神殺し兄妹と女神様   作:ダッソー

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七話

 

「正史編纂委員会に一応は協力するって伝えてくれませんか?

あたし達も日本が紛争状態になるのは嫌ですし。

それと、あたし達が暴れている人にすごく怒っている、とも言っておいてください」

 

「はい、そのようにお伝えします」

 

護堂と静花は、正史編纂委員会に“名前を貸す”という形で協力することにした。

二人とも、この国が紛争状態になるのは望んでいないのだ。

 

「それと、アテナさんはこういうのには興味がないから、手を出さなければ何もしないと思います」

 

「然り。人間同士の争いなど、妾の知ることではない」

 

アテナが静花の言葉を肯定すると、万里谷はどこかホッとした表情を浮かべた。

まつろわぬ神が暴れる気がないと分かるだけでも、大きな収穫だろう。

 

そう万里谷に伝えてもらうことにして、この場は解散となった。

 

「とりあえずはこれでいいかな。カンピオーネの怯えようを見れば、あたし達が怒っているって伝えればある程度は落ち着くだろうし。

後は様子見かな」

 

「……そういえば静花、何であの時、正史編纂委員会のボスになるって言わなかったんだ? お前ならやりそうだろ?」

 

「ほんとお兄ちゃんって、そういうとこ鈍いよね」

 

護堂はこういった駆け引きが苦手で、妹の静花の方がずっと得意だった。

 

「正史編纂委員会が政府直属の組織なのは分かってるけど、その実態までは分かってないんだよ。

それに、この国の呪術界はあたし達の力を巡って内紛一歩手前にある。

あの人たちだって、あたし達の力を利用しようとしてるのは見え見えでしょ?」

 

「まあ、それくらいはな」

 

「だからこそだよ。仮にも政府の機関だから、内紛一歩手前なのは本当だろうけど、あたし達をどうしたいのかまでは分からない。

だからとりあえず、あたし達の名前だけを貸して、どう出るかを見るってわけ」

 

「俺たちをどうしたいのか知りたいのなら、万里谷に聞けばよかったんじゃないのか?」

 

「万里谷さんは、そういうことは知らないと思う。

あの人は誠実で、人を騙したり利用したりするのが苦手だからね。

だからこそ、余計な裏事情は任されずに、ただ“協力してほしい”ってお願いだけを伝える役目にされたんだと思う。

その方が、あたし達も受け入れやすいし、万里谷さん自身の性格にも合ってるから」

 

「……なるほどな」

 

護堂は腹芸は得意ではないので「できる人がやればいい」と言う考えなのだ。

苦手なことには無理に手を出さずに得意な人がやればいい。

だから、こういったことは静花に任せればいい。護堂はそんな呑気なことを考えながら、帰路についた。

 

 

万里谷祐理との会合からしばらくして、新学期も始まったころ。

静花は家に帰った後、私服に着替え、夕食の買い物に出かけていた。

そのとき、人通りの少ない道で八人の覆面の男たちに囲まれた。

 

「……あたしに、何の用でしょうか?」

 

口ではそう言いつつも、内心では警戒心を高めていく。

八人の男たちは体格がよく、荒事に慣れていそうだった。

静花の目には、どこかの組織の下っ端と映る。

 

そう考えていると、いきなり前方の男が殴りかかってきた。

それを右にひょいと避ける。

続いて別の男が横から手を伸ばしてきたが、それも後ろに下がってかわした。

 

カンピオーネ特有の集中力と直感で男たちの攻撃をかわしているが、一方的に襲われるのは気分がいいものではない。

――反撃に出るとしよう。

 

静花は周囲を軽く見渡し、今の状況にちょうどいい能力が使えると判断し、早速それを発動した。

 

「陽光よ、運び手たる我が手に集え!」

 

太陽の弓矢を得る能力。贄は「高くそびえ立つもの」。

近くの電柱が燃え上がり、静花の手に輝く弓が現れる。

彼女は太陽の矢を番え、弓を引き絞った。

 

その光景を見た男たちは我先にと逃げ出したが、逃すつもりはない。

襲われて少し腹が立っていたのだ。脅すくらい構わないだろう。

 

ほんの少しの苛立ちと共に矢を放つと、閃光と衝撃波が迸った。

 

静花が放った太陽の矢の着弾と同時に迸った閃光と衝撃波で男達は薙ぎ倒されていった。

衝撃波により住宅街の窓ガラスが割れてしまったが、必要経費だろう。

今回使用した矢には威力などこめていなかったのだが目の前の男達を倒すには十分だ。

 

「どうも、すみませんでしたあ!」

 

「申し訳ありませんでしたあ!」

 

「この命を差し出しますので、どうか故郷の家族には御慈悲を!」

 

「今回の不始末、自分たちの命でお詫びいたします!」

 

そうして薙ぎ倒された男達はこうして静花の前で土下座している。

日本での最上級の謝罪と認識しているらしい。

 

「それで、あんたたちは何者で、どうしてあたしを狙ったの?」

 

「自分たちは……ミラノから来たのですが……」

 

男たちが話し始めたその時、『猪』の咆哮が轟いた。

静花がそちらに目を向けると、男たちは顔を真っ青にする。

 

「お兄ちゃんのところにも行ったんだあ……ふうん」

 

さらに男たちの顔色が悪くなった。

兄も襲撃されたことは予想していたが、反撃のために『猪』を使うとは――。

あの兄は自分とは違い、常識がないらしい。

 

静花はそう考えながら、男たちに向き直った。

 

「あたしと一緒に、お兄ちゃんのところまで来てくれるよね?」

 

にっこりと笑う静花の言葉に、男たちは何度も激しく首を振った。

 

 

護堂は、自分を襲ってきた男たちを『猪』で薙ぎ倒し、一通り事情を聞き終えると、目の前の惨状に頭を抱えていた。

 

「お兄ちゃんって、やっぱり常識がないよね」

 

声の方向に振り向くと、妹である静花が、男たちを引き連れながら軽やかな足取りで護堂に近づいてきた。

男たちは恐怖で顔を青ざめさせながら、静花に付き従っている。

 

「静花、これはだな……」

 

「言い訳はなし。お兄ちゃん、『猪』で橋を壊すなんて、無茶苦茶だよね」

 

静花は呆れた目で護堂を見ていた。

 

「あたしはこの人たちから事情を聞いたから、お兄ちゃんはどう?」

 

「俺も聞いたよ。サルバトーレ・ドニが怒って、連れて来いって言ってるんだろ?

迷惑な話だよな」

 

「あたしもそう思う。

……あんたたち、これからどうするつもり?

あたし達を連れていくことには失敗したわけだけど」

 

静花は男達の方を見ながら言った。

 

「自分たちは、これから身を隠します。

元々失敗前提の任務なので、ほとぼりが冷めるまで隠れていれば故郷に戻れると思います」

 

「ふぅん。しばらく暇ってことね。

じゃあ連絡先を教えてくれない?

それから、あたしの呼び出しにはすぐ来れるようにこの国から出ちゃ駄目だからね」

 

その言葉に男たちは目を丸くした。

 

「え?」

 

「え? って何よ。しばらく隠れてるんでしょ?

隠れてるだけなら暇でしょ?

なら、あたしに手を貸しなさいよ。ほら、早く連絡先を渡してくれない?」

 

護堂はその光景を見て、「静花の悪い癖が始まったかぁ」と思った。

静花は天性の女王様気質。人を使うことが生き甲斐のような人間だ。

だから少しでも使えそうな人間を見ると、すぐ自分の『舎弟』に加えてしまうのだ。

 

「あの、自分たちも他組織の人間ですので、『王』の命令とはいえ、従うと色々と問題がある訳でして……」

 

「なら、あたしが帰れるように命令してあげるわよ。

それに、あんたらを鉄砲玉扱いする人より、あたしに従った方が嬉しいでしょ?」

 

「そ、そのぉ……」

 

「嬉しいよね?」

 

「は、はい! とても嬉しいです!」

 

静花がにっこりと微笑むと、男たちは顔を青ざめながら必死に首を振った。

その必死さは、まるで捕食者に見つめられた小動物のようだった。

 

護堂は少し、男たちを不憫に思った。

 

そんなことをしていると、祐理がこちらに向かってくるのが見えた。

 

「あ、万里谷さんだ。この騒ぎを聞きつけたのかな?」

 

「これだけの騒ぎだもんなぁ」

 

「お二人とも、一体どういうことですか!」

 

「わ、悪い万里谷、こんなことになっちまって」

 

護堂が祐理に事情を説明すると、彼女の怒気はさらに増した。

 

「あなた達は、ただの魔術師にあれほどの権能を使ったのですか!」

 

「し、仕方ないだろ!襲われたんだから!」

 

「周囲への配慮が足りないと言っているのです!

このことを隠蔽するのに、どれだけ迷惑がかかると思っているのですか!」

 

「ぐっ……」

 

「お兄ちゃんは、あたしみたいな常識を身につけてほしいよねぇ」

 

「静花さん、あなたもですよ」

 

「へっ……?」

 

静花は、自分にも話がふられるとは思わず、目を丸くして口をポカンと開けた。

 

「あなたの権能で停電騒ぎが起こっています。

さらに衝撃波で家のガラスは割れ、道には破片が散乱しているのです」

 

「そ、それは必要経費です!

あたしの権能は、何かを贄に捧げないと使えないんですよ!」

 

「何が必要経費ですか!あなた達は『王』なんですよ!

魔術師ならば、王の一声で事足りたはずです。

権能など使わず、あなた達が一喝するだけで良かったのです!」

 

「うっ……」

 

「それなのにこれだけの破壊を!

あなた達は、自分の力と責任を自覚するべきです!」

 

雷が落ちたかのように、兄妹は祐理の勢いに圧倒され、肩をすくめるしかなかった。

 

「今日は委員会に連絡しなければならないので、長々とお話はやめておきます。

明日、七雄のお社に必ずいらしてください。

時間を気にせず、じっくり説教して差し上げますから」

 

微笑みを浮かべた祐理の放つ迫力に、兄妹はただ頷くしかなかった。

 

次の日2人は七雄神社に赴き仲良く祐理から説教をたっぷりと受けることになった。

延々と説教され、冷たくされ、諭されたのだ。

しかも冷たい視線付きで。2人してこってり絞られ家に帰る頃には

だいぶ疲れてしまっていた。

 

護堂はその日の夜、布団の上で天井を見つめながらエリカのことを考えていた。

彼女は、縄張りを荒らした自分たちを助けたという難癖をつけられ、サルバトーレ・ドニによって謹慎処分にされてしまった。

 

エリカは、自分たちの休む場所を提供し、アテナの指示に従っただけだ。理不尽きわまりない。

これは、明らかにサルバトーレ・ドニからの挑発だろう。

 

実際に連絡を取ったエリカも、そのようなことを言っていた

 

『いい、あなた達は絶対に欧州の地を踏んではならないわ」

 

『どうしてだよ?』

 

『これはサルバトーレ卿からの決闘の招待状よ。

あなた達が欧州にきてしまえばサルバトーレ卿は舌なめずりして剣を抜くわよ。

そうなればイタリア中の魔術結社があなたを追うでしょうね』

 

『あの方はあなた達を悪い意味で気に入ってしまってるのよ

護堂、あなたの事は特に気に入られているようね』

 

『本来ならあなたにこうして事情を説明するのも問題行為なんだけど、

あの時助けられたからこうして教えてるのよ

……あの程度のことで借りを返し切れたただなんて思ってないもの』

 

『静花にも女神アテナにも改めてお礼を伝えてくれないかしら

本当ならもっと何かしてあげるべきなんでしょうけど』

 

エリカにはそう忠告されたが、それでも、自分たちに関わったことで困っているのなら、助けに行くべきだろう。

そう思い至った護堂は、大まかな計画を立て、静花に気づかれぬよう密かに準備を進めた。

 

計画実行の前日。長期休暇を前にして、寝る前にアテナへ相談を持ちかけた。

 

「ふむ……つまり、あなたは一人で魔剣の王に戦を挑みに行くため、静花を眠らせておけと?」

 

「挑みに行くんじゃない! エリカの謹慎を解くように話をするだけだ!」

 

平和主義者として話し合いで解決するのだ。

これまでのような破壊は行わないと護堂は決心していた。

 

「何を言っておるのだ……神殺し同士が出会って、殺し合わぬわけがなかろう」

 

「俺は文明人で平和主義者だぞ! なんでもかんでもケンカで決めるわけないだろ!」

 

「……この期に及んでそのような嘘をつくとは」

 

アテナは深くため息をついた。

 

「そもそも、あなたは『剣』の智慧を学んでおらんのだろう?」

 

「当たり前だろ、戦いの準備なんてしたくない」

 

「……やはり体に教えるのが一番か」

 

するとアテナはしなやかな動きで護堂を押し倒し、布団の上に馬乗りになる。

 

「い、いきなり何をするんだよ!」

 

「以前も言ったであろう。あなたに男子の心得を教えると」

 

アテナはどこか冷たさを感じる声音でいう。

 

「……そういえばそんなこと言ってたな」

 

「だが、これまでの付き合いで分かった。あなたは度し難い男だ。

智慧の神たる妾の教えを授けても、一向に改める気配がない。

ならば、否が応にも己が男であると自覚させるしかなかろう」

 

護堂は凄まじいほど嫌な予感に襲われていた。

何故だか知らないが何かとんでもない事を目の前の女神様はしそうな気配がするのだ。

 

「な、何をする気なんだよ」

 

「妾に抱かれろ。そうすればあなたも男として目覚めよう」

 

「……へ?」

 

護堂の思考は真っ白になった。

耳に届いた言葉の意味を理解するまで、数秒の沈黙が流れる。

今、なんと言ったのだろうか、抱かれろ?

アテナに抱かれて寝ろと言うことだろうか?

 

「臥所を共にせよと言っておる。察しが悪い男だな」

 

やはり、『抱かれろ』はそっちの『抱かれろ』だったらしい。

現実逃避していた護堂はすぐに現実に戻された。

 

「ま、待て! なんでそうなる!」

 

「男子の心得を教えるためだ。女を知れば男は変わるそう考えたのだ」

 

アテナは淡々と告げるが、その瞳は何一つとして冗談を含んでいない。

 

「いや、ツッコミどころ多すぎだろ! こういうのは結婚前提の男女がやることじゃないのか!」

 

「人には、臥所を共にするためだけの関係があると聞いたが?」

 

「どこでそんなこと知ったんだよ!」

 

護堂の声は半ば悲鳴じみていた。

 

「お、俺はまだ未成年だぞ! 早すぎるって!」

 

「十五を過ぎれば十分だろう。あなたの祖父も十五で女を抱いたと言っていたが?」

 

「じいちゃん、何やってんだよ!」

 

祖父の遊び癖を引き合いに出され、護堂は布団の上で頭を抱える。

 

「軟弱者め。やはりこの方法が正かったようだな」

 

「何も正しくない! 間違ってる!」

 

アテナの白い指が護堂の服の襟にかかった。布地がきしみ、嫌な音を立てる。

破かれないよう腕を掴み抵抗するがすぐに抑え込まれる。

 

「お、お前は処女神だろ! こんなことしていいのか!」

 

「問題ない。確かに妾は処女神だが、かつては処女神ではなく闇と大地を統べる智慧の女王であったからな」

 

護堂の額から汗がつたう。

まずいこのままでは取り返しのつかない事になる。

 

「いつまでこのようなことを続ける気だ!早く妾に抱かれんか!」

 

「そういうセリフは男が言うもんだろ!

あ、ちょ、やめろって!」

 

痺れを切らしたアテナの動きはためらいがなく、護堂の服を一気に破り捨てた。

次の瞬間、女神の影が護堂の体を完全に覆い隠す。

直後に護堂の情けない悲鳴が響いた。

その夜、護堂は「大切なもの」を失った。




護堂はこれから徐々に性癖が歪められていきます。
可哀想ですね。
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