神殺し兄妹と女神様   作:ダッソー

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二十三話

時は少し遡る。

静花が空間転移した直後のことだ。

 

「静花のやつ、勝手に行きやがって」

 

「仕方ないんじゃない? 彼女、あなたよりよっぽど血の気が多そうだし。こうなるのも必然よ」

 

砕けた道路を見下ろしながら、護堂とエリカはそんなやり取りを交わしていた。

 

「静花はどこに行ったんだ? 万里谷と甘粕さんにも連絡しないとな」

 

「甘粕って誰よ?」

 

「正史編纂委員会の人だよ」

 

「正史編纂委員会……。確か、この国の魔術結社だったわね」

 

エリカがそう言った、その時だった。

アテナがふいに、どこかへ向かおうと歩き出す。

 

「アテナ、どこに行くんだよ?」

 

「静花のもとへ向かう」

 

「静花のいる場所がわかるのか?」

 

「ああ。神殺し同士が戦えば、居場所はおのずと知れる。それに、あの獣の思う通りに事が運ぶのは面白くないからな」

 

「万里谷を狙ってるんだろ? それに静花も戦ってるんだ。なら、すぐに行かないとな」

 

エリカは口には出さなかったが、護堂はアテナのことを少し信用しすぎではないか、と思った。

 

ヴォバンが万里谷を狙っているというのも、所詮は予測にすぎない。

だが、付き合いの短い自分がそこに口を挟むのも違うだろう。

それにアテナは智慧の女神だ。何らかの未来を見通す権能を持っていても、おかしくはない。

 

「正史編纂委員会には私から伝えておくわ。この国であなたたちの勢力を広げるために、ある程度はこの国の魔術社会とも繋がりを持っているもの。連絡くらいはできるわよ。連絡さえとれれば祐理を避難させることができるわ」

 

「そんなことしてたのかよ」

 

「まあね」

 

「なら、万里谷のことは頼んだよ」

 

護堂はそう言うと、アテナとともにその場を後にした。

 

 

 

時は現在へ戻る――

 

「静花。大丈夫か?」

 

「全然平気。こんなのかすり傷みたいなもんよ。それよりも、あのジジイにやられた分を返さないとね!」

 

強がるようにそう言いながらも、静花は立ち上がった。

 

「それのどこが平気なんだよ。ぼろぼろだろ」

 

「あいつにやり返さないと気が済まないの!」

 

「その気概は悪くない。戦場で弱音を吐くなど話にならんからな」

 

アテナが静花の様子を見ながらそう言った。

 

「くくく。ようやく我が長き無聊の慰めになりそうだ。小娘一人を嬲るのにも飽きてきた頃だったからな」

 

ヴォバンが愉快そうに言った。

 

「なあ、じいさん。聞いておきたいんだけど。

あんたが万里谷を犠牲にしようとしたってのは本当なのか?」

 

「妹と同じことを言うのだな。ふむ、その問いに答えるならば、そうであるとも言うべきかな。もしかすると、何事もなく私の行う儀式を終えられるかもしれんぞ」

 

「そうか。なら、あんたを叩きのめさないとな! 万里谷を犠牲になんかさせるか!」

 

護堂が一歩前へ出ながら言い放つ。

 

「くはは! 若造が吠えるか!」

 

ヴォバンが嗤う。

 

「妾には何もなしか、デヤンスタール・ヴォバン」

 

そのやり取りに割って入るように、アテナが冷ややかに告げた。

 

「くくく。歳をとると目が悪くなってしまってな。あまりに小さいものは見落としてしまうのだよ」

 

「ほう……妾が見えぬとでも言いたいのか?」

 

アテナの双眸が鋭く細められる。

 

「小さすぎて見失ってしまうのだよ。老人の戯言だ、許せ」

 

ヴォバンは肩をすくめるように言った。

 

「ならば、その目に妾を刻み込んでくれる! 妾を侮ったこと、後悔するがいい!」

 

そう言い放つや、アテナは大鎌を振り上げ、背からフクロウの翼を生やしてヴォバンへと飛びかかった。

 

ヴォバンは巨狼の姿から人間へと戻ると、風を巧みに操ってその一撃を回避する。

 

「鋭き牙を持つものよ。一撃にて撃ち殺し、粉々に踏みつぶせ!」

 

「まことの神よ! 悪しきものどもを喰らえ!」

 

草薙兄妹が、それぞれの神獣へ呪力を送り込んだ。

 

『猪』は身を起こし、大口真神は低く身構えて突撃の姿勢を取る。

 

「お前たちと、そのしもべの相手も用意してやる」

 

ヴォバンがそう言った直後、その足元から二十メートル級の巨大な人狼が姿を現した。

 

それだけではない。

 

空の黒雲を割るようにして、今度は巨大な白銀の竜が姿を現す。

だが、その肉体は完全ではなかった。体のところどころは朽ち果て、死の気配をまとったまま、禍々しい威容を保っている。

 

「まさか……神獣まで従僕にできるの!?」

 

「従僕って何だよ、それ?」

 

「知らないの? あのジジイは、殺した相手を自分に忠実な従僕にする権能を持ってるの!」

 

「趣味の悪いじいさんだな! やっぱり、一回痛い目を見せてやらないとだめだな!」

 

「宴の余興にはちょうどいいだろう。この僕を引きずり出すのは面倒でな。無駄にならずに済んで、喜ぶべきか」

 

ヴォバンがそう言った直後に、アテナが斬りかかった。

 

「余所見をしている場合か? あなたの相手は妾だ」

 

「忘れてはいないとも」

 

ヴォバンは天空へと人差し指を突きつける。

その瞬間、アテナめがけて稲妻が降り注いだ。

 

アテナは翼をはためかせ、降り注ぐ稲妻を紙一重で回避した。

 

「この程度で妾を射抜けると思ったか。稲妻など見切れる」

 

「威勢だけは良いな! 古き女神としての力を、このヴォバンに見せてみるがいい!」

 

空では、アテナとヴォバンが激突していた。

 

「オオオオオオオオオオン!!」

 

「ガアアアアアアアアアア!!」

 

『猪』が雄叫びを上げて一体目の人狼へ突撃し、大口真神もまたもう一体の人狼へ飛びかかった。

 

「クロノスの御子よ、我に天の特権を与えよ!」

 

言霊とともに、曇天が一時的に晴れる。

だが、それも束の間、すぐさま黒雲が渦を巻き、再び空を覆い隠した。

 

相手の権能で呼び出された雲を『贄』として奪っても、すぐに新たな雲で埋め直されてしまうようだ。

 

静花は、発動した電撃の力を白銀の竜へと差し向けた。

 

右手を突き出す。

次の瞬間、その掌から迸った雷光が夜気を裂き、竜の朽ちた肉体を撃ち砕いた。

 

「アアアアアアアッ!」

 

白銀の竜が絶叫する。

 

だが、それでも竜は止まらない。

大きく顎を開き、業火を吐き出した。

 

「っ!」

 

静花は即座に雷を撃ち放つ。

蒼白い雷光が火焔と正面から激突し、灼熱の奔流を吹き散らした。

 

その一方で、『猪』と大口真神がそれぞれ人狼を相手に激突を繰り広げている。

 

『猪』は一体目の人狼へ牙を突き刺していた。

凄まじい膂力でその巨体を押し込み、地面へねじ伏せようとする。

 

人狼は苦悶の咆哮を上げながらも、なお凶暴な爪を振るった。

鋭い鉤爪が『猪』の肩口を切り裂き、血飛沫が夜気へ散る。

 

だが、『猪』は怯まない。

血に濡れた牙をさらに深く食い込ませ、首を振り上げるようにして人狼の肉を引き裂いた。

 

もう一方では、大口真神が別の人狼へ飛びかかっていた。

 

白き神狼は灰色の巨体へ真正面から食らいつき、その動きを押さえ込む。

人狼が爪を振るうよりもなお速く、前脚の爪で喉を切り裂き、喉元へ牙を深々と突き立てた。

 

裂けた傷口から黒ずんだ血が吹き上がり、人狼は怒号めいた咆哮を轟かせる。

 

だが、そこへ上空の白銀の竜が再び顎を開いた。

狙いは、人狼と組み合う二体の神獣だ。

 

「させない!」

 

静花は叫び、さらに雷を放った。

 

蒼白い閃光が竜の肉体を打ち抜く。

それでも止まらぬ竜へ、静花は間髪入れず二撃、三撃と雷を叩き込んだ。

 

雷光が何度も朽ちた肉体を貫き、そのたびに白銀の鱗と腐肉が弾け飛ぶ。

やがて竜の巨体は耐えきれず、灰となって夜空へ崩れ落ちた。

 

『猪』は人狼を地へ組み伏せたまま、何度も何度も踏みつけていた。

その巨体を徹底的に破壊し尽くし、もはや動く気配もなくなったところで、ようやく満足したように消え去っていく。

 

大口真神もまた、喉元へ深く喰らいつき、そのまま人狼の首を噛み砕いた。

それでもなお、地に落ちた頭部だけが牙を剥いて襲いかかってくる。

だが、大口真神はそれすらも即座に爪で切り裂き、完全に息の根を止めた。

 

「あとはあのじいさんだな! 静花、お前が弾で俺が撃つ!」

 

「分かった!」

 

静花が稲妻をその身の周囲へ呼び出した。

いくつもの雷球が宙に浮かび、青白い光を放ちながら彼女の周囲を巡る。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ああ、まかせろ!」

 

護堂は即座に『山羊』の権能を発動した。

 

「我は義なる者たちの守護者を招き奉る!」

 

ヴォバンと静花の激突は、すでに東京の人々へ大きな恐怖を刻みつけていた。

 

巨大な狼が暴れ回り、突如として嵐が街を呑み込み、あまつさえ人々は訳も分からぬまま突然別の場所へ転移させられたのだ。

怯えと恐怖が広がらないはずもなかった。

 

言霊とともに、静花の周囲を巡っていた雷球が護堂の支配下へと移る。

それだけではない。

黒雲の中で荒れ狂っていたヴォバンの稲妻までもが、見えぬ手に引かれるように軌道を変えた。

 

「なに……!?」

 

ヴォバンが目を見開く。

 

護堂は右手を高く掲げた。

静花が生み出した雷球と、ヴォバンから奪い取った稲妻が、その掌の先へと次々に集束していく。

 

「アテナ!」

 

その声に応えるように、女神がフクロウの翼をはためかせる。

大鎌を構えたアテナはヴォバンの正面へ躍り出て、老魔王の意識を真正面から引きつけた。

 

ヴォバンは人狼に姿を変え、獣の俊敏さでそれを避ける。

 

「私から稲妻を掠め取るとは! 胡乱な技を使う!」

 

「妾を相手にしながら、なお護堂たちへ意識を割く余裕があるか?」

 

アテナがそう言い放つ。

 

その身の周囲に闇が滲む。

次の瞬間、そこから幾羽もの梟が飛び出し、夜空を裂いてヴォバンへ襲いかかった。

 

だが、老魔王はエメラルド色の瞳を妖しく輝かせる。

梟たちの動きが一瞬だけ空中で鈍った、その瞬間、暴風が唸った。

 

強風は梟たちをまとめて吹き飛ばし、夜の闇ごと遠くへ散らしていく。

 

「小賢しい!」

 

ヴォバンが吠える。

 

だが、その瞬間を護堂は見逃さなかった。

 

「全ての敵は我を、勝利の化身こそを畏れよ」

 

聖句とともに、掌の先へ集束していた莫大な雷が、枝分かれするように解き放たれた。

 

「ちぃ……!」

 

枝分かれした雷は、ヴォバンを檻のように取り囲む。

 

「そこ!」

 

静花が叫び、さらに稲妻を放った。

 

静花の雷と、護堂が『山羊』で束ねた稲妻。

それらが幾筋も重なり、夜空を埋めるようにヴォバンへ殺到する。

 

ヴォバンはいくつかを避雷針のごとく逸らした。

だが、逸らしきれなかった稲妻がその肉体を焦がす。

 

「小細工を……!」

 

ヴォバンが呻いた。

 

その一瞬の乱れを、アテナは見逃さない。

 

梟の翼をはためかせ、女神が一気に間合いを詰める。

 

漆黒の刃が夜に軌跡を描き、ヴォバンの肉体を袈裟斬りに切り裂いた。

 

「ぐ……!」

 

そこへ護堂が、雷雲より電撃を落とした。

 

青白い閃光が人狼を直撃する。

 

だが、ヴォバンは自身の肉体を走る稲妻を巧みに逃がし、ダメージを抑えていた。

 

「悪くないぞ。このヴォバンが狩るに値する獲物どもらしくなってきたではないか」

 

ヴォバンは上空で笑っていた。

 

「お前たちの奮戦に、褒美を与えてやらねばな」

 

ヴォバンはそう言いながら聖句を唱えた。

 

「我は告げる。生あるものは全て平等であると。罪人も聖人も、凡愚も英雄も、無垢なる子供もその母も、我は等しく火の糧としよう。焔の煉獄、火の王国が生まれる瞬間を――刮目して見るがいい!」

 

その言霊とともに、上空へ巨大な火球が現れた。

 

火球は見る間に膨れ上がり、夜空を埋め尽くさんばかりの劫火と化す。

 

次の瞬間、それは地上へ向かって落下を始めた。

 

ひとたび着弾すれば、直径二十キロにも及ぶ範囲を焼き尽くす焦土殲滅の権能だ。

 

「この辺を全部焼き尽くすつもりかよ! くそっ、傍迷惑ぶりじゃドニ以上じゃないか!」

 

「そんなこと言ってる場合!? 早く何とかしないと、全部燃やされちゃう!」

 

「大丈夫だ、俺がやる!」

 

護堂はそう言うと、化身を『白馬』へと切り替えた。

 

「我がもとに来たれ、勝利のために。不死の太陽よ、輝ける駿馬を遣わし給え。駿足にして霊妙なる馬よ、汝の主たる光輪を疾く運べ!」

 

東の方角から、第二の太陽が昇る。

 

そこから放たれた白き焔の槍が、夜空を裂いて奔った。

 

護堂は白き焔が放たれる角度を調整し、火球が射線上に来るようにする。

 

火球に白き焔が直撃した。

 

次の瞬間、周辺一帯を揺るがす凄まじい爆発が巻き起こる。

 

膨れ上がった衝撃波が、暴風のように四方へと広がった。

 

護堂と静花は飛ばされないように身を低くした。

アテナは巧みに梟の翼をはためかせ、姿勢を制御する。

 

ヴォバンは風を使って、爆風をうまく逸らしていた。

 

「くははは! 太陽より天の焔を落とすか! 愉しませてくれるではないか」

 

「あんたはもういい歳だろ? おとなしく隠居したっていいんじゃないか?」

 

護堂が、目の前の老人の無茶苦茶さに呆れたように言った。

 

「私の最大の娯楽は狩りなのだよ。隠居などしてみろ。飢えた獣を檻に繋ぐようなものだ。いずれ檻など壊したくもなるとも」

 

「なら、叩きのめしてでも無理やり隠居させてやるよ、じいさん」

 

「くくく。ならばやってみせるがいい、小僧ども!」

 

次の瞬間、ヴォバンの肉体から膨大な呪力が噴き上がった。

 

「雨よ来い。稲妻よ大地を撃て。風よ吹きすさべ! 風雨雷霆を呼び起こし、この地を狂乱の渦に包み込んでやろう!」

 

言霊が響いた直後、膨大な上昇気流が発生する。

竜巻が幾重にも立ち上がり、砕けた石畳も木々も瓦礫も、地上のすべてを呑み込むように巻き上げていった。

 

「なっ!」

 

「うそでしょ!」

 

「これは……!」

 

護堂と静花の体が吹き飛ばされ、アテナもまた乱気流に揉まれる。

 

「こっちに来い、真神!」

 

静花が叫ぶと、大口真神が暴風を裂いて駆け寄ってきた。

乱気流に煽られながらも、静花は必死に白い毛を掴み、その背へと身を預ける。

 

そのまま真神を操り、付近でまだ形を残している建物へと接近させた。

手を伸ばせば届く距離まで寄せる。

 

時間がない。

ヴォバンが嵐の力を完全に発揮する前に、準備を終えなければならなかった。

 

「轟音轟かし、大地を震わす者よ――その力を我に与えよ!」

 

怪力を得る能力。

『贄』は、『人の作りし巨大なもの』。

 

形を残していた建物が青い炎に包まれた。

それと同時に、静花の内へ凄まじい膂力が流れ込む。

 

そのまま静花は、大口真神の白い毛をさらに強く掴んだ。

 

「我は世界に再生と終末を告げる黒き竜なり!」

 

一方、護堂はニーズヘッグの権能の聖句を唱え、再生能力と呪力を高めた。

 

吹き飛ばされながらも、嵐に耐え抜くための呪力と再生力を強引に引き上げる。

暴風に巻き上げられながらも、その体が砕けることはない。

 

一方、アテナは幼い身を覆い隠すほどの銀色の大楯を出現させた。

 

「くっ……完全ならざるアテナでは、ゴルゴンの楯を使えぬか……!」

 

本来なら、メドゥサの加護が込められたその楯は、隕石の衝突にすら耐えうる強固さを誇る。

だが、今のアテナでは、その力を完全には引き出せないのだ。

 

そして、ヴォバンの嵐は容赦なく三人を呑み込んだ。

 

視界は白と黒に潰れ、上下の感覚さえ曖昧になる。

荒れ狂う気流が全身を引き裂くように叩きつけられた。

 

護堂は歯を食いしばる。

高めた再生能力が傷を塞いでいくが、それを上回る勢いで新たな裂傷が刻まれていった。

 

アテナもまた、フクロウの翼を打ち振って体勢を保とうとする。

だが、積乱雲の中では風の流れそのものが狂っていた。

銀色の大楯で致命傷こそ防いでいるものの、その小さな身体は激しく振り回され続ける。

 

静花は大口真神の背へしがみついていた。

白き神狼ごと雲の中へ呑まれ、二人まとめて荒れ狂う気流の中を翻弄される。

 

怪力の権能で毛並みを掴んでいなければ、とっくに振り落とされていただろう。

大口真神もまた無傷ではなく、白い毛並みのあちこちに裂傷が走っていた。

 

「お兄ちゃんたちに近づいて!」

 

静花が叫ぶと、大口真神は咆哮を上げ、まずアテナのいる方へと進路を変えた。

 

乱気流に翻弄され、傷つきながらも、その巨体はまっすぐアテナへ迫っていく。

 

アテナは静花に気づくと、フクロウの翼を無理やり打ち振って大口真神へ飛びついた。

白い毛並みを掴み、その直後に銀色の大楯を広げて、自身と静花を覆い隠す。

 

「ありがとう、アテナさん!」

 

「礼はまだ早い。まずは護堂を拾うぞ。生き延びてから言え」

 

静花は大口真神を、護堂のもとへ無理やり向かわせた。

 

護堂は乱気流に揉まれ、全身に傷を負っていた。

 

「お兄ちゃん! 手を伸ばして!」

 

静花は乱気流に負けないよう、声を張り上げた。

 

護堂は『雄牛』を発動して怪力を得ると、大口真神の毛を掴んだ。

 

「助かった。静花、アテナ!」

 

護堂は二人に礼を言った。

 

嵐の中では、吹き飛ばされた建造物と膨れ上がった気流が渦を巻き、その合間を無数の稲妻が迸っていた。

 

その嵐の中央に、老魔王が君臨している。

 

「この嵐を防ぐとはな。未熟な『王』と不完全な『神』であっても、中々愉しませてくれる。いい意味で予想外だぞ」

 

戦いは、さらに次の局面へ移ろうとしていた。

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