殺人鬼達に救われる道はあるのか? 作:コミカド
「なるほどね。千家君は三城大学のヤバい医学生について話を聞いていた。」
一達が千家を尾行し、彼と接触していた不動高校OBの医学生から聞いた話を珠樹達に共有すると、珠樹は深く思案する様子を見せる。
その傍らで恭一郎はスマホで萬屋総合病院について検索を掛けていた。
「…ネットを見る限り、萬屋総合病院で医療事故が起きたという記事はありません。つまりその大学生の話が本当なら、表沙汰になっていない不祥事が病院内で起きた可能性がありますね。」
「そしてその不祥事には三城大学医学部の学生が関わっていて、千家君はその事について調べている。そう考えれば、これまでの千家君の行動の辻褄が合うわね。」
当初の想定より事が大きくなってきている予感に、珠樹達の表情も険しくなる。
その緊張感が伝わり、一も知らぬうちに唾を飲み込んでいた。
「なあ、珠樹先生、千家のヤツ、いったい何をしようとしてると思う?」
「…仮に千家君の知り合いが萬屋総合病院で起きたかもしれない医療事故に巻き込まれていたとして、千家君がその真相を明らかにしようとしているなら、萬屋総合病院で起きた事を世間に公表しようとしているとは考えられるわね。」
「でも千家、恭一郎先生に医療事故を起こした医師はどうなるのか?って質問したんだろ?それで恭一郎先生は必ずしも重い罪にはならないって答えて、その後千家は思い詰めた顔をしてたなら、アイツ、まさか…」
もしかしたら友人が最悪の決断をしようとしているかもしれない。
その予感に一は背筋を震えさせる。
もしこの予想が当たっているのなら、なんとしても千家を止めなければならない。
「………恭一郎先生、千家君に連絡を取れる?まだ彼が何をしようとしているかは分からないけど、一度彼と話をする必要があるわ。」
「分かりました。すぐに…」
「待ってくれ!先生っ!」
携帯の連絡先を開こうとした恭一郎を止めたのは一だった。
一は苦しそうな表情のまま、珠樹達に向けて頭を下げた。
「…その役目、俺にさせてくれないか?」
「はじめ君…」
「…俺は千家がバカな真似をするようなヤツだとは思わない。ただここまでのアイツの行動を見てると、アイツの身に何かがあった事だけは分かる!だから、まずは俺から話をさせて欲しいんだ。」
アイツは俺の友達だから...
そう言葉を結ぶと、一は珠樹達に向かって腰を90度に折って頭を下げる。
横にいた美雪もそれに倣う。
珠樹はそんな一達の行動に困惑し、苦笑いを浮かべる。
「頭を上げて、はじめ君。私達もね、何も千家君が犯罪行為に手を染めようとしてると疑って問い詰めようとしてるわけじゃ無いわ。私達も貴方達と気持ちは同じ。もし千家君がどうしようもなく追い詰められているのなら、そこに手を差しのべてあげたいの。」
「珠樹先生…」
「だからね、貴方が千家君の事を思う気持ちは良く分かるわ。」
珠樹は一達に近づくと、優しく肩をポンと叩いた。
「千家君の事、頼んだわ。どうか彼の苦しみを聞いて上げて。」
「っ!!当然っすよ!アイツとは小学生の頃からの友達何ですから!」
そしてその翌日、一は早速千家を公園に呼び出した。
「どうしたんだよ金田一?こんな所に呼び出して。」
「悪いな千家。お前にちょっと話したい事があってな。」
「ん?なんだよ、あらたまって。」
「…千家、近ごろ医学部に興味を持っているみたいだな。特に三城大学の医学部に。」
「なっ!?どうしてそれを…」
全くの予想外の話題に千家は激しく動揺する。
「この前、俺がカラオケに誘ったの断った日があっただろ?その時、美雪と一緒にお前の跡を追ったんだ。そして、お前が不動高校のOBから話を聞いてるのを知った。」
「……なんでそんな事をしたんだよ?」
千家は眉間に皺を寄せながら尋ねる。
それに臆さず、一は千家の視線を真正面から受け止めた。
「始まりは珠樹先生からの話だよ。『千家君の事で話を聞きたい』って。何でもお前、恭一郎先生に進路相談をしながら、医療事故の法的判断について意見を聞いたそうだな?何だか随分深刻そうだったから、恭一郎先生が心配したみたいだぜ。」
「……そうか…それでお前に伝わったのか…」
「…美雪によれば、2週間くらい前には急にオープンキャンパスの希望先を変えたそうだな。思えば同じ頃、お前は学校を数日休んで登校してからも顔色が悪かった。」
「………」
千家は言葉を返さない。
ただその表情には、どこか諦めの色が見えていた。
「…金田一、お前は結局何を言いたいんだ?」
「…これはあくまでも俺の推理、いや、これまでの情報を繋ぎ合わせただけの妄想だ。お前は、ここ最近親しい人を亡くした。そして、その人の死が医療事故によるものじゃないかと疑った。その中心にいるのが、三城大学から総合病院にバイトに行ってた萬屋って奴とその取り巻き。お前は疑惑を確かめるために三城大学のオープンキャンパスに行ったり、三城大学に行ったOBに話を聞いたりしていたんだ。」
一は目線を落とし、苦しそうな声色で語る。
それを聴きながら、千家は目を閉じると小さく息を吐いて顔を伏せる。
そして顔を上げると呆れたような笑みを浮かべた。
「なぁに言ってんだよ、金田一。お前考えすぎだぜ。俺はただ、本気で医学部を目指しているだけで、三城大学に行ったのも志望先の1つなだけだよ。」
「………法学部について恭一郎先生に話に聞きに行ったのは何でだ?」
「それは……ほら!選択肢は幾つかあった方が良いだろ!まだ確実に医学部か法学部のどちらにするか決まってないってだけで…」
自分でも無理のある言い訳をしている自覚があるのだろう、千家の声はだんだん小さくなる。
それでも一の推理を認める訳にはいかないのか、口を噤み決定的な言葉は言わないようにしている。
一は小さく息を溢した。
「あくまでも、何も企んで無いってするつもりなんだな?」
「………」
「そうか。なら俺は、これから本格的に萬屋総合病院で何があったのか調査する。」
「なっ!?金田一、お前っ!」
「ジッチャンの名に懸けて、全ての真実を明らかにしてやる。」
「そんな、事をして、お前に何の意味が…」
「……お前が苦しんでいるからだよ。」
一は憂いを帯びた瞳で千家を見つめ、静かに告げる。
「今日こうしてお前と正面から話してハッキリと分かった。お前はいま、理不尽な苦しみを受け、黒い心に飲まれようとしている。俺は、お前に人の道を外れて欲しく無いんだ!悩んでいるなら一緒に悩んでやる!過ちを犯しそうになったなら、俺が手を引いてやる!だから頼む!1人で抱え込んで、そちら側に行くな…」
それは多くの人間の業と、その側で追い詰められた人間の苦しみを知る者の言葉だった。
千家は小学生の頃からの親友の覚悟に言葉を失い、顔を歪める。
心臓が苦しくなり、右手は首から下げて上着の下に潜ませていた『犬笛』を無意識のうちに握り締めていた。
やがて、千家は泣きそうな顔で口を開いた。
「…好きな娘が、いたんだ……とっても大切な…人生を捧げて…愛したい…莉緒って子が…」
・・・・・・・・
千家貴司が水沢莉緒と出会ったのは去年の春、道路の真ん中で怪我をした犬を2人で救助したことが切っ掛けだった。
ドッグトレーナーを目指していた彼女は見習いトレーナーとして犬のトレーニングセンターで働く一方で、捨て犬を保護し躾を行い、里親に出す活動をしていた。
中学を卒業後すぐに今の仕事に就いた莉緒と千家は同い年。2人はすぐに意気投合し、千家は莉緒に好意を抱くようになった。
日を重ねるたびに自身の中で莉緒の存在が大きくなるのを実感した千家は、ある夜に自分の気持ちを莉緒に打ち明けた。
しかし、そこで莉緒は自分が病に侵され、既に余命半年を宣告されていることを告げる。彼女が高校に行かずトレーナーを目指したのも、限られた時間の中で少しでも幼き頃からの夢に触れたかったから。
莉緒は全てを打ち明け千家の告白を断ろうとしたが、千家は例え限られた時間であっても一生分の愛を莉緒に捧げると誓った。
その言葉に莉緒は再び生きる楽しみを見出だし、千家の告白を受け入れた。
こうして恋人同士になった2人は、限りある時間を大切に生きていこうと誓い合った。
それから程なくの頃である。緩和ケアの為に以前から決まっていた病院に莉緒が転院する事になったのは。
そこは地域で最も大きな総合病院であり、そこでなら苦痛を最小限に抑えるケアを受けながら最期を迎えられる。
そう勧められての事だった。
しかし転院から僅か2週間後、莉緒の様態が急変し、彼女は17年の生涯を終えた。
あまりにも急すぎる死だった。
千家は葬儀のあと、莉緒の両親の許可を得て彼女の部屋に入ることが出来た。
そこで彼は見つけた。
水沢莉緒が、これからの半年間で起きる事を記した未来日記を。
残りの半年間でやりたい事、叶えておきたい事。
1日1日を噛み締めるように、いとおしむように書き記した、彼女の希望だった。
千家は莉緒の死を受け止める事が出来ず、病気以外に何か原因があったのではないかと思った。
もちろん、最初から本気だった訳ではない。
莉緒の病は心臓疾患であり、余命半年とはいえ病状が急変する可能性は少なからずあったという。
だからそれは、千家にとって莉緒の死を受け止め心の整理をする為のモノになる筈だった。しかし…
「……水沢さんの担当をされたのは、正式なお医者様では無かったんです。まだ医学生の医院長先生の息子さん、それと大学の御学友の方々だったんです。」
話を聞いた莉緒の担当看護師は、拳を強く握りしめながら打ち明けた。
より詳しく話を聞くと、バイトとして来ていた医院長の息子の萬屋透は、せっかく父親の病院でバイトをしているんだから1人くらい患者を見させて欲しいと父親にねだり莉緒を任されたそうだ。
看護師を含めた現場のスタッフ達は、緩和ケアの上に年が若い患者を医師免許の無い医大生に担当させるのは不味いのではないか、と声を上げたが、医院長は「緩和ケアなら難しい処置も無いし年が近い医師が担当するのは患者にとっても気が楽だろう。何かあっても自分が責任を取る。」と意に返さなかったらしい。
「それからすぐでした。水沢さんの様態が急変して…前日までは全く兆候が無かったんです!他のスタッフも『何かおかしい』って。」
病院内でも莉緒の死には疑惑の声が上がっていた。
しかし医院長である萬屋の父は、莉緒の死を持病の心疾患の急性発作による病死として処理した。
「だけどやっぱりおかしいんです!水沢さんが亡くなったあと、医院長先生の息子さん達は挨拶もなく急にバイトを辞めて。それに水沢さんの様態が急変した日、本来処方される薬としては記録されてない『変な薬』が処方された記録もあって…」
看護師は苦渋に満ちた顔で語った。
病院内でも噂になっているらしい。医院長の息子とその友人達が『何かしでかして』、水沢莉緒を死なせてしまったのではないかと。
・・・・・・・・・
「…だから千家君は、水沢莉緒さんの死の真相を確かめるために三城大学の医大生達を調べてたのね?」
珠樹の問いに千家は硬い表情のまま頷く。
場所は古舘法律事務所の応接室。
千家から話を聞き出した一は、すぐに彼を珠樹と恭一郎の元に連れていき同じ話をさせた。
珠樹は話を聞き終えると眼を閉じ深く考え込み、恭一郎は腕を組んで険しい表情を浮かべている。
「なあ珠樹先生、これって警察に言った方が良いよな?下手すりゃ殺人だぜ!」
「………いいえ。殺人にはならないと思うわ。」
「はあ!?何でだよっ!?」
「仮にその医大生達が処方した『薬』が水沢莉緒さんの直接的な死因だとしても、医学的な知識がある人間が治療目的として医薬品を処方した場合、よほどの事が無い限りは『医療行為』として認められるわ。もちろん、医師免許の無い人間が医療行為をした事は大問題よ。ただそれが患者の治療を目的としていたなら、殺意があったと認められる事はまず無いの。」
努めて冷静に語る珠樹の言葉に一の顔が強張る。
とてもでは無いが千家の方を窺う余裕はない。
「それに…現状水沢莉緒さんの死の原因が医学生達が処方した『薬』にあったという確証も無いわ。水沢さん心臓疾患があり、余命半年という目安の中で常に様態が急変するリスクを抱えていたのだとしたら、たまたま『薬』を投与した際に発作が起こったという可能性も捨てきれない。確実に彼らの行為が水沢さんの死に直結したという証拠が無い限り、裁判で過失致死が認められる可能性も低いの。」
「なら警察に頼んで証拠を…」
「現段階だと警察が動くのも難しいと思うわ。ご遺体に明らかに不審な点があるか、明確に医大生達が患者に害があるものを投与したという事実が確認され無い限り、警察としては令状を取るのは厳しいと言わざるを得ない。千家君に話をしてくれた看護師の人に証言してもらうという手もあるけど、関係者に疑念を話すのはともかく、公的機関に勤め先を告発すると言うのは少なくない負担を相手に掛ける事になるわ。」
「それじゃあ...打つ手は無いって事かよ…」
「…まさか。策なら有るわ。けどその前に。」
失望した声を漏らす一に対し、珠樹は真剣な面持ちで視線を千家に向ける。
「千家君、もし仮に水沢莉緒さんが亡くなった原因が病気ではなく、誰かしらの作為的な要因があったのだとしたら、貴方はどうしたい?」
「………そんなの、許せないに決まってます。莉緒は、この半年しかない時間を必死に生きようとしてたんです。それを、こんな理不尽に奪われるなんて…恨んでも恨みきれない...…」
「………」
「だから、お願いします…法律が許す限り、莉緒の時間を奪った奴らに、相応の報いを受けさせて下さい!じゃないと俺は…」
「千家…お前…」
机に突っ伏すように頭を下げる千家を一は沈痛な表情で見つめると、同じように珠樹に向かって頭を下げた。
「俺からもお願いします!俺だけの力じゃ法律の事はどうにもならねぇ。だから珠樹先生達の力を貸してください!金なら払います!あんまり懐に余裕はないけれど、必ず!」
「………2人とも頭を上げて。」
珠樹は静かな声で促す。
2人が顔を上げると、フッと息を漏らし小さく笑みを浮かべる。
「貴方達の気持ちは受け取ったわ。良いわ。貴方達の依頼、お受けします。」
「っ!?ありがとうございます!」
「それと依頼料についてだけど、調査に協力してもらう事で割引してもらうように事務所の方にお願いしてみるわね。さしあたっては、そうねぇ…」
珠樹はペンとルーズリーフを鞄から取り出すと、それを一と千家の前に出した。
「2人とも、知り合いは多い方?」
・・・・・・・・・・・・
2週間後、珠樹は例によって事務所近くの喫茶店で待ち合わせをしていた。
アイスコーヒーを注文しスマホを弄っていると、程なく大学生風の青年が店内に現れ、珠樹を見つけると笑顔を浮かべてテーブルに向かってくる。
「すいません、お待たせしたみたいで。」
「ううん。私もさっき来たところ。こちらこそ、急なお願い事してごめんね。」
「良いっすよ、別にこれくらい。」
青年は珠樹の対面に座ると、鞄を置いて店員に自分の分の注文をする。
そして鞄から書類の束を取り出すと珠樹に手渡した。
「これがうちの医学部の連中で三城大学の医学部の連中と関わりのある奴らから聞いた話を纏めたやつです。急いで作ったんであんまり上手く纏められた無いっすけど…」
「構わない。むしろこうして纏めてくれただけでもありがたいわ。医学部ってかなり忙しいんでしょ?」
「今はそうでも無いっすよ。それに俺みたいな医療機器メーカーへの就職を希望してるやつは、国家試験を受ける必要が無いんでガチの医者志望に比べるとかなり余裕がありますし。」
医学部を履修する学生の全てが医者になるわけでは無い。
青年のように医療機器メーカーや製薬会社、中には厚生労働省などの医療と関わりの深い行政機関に行く者も少なくない。
「そんなこと言って勉強は難しいでしょ?私から仕事を頼んでおいてアレだけど、無理はする必要は無いからね。」
「無理なんてそんな。それに、俺みたいなヤツが曲がりなりにも医学部に通えてるのは珠樹先生達のお陰ですし、お役に立てるならどんな事も...」
「…毒島君。」
青年の言葉に珠樹は視線を鋭くさせると、真っ直ぐに青年を見つめ名前を呼んだ。
「今回貴方に協力してもらえて私は本当に助かってるわ。だけど私から頼まれたからって何でも言うことを聞くというのは辞めて。じゃないと…」
「わ、分かってます!本当に今回の事は時間に余裕があったから出来た事です!その上で自分の意思で珠樹先生に協力したいと思ったからしたことで、決して言われたから深く考えずにしたわけじゃ…」
青年は慌てた様子で弁明する。
その様子をジッと見ていた珠樹だが、表情を緩めると小さく頭を下げる。
「ごめんなさいね、急に意地悪な事を言って。貴方が変わろうとしていると知ってはいるんだけど、つい心配になって。」
「…いえ、むしろ心配してもらえるだけ有難いと言うか……俺自身、時々前みたいに周りに流されて深く考えずに行動してしまう事はありますし。その度にちゃんと物事を考えて自分の考えで行動しようとはしてますけど…」
「…うん。毒島君が変わろうとしているのは私から見ても良く分かるわ。」
少し緊張した空気は、珠樹が小さく微笑み優しい声で青年に語りかけた事で終わった。
その後、軽く近況を報告し合い青年は店を跡にした。
店内にとどまり続けた珠樹は、青年から渡された資料に眼を通す。
そこには、他校の学生から見た三城大学に通う4人の学生の姿が記されている。
いずれも青年が友人などの伝手から入手した情報だ。
珠樹はノートパソコンを取り出すと、資料の内容を打ち込み始める。
画面内には、既に整理されている情報が纏められていた
水沢莉緒の両親の証言、見舞いに来た中学時代の友人や職場の先輩達の証言、転院前の主治医の意見書。
更には三城大学の医学部における4人組の情報や、萬屋総合病院自体の評判も含まれる。
中でも一が知り合いの記者に依頼して集めてきたという情報は4人組が過去に起こした問題行為についてかなり詳細に調べられている。
こうしたある種の人海戦術というべき手段で集めた資料を纏め、それを分析し1つの結論に到達するのは珠樹の得意分野である。
手札は揃った。
あとはこれを最も効果的かつ確実性のある使い方をするのみだ。
文字列に眼を走らせ、脳内でシュミレーションをしていると懐の携帯が鳴る。
着信を確認すると恭一郎だった。
「…はい、もしもし。」
『あっ、野々宮先生。例の先方とコンタクトが取れました。明日の13時からならお時間を取れるとの事です。』
「グッドよ若先生。先方にはその時間でアポ取ってて。」
『了解です。それじゃ。』
通話を終えると珠樹は深く息を吐いた。
事件の真相を確かめるには、明日会う人物の協力が不可欠だ。
「…うっし!」
気合いを入れるように頬を叩くと、珠樹は髪を後ろで束ね資料纏めを再開した。