神殺し兄妹と女神様 作:ダッソー
申し訳ありません
独自設定があります。
「いやー、とんでもないことになったね」
「なりましたねー」
東京の某所。
正史編纂委員会の東京分室の一室で甘粕と馨は気の抜けた調子で言葉を交わしていた。
「片品村は大口真神に食べられて壊滅。上州武尊山を中心とした山々は吹き飛んでクレーターになった。
さらに地形そのものの破壊が激しくて、道路・通信網は全滅状態らしいよ。
しかも、あの一帯が極寒になった挙句“闇の領域”に包まれたせいで、火も光も使えなくなった」
あの辺りには川場スキー場を含む複数のスキー場があり冬にはスキー客で賑わっていたのだが、地図上から完全に消滅。
巨大なクレーターが残るのみとなってしまい観光資源が失われてしまった。
さらに気候変動は周辺地域の農業に深刻な損害を負わせていた。
高原野菜の主要産地として全国に出荷されていた地域であり、今回の冷害による供給不足は避けられないと見られる。
そして“闇の領域”となった問題の区域は、火や光を伴うものすべてが使えなくなったため人が立ち入ることが困難になっている。
復旧作業の開始時期は未定であり、行政が被害規模を把握することすら困難を極めていた。
「静花さん曰く、最低でも1週間は元には戻らないそうですよ。
寒さがどれだけ残るかもわからないって言ってましたし。
……いやー、大変なことになりましたね」
「笑うしかないね、もはや。
……それに、お兄さんの方もすごい活躍をしたみたいだよ」
思わず乾いた笑いが2人から出る。
二人の声色は軽いが、その裏には疲労と投げやりさが混じっていた。
「みたいですね。あちらの剣の王様と引き分けたとか。
ただ、戦いの余波で観光名所が一個消えたみたいですけどね」
「スフォルツェスコ城を中心に一帯が吹き飛んだらしいよ。
……王様たちは将来有望だね。立派な大魔王様になりそうだよ」
馨は感心とも諦めともつかない声で言った。
「それでイタリアから謝罪まじりの抗議文が届いたんだよね。
向こうも向こうで、自分たちの王様に振り回されてきた経験があるみたいだからね」
(ちなみにだが今回の決闘騒ぎにより、『王の執事』が心労で倒れかけてしまったそうだ。)
「今までは対岸の火事でしたけど、これからは私たちも巻き込まれるんでしょうね」
「あちらさんとは、これからは仲良くやれそうだよ。……悩みの内容的に」
兄妹のカンピオーネの存在が、今後どれほどの混乱をもたらすのか。
二人はそれぞれに未来を思い浮かべ、ため息をつかずにはいられなかった。
「山岳地帯がなくなった時のカバーストーリーなんて用意してないんだよね。
さすがはカンピオーネ、僕たちの想像を軽く飛び越えていくね」
「もういっそのこと、隕石が落ちたみたいな現実味のない話でごまかした方がいい気がします。
ここまで被害が大きいと、それぐらい現実味のない話のほうが、無理に現実的な話を作るよりも説得力ができると思いますよ」
隕石案はあくまで例え話にすぎない。
今回のようなあり得ない規模の災害には、あり得ない理由のほうがむしろ受け入れられやすい。
そもそも現実性のある話を作るのが難しいと言うのもあるが。
「悪くないね。陰謀論者たちも好みそうな話だし、
こちらからも適当に陰謀論を流しておけば、うまくコントロールできそうだよ」
妄想逞しい陰謀論者が勝手に暴走するのは珍しいことではなく、一度方向さえ示してやれば、あとは自主的に物語を膨らませてくれるのだ。
ただし、そうするためには複数の機関との連携が不可欠だった。
行政・警察・報道・挙げ句の果てには国際的な組織にまで説明を回す必要があり、その結果、二人の休暇が消えるのはもはや確定事項と言ってよかった。
「とりあえず、今回の被害や後始末に関する話は一旦棚に上げるとして。
これからの僕らの身の振り方について考えるとしようか」
「そうですね。これ以上この話を続けると、精神的に参ってしまいそうですし」
考えれば考えるほど無理難題にすら思える話題から
いったん距離を置き、思考の切り替えを行わなければ精神が摩耗していってしまう。
「やはり裕理さんを通じて、二人と関係を持てたのは幸いでしたね」
大口真神の討伐を、委員会が裕理を介して依頼できたことは大きい。
この事実は、兄妹に近い立場の者をすでに“自分たちが抱えている”という証明であり、委員会内部の落ち着かない空気を鎮めるには最も効果的だった。
「そうだね。裕理さん経由で静花さんに依頼できた時点で、僕たちは二人とのパイプを持っていると周囲に示せたわけだ。
委員会の中で騒いでいた連中も、これで少しは大人しくなるだろうし。
それに今回の件も、見方を変えれば二人の潜在能力の高さが証明された」
「確かに。まだ成り立てで山岳地帯を吹き飛ばしたり、イタリアの王様と引き分けたりしてますもんね」
「そう。それに少し前にまつろわぬ神と戦って勝っているしね。
だから今回の件を材料にして、委員会の中で日和見だった人たちと、やたら前のめりだった人たちを取り込みつつ、反抗的な連中を炙り出していこうと思ってる」
静花本人は否定するだろうが草薙兄妹はイタリアでまつろわぬ神に勝利しているというのが対外的な評価だ。
兄妹の実績が足りないため静観している者も僅かながらいたが、今回の件と合わせて考えれば、将来性があると考えてもいいだろう。
「さすがは馨さん。転んでもただでは起きませんね。
炙り出した人たちは、ある程度集まったところで一網打尽!って感じですか?」
「おだてても給料は出ないよ、甘粕さん。
……ところで、二人と女神の人柄についても聞いておきたいんだけど?」
「静花さんは、祐理さんから聞いたとおり“姉御肌”って印象ですね。
護堂さんについてはまだ接触できていませんが、調査では“一見すると好青年”って話でした。
ただ、お二人とも一度走り出すと止まらないタイプみたいなんですよね」
「確かに。一度戦いを始めると周りのことなんてお構い無しにやってるしね」
静花も護堂も、権能の発動そのものが周囲に甚大な被害をもたらす。
普段は自制が働いているようだが、
戦闘に入れば迷いなく権能を行使するため、被害は大きくなる。
「そんな“止まらない人たち”が、発動するだけで甚大な被害を与える権能を持っている、と」
「悪夢でしかありませんね。ですからこちらとしては、できれば動いてほしくないんですよ。
……特に静花さんには」
「贄を必要とする権能で、贄の規模がアメリカの王以上……。
下手をすれば、まつろわぬ神以上の被害を出しかねないね。
できるだけ早く権能を増やしてもらいたいものだよ」
「そうですね、権能が増えれば第一権能を少しは抑え気味に戦ってくれるかもしれませんね」
「可能なら、人気のない場所で戦ってもらって、そのまま権能も増やしてほしいんだけどね」
「もういっそのこと、こちらでまつろわぬ神と戦場を
用意して増やしてもらいましょうか」
「はは、確かにうちは《鋼》を封じているからね。
九法塚の人たちには悪いけど静花さんに倒してもらおうかな」
そんなことをすれば女神に対する保険も無くなってしまうし
そもそも御老公が認めるかもどうかもわからない。
そんな冗談が出てしまうほどに、第一権能を使用する際の被害が大きすぎるのだ。
「……ところで、女神の方はどうなんだい?
やっぱり僕らの想像していたとおり?」
「そうですね。一度お会いしたんですが、私のことは視界にすら入っていませんでした」
「となると、女神に関しては直接の関与は避けて、
兄妹を通して距離を測る感じかな」
正史編纂委員会は、隠居状態のまつろわぬ神と関わってきた。
その経験から、神という存在が凡百の人間のことは興味がないことはよく理解している。
「ええ。ただ、祐理さんのことは私とは違い、ある程度は認識されていたようです。
もしかすると祐理さんは、彼女に意見できる立場になれるかもしれません」
「祐理さんの存在がどんどん重くなっていくね。
もしかするとこの国の命綱になりかねないね」
「静花さんには先輩として、護堂さんには異性として、女神様には巫女として……ですか。
すごいですね、祐理さんの存在で国が揺らぎかねませんよ」
「ははは、全くだよ。
まあ甘粕さんにも期待してるけどね。
兄妹と仲良くなってもらって二人の人柄や保持する権能、そして女神に関する情報を引き出してほしいな」
「まつろわぬ神が近くにいるだけで命の危険があるんですがね
私は給料分以上の働きなんてしたくないんですよほんとに!」
「大丈夫。危険手当はしっかり出しておくよ」
「危険手当を出されても、使う時間がありませんので
このブラック労働環境を改善してほしいのですが」
「そこは我慢してもらいたいな。ブラック労働はこの国の特徴だろ?
……そういえばイタリアからも魔術師が来てるんだろ?」
「ええ。エリカ・ブランデッリ。《赤銅黒十字》の才媛ですね。
彼女は草薙兄妹の監視役として派遣されたそうですよ」
「結社の秘蔵っ子を、愛人じゃなくて監視役としてか。
静花さんのことを気にしているんだろうね。彼女、かなりのブラコンみたいだし」
「調べてみた限り、『お兄ちゃん、そんなんじゃないんだからね!』みたいな
生粋のブラコンみたいですからね。
それに、エリカ・ブランデッリは二人と面識があります。
まったくの他人を送るよりは、はるかに良いでしょう」
「兄妹の右腕の座を狙いつつ、あわよくば草薙護堂の愛人の座も狙っていると。
公私共に親密な関係を築こうとは、随分と欲張りだね」
「公的にも私的にも関係を構築しようとしているのは本当に欲張りなんですけど、良い手なんですよね。
監視役って形で静花さんの不興を買わないようにしつつ、護堂さんには少しずつ異性として関係を構築しようとしているのが、ほんとに」
エリカ・ブランデッリは人付き合いに長け、草薙兄妹とも円滑に関係を築けると見込まれている。
妹の静花が護堂に対して強い感情を抱いていることも理解しているため、上手く二人に取り入りながら宰相の座へ収まり、あわよくば愛人の座を狙う意図があるのだろう。
もちろん、愛人の座に関しては無理に奪いに行くことはしないはずだが。
「祐理さんには、エリカ・ブランデッリのライバルとして頑張ってもらわないといけませんね。
護堂さんは女性関係に関してラブコメ主人公じみているみたいですから、上手いことやれば異性としての関係を築けると思いますよ。
……それに静花さんとはすでに先輩後輩の関係を築けていますから異性として護堂さんに迫っても、あまり不興は買わないと思います」
「それは朗報だね。
……あとはこちらが受け入れる土台を作らないといけないな。
今のままだと到底彼らに仕えることなんてできないし」
「先走ろうとする人が後を絶ちませんからね。
下手に彼らに借りを作ってしまうと、エリカ・ブランデッリにそこを突かれかねませんからね」
もしここで草薙兄妹に借りを作るようなことになれば、
エリカがうまく自分たちの有用性を示し、委員会よりも上の立場に躍り出る可能性がある。
「そうだね。ここで委員会が下に見られるようなことになれば、組織の面子の上でも、役割の上でも良くないからね」
もし兄妹が独立した組織を立ち上げた場合、委員会はその組織と同盟関係を結ぶ形が望ましい。
その際、立場が下がるような事態は避けなければならなかった。
「これから僕らは、核の傘ならぬ“魔王の傘”に入るわけだ。
自分たちの価値が低くなる展開は、どうしても避けたいんだよね」
魔王との関係を良好に維持できれば、大きな恩恵が得られる。
アメリカと中国がいい例だ。
アメリカの魔術界は、植民地時代に起こった弾圧や土着の精霊信仰の抗争と講和による影響で邪術師に対抗する《善の魔術師》が少ない。
その影響で邪術師による犯罪が横行し、事態を重くみたアメリカ政府が魔術関連の政府機関を設立したのだが。
完全に後手に回っており長年頭を悩ませてきた。
その状況が大きく変わったのは、
ジョン・プルートー・スミスという新たな魔王の誕生だ。
彼は民の庇護に熱心で、呪術犯罪を抑え込む強力な抑止力として機能した。
そうしてアメリカの魔術業界はようやく安定を迎えたという経緯がある。
中国の魔術界は、現代に入って起こったいわゆる文化大革命により古来より根ざしていた魔術体系が「旧文化」的とされ破壊されてきたのだが。
その破壊の魔の手がよりにもよって中国の魔王である羅豪教主の聖域にまで及んだ結果彼女の怒りをかい、その下手人たちは皆殺しにされたそうだ。
中国政府も調査隊を何度か送ったが、消息を絶つか重傷を負うかのどちらかだったため、最終的に中国魔術界と距離を置く選択をしたそうだ。
余談だがそういった経緯もあってか中国政府も中国魔術界に迂闊に干渉できないため、両者は仲が悪いことは有名な話である。
なお、魔王と長く関わりがあるヨーロッパはというと、魔王の性格を十分に把握したうえで、彼らの気質に沿うよう巧みに交渉し、その武力を誇示させ、自分たちの“頂点”に立ってもらうことで、魔王の威を借りるように立ち回ってきた。
日本もこれらの例と同じだ、彼らの武力の傘に入ることで他国に対し武力的に優位に立つことができる。
さらにいえば魔王を2人も有することになるので、他国から見れば世界最強の武力を持っていることにもなる。
ここで魔王から下に見られているなんてことになってしまったら、他国から甘く見られかねない。
「焦らず、かつ迅速に兄妹と関係を深めていきたいんだよね。
だからこれからも甘粕さんには頑張ってほしいね」
「兄妹と関係を持ちつつ、他国からの干渉も牽制しつつ国内の不穏分子も摘発するですか。
私、積みゲーも消化できてないし見てないアニメもたくさんあるんですけどね」
「そこは忍者の滅私奉公精神で頼むよ」
「そういう時代錯誤の価値観を加速させる呼び方が職場のブラック労働を加速させるんですよ!」
「甘粕さん。日本は労働基準法があってないようなものなんだよ」
こうして舞台裏では様々な思惑が錯綜し、
慌ただしく人々が動くことになる。
日本・イタリア(これからはズッ友だよ)
カンピオーネと神の破壊活動に悩まされる仲間として。
ちなみにですが護堂はドニとの戦いで『戦士』と第二権能が使えたため
ミラノで撤退することなくそのまま戦いを続行し最終的には『白馬』で相打ちに持ち込みました。
なのでミラノの一部が吹き飛びました。
日本とイタリアはとっても仲良くなれると思います。