引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

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箸休め回&だんだんブレーキが壊れてくる回です。


ベイ〇レード、大人になった今でも遊びたい気持ちがある

「「「3、2、1! チャージスピン、ベーゴマバトル!」」」

 

 一応念の為に言っておくがこの世界はホビーアニメの世界ではない。が、どんな場所であれ原始的な遊びは一定の人気を誇る。画面内だけでは表現しきれないスピードと質量、音はゲームや映像に押されることはあっても完全に廃れるまでには決して行かない。

 

 そしてゲームや映像など、新規のコンテンツの供給が止まったこの世界ではなおさらである。

 

 ミハルとの交渉・和解から1週間ほどが経過した夕方。あれ以来、昼はウララと一緒に任務を、深夜はミハルと一緒にメンテの練習を、という充実した日々を送っていた。そんなある日の任務後、俺は基地の子たちに誘われて食堂の裏でちょっとした遊びをしていた。

 

 俺と、傷病兵(自称)達は壊れた装甲版を加工したスタジアムを囲み、手馴れた様子でベーゴマを構える。

 

 それらのベーゴマは、通常のものではない。ベーゴマを回すための専用の器具に加え、タップ穴に取り付けられた特徴的な部品たち。掛け声と共にベーゴマはスタジアムに降り立ち、凄まじい速度で回転し、他のベーゴマとぶつかり火花を散らす。

 

「うっわ直ぐ負けたじゃん!」

「ああ私のアルティメットウイングモグラ……」

「空力ダウンフォースで理論上は最強のはずなのに!」

 

 他の子たちのベーゴマは次々に脱落していく。そんな中で残ったベーゴマは俺と、ギブスをつけた右腕を前に出している少女、つまり俺に濁刃を貸してくれたナナのものであった。ナナと俺はスタジアムを真剣に見つめる。ナナの作った金属製パーツ搭載の重量級ベーゴマと、逆転の発想で徹底的に軽量化・小型化した俺のベーゴマ。

 

 ぶつかれば俺が負ける。しかしぶつからなければ空気抵抗の差で俺が勝つ。しばらく沈黙の時間が続くが、遂にナナのベーゴマのウイングに俺のベーゴマが衝突し、吹き飛んでしまう。食堂の裏手で歓声が上がった。

 

「ちくしょー、これでも駄目か……」

「藍田っち残念~」

 

 ナナにからかわれながら俺はスタジアムに倒れている自分のベーゴマを取り出す。ごめんよ『ダイエット2号』、やっぱり重量の暴力には勝てなかったよ……。

 

「しかしよくこんなに改造できるよな」

「機械弄り用の教材として訓練の時に配られてたんだよ~。ボルトの回し方とか、指示通りの位置に部品を組み付ける重要性とか、重心とかそういうのを学ぶために」

「懐かしいよね~」

 

 ナナと傷病兵たちは自分のベーゴマを触りながらうんうんと頷いている。因みにベーゴマについている部品は基本自作だ。主にこの基地の外壁修理を担当している人々が空き時間に作っているらしい。

 

 ……そんなことしてる暇あるんだったら、ウララとミハルを手伝ってあげてよと思うんだけど、メンタルの問題や専門分野の違い、シンプルな人手不足もあってそう簡単にいかないんだろうなぁ。そう思いながらコマを見つめていると、周囲からの視線を感じる。

 

「……ん? どうした」

 

 視線に気づいた俺がそう問いかけると、ナナは言いにくそうな表情で口を開く。

 

「いや、最近藍田っち頑張ってるな~って。あの真面目ちゃんと戦闘出て、ミハルっちと何やら勉強会やってて」

「おう、とりあえずオメガ流体の交換と刃部の簡易研磨はマスターしたぜ! ……ってなんだ、心配してくれてたのか」

「そりゃあ。濁刃貸した子が全く返しに来なくて、毎日任務に行ってるんだよ~。真面目ちゃんが見てるとはいえ、流石に心配じゃん。メンタル的にも肉体的にも潰れないかって~」

 

 なるほど、時たまこういった遊びにちょこちょこ呼んでもらってはいたのだが、それはこういう理由だったのか。俺は心配を振り切るように、スタジアムに向かってベーゴマを再び投下する。

 

「大丈夫大丈夫、美少女二人に手取り足取り教えてもらってるんだぜ。男子高校生的にはもうご褒美だって」

「その割には全然浮足立ってないけど~」

「うっ」

 

 ナナの指摘に俺はちょっと言いよどむ。うん、正直状態異常とかの話がヤバすぎてそれどころじゃないんだよな。恋愛対象とか言う前に解決しないといけない問題が多すぎる。緊急事態になったら子孫を残す欲求が、みたいな話を漫画で読んだことがあったが俺はどうやら逆らしい。交尾とかする前にこなすべきミッションがありすぎるだろ。

 

「ミハルっちと真面目ちゃん、最近凄くご機嫌なんだ。気づいてた?」

「ごめん、昔のこと知らんからあんま比較できない」

「ヤムーチャからブロルーになった感じ~」

「それは過剰表現すぎない!?」

「流石にそれは冗談~。でも、あの二人が明るいとこっちの気も楽になるんだよ、まあ押し付けている側の言い分だから一方的過ぎるけど」

 

 ナナの口調は少し暗い。ナナは自身の重量級ベーゴマをセットしながら言った。

 

「でも分かってる? 今のこの基地は、アマテラスが動かず特異個体もいない、奇跡的に生まれたつかの間の平穏にすぎない。何かが起きたら、一瞬で全てが崩壊する」

 

 そう言いながらナナはベーゴマを投げこむ。振動で俺のベーゴマが震え、再び接触した瞬間終わりのチキンレースの状態に戻る。

 

「落差は精神を容易に壊すんだよ~」

「何が言いたいんだ?」

「あの二人の話。二人に希望を持たせるほど、藍田っちの心が折れた時、藍田っちがいなくなった時。二人のギリギリで耐えていた精神の紐が千切れてしまうかもしれない。考えてるの? もしこの基地にアマテラスや特異個体が襲い掛かってきたときのことを。その時藍田っちはどうするつもり? 覆せない戦力差の前で、蹲って全てが終わるのを待つつもり?」

 

 うーむと俺は考え込む。まあ言いたいことは分からんでもない。ぱっと考えるものも、具体的な解決策は思いつかず、代わりにイメージだけ伝えることとした。

 

 スタジアムには俺のベーゴマとナナのベーゴマが高速で回転している。段々近づく両者に対して、俺がやったのはシンプル。

 

 石を投げこんだ。

 

「とりあえず滅茶苦茶にする」

「えー、それはルール違反でしょ~」

 

 石はナナのベーゴマの近くに転がる。ナナのベーゴマは幾度も石にぶつかり回転速度を落とし、そして遂に停止する。

 

「ゲームで例えるなら、真っ正面から同じ土俵には乗る必要なんてない。ルールの外から介入すればいい。滅茶苦茶をとにかく叩き込むしかない。俺は友達と格ゲーで戦う時、常に脇腹くすぐり戦略を視野に入れる」

「ひ、卑怯者~」

「ま、実績のない俺が言っても説得力なんて欠片もないけど。やばいアブラクサスが来ても、やれるだけやる。まあそれだけさ」

 

 ゲーム内の『統率者』もそうだった。その場で即席軍を作り、ステータスの力と奇策を通し細い糸のような可能性を成功させる。まあ、本当にそうなったらやるしかないのだ。死にたくないし。できれば元の世界にも戻りたいし。

 

 そう言うとナナはとりあえず俺が当分潰れることがなさそうと分かったのか、ため息をついて俺から視線を逸らす。が、視線は俺に突き刺さり続けている。後ろを見ると、ナナ以外の傷病兵たちは俺を未だに興味津々な目で見続けている。

 

「……で、そっちの人たちは?」

「昨日ちょっとHな恋愛漫画を読んだ性欲の獣たち~」

「いやだからなんだよ……ってあ」

 

 俺は思い出す。そういえば、この基地に女性しかいない理由。確か色んな理由から、女性兵士をメインに製造することになっていたのだったか。そういえばウララも言っていたな。……あれ、ということはここにいる全員、男子は俺が初めてなのか? 

 

 ナナにとっての用件であったが、少女たちは違うらしく。傷病兵の少女たちは、怪我しているとは到底思えないほどの機敏な動きで、こちらに突進してくるのであった。

 

「頑張ってね藍田っち~」

「ウララちゃんとミハルちゃん、どっちと付き合ってるの!?」

「キスはしたの!? え、えっちなことは!?」

「男の子ってどんな化粧するの!?」

「男の体って私たちと違うの? 脱いで見せてよ!」

「男性の股間に3mの棒がついてるって本当!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 夜の9時ごろ。諸事情によりくたくたになった俺は、濁刃を持って基地の一角に足を運ぶ。コンクリの床の上にマットが敷かれただけの部屋、要は訓練場である。壁にはアブラクサスを模した的や濁刃を模した模造刀が置かれている。部屋の中心ではウララが巨大な模造刀を持って立っており、こちらを見ると笑顔で、しかし少し心配そうに声をかけてきた。

 

「時間ギリギリだったっすけど、大丈夫っすか?」

「女子高に赴任した男性教師って、こんな感じなんだろうなって……」

「?」

 

 うん、まあ彼女たちの気持ちは分からんでもないけど。男子と会った経験がゼロなら、俺は正に妖精とかそこら辺のファンタジー存在的な扱いになってしまうよな。男子校に閉じ込められた知り合いが、女子に対しては超前のめりか超消極的かの二択でしか対応できていなかったのでなんとなく分かる。

 

 特にこの世界は女性ばかり、男子校や女子校生活なんて比にならないレベルの性別比だ。すれ違う相手が異性である確率は0、まあそりゃブレーキがぶっ壊れることもある。どれくらいの対応が正常か、どのような感情が普通なのか、経験や身近なきちんとしたサンプルがないのだから制御しようもない。傷病兵の子たちからはライン越えのセクハラ発言も多数あったが、しばらくは諦めて受け入れるしかないだろう。

 

 そう思いながら、俺は準備を始める。実は毎日任務終了後に、ウララ主催の簡単な濁刃講座をやってもらっていたのだ。特に俺はちょっと代謝が良いだけの一般男子高校生、兵器の扱いという点では全く持って未熟。ステータスで補助できる範囲にも限界がある。そこで経験者であるウララにみっちりとトレーニングをしてもらおう、というわけだった。俺の使う濁刃に似た大きな模造刀をえっちらおっちらと抱え、ウララに向き直り頭を下げる。

 

「じゃあお願いします、先生!」

「っす!」

 

 そう返すウララの表情は明るく元気いっぱいだ。まあ真面目ちゃんなんて呼ばれる彼女である、仕事に前向きに取り組み、任務でも成果を出す俺への評価点は現在進行形で急上昇中。特に任務時間外のこの講習時は、真面目に取り組む俺を見て、とにかくウララの機嫌が良くなるのであった。……上司に気に入られるためにサビ残する部下とか言うのはやめてくれよ。

 

「前回までは奥義の打ち方と練習をしたっすね。藍田さんはとりあえず奥義打っておけば勝てるっすから」

「実際今日もそうだったからなぁ」

 

 この一週間、毎日のように外を周りアブラクサスを倒し物資を回収、周囲を偵察している。が、俺がやっていることはスキルを活かした奥義連打。小型のアブラクサス(とはいっても俺が追いかけられたやつと同サイズではあるが)程度であれば、メンテの済んだ万全の濁刃奥義で一撃。餅つき大会の如く奥義を撃つ日々となっていた。俺としては若干作業感があるのだが、やはりウララにとっては凄いことらしく、ぱちぱちと小さい手で拍手をする。

 

「本当に助かってるっす。藍田さんが奥義打って、私がカバーする戦法なら侵食度の負担も少ないっすし、化け物になるんじゃないかと怯えながら叩く必要もないっすから精神的負担も減るっす」

「ああ、そういうジレンマあったなぁ……」

「過去形じゃないっすからね!? 藍田さん以外にとっては死活問題なんっすから!」

 

 そんなことを話しながら、ウララは手を下ろし、模造刀を逆手に握り背後に垂らす構えを取った。

 

「で、今日からは飛ばしていた基礎をやるっす。まずは本当に基本の、重心と姿勢っす。とりあえず、一回切りあってみるっすよ。使うのは藍田さんの濁刃と同じ重量の模造刀で」

「了解」

 

 俺は剣道を思い出し、重量のある模造刀を無理やり正面に構える。元々が機構モリモリの大剣なので相当重い。俺は力任せに構えて、合図と共に大きく持ち上げ、真っすぐ振り下ろした。

 

「ふっ!」

「シィッッ!」

 

 ウララが持っているのは俺と同じ模造刀のはずである。が、俺がもっさりと剣を持ち上げている間に、ウララの身体が風のようにしなる。巨大な模造刀が重量を持たないかのように弧を描き、舞の如き動きで俺の腰に寸止めされる。俺が振り下ろす動作をする間もなく一連の動作は終わっており、俺は諦めて模造刀を下ろした。

 

「3テンポくらい動きが早かったな」

「それが分かるなら十分っす。藍田さんの構えは、特に侵食度が低い状態では非効率っす」

「剣道ではこんな感じだったけど」

「それだとこの重量の大剣を持ち上げて下ろす、という動作がいるっす。なら、後ろに構えて振り払うような形の方が、一撃目のスピードと威力が上がるっす」

「防御は普通の構えの方がしやすくない?」

「重量があるっすから、構えてるだけで精一杯になるっすよ。なら、地面に突き刺せるよう初めから下向きがベストっす。それに後ろに濁刃を構えるなら、バックステップする際に剣を動かさず体だけ動かすことも可能、あくまで一般的な剣じゃなくて、侵食度の高い濁刃操者向けの超重量の剣、という認識が必要っす」

 

 議論をしながら、ウララは模造刀を何度も振るう。逆手で模造刀を両手で持ち、振り回す。ウララの体型だと模造刀に振り回されているような様相であるが、目の前の空間を素早く力強く模造刀で叩きつけているのが分かる。うーん、逆手持ちってにわかとしては結構邪道なイメージがあったけれど、ここでは違うんだなぁ。ウララの姿を見ながら、何度も真似をする。が、中々難しい。

 

「うーん、じゃあこれを使わずウララみたいな軽い奴にする……と、今度は火力が落ちるしなぁ」

「扱いづらいっすけど、奥義の火力がピカイチなその濁刃は藍田さんにピッタリだと思うっすよ」

「当てれば吹き飛ぶし、集団戦にも強いからな」

 

 まあ仕方がない、とにかく修練あるのみである。というか訓練もしながらメンテもしながら、ウララとミハルの仲直りプランも組まないといけない(なお現在は互いに気まずくて謝れてない状態、もう少し時間を置く必要がありそうである)。

 

 こう考えると結構忙しい。まあ頑張らないといけないな、と俺もウララの動きを観察し、何度も模造刀を振るう。その際、少しだけ違和感があって、動きを止める。

 

「……?」

「どうしたっすか、訓練に集中するっすよ!」

「っす! 教官!」

「っすっす真似しないっす!」

「っす!」

 

 昼と比べて、ちょっとだけ唇が赤く目がぱっちりしているような気がしたのだ。まあだから何だという話だし、気のせいの可能性も高い。俺はその日、くたくたになるまで訓練を続けたのであった。

 

 

 




ミッション
☑ ステータス画面の機能を理解しろ
☑ 濁刃を手に入れろ
☑ 自身のLvを70まで上げろ
□ ウララの好感度を10まで上げろ (4→7)
□ ミハルの好感度を10まで上げろ
□ ■■■■■の襲来に備えよ
□ ウララとミハルを仲直りさせろ
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