殺人鬼達に救われる道はあるのか? 作:コミカド
短編集の事件は今後も幕間で片づけて行こうと考えています。
Midnight法律相談所
ジングル音
♪~OPテーマ~♪
美国「全国のリスナーのみなさん、こんばんわ。今宵は如何お過ごしでしょうか?あなたの身近なお悩みを解決する深夜の駆け込み寺『Midnight法律相談所』でございます。」
「この番組ではリスナーの皆様が抱えるお悩み・トラブルを、本相談所所長の私『美国礼奈』と我が相談所の優秀な弁護士の先生と共に解決していこう、という番組になっております~」
「さあそれでは今宵私と共に皆様のお悩みにお答えする先生をご紹介します。古舘法律事務所の野々宮珠樹先生です。珠樹先生、本日はよろしくお願いします。」
珠樹「あ、ああハイ!よろしくお願いします!」
美国「ちょっと珠樹先生、緊張してます?」
珠樹「はは、どうもそうみたいです。だってラジオ番組に出るなんて初めての事なんで。」
美国「へぇー、なんか緊張してる珠樹先生って貴重ですね。」
珠樹「失礼な!私だって緊張くらいしますぅ。」
美国「ふふふ、良い具合に緊張が解れて来たところで、番組の公式アカウントにリスナーからのコメントが届いてますよ。『珠樹先生声良っ!』『珠樹先生緊張してて可愛い!』ですって先生。」
珠樹「ちょ!可愛いとか止めて下さいよ!私もう30超えてるんだから。」
美国「とか言っちゃって、満更でも無さそうですね。」
珠樹「うう、なんか美国さんいつもより意地悪じゃない?」
美国「ふふ、ごめんなさい。なんか初々しい感じの珠樹先生を見るのは初めてなんで。おっと、こんなコメントも届いてますよ。『珠樹先生と美国所長ってなんか仲良さげですね。以前からの知り合いなんですか?』ということなんですけど、はい、もうかれこれ10年近い付き合いですね。」
珠樹「そうね。大学の頃からだからもうそれくらいになるわね。今はちょくちょく食事に行ったりする関係かな?」
美国「そうですね。この番組が終わったら焼肉屋で打ち上げをする予定なんです。その時の様子は番組の公式アカウントに載せる予定なんで楽しみにしといて下さいね。」
美国「それじゃあそろそろ最初の相談にいきましょう。ラジオネーム『鏡迷宮』さんからのご相談です。」
『美国さん、ゲストの弁護士さん、こんばんわ「こんばんわ~」私は都内で中小企業を経営しています。私には就職活動中の大学生の娘がいます。娘は幼い頃からアナウンサーになることを夢見ており、現在某テレビ局の最終面接まで進んでいます。』
『相談というのはその娘にも関わる事なんです。実は私が経営する会社のメインバンクの支店長の娘さんも、同じテレビ局の最終面接に進んでいるんです。すると支店長は私に対し、娘に最終面接を辞退させるよう迫って来たんです。』
『娘の夢を潰す事など親に出来るわけが無い、と私は支店長の要求を拒否しました。すると銀行は会社への融資を一方的に打ち切ったのです。』
『現在会社の経営は火の車。このままでは倒産してもおかしくない状況です。美国所長、なんとかこの危機を脱する方法はないでしょうか?』
美国「というご相談なんですが、珠樹先生どう思いますか?」
珠樹「うーん……これはかなり悪質なケースね。法律的に見ると、まず銀行側の「融資打ち切り」という行為そのものは、契約内容によっては形式的には可能な場合があるの。融資契約にはたいてい「銀行の判断で取引を中止できる」という条項があるから。」
美国「となると、打つ手は無いという事ですか?」
珠樹「そんな事はないわ。今回のように、支店長の私的な利害関係、つまり『自分の娘の就職に有利にするため』という目的の報復で融資を打ち切ったとなると、これは完全に職権の濫用よ。銀行という公的性質の強い機関の地位を使って、私的な利益を得ようとしたわけだから、銀行内部での懲戒処分や刑事的責任が問われる可能性もあるわ。今回の場合だと、少し冷静に段階を踏んで対処する必要があるでしょうね。」
「まず最初にやるべきは、証拠の確保。支店長が「娘を辞退させろ」と言ってきた場面が、メール・書面・録音などの形で残っていれば、それは非常に強力な証拠になるわ。同様に、融資打ち切りの通知や銀行側からの文書も、必ず保管しておくべきね。」
「次に銀行本体、つまり本店のコンプライアンス部門や内部通報窓口に連絡しましょう。支店長レベルの暴走であれば、本店が介入してくれる可能性が高いわ。もしそれでも対応がなければ、金融庁への相談も視野に入れていいかも。銀行の不当行為として行政処分の対象になり得るわ。」
「そして、経営がすでに厳しい状況であれば、並行して他の金融機関や信用金庫への融資相談も行うべきね。事情を正直に話せば、支援してくれる先は絶対にあるから。」
美国「なるほど、やりようはいくらでもありそうですね。鏡迷宮さん、参考になったでしょうか?厳しい状況ではありますが、希望は大いにあります。諦めず、無理をせずに、周りの人たちの力も借りて、娘さんの夢の為にも頑張ってください。」
「しかし未だにこんな圧力を掛けてくる企業も、今回の場合は銀行ですけどあるんですね。」
珠樹「はい。昨今はコンプライアンスを厳守する風潮が強くなって、大企業や公的機関でも職員の意識改革が進んでいますが、個人の旧い価値観というのは中々改善が難しい部分もあるんですよ。世間の変化に敏感でないと、自分だけでなく周囲の人々にも大きな迷惑を掛ける事も有るというのをもっと自覚すべきだと思います。」
美国「そうですね。私も以前はアナウンサーを目指していた事も有るので、とても他人事ではありませんよ。どうか鏡迷宮さんの娘さんが良い結果を得られることを心からお祈りします。」
美国「さて続いてのご相談です。ラジオネーム『遷都クリスマス』さんから。」
『昨年のクリスマスイヴ、私は母を亡くしました。夜半に頭痛を訴えて倒れた母を私は救急車を呼んで病院まで連れて行ったのですが、生憎その病院は外来の診療時間を終えたところでした。』
『それでも何とか母を見て欲しいと訴えましたが、対応した若い医師は『どうせ大した事は無い』と検査すらしてくれず、もう外来の診療時間は過ぎたと門前払いする始末。結局別の病院に向かったのですが、クリスマスイヴという事も有り渋滞に巻き込まれ、その間に母の容態は急変してしまい、病院に着いて間もなく亡くなりました。』
『死因はくも膜下出血で、あと15分早く手当できていれば助かっていただろうと言われました。私は母の診察を断った病院の医師が許せません。訴えようと思っていますが、実際のところ損害賠償や処分を求めた場合、どのような司法判断が下されるでしょうか?』
美国「と言う内容の相談なんですけども、いやぁ今夜は何だかヘビーな相談が続きますね。」
珠樹「内容的には何一つ明るい要素が無いわね。お母様の御不幸、お悔やみ申し上げます。」
美国「で、実際のところ病院の医師がした事って罪になるんですか?」
珠樹「そうねぇ…法的に見ると、このようなケースは医療過誤の中でも、特に「診療拒否」にあたる可能性があります。ただし、医師や病院には「診療時間外は原則として診療義務を負わない」というルールもあり、命に関わる緊急の場合を除いては、応急の措置を講じる義務は無いとされてるの。」
美国「けれど実際には遷都クリスマスさんのお母様は直後に容態が急変して亡くなってますよね。このような場合でも応急処置を講じる義務は無いと見なされるのですか?」
珠樹「そこが医療過誤の裁判で最も難しいところなのよ。今回の場合だと、明らかに容態が急変していた、あるいは患者側が強く訴えていたのに「大したことはない」と判断して追い返した、という事実があれば、医師の過失とそれによって亡くなったとする『因果関係』の両方を立証できる余地があるわ。」
「けれど、この『因果関係』を証明するのが非常に難しいの。たとえば、『医師が診察しても診療時間外のため専門医がおらず治療は不可能だった』という反論を病院側をしてきた場合、どちらにせよ助からなかった可能性が出てきて病院と医師の過失責任を問う事は非常に難しくなるわ。」
「もちろん、実際の裁判では、医療記録、救急搬送記録、監視カメラ映像、救急隊員の証言など、あらゆる資料を集めて専門家が検討することになる。だけど医療行為というのは専門的な判断の積み重ねだから、裁判所としても「結果が悪かった=過失があった」とは簡単に言えないわ。」
「重要なのは『その時点の医師として、合理的な判断だったかどうか』という点になるから、たとえ結果が悲劇的でも医師の判断が当時の医学水準に照らして妥当とされれば、責任は問えない場合が多いの。」
美国「なるほど。現状では中々厳しそうな状況ですね。何とか良い解決策は無いんでしょうか?」
珠樹「うーん…実は、訴訟を起こすことで精神的に追い詰められるご家族も多いのよねぇ。長期化するうえに、医学的な専門用語の嵐だから。」
「なので、まずは医療ADR(裁判外紛争解決)、つまり医師会や弁護士会を通じた和解手続を利用するのも一つの方法かな。感情的な対立をできるだけ避けながら、誠実な説明や謝罪を引き出せる場合もあるから。」
「これは私の持論なんだけど、目の前で苦しんでいる命を見捨てたい医師なんて本当は一人もいないんです。ただ、医師もまた一人の人間。完璧なんかじゃない。」
「けれど、患者さんやご家族にとっては、その一瞬が人生を左右することもある。だからこそ、せめて『誠実な対応』だけは欠かしてほしくないわね。」
「そして法律家の立場から言えば、こうしたケースは『誰かを罰するため』だけでなく、医療の現場全体をより良くしていくための声にもなり得るわ。一つの裁判や相談が、同じような悲劇を防ぐ制度の改善につながることもあるんだから。」
美国「珠樹先生、ありがとうございます。遷都クリスマスさん、どうか感情的にはならず、お母様、そして貴女自身にとってより良い選択が出来る事を願っています。」
美国「それでは続けましょう。本日最後の相談です。ラジオネーム『割れたビーナス』さんから。」
『私は都内の高校で美術部の顧問を務めている教師です。私は現在、真剣交際している相手がいます。その相手とは、美術部に所属する3年生の女子生徒です。彼女とは卒業後に結婚するつもりでいます。』
『しかし先日、彼女が妊娠している事が発覚しました。それ自体はとても嬉しいのですが、今後の事を考えると不安が大きいです。僕はこれからどうすればいいのでしょうか?』
美国「という事なんですが、コイツいったいどうしてやりましょうか?」
珠樹「とりあえず私が女の子の親だったら、一発殴らせてもらわなきゃ気が収まらないわね。」
美国「その気持ちは大変良く分かりますけど、番組としては具体的な解決策を提示しないといけないのが辛いところですねぇ。」
珠樹「うーん、そうねえ…まず前提として、生徒さんが高校3年生で18歳ということだから、刑法上は未成年者への性的行為という犯罪には該当しないわ。ただし、問題は『教師と生徒』という立場の関係性ね。」
美国「やっぱり問題はそこですか。『犯罪』じゃなくても、『職務上の問題』にはなると。」
珠樹「そうよ。学校は教育の場であり、教師は生徒に対して『指導する側』だからね。たとえお互いに恋愛感情があっても、在学中に交際・妊娠に至る関係は服務上の不適切行為と見なされるわ。だから、学校や教育委員会からは懲戒処分が下される可能性が高いでしょうね。」
美国「そうかぁ……「卒業したら結婚するつもり」という気持ちは理解できますけど、やっぱり時期としては早すぎたということですかね?」
珠樹「古い考えかもしれないけれど、根本として順序が違うからね。感情としては純粋でも、教師の立場ではそれを『正しい行動』として通すのは難しいわ。ただし、もし割れたビーナスが本当に誠実な気持ちで生徒さんと将来を考えているのなら、まず取るべきは正直な報告と誠意ある説明よ。」
美国「報告というのは、学校に対してですか?」
珠樹「もちろん学校側や教育委員会にきちんと報告し、処分を受ける覚悟を持つことは大切よ。だけどそれ以上に必要なのは、生徒さんのご家族に対して誠実に向き合うこと。言い方はアレだけど、大切な娘さんをキズモノにしてしまったんだから。しかも進学や就職が関わる時期だから、親御さんの心労は計り知れないものがあるわ。まずは事の経緯を嘘偽りなく話して、生徒さんのご家族からボコボコにされてください。」
「あと、妊娠というのは彼女の体にも将来にも関わる大切な事よ。産む産まないに関わらず、これから生徒さんに係る心身の負担は途轍もないものがあるわ。まずは彼女の健康と安全を最優先に考えて行動するべきよ。」
美国「なるほど…結婚の話は、それからですね。」
珠樹「ええ。結婚は全ての事実を明らかにし、関係者の理解を得た上で初めて現実的になるわ。もし相手の生徒さんが卒業を待たずに出産を希望する場合は、学校側と連携して在学中のサポートを受けられるようにすることも大切ね。」
美国「うーん……。感情では『愛してるから守りたい』という気持ちだと思いますが、それを『行動で守る』となると、想像以上に重い覚悟が必要ですよね。」
珠樹「それはそうよ。法律的な枠を超えて、人としてどう向き合うかが問われるケースなんだから。恋愛感情そのものを責めるつもりはないけど、立場を越えてしまった責任をどう取るか。それがこれからの人生を決める分岐点になると思うわ。」
美国「……割れたビーナスさん、珠樹先生はあなたを責めたいわけではありません。ただ、『責任』という言葉をきちんと胸に置いてくださいね。きっと、その覚悟があるなら、今後の人生を愛する人と共に歩めるはずですから。」
美国「はい、というわけで本日の相談は以上になります。珠樹先生、どうですか、初めてのラジオ相談の感想は?」
珠樹「あのね、1つ言わせて貰って良い?重い…」
美国「いやホントそうでしたね!なんかヘビー目の相談ばかりで。」
珠樹「職権乱用に医療過誤に生徒の妊娠でしょ?こんなの普段の仕事でもそう無いわよ!」
美国「いやぁ、いつもはもうちょっと軽い相談が多いんですけどね。」
珠樹「はぁ…友達に貸した漫画が返ってこない、とかの相談を想定してたから完全にやられたわ。ねぇ、この後の打ち上げって経費で落ちるのよね?おもいっきり高いヤツ頼んでもいいわよね?」
美国「今日はおもいっきりやっちゃって下さい!経費で落ちない分は番組のプロデューサーに払わせるんで。」
珠樹「やった!明日は休みだし、今夜はオールで行きましょ!」
美国「そっちはほどほどにお願いします。それでは、本日のMidnight法律相談所はこれにて。お相手は私、美国礼奈と。」
珠樹「野々宮珠樹がお送りしました~。」
美国「珠樹先生、今夜はありがとうございました~また来てください~」
♪~EDテーマ~♪
その後の彼ら…
・鏡迷宮
珠樹のアドバイス通りに銀行本店のコンプライアンス部門に連絡した結果、速やかに内部監査が行われ支店長のやった事が発覚。
即座に融資が再開され、鏡迷宮の会社は急場を脱し、社長は体を壊す事は無かった。
なお、銀行の支店長は東南アジアの電子機器製造メーカーに出向させられ、彼の娘は以前のような傲慢な様子は鳴りを潜めたらしい。
・遷都クリスマス
弁護士会を通じ当該病院に対し質問状を提出、当時の病院側の対応に関する説明を求めた。
病院は査問会を開き当該医師に事情を聴いたところ、医師はまさか本当に早急な処置を必要とする患者だとは思っておらず、その後死亡したと聞いて相当なショックを受けていた。
病院側はその後の内部調査を行い、『当時の病院には専門医が不在で緊急手術等のくも膜下出血に対応する態勢は出来ておらず、受け入れていたとしても当院としては対処出来なかった』という調査結果を遺族に説明しつつ、『命の危機に瀕した患者さんと、そのご家族の心に寄り添う対応が出来ず、結果的にご家族の不安と不信を招いたのは病院側の不誠実によるもの』と認め、当該医師に厳重注意を行うと共に謝罪した。
遺族は謝罪を受け、同様のケースが2度と起こらないようにと念押しし和解した。
・割れたビーナス
生徒の家族や学校に事情を説明し、生徒の家族には物理的にボコボコにされ、学校からは当面の間謹慎とし、その後正式に懲戒免職される。
ただ生徒の家族には最終的に卒業後の結婚が認められ、懸命な就職活動の結果とある学習塾への採用が決まっている。