引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

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9/26、1時半ごろアイテム強化について抜けていた部分を追記

藍田が調子に乗る回です。


物欲センサー許すまじ

「こちらスネーク、潜入任務を続行する」

『なんでダンボールなんっすか……』

 

 俺がこの世界に来てから11日目の昼過ぎ。俺とウララは任務として車で移動を行い(俺は無免許運転、ウララは無免許運転指導教員)、いつも通り大地の割れ目近くの平地……ではなく、今回は廃棄拠点、つまり俺が初めて現れた場所を探索していた。装甲車は少し離れた岩場に隠しておいて、抜き差し差し足で行う潜入ミッションである。

 

 元々は都市であったこの地は、対アブラクサス用拠点として改造され、そして母体アマテラスの被害により壊滅した。そんな場所を潜入・探索する目的は勿論、資源である。

 

 潜入任務中の俺の耳元のイヤホンからウララの声が響く。

 

『こちらウララ、未開封の濁刃用パーツと通信端末発見っす』

 

 この世界ではもういろんなものが生産停止になっている。PFAS(一部の有機フッ素化合物)生産停止とかそんなレベルではない。技術的にも資源的にもすでに限界な状態だからこそ、こういった場所で得られる過去に製造された資源は重要であった。部品取りとかまで加味すればまだ使える品は多いしな。因みにSSRは電子部品、エンジン等の精密加工品、そして何より濁刃のパーツである。

 

 が、俺にとっては別の目的があった。

 

「レーションは嫌だレーションは嫌だレーションは嫌だ」

『生まれた時からそんな感じの人間としては冬眠前の世界の食生活はよく分かんないっす。別に食べれればいいじゃないっすか』

「揚げ物焼肉天ぷら刺身煮物……!」

『あ、会話できない感じっすか」

 

 そう、俺はこの11日で絶望していた。レーションレーションレーションレーション。しかもいわゆる軍隊飯、というよりは固形の完全栄養食の類が圧倒的多数。一応味変を意図したようなものもあるにはあるが、少なくとも俺はまだ食べられていなかった。

 

 まあアブラクサス襲来から50年以上。もうそういった食料の備蓄が尽きて生産しにくい状態なのは重々承知である。大地が汚染されてまともな農場などもはや存在しない、トマトも豚肉も入手は極めて困難だ。(一応特ア対本部では食料目的ではなく種の保存目的で栽培・繁殖されてはいるらしい)

 

 だが俺のような現代人にそんな食生活が耐えられるわけも無く。とにかくレーション以外を食べたいという気持ちでいっぱいだったのだ。

 

 そんなわけで俺とウララは別経路で街に潜入しながら、通信機で会話をしていた。

 

「アマテラスがいる地割れのほうは大丈夫なんだっけ」

『急に正気に戻るのやめてもらっていいっすか。まあ正直一日二日目を離す分には問題ないっす。あの割れ目は地下1000m以上にも及ぶといわれているっすから、母体の体重で登ってくるのは中々厳しいっす。そのおかげで母体というとんでもない脅威がありながらも、中々アブラクサスが地上にまで出てこなくて、この周辺は比較的マシというわけっす』

「逆に割れ目の中は地獄絵図になってるんだろうな……。因みになんであんな割れ目にいるの?」

『地球に降りてきた時にめり込んで、さらに地震やアマテラスの捕食活動と自身の過剰重量も相まってどんどん下に……ザザ……行った形っすね』

「じゃあ安心と言えば安心なのか」

『とはいっても地下から伸びている穴、通称「隠し通路」があって、小型や中型アブラクサスはそこから地上に出てきてしまうんっすよね。本来はそこを潰すのも私たちの仕事っすけど、今の状況だと手が回ってないっす。いずれやるのでよろしくお願いするっす』

「っすっす!」

『真似しないっす!』

 

 廃棄区画は俺が逃げ出した時と何一つ変わらない破壊の爪痕が残る光景であった。廃墟と化した街をアブラクサスが徘徊し、安全なところなど一つもない。

 

 ……と思っていたが、逃げる前提であれば実は結構安全だったりする。初日に生身の俺がある程度逃げられていたことからわかるように、そもそもアブラクサスの巨体からすれば町の廃墟というのは障害物だらけ。視線も追跡も遮るものがないあの平地の方が遥かに厳しい。通信がきちんと出来ていることから、活性化しているアブラクサスがいないことも分かるしな。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで俺は今、ダンボールに潜んでいた。

 

『だからそれはおかしいっすよ……』

「そうか?」

 

 ダンボールは実に2mほどの巨大なものである。その中に濁刃と一緒に俺は隠れてひそひそと進んでいた。ウララが何か言うが気にする必要は無い。メタルギアと刃の眼で俺は学んだんだ、ダンボールこそ最強のアイテムだと。素人には分からないだろうがな。

 

 正確には、今からそうするのであるが。俺はステータス画面を開いた。

 

―――――――――――――

大きなダンボール Lv:1

 

Lvアップが可能です。保有のアブラクサス素材を使用しますか? (YES/NO)

【Tips:5年前の情■■位■伝播体によるノイルコード運用方法と異なる手法で本ノイルコードを運用する場合、通常より高コストな対価及び■■存■に感知されるリスクを負うため注意が必要】

――――――――――――

 

 

「さてと」

 

 俺はダンボールに向かって、ポケットから取り出したビニール袋を当てる。その内部にはアブラクサスの臓器の破片が入っている。俺がステータス画面のYesを選択すると、手から重みが消えるとともにステータス画面の表示が少し変化する。

 

 

―――――――――――――

大きなダンボール Lv:1→2

スキル:耐久力向上(極小)

   ;隠密行動(低)

■■存■感知リスク:0.0003%→回避成功

――――――――――――

 

 

「よし、行けたな」

 

 そう、濁刃と同じくこのダンボールも強化することができたのである。初めてやったのは床に落ちていたボルトだったのだが、アブラクサスの素材があれば何でもステータス画面の対象とし、強化できるのは大きな収穫だった。

 

 何か色々と書いてあるのが怖くあるが、この強化についてはアブラクサスの臓器の切れ端一つでスキルが追加できたことを考えると意外とお得なのではなかろうか。スキルの強さは身をもって知っているからな。

 

 しかも今回の任務にぴったりだし、そもそもダンボールという時点で俺の姿を外界から隠すという目的はしっかり果たせている。(というかこういうものがないと素人の俺が潜入任務なんてできるわけがない)

 

「しかしこうなると色々幅が広がるよな」

 

 今まではゲーム内だけの範囲で強化というものを考えていた。しかしミハルとのメンテ講習を経て、こっそり一人で色々試してみたところ、本当に色々なことができることが分かったのだ。今回はダンボールであるが、例えばであるが自分の着ている服とか靴にするのはかなり妥当性が高いかもしれない。……でも多分、ダンボールだからコストやリスクがこの程度で済んだんだよなぁ。あと、ウララに隠れてアブラクサスの臓器を手に入れるの結構難易度高い。どうしよっかなぁ。

 

 そう考えていると、通りの向こうからわずかな地響きと黒い影が現れる。体調10mほどの巨大な金属恐竜、すなわちアブラクサスだ。

 

『そっちに小型アブラクサスいったっすよ!』

「これが小型なの酷いよなぁ」

 

 俺は慌てて崩れた建物の中に隠れる。とはいっても巨大ダンボールに入っているので、隠れるというよりは元から置かれているように見せかける、というのが正しいのだが。俺のガサガサ歩く音を聞きつけたのか、アブラクサスは俺の周囲にどすんどすんと近づいてくる。危険なため外を見ることはできないが、足音で段々と距離が近づいてくるのを俺は関知していた。

 

『おさらいっすけど、アブラクサスは小型以外には中型、大型、特異個体と分類が分かれてるっす。小型中型大型はサイズを示していて、それぞれ固有の能力を持つっす。例えば炎を吐くとか、雷撃を繰り出すとか。一方特異個体はそれらと比べてもさらに一段階異常な特性を備えたものをいうっす。例えば母体もこの特異個体にあたるっすし、中にはオーストラリア大陸を滅亡に追いやった通称飛竜というのもいて、こいつはアブラクサスをピストン輸送して各地をチームプレイで──』

 

 ウララが急にうんちくを語りだしたのも理由がある。すなわち話に意識を集中させることで、過度の恐怖による咳き込みなどで居場所がバレるのを防止する目的らしい。なお、音漏れはしないイヤホンを利用しているのでそこは安心。

 

 遂にアブラクサスは俺の周辺をその大きな爪でひっかき始める。息が詰まる。濁刃があるとはいえ、街中で見つかれば他のアブラクサスがやってくる。逃げ出すのはそう容易ではない。

 

「Grrrrrrrrrr」

 

 アブラクサスの鳴き声が廃墟に響き渡る。足音と吐息が辺りを震わせる。自分の手が僅かに震えるのを感じた。

 

 

 そしてアブラクサスは俺のいるダンボール……ではなく、ロッカーや扉の棚を開けて、砕いて調べていく。そして誰もいないことを理解し、あっさりと次のところへ向かっていった。

 

「はいダンボール最強」

『ええ……』

 

 しかし、やはりといってなんだがアブラクサスの知能は相当高いようである。金属製のロッカーや棚など、「人間が隠れやすいところ」を優先して攻撃した。じゃあなんでダンボールには攻撃しなかったんだという話にはなるが、スキルの効果に加えて、薄っぺらいダンボールに人は隠れない、入っていても本とかの類だろうと判断しスルーしたと思われる。多分きっと。

 

「俺たちだってカブトムシを取るのに都会のマンホール内部を探したりしないだろ?」

『カブトムシってなんっすか……? 確かに、この50年でロッカーとかではなく怪しい巨大ダンボールにわざわざ隠れるおばk……人は少なかったとは思うっすけど……。って騙されないっすよ! やっぱりこれ運が良かっただけじゃないっすか!?』

 

 そんなわけはないだろう。うん、恐らく。きっとスキルの力だよ。(低)と書いてあるのはスルーしようぜ。俺はダンボールを被ったまま音を立てないようひっそり歩き、時たま止まり。隙間からアブラクサスの姿を覗き見る。あるアブラクサスは一心不乱に地面を掘り、あるアブラクサスは廃墟を練り歩きエサを探す。彼らは有機物を食べているのでは、という話があったがやはりそれは事実なのだろう。……しかしそれだとあの巨体を動かせるはずもないし、そもそも襲来から50年たっても行動原理がわからないなんて、変な生物である。

 

『私も近くにアブラクサスが来てるっす藍田さん、怖いのでお話してほしいっす』

「じゃあ昔話でも読み聞かせてやるか。さるかにニンジャ合戦」

『なんか変なの混ざってないっすか!?』

「さるがかにをいじめるがその報いを受ける、それがさるかに合戦。しかしそこにサプライズニンジャが登場!」

『……っ(抗議したいが近くにアブラクサスがいるため返答不可)』

「マウンテンの如く降り注ぐクナイをサルとカニはコラボレーションして撃退! ユウジョウ!」

 

 馬鹿話をしながら一時間二時間と探索を続ける。廃墟は変わらず廃墟で、例えば急にとんでもないレアドロップが出てきたり最強兵器を入手したり、あるいは元の世界に戻る手掛かりが手に入ったり。そんなことも期待してみたりもするが、やはりそんな都合の良い出会いはない。

 

 が、物欲センサーとでも言うのだろうか。期待が下がってきたころに、それはやってきた。俺のダンボールの隙間から見える視界に、奇妙なものが映る。

 

「ん……?」

 

 廃墟の床に、成人男性がギリギリ入れるほどのマンホールの蓋のようなものがあった。上はペンキで塗られていて一瞬わからないが、よく見るとわずかに高さが違うからわかる。俺は段ボールを脱いでそこに近づき、蓋を開ける。

 

「災害用備蓄資源……か。おいおい来たのかこれは!?」

 

 分厚い金属の蓋の下に隠れていたのは、大きな米袋が入りそうなリュックと、その中に詰められた大量の袋詰めされた白い塊だった。一つ一つは手のひら程度で、からからに乾いている。袋の表面には『フリーズドライ:災害備蓄用鶏肉パック:5kg』『水で戻せば焼いてもよし、煮てもよし、揚げてもよし!』と記載されていた。

 

 遂に来た。俺は歓喜のあまり飛び上がり、通信機に向かって叫ぶ。

 

「こちら藍田、レーションじゃない食料発見。持ち帰る」

『こちらウララ、いらないっす』

 

 うんまあ君の症状を考えればそうだろうし、荷物的に部品とか持ち帰りたいのも分かる。だが、それは2100年を生きるちょっと変な人(オブラートな表現)だけの感覚である。

 

「俺はいるの! レーションじゃない味のする飯! 唐揚げ! 焼き鳥! ここ2週間ぐらいレーションしか食べてないの!」

 

 食べれないタイプの人に言うのはマジで申し訳ないけど、俺この2週間レーションと水しか食べてないの。もう狂いそうなの。何があっても持ち帰るの。

 

「うっひょ────い」

『藍田さんが壊れたっす』

「Grrrrrrrrr」

「俺を舐めるな! この程度のことで壊れはしない! ひょっほーいふっふっ!」

「Grrrrrrrrr」

『舐めてないっす……ってえ、藍田さん後ろ後ろ!』

「え……」

 

 俺はゆっくり後ろを振り向く。そこにいたのは今までよりさらにサイズの大きいアブラクサス。トリケラトプスかのような形状をした、中型アブラクサスと呼ばれる存在が俺をにらんでいた。体長は15mほど、全身を分厚い金属板で覆う姿は重戦車と呼ぶのが相応しいだろう。

 

 一瞬俺たちは見つめあい、次の瞬間中型アブラクサスはその堅い角で俺を突き刺そうとしてくる。が、それより早く。後ろに構えた濁刃を振り回すような形で俺は奥義を放った。

 

 俺が爆羅剛剣のトリガーを指で押し込むと同時に、内部のオメガ流体が励起する。導管からは火花が散り、排出口より爆炎をまき散らし爆羅剛剣を加速させる。常軌を逸した速度で加速する爆羅剛剣は、圧倒的な破壊力でアブラクサスの頭部を捉え──

 

「最大点火、って硬っー!」

『ザザ……中型アブラクサスは小型の1.5倍、3乗でええと』

「3倍近い硬さってことね!」

 

 手に強い感触が走り、爆羅剛剣が弾かれる。中型アブラクサスは大きく後退し、その頭部の装甲はぐちゃぐちゃに凹むも、内部は無事らしい。じろりとこちらを睨んでくる。

 

 うーん、メンテナンスにより強化された爆羅剛剣は、小型アブラクサスなら一撃で倒せるが中型だとやはりそうもいかないらしい。ゲームならポチポチ周回で何とかなるんだけれど。やはり()()()()、準備する必要があるかもしれない。

 

 中型アブラクサスは体勢を立て直し、こちらに突進する構えを取ってくる。

 

「Grrrrrrrrrr」

 

 とはいってもこの場で相手をこれ以上する必要は無く。俺は鶏肉を背負い、踵を返して走り出す。周囲で轟音を聞きつけたアブラクサスが近づいてくる前に、全力で逃走するのだ! 濁刃と鶏肉の重量で以前よりキツイけど、そんなことは言ってられない! 

 

『ザザ……通信不可になる前に連ら……ザザ……今まで通りの場所で落ち合うっす! 車についたら無免許運転講習の続きっすからね! ……ザザ……」

「うおお、鶏肉を食わず死んでたまるか、ついでに目指せ無免許運転免許取得!」

 

 夕暮れの町に、俺の咆哮が響き渡るのであった。

 






因みに現在の強さ表は

ウララ(奥義使用可)>藍田>中型アブラクサス≧ウララ(奥義使用不可)>小型アブラクサス>ミハル

となっております。なので囲まれると大分きついです。藍田は常時侵食度低いのでパラメータ向上の恩恵が現時点では受けられれず&濁刃が強化しきれてないため、この位置です。ステータス画面の各機能を解放すればもっと変わりますし、当然ウララとミハルのバステが消えれば更に順位は変動します。



しばらく更新スピードアップします。10月半ばまでに一章終わると……いいな……。

次回、ウララミハル仲直り回、そしてウララの脳裏にとある疑惑が浮かぶ回です。
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