論、漸減でしかないからしょうがない。
糸島の主戦線が戦闘中なのは、データリンクで良く分かる、定期的に戦術核攻撃の地震が入っている。
主戦線の躍進を援護すべく戦術核攻撃の援護を受け、きのこ雲の真下では90式戦車、K-1戦車、96式戦車、74式戦車が連続攻撃しているわけである。
『警報!突撃級多数!突っ込んでくる!』
即座に阻止射撃が開始されるが、観測任務のOH-1が気象問題で動けないのと、一部光線級が要塞級にデサントして長崎県の金毘羅山付近に展開しているので抑止されている。
軍からすればなんとかしたいんだろうが、当然如何ともしがたい。
山の上にいるからいつでも何処でも撃てるので、単純に撃ち下ろしで脅威なのだ。
当たらなければ戦術核を撃っても無駄であるので、帝国軍は「後で絶対殺す」リストの最上位に入れている、「今殺す」リストには糸島から進出する敵集団がトップだ。
「こちら<桐>、大多数弾薬僅か!補給要請!」
『了解。<榧>と<松>を交代に当てる』
日本のいちばん長い日は、夜を迎えた。
【地下茎構造の憂鬱】
カシュガルのあ号標的、すなわち地球降下の重ブレイン級は、最近憂鬱という概念を会得した。
恐らく"彼"と呼ぶのが適切だろう存在は、記録的な損耗率が、年々増えていることに憂鬱になっている。
1973年地球降下以来、BETAの地球攻撃はまるで上手くいっていない。
85年以降は生産量と損失量のチャートが追いつかないので、生産資源を割り振りを再修正し、後方の地ならし要員生産資源を前線ハイヴに割り当てている。
何が悪かったというとBETAの頭である、つまり創造主の無為無策である、ケイ素にあらずは生命にあらずと傲慢で驕り高ぶった無能が撒き散らした資源収集機械、それが彼らだ。
90年を超えたあたりでようやく炭素系生命というのを理解し、人類の残骸を利用して兵士級を作ったが、ゲリラ戦にすらろくに使えない。
すっとろいゴミが出来たので彼は兵士級をクビにしようか考えている、対人掃討戦闘において恐ろしいくらいコスパが悪いのだ、9mm短機関銃で死んでは困る、闘士級はかなりコスパが良かったのだが……。
"降下ユニット89963。損耗率が更に増えている。どういう事か"
月と火星の重ブレイン級が詰問を送ってきた。
彼には、何故創造主から支援も連絡も無いのか、何となく分かっていた。
殺されたのだ。
おそらく、この広すぎる銀河、二京近い自身の同胞が溢れる銀河の、その何処か片隅に居たのだ。
炭素系でありながら、創造主の宇宙作戦能力以上の力を持ち、高度で組織化された文明が……。
彼にはそれを考えるだけの知性があり、知識があり、故に憂鬱だった。
謎のケイ素生物、金ピカに輝く宇宙生物や、細長い植物の様な形態をして宇宙を単身航行する不明存在、そうした存在は彼の知り及ぶ範囲にいた。
前者はレティクル座ゼータ星、後者はシリウス近隣の宇宙を漂っていた、いずれもコンタクトしてこなかったし、前者は遭遇した後交信できなくなった。
"返答。原生存在、自称人類は急速に我々の排除に洗練化。速やかな増援、及び対軌道阻止攻撃の解禁。実行願う"
"許可出来ず。創造主は衛星軌道以上の排除行動をロジックで禁止。対地球降下ユニットは九回連続で失敗しており不可。自活の要をみとむ"
"不可。我々の打ち上げリソース削減修正を要求"
"許可出来ず。創造主のロジックに反する"
それなら創造主に聞けよ、と言えれば楽だが彼は反意を企めない。
行動抑止と制限ロジックのせいだった、創造主が恐らく死んでるとしても、意に反することができない。
だからこうして月と火星に支援要請を出しているのが精一杯だ、PSIデータリンクネットワークで幾つもの重ブレイン級と平行リンクしても意味がない。
ある意味、彼は幸せだった。
この時期大マゼランの向こうに手を出した同族が、何処かの宇宙人に手を出したせいで盛大に絶滅させられていた。
記録によれば、彼らが地球圏まで来るのに人類の西暦で2190年には到着しかねないらしい……。
【国連宇宙海軍】
アメリカ合衆国メリーランド州のサイトR、そこには人類の未来と価値について幾らか明るくなれる組織が存在する。
国連軍の宇宙作戦部隊、通称国連宇宙海軍と呼ばれる組織だ。
その構成人員はあまり多くない、所詮毛が生えた武装しかないSSTOでしかないものを宇宙駆逐艦と言い張ってる程度の宇宙技術しかまだ有していない。
それでもここは人類の希望と呼べた、国連軍にあって唯一米ソが全く対立をしない場所。
何故かというとレーガン大統領以来の雪解け政策以来、共同作戦SDIでソ連とアメリカ宇宙部隊はある程度統合したのだ。
名誉ある和平、以来それなりに米ソは緊張しつつ併存している。
彼らが来なければ恐らく
「で、この作戦案だが」
その国連宇宙海軍の、宇宙司令部、すなわちUNSCでは緊急作戦会議が持ち込まれた。
アジア戦線が今、対日戦で泥沼を極めているが中国軍がある提案をしてきた。
「この隙に乗じて、鉄原ハイヴの空き巣を狙って攻撃して壊滅させ対日戦線を安定させる、ですか」
提案を受けた米ソの軍人たちはやや惹かれる気分がした。
そして何より、政治的にかなり価値がある。
成功して仕舞えば、全員に名誉が等しく配られ、人類の統一戦線としての成果を手に入れられる。
誰もが功一等だ。
「……だが援護はどうする?」
「それなら問題ありません、現在台風の影響から敵は対軌道阻止攻撃ができないのです」
作戦参謀の言葉は強い誘惑となった。
台風、つまり水分を含んでじっとりした天気はレーザー光線最強の敵だ、水は光を屈折させる。
「やるとして、実行はいつになる」
「恐らく4ないし5日後」
現実的範疇だ。
「やるぞ、それに中国戦線で圧迫攻撃をかける用意だ、ハワイのB-1を前進させて中国に回せ」
これが成功すれば、21番目のハイヴたるボパールハイヴ建設阻止以来の大戦果だ。
「計画名はどうします?」
情報参謀がふと尋ねた、便宜上、これをどう呼ぶべきか。
「オデッセイ。カシュガルへの長い旅の始まりだ」
戦況の天秤が傾き出した。
タイトルからしておわかりでしょうが、本作は「日本本土決戦 昭和20年11月、米軍皇土へ侵攻す」が元ネタです
ウォーケンが大尉から出世していますが、彼も多分F-15SEに乗った事があるからなんだと思います