殺人鬼達に救われる道はあるのか? 作:コミカド
なぜ千家貴司はオープンキャンパス先を変更したのか?
その日、古舘恭一郎は事務所近くの喫茶店で待ち人をしていた。
注文したアイスコーヒーで喉を潤していると、制服姿の少年が店内に入り、恭一郎を見つけると軽く頭を下げて近寄ってくる。
「やあ、久しぶり千家君。四ノ倉学園以来だね。」
「お久しぶりです、古舘先生。あの時は世話になりました。」
恭一郎の待ち人は、嘗て四ノ倉学園で起きたイジメ死亡事件の折りに知り合った不動高校2年生、千家貴司である。
千家はウェイターに注文を済ませると、恭一郎に対して丁寧に頭を下げた。
「恭一郎先生、今日はお忙しい中、時間を割いて頂きありがとう御座います。」
「良いって。進学先の相談だっけ?千家君、法学部に進むつもりなの?」
「はい。出来れば法曹関係の仕事に着きたいと思ってまして。法学部の事とか、司法修士課程の事とか、あと実際の弁護士の事とか教えて欲しいんです。」
「うん。俺で良ければ相談に乗るよ。」
恭一郎は千家の申し出に快く頷いた。
千家とは事件を通じて知り合った仲であるが、こうして気持ちの良い若者が法律の世界に興味を持ち、自分の後ろに伸びた道を辿ろうとするのは非常に嬉しい事である。
恭一郎は千家の質問に応じ、法学部のカリキュラムや、司法修士課程でやること、弁護士の普段の業務や給与等についても教えた。
「平均年収700万…こういっちゃアレですけど、弁護士ってもっと稼いでるんだと思ってました。」
「まあ以前に比べて多少弁護士資格も取りやすくなったし、現状供給過多なんだよね。まあ、給与面だけの話をするなら資格を取る労力に対して割に合わないって言う人もいるよね。実際僕の同期でも、事務所に所属出来ずに『ノキベン』、所謂『軒先弁護士』って言って弁護士事務所のデスクだけを借りて弁護士活動をしてる人もいるよ。」
「…思ってたよりも大変なんですね、弁護士って。」
「まあ、それでも社会的に意義のある仕事だよ。やりがい、あるいは使命感を糧にしているとも思われるかもしれないけど、僕としては社会正義の砦となる崇高な職務だと信じているよ。」
胸を張ってそう言う恭一郎に、千家は尊敬の眼差しを向けていた。
「やっぱり凄いですね。弁護士の人って。それに比べてアイツらは…」
「ん?どうかした?」
「あっ、いえっ!何もないです!」
一瞬不穏な目になった千家に恭一郎が声を掛けると、慌てた様子で手を横に振る。
そして気を取り直すようにコホンと咳払いをした。
「あの、ちょっと質問を良いですか?この前ネットを見てた時に、気になる事例があったんです。」
「気になる事例?」
「はい。ある医者が余命半年の患者の担当になった。すると医者は、まだろくに効能が判明していない薬を処方し患者を死なせてしまった。この場合、この医者は罪に問われるんでしょうか?仮に問われるのなら、いったいどんな罪になって、どれくらいの罰を受けるんですか?」
「ふむ。その患者さんは自分の病状については知っていたのかな?」
「…はい。あと半年の命だと知ってました。」
「そうか…なるほど...」
暫し腕を組んで考え込む恭一郎だが、程なく結論を出した。
「そうだな。仮に僕がその医者の弁護をするとしたら、僕は無罪を主張する。」
「っ!それはどうしてですか!?」
「まずこの場合重要なのは、医師の行為が『医療行為』に当たるかどうかだ。前提として患者は病を患っており治療を必要としていた状態にあり、医師はそれに対して医療行為を行った。その際、医師の行為に患者の身体に影響を及ぼす重大な『医療過誤』が認められなければ、医師を罪に問うのはかなり難しいんだ。」
医療過誤に当たるかどうかは、その医療行為が既存の治療法に合致しているか、または疾病に対する治療難易度の高さによっても変わってくる。
例えば不治の病の治療の為に非常に成功率の厳しい手術を行い、術後に患者が死亡した場合だと、そもそも術後の患者の生存可能性が問われ医療過誤には当たらない事がほとんどであり、仮に手術の際に医師に過失があったとしても手術難易度の高さから過失程度は低いと見なされ賠償等は少額になる傾向が強い。
「でも、医者は効能もハッキリしていない薬を投与したんですよ!それって患者を実験動物みたいに扱ったって事じゃないですか!」
「確かにそういう側面が見られるかもしれない。だけどね、人体実験はなんら違法行為ではないんだ。そもそも既存の医薬品は全て人体への影響を調べるために『治験』という形で人体実験を行っている。今回の場合問題となるのは、医師が治療に使う薬品について患者に対して正しく説明していたかになるんじゃないかな?」
仮に医師が病に対する効果が期待できるとして患者に説明し新薬を投与したが、効果は得られずそれどころか副作用によって死期が短くなったとしても、患者事態が余命宣告を受け手の施しようが無かったとするなら、新薬を投与しなかった場合との結果に差異は少なかったと判断できる。
そして病状の良化と副作用の影響を天秤に掛けた際、最終的に新薬を使うかを判断したのが患者だった場合、医師の責任を問うのは非常に難しいと言わざるを得ない。
「というわけで、もし仮に僕が弁護士として医師側を弁護するなら、正当な医療行為の範囲内だったとして過失致死罪については無罪を求めるよ。勝率は決して低くないと思うし。」
「………そうですか。どうもありがとうございます。」
そう頭を下げ千家は席を立つ。
「あれ?もう良いのかい?」
「はい。聞きたいことは聞けたので。古舘先生、本日はお時間を作って頂きありがとうございます。」
もう一度頭を下げ、千家は背中を見せて喫茶店から出ていく。
その一瞬、僅かに覗いた千家の横顔が酷く思い詰めたように見えた事が恭一郎にはとても気に掛かった。
「ふーん、千家君が法学部に興味をねぇ…」
千家と面談した翌日、恭一郎は休憩時間に珠樹を誘うと無人の会議室に入った。
そしてコーヒーを用意すると椅子に座る珠樹に渡し、先程千家と会った時の話をした。
「それで、わざわざ若先生がその話を私にするってのは、単に若い子に頼られたのを自慢したかったから、って訳じゃ無いでしょ?」
「若先生はやめて下さい。ええ、まあ。なんとなく、気になる事があって。」
「…それって余命宣告を受けた患者に医師が効能が無い薬を飲ませて死なせたって話について?」
珠樹の問いに恭一郎は重々しく頷く。
「そうです。千家君はネットで見た事例という風に言ってましたけど、そういうのって、えてして当事者の立場から起きた事例って事が多いじゃないですか。」
「『友達の話なんだけど』『知り合いから聞いた話なんだけど』と前置きがあるのは大抵自分の身に降り掛かった話ってやつね。つまり恭一郎先生は話に出てきた『医師』あるいは『余命宣告を受けた患者』が千家君の身内であると睨んでるのね?」
「その可能性もあるかと。ただそれよりも気になるのが…」
「…何かあるの?」
「ええ。帰り際、千家君の表情がとても厳しかったんです。何というか、『追い詰められた人間』がするような…」
弁護士をしていると似たような表情をする人間には時々接する機会がある。
その多くは、どうしようもない状況に陥り、犯罪に手を染めてしまった容疑者である。
「…千家君が何かをやらかそうとしていると。」
「考えたくは無いですけど。」
険しい表情で答える恭一郎を見て、珠樹は「ふむ」と顎に手を当てる。
やがてカップに入ったコーヒーを一気に煽ると、膝を叩いて椅子から立ち上がる。
「そういう事なら、こんな所でウダウダ悩んでる場合じゃ無いわね。いいわ、一緒に調べましょう。何も無ければ、それはそれで良いことだし。」
「ありがとうございます。お手数をお掛けします。」
「良いわよ。お礼に飲み会でも企画してくれれば。さて、さしあたっては最近の千家君の様子を確かめる必要があるわね。」
そう言って珠樹は携帯を取り出すと、電話帳の宛先を開いてプッシュした。
「……あ、もしもし、はじめ君?少し話をしたいんだけど放課後良いかしら?時間があるなら美雪ちゃんも連れてきて良いわよ。ファミレスで奢るから。」
「へ?千家が法学部に?」
そして放課後、不動高校から少し離れたファミレスに金田一一と七瀬美雪を珠樹と恭一郎は呼び出し、昨日恭一郎が千家から進路の相談を受けた事を話した。
一は珠樹のおごりで注文したDXフルーツパフェをパクつきながら間の抜けた返事をする。
「ふーん、アイツそっちの方にいくつもりなのか。あんまそういった話しないから知らなかったな。」
だがあいにく一の方からは有力な話は聞けそうにない。
普段から勉学には関心がなく、進路についても高校二年生ながらボンヤリとしか考えていない一にとって、幼馴染みの進路は世間話程度の認識しか無いようだ。
一方で隣に座る美雪は、一の様子に呆れながらも意外そうな顔つきをする。
「千家君が法学部ですか?てっきり医学部系に興味が有るのかと思ってました。」
「ん?何で美雪が千家の進路希望を知ってるんだよ?まさかお前ら、俺に内緒で進路を合わせてアハハムフフなキャンパスライフを送ろうと企んでるんじゃ!?」
「ち が い ま す っ!生徒会の仕事で夏休みのオープンキャンパスの希望調査を手伝ったの。最初は別の学部を希望していたのが急に変更したから印象に残ってたんです。」
「オープンキャンパスの希望先を……ちなみに、どこの大学かは分かる。」
「はい。三城大学の医学部でした。」
「そう…三城大学の医学部ね…」
美雪の話を聞いて珠樹は腕を組んで考え込む。
恭一郎が聞かれた末期患者に対する医療過誤、そして三城大学医学部のオープンキャンパスへの希望。
共に医学系の繋がりはあるが、これを偶然の一致とするか意味のある共通点とするか判断するにはまだまだ材料が足りない。
「珠樹せんせー、なんか凄い考え込んでるけど、千家のヤツなんかあったの?」
「いえ、ちょっとまだ何とも言えないけど…ねえ、はじめ君、最近千家君のご家族に不幸があったとか知らない?」
「千家の家族に?いや、アイツの爺さん婆さんは小さい時に皆亡くなってるって聞いてるし、アイツの親は元気な筈だぜ。1人っ子だし親戚が亡くなったって話も特には………いや、でも待てよ…」
一は何かを思い出したように呟くと顎に手を当てた。
「2週間くらい前だったかな…千家が何日か学校を休んでたよな、美雪。」
「うん。教室に来た時も凄く顔色が悪かったわ。目も真っ赤に充血してて、何か相当悪いことがあったんじゃないかって皆心配してたわ。」
「…ねえ、美雪ちゃん、千家君がオープンキャンパスの希望先を変えたのはいつ頃?」
「ええと、確か1週間くらい前、学校を休んでからしばらくしてから……」
2週間前に数日学校を休んだ後に周囲から心配されるくらい顔色を悪くして登校し、その1週間後にオープンキャンパスの希望先を医学部に変更し、更に1週間後には弁護士を訪ねて医療過誤に関する事例の質問をする。
一つ一つの事はバラバラでも、これ等が全く関係していないとするのは考えすぎとは思えなかった。
「珠樹先生、恭一郎先生、やっぱり千家のヤツ、何かトラブルに巻き込まれてるんじゃねえの?」
流石にここに至って一も友人の周辺で起きる不穏な雰囲気を察し、顔つきを変えて珠樹達に尋ねる。
珠樹達は顔を見合わせると目配せする。
「…千家君、恭一郎先生に進路の相談をした時に『余命宣告を受けている患者に効能の怪しい薬を投薬したら医師は罪に問われるのか?』というような質問をしたの。その時の様子がおかしかったから、何か千家君の周囲であったんじゃないかって心配してるの。」
「……つまり、その例え話が実際に会った事で、千家がその当事者かもしれないって思ったわけだ?」
珠樹の説明から素早くその真意を言い当てた一の問いに、珠樹は黙って頷く。
一はいつになく真剣な目つきになると、持っていたスプーンを皿に置き考え込み始める。
その様子に美雪も息をひそめ不安そうに見守る。
やがて小さく息を漏らすと、一は珠樹達の方に視線を向けた。
「珠樹先生、この件について俺の方でも調べてみるよ。アイツに限って変な真似をしないとは思うけど、確かにここ最近の千家は少し様子がおかしいしな。」
「はじめちゃん、私も協力するわ!私だって千家君お友達だもん。ほっとけないわ。」
「…2人とも、ありがとね。」
こうして、一と美雪が調査に加わる事になった。
そしてその翌日、終業のHRが終わり、いそいそと帰り支度をしている千家。
その背後から一は近づくと軽く声を掛けた。
「よう!千家、この後ヒマか?よければ帰りにカラオケでも行かねえ?」
「ああ、悪い金田一。ちょっと用事があってな。」
「そうか、じゃあ明日はどうだ?それか週末でも…」
「ごめん!暫くは忙しくて遊ぶ余裕が無いんだ。また落ち着いたら誘ってくれ。」
「…そうか。なら仕方ないか!うん、また都合がいい時に誘うよ。」
「ありがとな。じゃあ、また明日。」
そう言って鞄を掴み、千家は教室を出ていく。
その様子を見ていたクラスメイトの村上と八尾が金田一に近づいてくる。
「振られちまったな金田一。それにしても、最近千家のヤツ付き合い悪いよな。」
「うん、俺もこの前ゲーセンに誘ったけど用事があるとかで断られたんだよな。」
「まあ、あいつも色々あるんだろ。それよりも金田一、カラオケに行くんだろ?今日はミス研が休みだし特に用事も無いから、代わりに俺たちが…」
「ああ、悪い!村上、八尾、俺もちょっと用事があるの思い出した!という訳で、カラオケはお前ら2人で行ってくれ。そんじゃ!行こうぜ、美雪!」
「うん!」
そう言うと先に帰り支度を済ませていた美雪と共に千家の後を追うように教室を出ていく。
残された村上と八尾は呆然と2人の背中を見送り、「何だアイツら?」と呟くのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
学校を出ると、一と美雪は千家に感づかれないように注意しながら跡を追った。
最寄りの駅から電車に乗ると、千家は路線を乗り継いでいく。
「千家君、本当にどこに行くつもりなのかしら?家とは真逆の方向よね?」
「ああ。だけどこの方向って…」
怪訝そうにする美雪に対し、一は路線の方向から千家の目的地に当たりがついた。
果たして千家が降りた駅は、三城大学医学部キャンパスの最寄り駅であった。
千家は真っすぐに大学の門前に向かうと、どこかに電話をした後にジッとその場に留まった。どうやら待ち合わせをしている様子である。
やがて門の奥から眼鏡をかけた大学生風の男が現れると千家に声を掛ける。
千家は彼に丁寧に頭を下げると並んで歩き始めた。
「誰だアイツ?知り合い…ってのとはちょっと違う気がするなあ。」
「たぶん三城大学の人だとは思うけど…」
一と美雪は男に対する千家の対応からそのように感じた。
やがて二人は大学近くの喫茶店に入っていった。流石に後を追って入店するわけにもいかず、一と美雪は待ちぼうけをする。
結局千家たちが出て来たのは1時間ほどが経ってからであった。
店の前で男に対して再び丁寧に頭を下げる千家に、男は和やかな様子で声を掛け2人は分かれた。
一と美雪は千家が駅の方へ去っていくのを見送ると、反対方向に向かって行く男を追いかけ声を掛けた。
「すいません!ちょっといいですか?」
「うん?なんだい?って、君たち不動高校の子?千家君の友達?」
「え?ああ、まあそうですけど…あの、さっき千家と話してましたよね?どういったご関係なんですか?」
「関係も何も、俺は君たちの先輩だよ。」
「先輩!?って事は…」
「そう、不動高校のOBで今は三城大学医学部の学生だよ。」
そう身分を明かすと、男性は千家との関りについてあっさりと教えてくれた。
曰く、数日前に高校時代の担任から「いま2年生で来年三城大学の医学部を受験するつもりだという子がいるのだが、現役のOBがいるならその人に話を聞きたいと相談された。会ってやってくれないか?」という依頼を受け、本日面談したとの事だ。
「それで千家と…あのぅ、ちなみにどういった話をしたんですか?」
「大した話じゃないよ。医学部のカリキュラムや行事とか。医者は体力勝負だから運動部系に所属しといた方が良いって話もしたかな?あとはそうだな…」
男はどこか言い淀むような様子を見せる。
「…なんか喋り難い事でもありましたか?」
「ああ、いや、あんま人前で言う様な事じゃないしなぁ…」
「えー、そこまで行ったなら教えて下さいよぅ。先輩後輩の誼でさぁ。」
「うーん、いや、しかし…」
「頼みますよ!実は俺たちも来年三城大学を受験しようと思ってるんですよ。千家にだけ耳寄りな情報を教えといて俺たちには教えないって不公平じゃないっすか。なっ!美雪!」
「えっ!?あっ!はい!できれば教えて欲しいなぁ、なんて…」
唐突に一から話を振られ美雪は慌てて話を合わせる。
男は一瞬不審そうにするが、それでも説得が功を奏したのかおもむろに口を開いた。
「うーんまあ、いわゆる注意しといた方が良い先輩について話したんだよ。」
「注意しといた方が良い先輩っすか?」
「うん。ヤバい人なんかいませんか?ってな話を千家君から聞かれてね。学内でもあんま良い噂を聞かない人達の話を少しね。」
「ふーん、具体的にその先輩たちってどういう感じのヤバい人なんですか?」
「そうだな。一言で言うなら医師を目指す人間として倫理観が足りない人たちだね。萬屋っていう総合病院の跡取り息子のボンボンとその取り巻き達なんだけど、解剖の授業の時に献体でふざけて遊んだり、適当に作った薬を何も知らない後輩に飲ませたりするんだ。薬を飲まされたヤツは3日くらい手足の痺れが取れなかったって話だよ。」
「酷い…お医者さんの卵がそんな事を…」
教えられた話に美雪はショックを受けて口を覆い、一も表情を険しくさせる。
「医者はピンキリだって言うだろ?その卵も同じさ。最近もなんかバイト先の病院でえらいことをやらかしたって噂だしな。」
「えっ、医学生もバイトしたりするんですか?」
「そりゃするよ。とは言っても、正式な医師免許なんて持ってないから患者を担当する訳ではないし、やる事と言えば雑用ばかり。それでも、実際の現場を目の前で見れるから勉強にはなるね。大抵はOBがいる所や大学の系列の病院に行くかな。」
「へー、それじゃあそのヤバい先輩達もそっち系の病院に?」
「いや、さっきも言ったけど萬屋の実家は地元でも有数の総合病院で、そこにバイトに行ったって話だよ。そこで何かやらかして大学に慌てて戻ったって噂だ。」
あくまでも噂だし、俺から聞いたってのは言わないでね、と大学生は一達に言う。
一は軽く頷きつつ、これまでの情報を頭の中で整理する。
2週間前から始まった千家の異変。
それが三城大学に通う医大生を通し、段々と1本の線になってきた事に、一は言い表せぬ不安を抱き始めていた。