殺人鬼達に救われる道はあるのか?   作:コミカド

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今回のエピソードでは『犬神家の一族』の重大なネタバレが多く含まれますのでご注意ください。
また、今回は原作中の登場人物について本作のオリジナルキャラとの関係性が結ばれており、原作とは全く違ったムーブをします。あしからず。


巽家遺産相続騒動
なぜ老人は『犬神珠樹』と呼ぶのか?


「貴女が『犬神珠樹』さんですか?」

 

 その日、初めてそこ屋敷に招かれた珠樹は、屋敷の主人である老人からそう尋ねられた。

 

 珠樹がその名字は父の代で捨てている、と話すと老人は可笑しそうに笑う。

 

「ええ、存じてます。しかしながら、旧い家の中では未だに『犬神家』は続いており、貴女が『犬神家の一族の末裔』であると信じている者も多いのです。私もその1人です。」

 

 老人の言葉に珠樹は何とも言えぬ表情になる。

 珠樹自身は『犬神』の名前で苦労した覚えは無いが、父は随分と苦労させられたと聞く。

 

 『犬神財閥連続殺人』

 

 昭和の名探偵、金田一耕助が解決した代表的な事件にして、世間では耕助の友人であった作家のY氏によるノンフィクション小説、『犬神家の一族』で知られる連続殺人事件。

 珠樹の祖父、『犬神佐清』はその事件の中心人物だった。

 

 信州の政財界の巨人、犬神財閥の総帥『犬神佐兵衛』。

 その死に端を発する遺産相続を巡る一連の事件は、金田一耕助によって真相が明らかにされ、犯人の自殺を以て解決されたとされている。

 

 しかしながら、関係者にとってはそれで終わりという話ではなかった。

 結果的に佐兵衛の遺言書に名を記された家督の相続人候補で唯一生き残った犬神佐清だったが、彼が犬神家の家長となる事は無かった。

 そもそも連続殺人の犯人は佐清の母親の『犬神松子』であり、動機は息子可愛さのあまり他の後継者候補を殺し、息子に財閥を継がせようとした事であった。

 松子自身は自ら命を絶つことで事件の幕引きをしたが、周囲の人間、特に肉親を殺された者達は松子の思惑通り佐清を犬神財閥の跡継ぎにする事を望まなかった。

 何より佐清自身、母が自分の為に他人の命を奪った責任を痛感していた。

 

 結局佐清は犬神財閥の相続権を手放すと共に、莫大な遺産の大半を慰謝料として事件被害者の遺族に支払い、妻となった野々宮珠世と共に東京で再出発をした。

 その後は犬神財閥の顧問弁護士を務めていた古舘弁護士の支援を受け東京で時計店を開業し、子供にも恵まれ穏やかに過ごしていた。

 

 ただ一方で、『犬神財閥連続殺人事件』の影響は終生付きまとった。

 Y氏の執筆した『犬神家の一族』はベストセラーになり、何度も映画やドラマにされ、「犬神」の名前は良くも悪くも広く世間に知られる事となる。

 結果的にそれで幼少の頃より望まない注目をされていた珠樹の父は、家を出るのと同時に母方の名字に変えた。

 両親もそれについては仕方がない、と理解を示した。

 少なくとも当時の風潮としては連続殺人鬼の血を引くというのは世間体に強く影響し、忌まわしい事件を直接想起させる名字を名乗るのは憚られた。

 

 珠樹が自身に流れる血について説明を受けたのは18歳の時だが、以来モノの考え方や祖父母や両親との接し方が変わったという事はない。

 まあ何人もの人間が命を奪われた事件である以上、無闇矢鱈と話題にするのも憚れるが、かといって生理的に受け付けないタブーという程でも無い。

 珠樹にとって『犬神家』とは、自分が産まれる前に解決した昔の出来事でしかない。

 

 それを正直に告げると、老人はますます笑みを濃くする。

 

「いやはや、その「己は己」とでも言うような凛とした佇まいは本当に良く似ておられる。あの松子さんに。」

 

 老人が告げたその名が珠樹には一瞬誰を指すのか分からず困惑するが、程なくそれが曾祖母の名前であると思い出す。

 

 曾祖母を知っているのですか?

 

 そう尋ねると老人は満足そうに頷く。

 

「ええ、まだ私が童子の頃に会った事が。とても美しく、恐ろしい方であったと覚えています。まるで抜き身の日本刀を思わせるような、そんな方でした。女性に対してそのような感情を抱いたのは後にも先にもあの方1人。貴女にも、その面影があります。」

 

 またもやコメントに困る発言に流石の珠樹も内心でげんなりする。

 普通血の繋がりのある肉親と似ていると評される際、余程問題のある人物では無い限り嫌な気分はしないモノだが、あいにく『犬神松子』という人物は問題が有りすぎる人物だ。

 いくら美しいとはいえ、連続殺人事件を起こした張本人と似ていると言われても素直に喜べない。

 

 それが表情に出ていたのか老人は少しだけ申し訳なさそうな顔をする。

 

「おっと、あまりこの件は深掘りしない方が良かったですな。申し訳ない。なにぶん懐かしさを覚えてしまったもので。さて、そろそろ本題に入りましょう。」

 

 気を取り直し、珠樹は老人の言葉に耳を傾ける。

 

「先日、体調不良で病院に行ったのですが、どうやら死病に罹ってしまいましてな。あと半年ほどの命だそうです。まあ、無理をして生きようとは思いませんので、このまま残りの生を全うする事に集中しようと思っております。そこで、遺言書を作る事にしました。それが此方です。」

 

 老人は懐から封筒を取り出すと珠樹の前に出す。

 だが封筒から手を離す直前、珠樹の方を上目で見た。

 

「先生、貴女はこの家の事情について知っておりますかな?」

 

 妙に迫力のある問いかたに、珠樹はおずおずとした様子で頷く。

 

 老人の家族や家庭環境については、依頼を受けた際にある程度調べている。

 だから老人が遺書や家の事情を口にした時点で、今回の依頼が遺産相続絡みだとは予想がついた。

 

「知っての通り、私には3人の実子と『血の繋がらない息子』が1人います。それを心に留め、こちらをご覧ください。」

 

 老人に促され珠樹は封筒から遺言書を取り出すと折りたたまれた紙を開いて中身を検める。

 目を走らせた珠樹は、恐縮気味に口を開く。

 

 あの…本当に内容はこれでよろしいのですか?多分相当揉めますよ、と。

 

「ええ、承知しています。」

 

 老人は平然と答える。

 珠樹は困惑を隠せない。

 本来遺言書とは、遺族同士が故人の財産や家の将来に関し揉めないように故人の意思を示すためのモノである。

 しかし老人はあえて残される者達が諍いになるような遺言書を残した。

 その意図が読めない珠樹に対し、老人は懐から2通目の封筒を取り出した。

 

「先生、貴女にはもう一枚、此方の書面を託します。私の死後、遺言書公開の場に立ち合うこと、そして『遺産相続に影響を与える事が起きた際』に此方の書類を貴女の判断で公開して貰うこと、それが私からの依頼です。」

 

 そう言って老人が差し出した書面を珠樹は確認する。

 一枚目の遺言書が直筆の書類に対し、二枚目はパソコンで作成された物だ。

 その内容を検めた珠樹は驚愕で目を見開く。

 

「お分かりになられましたか?私がどうしてあのような遺言書を作成したのか。」

 

 老人の問い掛けに珠樹は暫し思案した末に首を横に振る。

 一見すれば遺言書の内容と二枚目の書類の関係性は容易に想像がつく。

 しかし、二枚目の書類を公開する条件が『事が起きたと珠樹が判断した際』というのが、珠樹には大いに引っ掛かった。

 

 それを告げると老人は楽しげに嗤う。

 

「カカカッ!やはり貴女に頼んで良かった。貴女なら、きっと私が望む通りに事を成してくれると確信できました。」

 

 そう言うと老人は、まるで童子のように目を輝かせながら珠樹に問うた。

 

「犬神珠樹さん、貴女は犬神家の惨劇を止めるには、どうすれば良かったと思いますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 金田一一が幼馴染みの七瀬美雪と共に岐阜県奥飛騨にある「くちなし村」を訪れたのは2人にとっての馴染みである剣持警部の依頼を受けての事だった。

 くちなし村の旧家に嫁いだという幼馴染みから「不気味な脅迫状が届けられている」という相談を受けた剣持は、金田一を伴い幼馴染みである「巽紫乃」を訪ねる。

 道中、頭巾ですっぽりと顔を隠した謎の人物から「生首神社」の場所を尋ねられたりもしたが、3人は無事に巽家の屋敷に辿り着いた。

 

 3人は巽家の使用人だという「仙田猿彦」という男によって紫乃の元に案内された。

 紫乃の部屋に入った際に一悶着あったものの、紫乃は3人を快く歓迎してくれる。

 

「剣持さん!本当に来て下さったんですね。嬉しい…」

 

「当然ですよ紫乃さん!金田一という強力な助っ人も連れて来たんですから!」

 

 薄幸ながら何処か色っぽい雰囲気のある紫乃にデレデレする剣持を一はジト目で見る。

 そうすると紫乃の息子である「巽征丸」も現れ、今回の依頼の本題に入る。

 

 事が起こったのは数ヵ月前、先代の巽家当主「巽蔵之介」の死去に伴い、蔵之介が生前遺していた遺言状が開封された。

 巽家の家督の相続は男児のみに限定され、当主が自分の息子の中から才覚ありと認めた者を指名するのがしきたりとなっている。

 蔵之介の息子は長男の「巽龍之介」、次男の「巽隼人」、そして紫乃の息子で養子縁組をした征丸の3人。

 隼人は幼少期に病に罹り精神に失調を抱えている為、実質的に後継者候補は龍之介と征丸のうちどちらか。

 順当に考えて龍之介が選ばれるのが既定路線だと思われていた。

 

「だけど遺言状には『財産と家督は全て征丸に相続させる』と…」

 

 遺言状が読み上げられると場は騒然としたらしい。

 特に自分が新当主になると信じて疑っていなかった龍之介の動揺は激しく、征丸に対して「殺してやる!」と喚いたのだという。

 

 そうした背景があった上で件の『脅迫状』

 「巽家の新当主の首を頂戴つかまつる」と予告する手紙が届き、紫乃は幼馴染みの剣持に調査を依頼した訳である。

 

 正式な家督の相続が行われるのは5日後、現在村で執り行われている『生首祭り』が終わるのに合わせて家督相続の儀が行われるのだという。

 

「この祭りもあと5日…あと5日でアイツらをこの屋敷から追い出せるってワケです。」

 

 紫乃が巽家に嫁いでからというもの、紫乃や征丸は巽家の者達からは邪険にされていたそうである。

 故に征丸は正式に家督を相続した以上、当主の権限で完全に巽家を乗っ取り龍之介達を排除しようとしているらしい。

 その様子に一は不穏な物を感じていた。

 

 すると話の折良く、部屋の外から一達が泊まる部屋の準備が整ったという声が掛けられ襖が開けられる。

 部屋の外には和装の女性が2人並んで座っていた。

 

「あら、ありがとう。剣持さん、此方は我が屋敷の女中をして貰っている桐山さんと蓮見さんです。」

 

「あれ?あなたたち!」

 

 紫乃に紹介された女中のうち、三つ編みでそばかすが目立つ眼鏡の少女が声を上げる。

 彼女は一達が村に来る時に一緒のバスに乗り合わせた少女である。

 少女は屋敷に住み込みで働いている「桐山環」だと快活に名乗った。

 

「それにしても凄い偶然ね。まさか同じバスに乗り合わせた方が奥様のお知り合いなんて。ねっ、蓮見さん!」

 

「…ええ。そうね。」

 

 一方で「蓮見」と呼ばれる背の高い女中の態度は素っ気ないものであった。

 見た目は色白な美人で鈴を転がしたような声をしているが、一達とは一切目を合わせない。

 ただ、一は蓮見の顔立ちに何処か既視感を感じていた。

 

「さあ、お部屋にご案内します。此方です。」

 

 だが蓮見は一達には全く興味を示した様子はなく、自分の仕事を淡々とこなす。

 

 一は宛がわれた部屋で脅迫状や村の祭り、それに先程出会った蓮見という女性について思いを巡らせる。

 その胸の奥では何とも言えぬ嫌な予感が渦巻いていた。

 

 紫乃が鎧武者に襲われたのはその日の夜の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然屋敷に紫乃と彼女の御付きの女中の悲鳴が響き、一と美雪が駆け付けると障子の向こうに鎧武者の影があった。

 影はすぐにその場から消え、後には斬りつけられ出来た障子の穴が縁側の向こう側を映していた。

 

「なんだ!?何があった!!」

 

 一達に続き、剣持や屋敷の住人達が続々と紫乃の部屋に集まってくる。

 その中に1人不機嫌そうな様子で一達を見る若者がいた。

 

「まったく、何の騒ぎだ。鎧武者姿の影?大方、祭りで扮装した村人が迷い混んだんだろう。」

 

「龍之介様…」

 

 紫乃の女中が男の名を呼ぶ。

 この若者こそ、巽家の長男である巽龍之介である。

 

 体格の良い龍之介は騒ぎの発端である紫乃を忌々しげに睨み付けていた。

 

 龍之介のあからさまな敵意に少々呆れながら、一は斬りつけられた襖を指差す。

 

「このキズを見ろよ。ただ迷い混んだだけの村人が刀を振り回すかよ。」

 

「なんだあんたら。人の家で勝手に?」

 

「およしになって、お兄様。お客様に失礼でしょ。」

 

 自分に異論を唱える一に対して食って掛かろうとした龍之介を止めたのは、妹の「巽もえぎ」である。

 

「ごめんなさいね。兄はあのとおりぶしつけで。」

 

「あ、いえ。」

 

 少々つり目で冷たい印象を与える美女であるが、もえぎは兄に代わって一達に丁寧に謝る。

 

「ゲソ跡が有るわね。だけどコレ、どうにもおかしいわ。」

 

 すると首狩り武者が立っていた縁側から声が聞こえてきた。

 一達が振り向くと、そこには膝を突いて泥のついた足跡を検分する蓮見の姿があった。

 

「おかしいって何がですか?」

 

「足跡が途中で途切れてる。まあそれ自体は汚れた草履を脱いで草履を懐に入れてその場を去った、という風にすれば説明は付くけれど…」

 

 剣持の問い掛けに答えた蓮見は意味ありげな視線を巽家の住人達に向ける。

 その意味を一はすぐに察した。

 

「なるほど。縁側の外には足跡らしき物は無い。つまり犯人は屋敷の中に逃げ込んだ訳か。」

 

「なんだとっ!?それだと金田一っ!!」

 

「ああ、紫乃さんを襲った首狩り武者の正体は、この屋敷の誰かかもしれないって事だ!」

 

 一の推理に一同は騒然とする。

 それでも剣持は屋敷内の一斉捜索を提案するが、龍之介が「赤の他人に家の中を好き勝手されるのはゴメンだ!」と拒否して部屋を出ていってしまう。

 

 そこに新たな使用人が現れ、紫乃に「赤沼」という客人が訪ねてきたと告げる。

 その名前を聞いて顔色を変えた紫乃だが、すぐに部屋に通すように告げた。

 

 紫乃の様子に不審な物を感じた一は近くにいた征丸に尋ねる。

 

「征丸さん、赤沼って人はどーゆー人?」

 

「さ、さあ。僕は何も…」

 

 征丸は全く覚えが無い様子で首を振る。

 

 やがて部屋に通されたのは、バスに相乗りし生首神社の場所を尋ねてきた黒子姿の男だった。

 ギョッとする一達に紫乃は亡くなった主人の古い友人だと赤沼を紹介する。

 

 女中に赤沼の部屋を用意するように伝える紫乃だが、女中曰く空き部屋は既に埋まっているとの事。

 どうしたものかと紫乃が困っていると、赤沼が頭巾のしたから籠った声を出す。

 

「『合わせ扉の間』があるだろう。私はそこで構わん。」

 

「あ、合わせ扉の間ですか!?」

 

 女中は驚いた声を上げるが、結局空き部屋はそこしかなく、紫乃も了承した事で赤沼は合わせ扉の間に宿泊する事となった。

 その後、紫乃は赤沼と話しがあるといって2人で奥の部屋へと向かい、蓮見と環に合わせ扉の間の宿泊の準備をするように言い付けた。

 

「なあなあ環ちゃん、『合わせ扉の間』って何なの?」

 

「この屋敷の奥にあるからくり部屋よ。一緒に見に行く?」

 

 環の誘いに応じ、一は美雪と共に環と蓮見に着いて『合わせ扉の間』へと向かった。

 

 合わせ扉の間は、一見するとただの行き止まりである。

 しかし奥の壁は実はどんでん返しになっており、更にその奥には鉄製の扉が控えていた。

 

「なるほど。どんでん返しと鉄の扉で合わせ扉の間ね。」

 

 鉄の扉はドイツ製であり、鍵は複製不可能なうえバーナーでも断裂不可の特別製とのこと。

 

 鉄の扉の奥にはこじんまりとした部屋に家具が揃えられているが、外部の光が届くのは鉄格子の嵌まった小窓のみで何処か座敷牢のような雰囲気がある。

 

「これでも亡くなられた先代様はこの部屋を気に入っていたみたいで、よく御一人で籠られてらしたんですよ。」

 

「へー、モノズキもいるもんだな。ところで蓮見さん、蓮見さんって県外の人?」

 

 唐突な一の問いに布団を敷いていた蓮見の動きが一瞬止まる。

 しかしすぐに体を起こすと無表情のまま一の方を向く。

 

「…ええ、そうですけど。でも、どうして分かったんですか?」

 

「いや、この屋敷の人達と違って全然訛りがなかったから、もしかしたらって思ってさ。」

 

「凄いわね、金田一君。ちょっと話しただけでそんな事も分かっちゃうんだ。」

 

「ああ、ジッチャンに昔少しだけ習ったんだ。ジッチャンは警察の要請で誘拐犯が身代金を要求する電話を聞いて、犯人の出身地を方言から特定したらしいぜ。」

 

 感嘆する環に一が説明する。

 その間も蓮見の顔色は変わらない。

 

「なるほど。流石名探偵の孫と言うだけありますわね。お察しの通り、私は県外からこの村に流れ着き、数ヵ月前にこのお屋敷に雇われました。だから桐山さんよりもずっと後輩なんです。」

 

「でも凄いんですよ蓮見さん。仕事は丁寧だし手際も良くて気が利くし。同じ頃に入った仙田さんの適当な仕事とは大違い。」

 

「あれ?あのちっこいおっさんも最近雇われたの?」

 

「うん。出身はこっちの方らしいけど、ずっと仕事を転々としていたみたい。」

 

 そんな話をしていると、鉄の扉が開かれる音がする。

 現れたのはちょうど噂になっていた仙田と、彼に連れられた赤沼である。

 

「蓮見、環、部屋の用意はもういい。お客様をお連れした。金田一様方も早くお部屋にお戻りください。」

 

 新入りとは思えないほど高圧的に環達に命じ、仙田は一達を部屋から追い出す。

 釈然としない物を感じながらも一は仙田と赤沼とすれ違い部屋を出た。

 

 だがその時、すれ違い様に蓮見が部屋に入っていく仙田と赤沼の姿を着物の袖に隠し持った携帯のカメラで撮影していたのを、一は視線の端に捉えていた。

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