エンゼルランプの天籟   作:星の海1961

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同じ風を受ける場所で

「頼むノラ、お願いがある」

 

 図書館で本を読んでいたノラは、その言葉に思わずぽかんとした。彼の名前はデニソン・フリスビー。スリザリンのクィディッチのキャプテン、ポジションはビーターだ。スリザリンの狂犬と呼ばれるほどクィディッチに取り憑かれ、ラフプレーでも名を馳せている。ラフプレーにも練習が必要だと他寮の生徒を箒に乗らせてラフプレーの練習をさせることもあると聞く。

 

「……私、箒には乗れないわ。それに、ラフプレーの練習はやめてって、何度言えばいいの?」

「違うんだ! 何も聞かずに俺のノートを取り返してくれ!」

「ノート?」

 

 その言葉に口を傾げる。確かにこのような物探しはノラがよく頼まれる事件だった。だが、「取り返す」という言葉が引っかかった。

 

「自習室でそのノートで──その、勉強していたんだが、近くの生徒の魔法がうっかり当たってしまって、空を飛んでどこかへ消えてしまったんだ」

「分かったわ。最後に見たのはどこ?」

「恩に着る……!これが今日見つけた空を飛ぶノートだ」

 

 鞄の中から、五冊を超えるノートが次々と出てくる。

 

「全部俺のとは違う。ただその、中身を見て欲しくないんだ。お前なら中身を覗かない。そうだろ?」

「持ち主が分からなければ、中を確認するわ。誰の物かも分からないうちに相手に返すことなんてできないもの。でもそうね、返す相手が分かっているのなら中身を見る必要はないわ。どんなノートなの?」

「青色の布の表紙に銀色の文字で俺の名前が書いてある。闇の魔術に対する防衛術の塔で無くしたんだ」

「名前が書いてあるなら届くんじゃない?」

「ダメなんだ。中身を見られるのだけは、本当にダメなんだ。お前が探してるってなればどんな生徒も中身を開かなくなるから!」

「……分かったわ。それじゃあ、探してみる。闇の魔術に対する防衛術の塔で無くしたのね?」

「あぁ、頼む。俺は今からクィディッチの練習に行かなくちゃいけない。それじゃ、頼んだぞ!」

 

 そう言いながらキャプテンは走り去って行った。図書館の本に後ろ髪を引かれたが本を戻し、司書に睨まれない速度で図書館を後にした。無くしたのは闇の魔術に対する防衛術(DADA)の塔だと言っていた。変身術の中庭で十秒ぐらい空を眺める。しかし、本は特に見つからなかった。だとしたらやはり中である。

 

「……扉の間や塔の上から出てない事を祈るしかないわね」

 

 トトトと階段を軽く駆け上がりながら周囲を見回す。一階、二階、三階、四階、五階……それでも、ノートの姿はなかった。メインホールには居ないようだ。

 狭い階段の間に居るのではないかと降りていくも居たのは口の悪い怪獣像。階段を降りて先にある絵画に少し目を奪われた。

 

『イーリウスの絵』。孤児だった若き魔法使い、イーリウスを描いた絵。大量の吸魂鬼と闇の魔法使いラツィディアンに襲われた村を、ネズミの守護霊を呼び出して救った話。自分と同じく親族を持たず、それでも誰かを救った人物。ノラはこの人のようになりたい。そう思いながら目線を前に向けた。

 

「居ませんように……」

 

 次は……気が引けるが闇の魔術に対する防衛術(DADA)の教室の前を通ってこっそり教室の中を覗く。運良くローズベルトは居ないようだ。それと同時にノートもないようでそっと離れる。生徒の憩いの場で紅茶のある区画で話している人達に聞いても今日はノートが飛んでいるのを見たことがない、と言っていた。全てデニソンが見つけてしまったのだろう。ノートの見た目と見かけたら取っておいて欲しい事、中身を見ない事を頼んで自分は階段を登っていく。

 空き教室の中、空き教室の前、そして、呪文学の教室の前。巨大なホールのような部屋、深い青色の壁居たと豪華な木製の装飾で彩られている。

 

「ノートが飛んでいたら──」

 

 またお願いをしてまた走る。ここにもなかった。外に出てないと良いのだけれど。そう思いながら更に階段を登る。見当たらない。

 この先に行って無ければ本当に外で飛んで行っているかもしれない。天文学の教室を見る。ない。階段を更に登って天文台の方に走って行く。

 その時だった。手すりを駆け上るようにして一人の男が通り過ぎて行った。

 橙色のコートは煤け、星の刺繍が剥げかけている。ワインレッドと紫色の派手なズボンは鮮やかで。頭には青いダイヤ柄のシルクハットが乗っかり、赤いリボンが不気味に揺れている。青みがかった灰色の髪は乱れ、黄色の瞳には隠しようのない狂気が宿っていた。

 

「ピーブズは見つけた! ピーブズは見つけた! このノートはピーブズのものだ!」

 

 よりにもよって、だ。ピーブズはゴーストではない、ポルターガイストだ。お願いなんてしようものなら逆にノートの中身をばらまかれてしまう。ピーブズをなんとか出来るのは血みどろ伯爵だけだが、都合よく血みどろ伯爵が現われるわけもない。

 かといってピーブズはダンブルドアですら手を出せない存在。そんな相手にノラが敵うわけがないのだ。

 ノラが追いかけて階段を登った先、そこでピーブズが逆さになってノートを読んでいた。ノラの顔を見かけるなりその目を歪ませてノラの周りを飛び回る。

 

「お~や、小さな小さなおちびちゃん! 調子に乗ってこのピーブズの前に現われた? 愚か愚か、さて、今日はどんないたずらをしてやろうか」

 

 そんな言葉を吐くピーブズを、ノラは無視した。目を合わせたら終わり、何をしだすのか分からない。かといって──

 

「無視をしたって無駄無駄! お前には肉体があるからピーブズはなんでも出来るのさ!」

 

 意味があるかと言えば、意味は無い。ただ単に面白くない、そう思わせればこちらの勝ちだ。だが、人間の本能とは恐ろしい。何も考えていないのにピーブズの持っているノートを目で追ってしまった。

 それをしまったと思うより早く、ピーブズはぐるぐると回る輪の上に乗ってノートを大声で読み始める。

 

「これはこれは! クィディッチ選手達の分析じゃないか!」

 

 そう考えをまとめた後に大声でノートの中身を読んでいく。選手達の名前と得意な動きと苦手な動き。ピーブズに読み上げられていなければ、よくここまで分析したものだと感心したはずだ。

 

「アクシオ!」

「効かない~! 効かない~! ピーブズには呪文が効かない~! アハハ!」

 

 ノラが杖でなんとかしようとするも、ピーブズは体を持たない存在だ。そんな者相手に呪文が効くはずもない。強引に奪ってしまおうか。足に魔力を込め、飛び上がろうとした次の瞬間だった。

 

「ピーブズ、そのノートを置いてどこかへ行け」

 

 ノラとピーブズ、二人ともが思わず肩を跳ねさせた。血みどろ男爵の声だ。けれども一体どこから。二人してキョロキョロと周囲を見回すが見当たらない。

 

「ピーブズ、聞こえないのか」

 

 怒気の籠もった声にピーブズは輪の上から飛び降り、ノートをノラにグイッと押しつける。

 

「ピーブズはノートを持っていません! それでは伯爵、失礼します!」

 

 そういうとピーブズは手すりを滑り台のようにして居なくなった。

 

「その、血みどろ男爵、ありがとうございます」

 

 ノラがそう言うもどこにも血みどろ男爵は現われない。血みどろ伯爵もノラが会話をしたことのないゴーストの一人だった。灰色のレディー同様、ノラを見るとどこかへ飛んでいってしまう。今回もそんな感じなのだろうか。そう首を傾げていると下から階段を登ってくる音がする。

 

「やぁ、ノラ。僕は役に立てたかい?」

「フランク!」

 

 現われたのはフランク・ロングボトム。スラグホーンの集まりで出会った一人で、アリスのボーイフレンド、そして──グリフィンドールのキャプテン、ポジションはチェイサーだ。

 

「……聞いた、わよね」

「……まぁ、耳にまぶたはないからね」

「その、忘れてもらえると助かるのだけど」

 

 ノラの一言にフランクはチラリとノートの名前を見る。

 

「でにも卑怯な事ばかりしていると思ったけれど……そこには努力があったんだな」

「……」

「大丈夫。このことは誰にも言わないよ。約束する。僕は口が堅いんだ。それに、実は聞いた内容も忘れているんだ。ピーブズを追い払うのに必死でね」

「ピーブズを追い払うのに?」

「さっきの血みどろ伯爵の声、実は僕なんだ。声を変える魔法だよ。上手くいくか不安でね」

「ありがとう。フランク、その、聞いていれば自分の益にもなったのに……」

「僕らグリフィンドール生はデニソンみたいなラフプレーをするような奴らには負けないからね。だから、大丈夫なんだよ」

 

 ノラが不安そうに見ているのを見てフランクは笑う。

 

「君の事だ、デニソンにノートを探してくるように頼まれたんだろう? 早くノートを持って行ってあげて。不安だろうから」

「フランク……! ありがとう! この恩は必ず返すわ!」

「気にしないでくれ。いつもアリスがお世話になってるからね」

 

 そんな言葉に背中を押されてノラは階段を降りていく。出会った生徒に「ノートは見つけたわ。探してくれてありがとう」とお礼を言いながら。

 中央ホールを通り過ぎていると温室から一人の少年が声を掛けてきた。

 

「エディソン先輩」

「あら、レギュラス」

 

 レギュラスはノラの手の中の物を見て一言。

 

「また人助けですか?」

「ただの捜し物よ」

「それを人助けと言うのです。フリスビー先輩ならスリザリン生ですから僕から渡しておきましょうか?」

 

 レギュラスの言葉に首を横に振る。

 

「いいえ、これは私から渡さなくちゃいけないの」

「では寮から呼びましょうか?」

「さっきクィディッチの練習に行くって言っていたから多分今はクィディッチ競技場よ」

「……クィディッチ、ですか」

 

 その言葉にレギュラスはどこか目を輝かせる。箒の事となると凄く話していたし、もしかするとクィディッチも好きなのかもしれない。

 

「一緒に見に行く?」

「良いんですか?」

「駆け足になってよければ」

 

 ノラのその一言にレギュラスは悩んだような顔をしたが首を縦に振る。

 

「先生に注意されない程度で」

「勿論」

 

 二人で校庭へと向かう。入り口の折れた箒を見てレギュラスが口を開く。

 

「セレーネ・ワートナビーは月面に行けたと思いますか?」

「どうかしら。でも行けていない事を祈るわ」

 

 ノラの言葉に扉を開けていたレギュラスは驚いたような顔をする。

 

「エディソン先輩の事だから行けていると言うかと思っていました」

「……月はきっと一人で寂しいもの。誰かが一緒じゃないと、寂しいわ。途中で術は失敗した。だから箒は折れて残されたのよ」

 

 レギュラスは一瞬悩んだような顔をしてから口を開く。

 

「僕は行けたと思います」

「あら、それはどうして? 私はレギュラスの事だから行けてないって言うかと思っていたわ」

「セレーネは行くところまで行った。でなければ箒だけが置き去りにされた理由がありません。もし途中で逃げているような結果なら箒は折れていないでしょうから」

「──レギュラスはその人が、何かを成そうとした意味が失われないことが大切なのね」

 レギュラスはノラの言葉には答えなかった。ただ、そうなのかもしれないと思いながら。

 

 校門を抜けてクィディッチ競技場へ向かう。小さな橋を渡ってクィディッチ競技場の中に着く。レギュラスは言葉を失った。そんな様子に気がついたノラは口を開く。

 

「どうしたの?」

「いえ、ただ……この角度からクィディッチ競技場に入った事がなかったので」

「確かに、選手じゃ無ければなかなかこの所から入る事はないものね」

 

 レギュラスがキョロキョロと眺めているのを微笑ましく思いながらノラは空に大声を出す。

 

「デニソン! ノート、見つけてきたわよ!」

 

 その言葉に気がついたのか一人こちらへと飛んできた。当然、デニソンだ。

 

「本当かい?」

「えぇ、ピーブズが持っていたけれど……誰も居ない所に居たから中身は無事よ」

 

 ノラの言葉を聞いてデニソンは安堵したように、大切な物を扱うように、ノートを抱きしめる。ノートをローブの中に入れている時だった。

 

「エディソン先輩! 危ない!」

 

 レギュラスが思いっきり手を引っ張った。

 

「え」

 

 驚く暇も無くレギュラスの胸の中に収まる。するとレギュラスから気品に溢れたベルガモットの匂いがしてドキリと胸が高鳴る。

 

「一体なにが……」

「すまない! そっちにブラッジャーが!」

 

 一人の選手がこちらに向けて声を上げている。デニソンが選手に文句をつけてからレギュラスに向き直った。

 

「ブラック……君の反射能力は凄い。死角からだったのに良く気づいたね」

「ありがとうございます。エディソン先輩、立てますか?」

「えぇ、レギュラスのお陰で無事よ」

 

 デニソンは興奮した様子でレギュラスに詰め寄った。レギュラスは二歩ほど下がったがデニソンは三歩ほどレギュラスに近寄る。

 

「君は良いクィディッチ選手になるかもしれない」

「僕、ですか?」

「来年君が選抜に来ることを祈っているよ」

 

 デニソンはジッとレギュラスの瞳を見ると太陽の様な笑顔を浮かべて肩を叩いた。




レギュラスの香りは私が個人的に「Scently」さんで購入したレギュラス×ノラで購入したオリジナル香水のレギュラスのターンの香水の香りの説明です

レギュラスのターンであるトップノートはラフランス、ベルガモット、ユーカリの三つでした。

ラフランスは、甘味の中にほんのり酸味も感じられる、とろける様な香り。枝先に白く綺麗な花を沢山咲かせ、沢山の実を実らせる植物。

ベルガモットは、シャープで清らかな印象を残しつつ、どこか落ち着きのあるベルガモットの香り、トルコ語で「梨の王」を意味する「Beg armudi」が名前の由来とされています。

ユーカリは、爽やかで森林浴をしているような、清涼感のある自然な香り。山火事のあと、雨をきっかけに発芽するその逞しさから「再生」「新生」という花言葉が生まれたといいます。

の三つでした。
香水の解説は


「深い落ち着きと神秘的な魅力を兼ね揃えている」「見た目の良さに反して人を寄せ付けないところがある」という回答に着目しました。トップノートでは、気品と落ち着きがあるベルガモットの香りが際立ちます。荒涼としては非常に重宝される一方で食べるには苦みが強いことで知られるベルガモットは、魅力的ながらに近寄りがたさのある彼の雰囲気に重なる香りではないでしょうか」

とのことでした。

気になって頂けた方がいらっしゃれば「Scently」さんの再注文から注文することができます。注文番号は

131569

となっております。
レギュラスはこの香水をつけているのか、それともなんらかの理由(シャンプー等)で香ったのかは個人の解釈にお任せします。
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