神殺し兄妹と女神様   作:ダッソー

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十一話

「それで、お兄ちゃんはエリカさんを言われるがままに連れて帰ってきたってわけね。

ふうん、お兄ちゃんにそんな気遣いがあったなんてあたしびっくりしちゃったなー」

 

「あのな静花、エリカは俺たちの監視役としてきたんだから

別にやましいことなんてないんだぞ?」

 

何やら浮気がバレた夫のように護堂は自身の妹に対して弁明していた。

 

「あら、やましいことが全くないわけじゃないわよ?

私と護堂が愛人関係になることを結社は望んでいるんだから」

 

「待て、エリカ!そんなこと俺は聞いてないぞ!」

 

「護堂ったら鈍いわね。うら若き乙女を若い男と一緒に帰させておいてそういうことを考えないと思うの?」

 

言われてみればそうだ。若い女を男と一緒に帰させておいてそういう発想をしない方がおかしい。

 

護堂はイタリアでドニとの決闘騒ぎを起こし、スフォルツェスコ城を中心とした地域を跡形もなく消し飛ばすという惨事を引き起こしている。

 

(さらに言うと今回の騒動の破壊活動のほとんどが護堂によるものだった。)

 

そのため草薙兄妹の動向を調査しその影響が欧州に及ぶ場合に備えるためにとしてエリカを派遣したいというイタリア結社の意向を断ることができなかったのだ。

 

そして日本に帰ってきた後静花に挨拶したいと言ったため草薙家に連れてきたのだが。

何やら静花が不機嫌そうになったのだ。

 

「あなた達は何の後ろ盾もければ配下も協力者もいないフリーな立場だけでなく、人類史上初の兄妹のカンピオーネ。今のうちに親密な関係を築きたいのよ」

 

「それなら、どうして愛人なんだよ?友達とか右腕じゃダメなのか?」

 

「別にそれでも良いけど。できれば愛人関係というのが望ましいの。

カンピオーネの血筋は私たちにとって王族と等しい。

だから、血縁関係を結べばその結社はさらなる威光と権威をえられるのよ」

 

魔術業界においてカンピオーネは王族同然の扱いをうける。

そんな彼らと血縁関係を結ぶのは王族入りするに等しいことなのだ。

 

「でも私は上から命令されたからって愛人になるほど真面目でも忠義者でもないから、護堂と愛人になる気なんてないわ」

 

静花の方を見ながらエリカが言った。

 

「つまりあたし達の力を利用したいってことでしょ?」

 

静花が胡散臭うな人間を見るかのような目でエリカを見た。

 

「利用するだなんて人聞きが悪いわね、

それに私は監視役としてきたわけじゃないの。そんな恐れ多いこと神殺しの魔王陛下にできるわけないじゃない?

私は日本に留学しに来ただけでそのついでにあなた達と有意義な関係を結びたいだけなのよ」

 

「ふうん。……それで、その有意義な関係を結ぶためにエリカさんは何をしてくれるの?」

 

静花が値踏みをするかのようにエリカに言った。

 

「そうね。静花さんの勢力を拡大するのを手伝うって言うのはどうかしら?」

 

その言葉に静花は少し反応した。

 

「静花さんはこの国の魔術結社を信用しているわけではないのでしょう?

だから信用できる自分の勢力を作ろうとしてる。それも無理やり脅迫じみたやり方ではなく穏便なやり方で」

 

静花は自分の(無理矢理)子分にしたイタリアからの下っ端構成員を使ってこの国の呪術業界の調査と自分の名を広めている最中だ。

 

実際自分の勢力に加わりたいと言っているものは多く存在しているが

無能な働き者は欲しくないので自分の手駒に加える者は慎重に選んでいる。

 

だからこそそこそこ影響力のあるものか自分の言うことに素直に従えるものがほしいと思っているのだ。

 

「でもそのやり方だと時間がかかる。

けどそこに高い政治力と智力を持つ者が加われば話は変わってくると思うけどどうかしら?」

 

「……へー、エリカさんってそんなに役に立つんだ?」

 

「私は未来の総帥候補よ?カンピオーネの右腕になる器になれるとおもっているわ。

信用を得られるかについては、時間をかけてじっくりと私があなた達の信用に値する存在だと証明してみせるわ」

 

エリカが自信たっぷりに静花にそう宣言した。

 

「あっそ、なら後でエリカさんにやってほしいことがあるからやっといてくれない?」

 

「謹んで拝命させていただきます。草薙静花様」

 

そうエリカは優雅に恭しく一礼した。

どうやら静花はエリカを手駒にすることを選択したようだ。

 

「あー、話は終わったのか?

なら別の話をしないか?これから身近に過ごすんだし仲良くしたいから少し話したいんだよ」

 

今まで話に入ってこなかった護堂が入ってきた。

エリカと静花の会話は居心地の良いものではなかったため話に割って入ってこなかったが、ひと段落したため入ってきたのだ。

ああ言った話は好きではない。

 

「ぐぐ。またお兄ちゃんが悪い癖を発揮してる……!」

 

「あら、それはとても光栄ね、でもその前に静花さんの相手をしてあげたらどうかしら?

静花さんは護堂がいない間にまつろわぬ神と戦っていたのよ。

家族として労わってあげたらどうかしら?」

 

自分勝手な理由でドニと決闘した護堂よりも顕現したまつろわぬ神を討伐するために戦った静花の方が立派だろう。

 

そんな妹になにもしてやらないのは確かにどうかと思う。

 

「確かにそうだな……静花、今度の日曜日予定を空けておくからどこかへ行くか?

明日香ともしばらく会ってないから久しぶりに誘ってさ」

 

「ふ、ふーん。ほんとならあたしは忙しいんだけど、お兄ちゃんが

行きたいって言うなら一緒に行ってあげてもいいよ」

 

少しそわそわしながら静花が言った。

いつも通り素直じゃない物いいだが、要は一緒に行くと言うことだろう。

 

「お兄ちゃんが珍しくあたしにちょっと気を利かせてくれたみたいだし

今回は特別に妹として付き合ってあげてもいいよ」

 

エリカは兄妹の様子を見ながら静花に対して少し微笑みかけた。

 

下心はあるだろうが、確かにエリカは使える人間のようだ。

静花がエリカの評価を上方修正するとエリカが切り出した。

 

「そういえば女神アテナはどこにいるのかしら?

あの方にも挨拶をしておきたいのだけれど」

 

「アテナならどこかの山に行ってるぞ。

人間の都市は穢れてるからとかなんとか言って、よく行くんだよなあ」

 

人間の都市はアテナのような夜の神からするとひどく不自然に感じるため居心地が悪いそうだ。

 

だからこそ度々人里から遠く離れた山奥に赴き心身を休めているのだ。

 

「そう、なら仕方ないわね」

 

「でも、そろそろ戻って来ると思うけどなあ」

 

そう静花が考えていると家のチャイムが突然なった。

それに静花が反応し玄関に見にいった。

 

「万里谷さん?一体どうしたんですか?」

 

「草薙さんが帰ってきたと聞いて、あなた達にお話があって

こうして突然お邪魔させていただきました」

 

万里谷は笑顔ではあったがその笑顔は威圧感をもたらすものだ。

あからさまに怒っている。

 

……もしかしなくても自身がやってしまった破壊活動についてではないだろうかと静花が冷や汗を流しながら居間に連れて行った。

 

「あら、護堂の友達かしら?」

 

「ああ、静花の部活の先輩の万里谷っていうんだけど」

 

エリカを見ると万里谷は冷め切った目で護堂を見た。

 

「私、先日あなた達に申し上げましたよね。自分の力に責任と自覚を持つように、と。

……だというのにあなた達はなんてことをしたのですか」

 

万感の思いを込めて万里谷が言った

 

「それに草薙さんが魔王の力で女性を手籠にするような人だったなんて……!

見損ないました!ふしだらです!信用したのが間違いでした!

あなたのような好色で色魔な方が魔王の力を持つなんて!この世の終わりでしかありません!」

 

「ま、待ってくれ万里谷!エリカは監視役として来ただけだ!

それは俺についてのよくない噂がながれてるだけなんだ!」

 

「ええ、そうなのよ。護堂ったら私の故国、イタリアで怒りに任せて魔王の所業としか言えない破壊の数々を起こしてしまったの!私は結社から護堂の怒りを鎮めるために愛人になるように言われてしまったわ!」

 

万里谷の言葉を聞いたエリカが悪魔の声を出した。

 

「ああ、なんてことなのかしら!私の純潔は護堂に無理矢理奪われてしまい、散々弄ばれて捨て去られてしまうのね!

そうなってしまったら敬虔な神の僕たる私は修道院に入って身を清めるしかないわ」

 

何やら悲劇の物語の主人公のように嘆いている。

ほくそ笑むエリカの口元を見るに愉しんでいるのはあきらかだ。

 

それを聞いた万里谷の視線が護堂を下劣なものを見るかのようになった。

 

「弄んでるのはエリカの方だろ!万里谷、エリカは出鱈目を言っているだけなんだ!信じちゃダメだ!」

 

「あら、全部が全部出鱈目ってわけじゃないわよねぇ、護堂?」

 

「うぐっ!

 

痛いところを突かれてしまった。確かに護堂はミラノでドニと決闘し街の一部を消しとばしてしまったためにエリカが監視役として派遣されたのだ。

 

エリカの言っていることは全部が全部間違ったものではないのだ。

 

「護堂さん、嘘に嘘を重ねるだなんて、恥ずべき行いだと思いませんか?

往生際が悪く、みっともないだけです。潔く認めるべきだと思いますよ」

 

「し、静花からも何か言ってくれないかッ!」

 

「そうですよね。お兄ちゃんには自分の行いを見直して人間社会に心からお詫びするべきだとおもいます」

 

助け船は出されなかった。

 

それどころか万里谷に便乗し自分の破壊活動を有耶無耶にしようとしている。

 

「静花さん、あなたも人のことを言えた身ですか?」

 

万里谷が静花の方を見つめた。

 

すると静花は慌てて弁明し始めた。

 

「あ、あのですね私はお兄ちゃんとは違って自分から迷惑をかけていないんです!」

 

「ええ、そうですが。草薙さんよりも悍ましい破壊の所業をなしているはずです」

 

「まつろわぬ神と戦うために仕方なくです!人間社会を守るためなんです!バカ兄貴みたいに喧嘩をするためじゃないんです!」

 

「待て静花!俺をダシに使って責任逃れしようとしてないか!」

 

護堂がようやく静花の狙いに気づいたようだ。

兄を使って責任逃れしようとした薄情な妹に対し驚愕していると、万里谷がさらに怒気をあらわにし静花を見た。

 

「静花さん。あなたはまつろわぬ神を倒すためならこの世を破壊つくしても良いと考えているのですか!」

 

「ううっ!」

 

万里谷には通じなかったようで冷たい目線を静花に向けた。

 

「お二人ともそこに直ってください」

 

万里谷は夜叉目のような表情で草薙兄妹に向き合った。

 

「お話があります」

 

2人に処刑宣告が下された瞬間だった。

 

「すごいわねえ。カンピオーネ相手に、あれだけのことが言えるなんて。

私には恐れ多くてできないわ」

 

エリカが、驚愕とも感嘆とも取れる声で呟いた。

 

万里谷は兄妹を座らせると、ものすごい勢いで説教を始め、二人を縮こまらせている。

 

「ほう。神殺し相手に、これだけの諫言が言えるとは。

肝が据わっておるようだな、巫女よ」

 

いつの間にか帰ってきていたのか、アテナがそう言った。

 

「アテナさん、戻ってきたんだ?」

 

「よう」

 

「ああ、今し方、戻ってきたところだ」

 

「女神アテナ。ご挨拶が遅れてしまった非礼、深くお詫びいたします。

このエリカ・ブランデッリ、御身に拝謁の機会を賜り、大変喜ばしく思います」

 

エリカは、優雅な所作でアテナに一礼した。

 

「……あの時の魔術師か」

 

アテナは、今になって思い出したかのように一瞥し、そう呟いた。

実際、エリカのことなど忘れていたのだろう。

 

護堂はその様子に、思わずため息をつきたくなった。

アテナには、ほんの少しでいいから他人に興味を持ってもらいたいものだ。

 

アテナはエリカのことなど眼中にないかのように視線を外し、万里谷へと向けた。

 

「そなたが王に臆さず諫言するのは良い。

だが、分を弁えぬ物言いには相応の代償を支払わねばならぬぞ?」

 

アテナは、釘を刺すように万里谷へ言った。

草薙兄妹が軽んじられるようになるのは、彼らを宿命の敵とみなしている彼女にとって不愉快なのだろう。

 

「それは承知しております。

ですが、王が慈悲と寛容を忘れ、民に横暴を振るうようになるのを、ただ見過ごすわけにはいきません。

もしそれでお怒りになるのであれば、この身を差し出し、その怒りと僭越の咎を受け止めましょう」

 

万里谷は凛とした表情で言った。

 

「己の身を弁えた上で諫言するのなら、良い」

 

アテナは万里谷の返答を聞くと満足したのか、万里谷から視線を外した。

 

「万里谷、アテナの言うことなんか気にしなくていいからな。

今みたいに、俺たちが間違ったら、遠慮なく叱り飛ばしてほしいんだ。

きっと、俺たちみたいな人間には、万里谷みたいなのが必要だからさ」

 

「あたしも、万里谷さんには他人行儀にしてほしくありません。

あたしたちにはっきり物を言ってくれる人がいた方が、安心できますから」

 

兄妹は、そう万里谷に告げた。

 

「アテナさん。

あたしたちは王様になったかもしれないけど、身近な人に敬われると、居心地が悪いだけなの。

だから、周りの人に王様扱いを押し付けるのやめてくれない?」

 

静花がアテナに迷惑そうな顔で言った。

 

「己の立場を弁えさせただけだ。

『王』が人間に侮られることがあってはならん」

 

「俺は王様呼ばわりされたからって、王様をやる気はないし、なったつもりもないからな」

 

「……護堂。たとえその気がなくとも、あなたの本質は王だ。

そうでなくては、神殺しなど成し得ぬ。

……いずれ、己を知る時が来る」

 

何やらアテナが言っているが、護堂は聞かなかったことにした。

 

王とは何か。

他者から崇められる者か、それとも偉業を成し遂げた者か。

 

そのどちらでもない。

他者を踏みつけ、従わせる者――それが王なのだ。

 

神殺しは皆、己の我を通すために天地に牙を剥き、神を殺す。

そんな者たちが、王としての資質を持たぬはずがない。

 

ならば、神殺しを成したこの兄妹も、その資質を当然持ち合わせている。

だが、その王としての道が英雄となるか、覇者となるかは、まだ分からない。

 

アテナは、兄妹の未来がどうなるのか、心待ちにしていた。

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