殺人鬼達に救われる道はあるのか?   作:コミカド

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今までが随分と重苦しい内容を取り扱ってきたので、今回は大分趣向を変えたエピソードになります。
気に入っていただければ幸いです。


劇団アフロディア薬物汚染事件
なぜ不破警視は彼女を恐れるのか?


 私の名前は北見蓮子。

 7歳の時に両親が事故死し、双子の妹と別々の家に引き取られた私は養父母と上手く折り合いがつかず、辛い毎日を過ごしていた。

 それに耐えきれず17歳の時に家出した私は、札幌で知り合った男の家に転がり込んだが、それが全ての始まりだった。

 男は私にイヤな事が忘れられるという薬をくれたが、それは麻薬だった。

 世間知らずの私が薬の正体を知った時には、私の体は麻薬に蝕まれ禁断症状が現れる状態だった。

 

 このままじゃどんどんダメになる。

 

 そう思い詰めた私は男に別れ話を持ち掛けた。

 けれどその瞬間、男は態度を豹変させ激しい暴力を振るった。

 男は最初から、私をクスリ漬けにして風俗に私を堕とすつもりだったのだ。

 

 絶望のあまり偶然手元に落ちた包丁を拾い男に突き刺すと、男はあっけなく死んだ。

 私は僅かなお金を握り締め、逃げて逃げて、生まれ故郷の釧路岬にまで逃げ落ちた。

 

 私はそこで、自分の惨めな人生にピリオドを打つつもりだった。

 出来る事なら、もう一度人生をやり直したかったけれど…

 

 しかしそこで私はある物を見つけてしまう。

 それは身投げしたと思しき自殺者が残した鞄。

 その中には現金、アパートの鍵、そして不破鳴美という少女の身分証明書が入っていた。

 

 ………なにこの人生やり直しセット?

 これさえあれば、不破鳴美として人生をやり直せるんじゃないの?

 いや、そんな甘い話があるわけない。

 戸籍を乗っ取ろうにも、不破鳴美の親や友達とかに見つかるのがオチ。

 

 そう思いながらも、私は鞄の中に入っていた手紙を読んでみた。

 それは遺書であった。どうやらこの不破鳴美という女には身寄りや友人が全くおらず、受験に失敗した絶望感から自殺してしまったらしい。

 

 何この確変大チャンス?

 ここまでくると運命が私に不破鳴美に成り代われっと言ってるようで逆に怖いんだけど…

 

 でもこんなチャンスを目の前にして逃す手は無い。

 私は整形手術で顔を変えると、不破鳴美として第2の人生をスタートした。

 

 それから私は麻薬の禁断症状に抗いながら、バイトで生活費を稼ぎ、図書館で猛勉強する日々を送った。

 とても辛い毎日だった。

 時には極貧生活で空腹のあまり倒れそうになる事も有れば、薬物の誘惑に負けそうになる時だってあった。

 だけど人生をやり直すと決めていた私は、あらゆる誘惑と戦いながら勉学に励んだ。

 そんな生活を続けた私は1年後…

 

 東大法学部に合格した。

 更に卒業後には警察庁に入庁し、北海道警に赴任すると数々の事件を解決し僅か28歳で警視にまで昇進した。

 

 正直見くびっていた…

 まさか私にこんなポテンシャルがあっただなんて…

 人間死ぬ気でやれば何でもやれるのね。

 

 そんな私にとって最大の目標は、私を絶望させた麻薬犯罪を撲滅する事。

 その為に大物の売人として噂されていた『赤髭のサンタクロース』と呼ばれる男を徹底マークし、麻薬ルートを明らかにしようとした。

 

 しかし一年前、『赤髭のサンタクロース』は突如轢き逃げにあい死亡した。

 だが私は単なる轢き逃げ事件とは思えず、独自調査を続け遂に『赤髭のサンタクロース』を殺した万代と虹川の2人に辿り着いた。

 

 殺人の証拠を突き付けると、観念したのか2人ともお互いに罪を擦り付け合い始めた。

 そんな醜い光景を眺めながら、私は巨大な麻薬ルートを自分一人の力で潰した勝利に酔いしれた。

 私は自身の運命に勝利したんだ!

 

 ところが、勝ち誇った私の前に生き別れとなっていた双子の妹、花江が現れる。

 私は思わず妹の名を呼んでしまい、花江も私が姉である事に気が付いてしまった。

 

 それを見た万代たちは私が殺人事件で指名手配されている花江の姉だと理解し、自分達を見逃すように取引を持ち掛けた。

 私は、自分のキャリアを守るためにそれを受け入れる他無かった。

 すると図に乗った奴らは私に対し警察が押収した麻薬を横流しするよう強請って来た。

 

 それだけは出来ない。

 麻薬に人生を滅茶苦茶にされた私が、麻薬犯罪に加担する事なんて絶対に出来ない!

 

 だから私は、万台と虹川の2人を消すことにした。

 その罪を妹である花江に着せて…

 

 

 

 

 犯行現場に選んだのは万代が主宰を務める「劇団アフロディア」が推理劇「ミステリーナイト ナルシスの魔境」を上演する「函館異人館ホテル」。

 ここは『赤髭のサンタクロース』が麻薬取引の為に滞在していたホテルでもある。

 下調べをして『赤髭のサンタクロース』が麻薬の取引に利用していたホテルの一室を確認し、隠し通路のあるこの部屋で虹川を殺害し、その罪を花江に着せる算段をする。

 あとはこの部屋に泊まらせる適当な誰かがいればいいのだけど…

 

 そんな思惑の中、劇の上演日。

 青森県警の俵田が呼んだとかいう金田一一というガキが現れる。

 六角村で起きた事件を解決したという噂を耳にしているが、まあコイツで良いだろうと思いルームキーを受け取ろうとする金田一とフロントの間に割って入ろうとする。

 その瞬間だった。

 

「あっれー!フワちゃんじゃん!?」

 

 突然、そんな声が私の背後から上がった。

 聞き覚えのある声に私は心臓を鷲掴みされた感覚に陥る。

 

 そんなまさか。

 アノ人がこんな所にいるはずが。

 でもこの声は間違いなく。

 

 私は混乱する心情が表に出ないように気を張りながら、祈るような気持ちで後ろを振り向く。

 

「やっぱりフワちゃんだっ!わぁ、久しぶり!北海道警に行ったのは知ってたけど、こんな所で会うなんて凄い偶然!」

 

 絶&望

 神はいなかった。

 

「お、お久しぶりです。野々宮先輩。」

 

 私は何とかダミ声を維持しながら、大学の先輩である野々宮珠樹先輩に挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東大法学部で在学期間が被っていた人間にとって、野々宮珠樹という学生は知らない人はいない超有名人であった。

 学業においては学部きっての才女。

 けれどそれに驕らず、どんな人間とでも積極的に交流を持ち仲良くなれる才能を持ち、その交遊関係は学内に留まらない。

 それこそ「人を集めたければ野々宮を頼れ」なんて話が当然のように噂されるくらい、先輩の交友の広さは認知されていた。

 

 何より世話焼きで人が良いのが先輩が人気の理由だった。

 

 かくいう私も、先輩には非常に世話になった1人である。

 入学当初、正体がバレるのを恐れ他者と交流を持たず他の学生から浮いていた私を先輩は目敏く見つけ、積極的に関わり何かと引っ張り回してくれた。

 

 最初はそれを鬱陶しく思っていたけど、関わり続けるうちに先輩の為人を知り次第に私は心を開くようになった。

 もし先輩がいなければ、私の大学生活はまったく違っているものになっていただろう。

 そう言えるくらいには、先輩は私にとっての恩人である。

 

 

 

 

 でもこんな時に会いたくは無かった!

 よりによって何でこの人が函館にまで来てんのよ!

 

「あれ?フワちゃんどうかした?気分が悪そうだけど。」

 

「い、いえ、そんなわけ無いじゃないですか。まさか先輩がこんな所にいるとは思わず驚いてしまって。」

 

 相変わらずこの人は勘が鋭い。

 ほんの些細な表情の変化で相手の異変を難なく察知してしまえる。

 犯行を遂行するためには今まで以上に表情筋を律さなければ。

 

 それにしても、本当にどうして東京で弁護士をしている先輩が函館にいるのよ?

 

「おお!野々宮先生もご到着ですか。私達もいま到着した所です。ちょうど良い時間でしたな。」

 

「あっ!俵田刑事、お久しぶりです!今回はお招き頂きありがとう御座います。」

 

「いえいえ、むしろ急な依頼でご迷惑じゃないかと心配してたんですよ。」

 

「とんでもない!あの人気のミステリーナイトを生鑑賞できる機会なんて滅多に無いですから。お呼び立てしてもらえて本当に感謝しています。」

 

 お前の仕業か俵田ぁ~!!

 本当に余計な事をしてくれたわね!

 先輩が昔複数の大学にまたがる一大事件を解決した事を知ってて呼んだの!?

 アンタが先輩を呼んでくれたおかげで私の犯行難易度が一気に上昇したわよ!

 

「おっ!珠樹先生こんちわ。今日は恭一郎先生はいないの?」

 

「うん。どうしても抜けられない仕事があってね。私は休みを取って来たの。はじめ君と美雪ちゃんも俵田刑事に呼ばれて?」

 

「ああ。なんかイベントの最中に人が殺されるっていう脅迫状が届いたらしくってさ。」

 

「俵田刑事、私を呼ぶのはまだしも、高校生のはじめ君達を呼ぶのは少しどうかと思いますけど。」

 

「わ、分かってますよ。皆さんの安全には最大限努力します。だからどうか、六角村の時のような推理力の冴えでお力添えを!」

 

「もう、本当に頼みますよ!」

 

 六角村?

 もしかして、先輩って金田一とかいうガキが解決した六角村の事件にも関わってたの?

 だとすれば納得だ。先輩の観察力と分析力をもってすれば、六角村の事件くらいなら難なく解決できるでしょうね。

 流石野々宮先輩。って感心している場合じゃないわ。

 

「ところで野々宮先生。北海道警の不破警視とはお知り合いだったんですか?」

 

「ええ。大学の後輩なんです。学生時代から凄い優秀だったんですけど、ほぼ最短で警視にまで出世するんだから先輩として鼻高々ですよ。」

 

「い、いえそんな。運が良かっただけです。」

 

「運が良いくらいで簡単になれるものじゃないわ。その若さで警視になれたのは、フワちゃんの努力と成果の賜物よ。」

 

 クソッ!

 こんな状況でなければ素直に喜べたのに!

 

「ところでフワちゃん、フワちゃんもこのホテルに泊まるの?何号室?」

 

「え?ええと、314号室です。」

 

「へぇー。あのすいません、314号室の隣の部屋とか空いてないですか?」

 

「えっ?」

 

「え゛っ!?」

 

 な、何を言ってるんですか野々宮先輩?フロントに私の隣の部屋の空き状況を確認して。まさか…

 

「えーと、一応315号室が空いてますが。」

 

「じゃあその部屋を取って貰っても良いですか?もちろんアップグレード分の料金はお支払します。」

 

「ああ、いや。アップグレード料金は必要ありませんが、少し内装が特殊なお部屋でして。」

 

「構いません。それくらいなら気にしませんから。」

 

 いや気にして下さい!

 何この流れ?このままじゃ殺人トリックに利用する予定の部屋に先輩が…

 

「どうかしたかな?」

 

 そこに現れたのは白いタキシード服を着たチョビ髭の老年の男。

 このホテルのオーナーの雪村だ。

 

「それがオーナー、こちらのお客様が315号室に宿泊したいと。」

 

「…ふむ。」

 

 そ、そうよ。

 何にも知らない客を曰く付きの部屋に泊まらせるなんてホテルの信用問題になるわ。

 異人館ホテルは函館でも名の知れた歴史ある名門ホテル。

 そこのオーナーがこんな突然の申し出を受けるわけが…

 

「分かりました。お部屋にご案内致します。」

 

 なに受け入れてんのこのカー○ル・サ○ダース!

 何なの?これがお客様第一主義なの!?お客様は神さまです精神!?そんなんだからカスハラが問題になるんでしょうがぁ!!

 

「やった!これで隣同士だね、フワちゃん!あとで部屋に遊びに行っても良い?」

 

「あっ、いや、そのぅ、一応仕事中なのでそう言うのはあまり。というか、私の隣の部屋ってかなり曰く付きの部屋ですけど、本当に良いんですか?」

 

 出来れば今からでも撤回して欲しい。

 そう願って先輩に尋ねるが、先輩は気にしてない風に笑い飛ばした。

 

「大丈夫、大丈夫。なんかあっても、きっとフワちゃんが解決してくれるって信用してるから。」

 

 ごめんなさい先輩。

 その部屋で何かしようとしているのは私なんです。

 

 それにしても困った。

 こうなった以上、無理に先輩の部屋を変更させる事は出来ない。

 もし無理強いしようとすれば、察しの良い先輩の事だ。

 必ず違和感を覚えて私の行動を不審に思うだろう。

 

 先輩に疑われた状態で殺人計画を遂行する自信は私には無い。

 

 つまり私はこれから、何も知らない先輩の部屋で虹川を殺害し、その罪を一旦先輩に着せ、それから自殺したように見せかけ全ての罪を花江に着せ殺害しなければならない。

 

 ………どうしよう。とても出来る気がしない。

 というか一時的にとはいえ先輩に殺人鬼の汚名を被せると考えるだけで胃が痛くなる。

 本当にごめんなさい先輩。これは全て、麻薬犯罪を撲滅するためなんです。許して下さい。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで先輩は315号室、部屋全体が真っ赤に彩られた客室に宿泊する事になる。

 

 チェックイン直後、私は先輩に誘われホテルのラウンジで軽くお茶をする事になった。

 

「それにしても、本当にビックリしたわよ!部屋中真っ赤なんだから。」

 

「それはさぞ不気味ですね。どうです、今からでも部屋を替えてもらったら?」

 

「ダイジョブダイジョブ!多少内装が変わってると思えば気にならないから。むしろ物珍しい部屋に泊まれたと考えれば良い土産話になるわ。」

 

「あっ、そうですか。」

 

 最早こうなっては先輩を翻意させるのは不可能だ。

 私は胃の痛みを少しでも和らげようと、スプーンで砂糖を掬って紅茶に入れる。

 

「フフッ。」

 

「なに笑ってるんですか、先輩?」

 

「ん?いや、懐かしいなぁと思って。そのスプーンの持ち方。」

 

 そう言って先輩は私のスプーンの持ち方を指摘する。

 私にはスプーンを持つ時に握り締めるようにして持つクセがあった。

 

「すみません。不恰好なものを見せてしまって。」

 

「良いわよ別に。私は気にしないから。ところでフワちゃん、俵田刑事からは劇団に送られた殺人を匂わせる脅迫状を見せて貰ったんだけど、現役の刑事としてフワちゃんはどう思う?」

 

「…現段階では、イタズラか本気なのか明確に判断することは出来ません。しかし、個人的にはアレがただのイタズラとは思えませんね。勘ですけど。」

 

 まぁ実際には本気だけど。

 私が本気でアイツらをブッ殺すつもりだけど!

 

「刑事の勘ってヤツね。俵田刑事も同じ様な事は言ってたし、バカには出来ないわ。」

 

「…野々宮先輩、私からも1つ質問を良いですか?」

 

「ん?なに?」

 

「何で先輩はこんな所まで来たんですか?」

 

「え?それはモチロン俵田刑事から脅迫状の事で相談を受けて…」

 

「それが不自然なんです。先輩は確かにお節介焼きの構いたがりですけど、刑事からの相談を受けたからって休みまで取って函館に来るなんて、いくらなんでも行動力が有りすぎです。とするならば、先輩には脅迫状の一件以外にも何か目的があって函館まで来たんじゃないですか?」

 

 私は学生の頃、一時期毎日のように先輩に引っ張り回されていた。

 だからこの人の事はそれなり以上に理解している。

 そんな私から言わせて貰えば、今回先輩がこのホテルを訪れたのは脅迫事件以上のナニかがあるとしか思えない。

 この人はフットワークが軽いように見せかけ意外に冷静だ。

 ある種の確信が無ければ自分から動き出すことは滅多に無い。

 

 そんな私の指摘に先輩は驚いたような顔をするが、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「いやぁ、流石道警が誇る敏腕女刑事。学生時代とは比べ物にならない推理力ね。」

 

「誤魔化さないで下さい。いったい何を企んでるんですか?教えて貰えないのなら、現場指揮官として先輩を現場から排除するのも厭いませんよ。」

 

「おお怖。まあ別に隠すような事じゃ無いんだけどねぇ。」

 

 そう言うと先輩は両肘を立てて手を組むとそこに顎を載せ私を見据える。

 それだけで、どこかピリッとした雰囲気が周囲に立ち込めた。

 

「ねえ、フワちゃん。私が六角村で関わった事件については当然知ってるわよね?」

 

「それは当然。六角村女子高生殺人事件。世間ではむしろ、村ぐるみで組織的な大麻の密造をしてたことの方が大きく取り上げられましたけど。」

 

「そう。あの事件の根幹にあったのは長年村で行われていた大麻の密造。事件が解決し密造の全貌が明らかにされたけど、それでもまだ不明な点はあるわ。その一つが、麻薬の密売ルート。逮捕された容疑者の話だと、村で製造された麻薬は外部の人間の手によって村の外に持ち出されていたそうよ。」

 

 村の外部の人間ですって?

 それってまさか…

 

「…先輩は、その麻薬を村の外に持ち出していたという人物に心当たりがあるんですか?」

 

「ん?ああ、いや、私に心当たりがあるというよりか、ちょっと気になる情報を耳にしたっていうのかしら。」

 

「と言いますと?」

 

「ええとね、知り合いに警察の捜査情報を服務規定に抵触しない範囲内でちょくちょく教えてくれる警察OBのおじさんがいるんだけどね、その人とこの前食事に行った時に六角村で作られた麻薬が函館の方に送られていた形跡があると教えて貰えて…」

 

「ちょっと待って下さい先輩。なんかもう聞き捨てならない単語のオンパレードなんですが。」

 

 なんだ服務規定に抵触しない範囲内で捜査情報を教えてくれるおじさんって?

 先輩は昔から色んな人と関りを持つが、多分その人先輩の交友関係の中でもぶっちぎりでヤバい人だ。

 

「まあ兎に角、六角村の麻薬の密売ルートに函館を拠点に活動する売人がいるのは間違いなさそうよ。で、その手の話に詳しい人たちに聞いて回ったんだけど、このホテルに泊まっていたという『赤髭のサンタクロース』と呼ばれる人物がどうもそれっぽいのよね。」

 

「それで、真相を確かめるためにここに来たという訳ですか?」

 

「うん。ちょうど俵田刑事からも脅迫状の件で相談を受けたからいい機会だなって思って。やっぱり、あんな悲惨な事件に関わった身としては、どうしても気になっちゃてね。」

 

 なるほど。先輩の気持ちも分からなくはない。

 きっと私も、先輩の立場なら自分が関わった事件の真相を知りたいと思ったはずだ。

 

「というか、フワちゃんだって本命はそっちなんじゃないの?」

 

「…どうしてそう思ったんですか?」

 

「俵田刑事が言ってたの。今回の事件、青森県警と北海道警の合同捜査って事になってるけど、もともとは別件の捜査でたまたま現場が一緒になったから合同捜査の体を為してるだけだって。そこにさっきの麻薬の売人の話を合わせて考えると、フワちゃんが追ってる事件はそっち方面じゃないかと思ったの。フワちゃん昔っから薬物犯罪に熱心だったしね。」

 

 …本当にこの先輩は相変わらず勘が鋭い。

 特に与えられた情報から事件の全容を推測する分析力は捜査一課の警官も顔負けの所がある。

 

「それと私が宿泊する部屋に10年近く泊まっていたという通称『赤髭のサンタクロース』についてさっきホテルのオーナーに聞いてみたの。なんでも、どんな時でも常に全身真っ赤なコーディネートをしていたそうで、部屋を内装を真っ赤にしたのもその人らしいわ。それと矢鱈コーヒーに砂糖を入れてたそうで、甘味を感じる感覚が鈍っていたみたいよ。これについてはどう思う?」

 

「…麻薬中毒者特有の妄執、そして感覚の鈍化ですね。」

 

「そういう事。だから私はこのホテルに泊まっていた『赤髭のサンタクロース』こそ、六角村で製造された麻薬を売り捌いていた売人だと思うわ。」

 

 先輩は確信めいた表情で断言する。

 恐らく先輩の推理に大きな間違いは無い。

 

 私が調査した限り、この異人館ホテルの『赤い部屋』には建築時に作られたと思しき隠し通路が残されている。

 恐らく、『赤髭のサンタクロース』はその隠し通路を使って隣の部屋に泊まった顧客と麻薬の取引をしていたのだろう。

 

「そこまで知っているのなら、隠していてもしょうがないですね。」

 

「お、じゃあやっぱり?」

 

「ええ。私の目的は1年前に死亡した『赤髭のサンタクロース』が構築した麻薬の販売ルートを明らかにする事。それと、『赤髭のサンタクロース』から麻薬を購入していた顧客を逮捕する事です。」

 

「へー、ちなみに『赤髭のサンタクロース』の顧客については目星は付いてるの?」

 

「申し訳ありませんが、先輩とはいえそこまでは。」

 

「あら、残念。」

 

 冗談っぽくそう言う先輩に、私は思わず苦笑してしまう。

 こんな風に先輩と話していると、学生時代に戻ったような感覚に陥ってしまう。

 

「変わって無いですね。先輩は。」

 

「うーん、それってどういう意味?」

 

「ご想像にお任せします。さて、私はそろそろ仕事に戻らないといけないのでこの辺で。」

 

「うん、お仕事頑張ってね!」

 

「はい。先輩も、あまり危険な事には首を突っ込み過ぎないようにしてください。」

 

「分かってるって。あっ!そうだフワちゃん、最後に一つだけ聞きたいことがあるんだけど?」

 

「なんです?」

 

「さっきホテルのスタッフに聞いたんだけどさ、今夜このホテルで推理劇をする『劇団アフロディア』、その劇団長でもある女優の『万代鈴江』さんが頻繁にこのホテルを利用して、しかも『赤髭のサンタクロース』が滞在していた315号室の隣の316号室に必ずと言っていいくらい宿泊していたらしいの。」

 

 先輩の瞳が鋭く光る。

 

「彼女って、もしかして容疑者リストに入ってる?」

 

「……申し訳ありませんが、質問への回答は控えさせていただきます。」

 

 本当に、この先輩は勘が鋭くて油断が出来ない。

 

 

 




・フワちゃん
 東大法学部出身という設定があったばっかりに、随分と可哀想な立ち位置になった人。
 なお、大学時代に珠樹と深く関わったおかげで原作よりも性格が丸くなり交遊も広がった。
 同じく東大法学部出身の明智警視とも大学時代からの顔見知り。
 ポテンシャルでは原作でもトップレベルな犯人だと思う。
 
 因みに原作に東大法学部出身の犯人がもう1人いる。そっちは恭一郎の1年後輩にあたる。

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