エンゼルランプの天籟   作:星の海1961

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境界線のある食卓

 毎週水曜日の約束を交わしたばかりだというのに、ノラとレギュラスの再会は、互いの距離を測る暇もないほど早く訪れていた。

 

「ノラ! 今日は予定が空いていたのを聞いて安心したよ」

「私もです! スラグホーン教授。今夜もよろしくお願いします」

 

 銀色の口髭を揺らして笑うスラグホーン教授を見て、ノラは人が喜ぶ姿そのものに、自然と胸が温かくなるのを感じていた。

 

「来てくれたのかね! リリー」

「今年もよろしくお願いします。スラグーン教授」

 

 顔見知りの中で挨拶をしながらギデオンが横から拳を突きあげたのでコツンと小さく拳を合わせる。

 慣れぬぴしっとした格好をして揃う一年生。その中にダークを見つけてノラは後ろから肩を叩いて驚かしながら声をかける。

 

「やっほー、ダーク。どうかしら? この場の雰囲気」

「ダメ、僕、死ぬ」

「死なないわ、落ち着いて。大丈夫だから」

「く、来る前にドレスコードを聞いていてよかったです。そうじゃなかったら、Tシャツで来るところでした」

「おや、ミスター・クレスウェルと交流があるのかね?」

 

 スラグホーンが銀色の髭を撫でつけながら声をかけてくる。その声に驚いたのかピコンとダークが椅子の上で飛び跳ねた。

 

「えぇ。同じ寮ですから。それによくお話させていただいてます」

「そうか! 彼はマグル生まれだとは思えぬほど実に素晴らしい呪文に語学、星座の知識を持っている! ミス・エディソンも気に入ることだろう」

「呪文ですか?」

「血という些細な問題を気にする生徒がいてね。しかし彼はそんな中で上級生に素晴らしい直前呪文で追い払ったのだよ」

「その、たまたま、です」

「謙遜などいらんよ! 誇りたまえ! ミスター・クレスウェルとお話したくなったのだよ。そんなに緊張せずゆっくりしてくれ、有能なみんなと知り合う機会をほんのちょこっと作るだけさ」

 

 そんなスラグホーン教授の話を聞いているときにもう一人の生徒が現れた。

 

「ほっほう!魔法界の小さな王子様のご登場だ! ──よし、全員そろった!」

 

 初めての参加だというのに「魔法界の小さな王子様」という呼び名が冗談めいて響くほど、レギュラスはこの場に“ふさわしい存在”として受け入れられていた。

 嬉々とした顔でスラグホーン教授は周囲を見渡し、席に座るように合図をし、生徒たちは次々と着席していく。ノラはダークの隣が開いていたのでその隣に座ろうとすると、ノラが席に向かおうとしたそのほんの一拍の隙に、レギュラスは最初からそこにいるかのような自然さで隣に立っていた。

 

「エディソン先輩、隣いいですか?」

「もちろん。今日もよろしくね」

「よろしくお願いします」

 

 レギュラスは黒い首ネックのセーターに深い緑色のブレザーというスマートカジュアルな服装でまだ十一歳の子供であるにも関わらずその場にいるだけで大人の男性が着たインフォーマルな服装に見えてくる。

 優雅にノラに一番近い椅子を引いてくれ、ありがとう、と会釈をしながら座った。

 

「さて、さて、みんな座ったな? それじゃあナプキンを取ってくれ。おや、ミスター・ブラックとミス・エディソンは似た色合いの上着じゃないか。仲良く揃えて来たのかね?」

 

 ノラはふと自分の服装を考え直す。かくいう自分も黒い長袖に小さな花が添えられたワンピースに深緑色の軽い上着だという事に気づいた。スラグホーンの言うとおりこれはまるで──合わせてきたような感じだ。ノラがハッと気がついている間にレギュラスが間髪入れず返答をする。

 

「いいえ、揃えて来たわけではありません」

「ほっほう、つまり二人たまたま似た色合いだったというわけだね」

「ご推察の通りです。──しかし、エディソン先輩とは仲良くさせていただいておりますので嬉しい限りです」

「そうか、そうか。仲良くするのはいいことだ。特にこの会合ではね。そうだ、ミスター・ブラック。マダム・カリスとは最近どうだね、彼女も昔はこの会合に参加していてね……実にユーモアのある女性だった」

「えぇ。カリスおばさまには相変わらず仲良くしております。時折教授の事もお話しされています。授業の際にお伝え出来なかったのですが、教授と一緒にワールド箒レースを見に行かないか誘ってほしいという伝言がありますので良ければご一考を」

「なんと! あの刺激的な試合に! しかしワールドとなると──そうだな──職務時間と被ってしまう。さすがに観戦の為に授業を放棄するわけにはいかん。また誘ってくれると嬉しいと伝えておいてくれ」

「もちろんです教授」

 

 丁寧で隙のない言葉運びは、十一歳の子供というより、長く社交の場に立たされてきた者のそれだった。

 

「ミス・リサ・サリーアン。最近聞いたところによると君のお母さんは新しい魔法薬の制作に取り掛かっているとか?」

「えぇ、夏休み中も母は新たな魔法薬を作ろうとしています。ただ──」

「ただ?」

「先日は失敗して髪の毛だけが頭から外れていました」

 

 その言葉にスラグホーン教授は大笑いし、生徒もクスクスと笑っている。

 

「さて魔法薬の天才といえばやはり君だな! ミス・リリー・エバンズ!」

「私なんてリサのお母様にはかないません」

「なになに、君を見て嫌いだと思う人は誰一人いないだろう? 勇敢で……何よりユーモアがある」

「そんなに褒めないでください教授。思わず調子に乗ってしまいそうです」

「君はもう少し調子に乗るべきだ! 君のユーモアは誰もを人を笑顔にする! 私の情報網を舐めない方がいいぞ。ミス・エバンズ」

 

 リリーの顔が燃えるような赤毛と同じ色になりそうなほど赤らみながら、あわ、あわわ、と顔を赤らめて顔を覆う仕草が可愛らしく女子生徒を中心にほほ笑む。

 

「そして勇敢といえばやはり君だろう! ミスター・フランク・ロングボトム! 今年のグリフィンドールクィディッチチームの選手はどうなりそうかね?」

「それは先生。答えられませんよ。ここには他の寮の生徒が多数います。手の内を開かしたとなれば僕はチームメイトのみならず寮中の生徒から叩きのめされてしまいます」

「ほっほう! 確かにそれもそうだ! スリザリンの寮監としては少し……敵に塩を送るようだが……グリフィンドールチームも応援しているよ。もちろん勝つのはスリザリンチームだがね」

「見ていてください教授。楽しい試合にしますよ」

「そういえばアリス・ジョンソンとはどうだね? 最近上手くいっているか?」

「教授。そこまでご存じなら僕らがどういう状況か良くご存じでしょう。仲良くさせていただいてます」

「ふむよろしい! 学生らしい健全な付き合いをするように! クリスマスパーティーに彼女と会えることを楽しみにしているよ」

 

 そういいながらスラグホーン教授はノラに顔を向ける。

 

 「さて、去年のホグワーツ特別功労賞受賞、そして我々の命を救った少女──」

 

 やんのかんの言い合いながらディナーパーティーは進んでいく。大きなイチゴが乗ったケーキを食べて寮に解散することになった。

 

 

 

 

 

「エディソン先輩。寮までお送りします」

 

 レギュラスの突然の言葉に嬉しく思いながらも拒否の言葉を口にする。

 

「同じ方向にあるけれどレイブンクローの寮からスリザリンの寮までは距離があるわ。大丈夫だから気にせずに帰ってちょうだい」

「しかし……」

「大丈夫です! ノラ先輩にはお付きの者がいますから!」

 

 普段よりも美味しいご飯を食べてご満悦になったダークがノラの後ろからひょっこりと顔を出す。

 

「お付きの者」

「お付きの者じゃないわ」

 

 無邪気な冗談に場が和らぐ一方で、レギュラスだけがその言葉を、どう受け取るべきか測りかねているようだった。

 

「そうだ。二人とも挨拶したことないのよね」

「……えぇ」

「こちらはダーク・クレスウェル。それでこちらはレギュラス・ブラック。二人共同じ学年だから顔は見たことあると思うわ」

「そうでしょうか。人数が多くてとても見た記憶はありません」

「僕は見たことありますよ! レギュラスくんは顔も成績もいいですからついつい目で追ってしまいます」

「……ありがとうございます」

 

 レギュラスがなんだかいやそうな──理由は分かるが口には出していないので触れずに──雰囲気を醸し出しているので、挨拶を早めに切り上げてそれじゃあ、とレギュラスに別れを告げた。

 

「彼はもう少しお話ししたかったみたいですね」

「けれどもこんな時間だもの、どうしても難しいわ。まだ二人とも一年生だもの、また話したいことがあればその時に話してくれるわ」

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