引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件 作:西沢東
「藍田さん、明らかに怪しいっすよね……」
任務終了後、部屋に帰ったウララはベッドで宙を見ながら呟く。無機質な天井は何も答えないが、だからこそ思考をまとめる相手としては最適だった。
「今日のダンボールの件、明らかにおかしかったっす。何度言っても止めなかったし、まるで何か当てがありそうかのような口ぶりだったっす。普通に考えたら命がかかってる場面であんな怪しいアイテムを使う意味なんてないのに、そもそも一度も潜入なんてしたことないのに。第一、初めの戦闘の時から変、私には見えない結果が見えていて、そのために動いたような」
ウララは藍田の行動を思い出しながら呟く。まずおかしいのが彼の出自であった。冬眠と言っているが彼を見つけた場所にそのような装置は見当たらなかった。大体冬眠装置なんてかなりの電力を消費する。大金持ちやその家族ならともかく、一般人のように見受けられる藍田が停電後も数十年持つ冬眠装置を持っていたなど考えられない。
しかもその体質も異常。ウララとしてはあまりにも自分に都合がよかったから一度は棚に上げたが、あの体質はどう考えてもおかしい。仮にあんな体質が2050年以前に一般的だったのなら、今頃人類はもっと勝利に近付いているはずだ。
加えてダンボールの件などの奇行。藍田はアブラクサスには知性があり~などとほざいていたが、そもそも知性があるなら一般通過巨大ダンボールなんて真っ先に怪しまれるもののはずだ。にもかかわらず、隠密を成功するとある程度確信し、そして成功させている。
と、怪しさ満点ではあるがその善性は間違いない。一人寂しく死地に赴いていた頃と比べ、藍田のおかげでウララの肉体的・精神的疲労は大きく軽減されている。常識知らずだったり楽観的すぎることはあれど、ウララにとっては頼れる後輩であり戦友であった。
というかこの時代に、騙しあいをするメリットが薄すぎる。特別アブラクサス対策機関の本部でどうこうする、とかいう話ならともかくこんな末端の基地の兵を騙す意味などありはしない。どうせ近いうちに、滅びるのだから。
だからこそ、シンプルに謎が残る。
「あー、気になるっす」
ウララの心の中は、自覚できるレベルで藍田に引き寄せられていた。優しさだけならそうはならない。戦力だけならそうはならない。奇行だけならそうはならない。が、全てが合わさった挙句、理想的な結果を出し続けている。
「異性とまともに接するなんて、生まれてこの方初めてっすけど」
他の子たちにからかわれた言葉を思い出す。「惚れてるの?」。ウララはその言葉の意味が分からない。それが興味や友愛とどう違うのかがわからない。そのような区別をつけられるような真っ当な人生を彼女は送ってこなかった。
そんな時に通信が入る。モニターに表示される名前は『特ア対討伐統制局長レイン』。
慌ててウララは姿勢を正し、モニターに座って通信を受ける。
『あらウララちゃん、今大丈夫?』
「レイン様、お疲れ様っす」
画面に出てきたのは赤い髪の美女だった。片目には眼帯をしていて、残った目も物理的なものではないナニカで濁っているのが特徴の美女だ。飾り気のない制服と真っすぐに伸びた背筋、穏やかな物腰と成熟した大人らしい雰囲気もあるが、しかしその年齢は未だ25歳。
立ち位置としては討伐統制局、特別アブラクサス対策機関本部の幹部であり、ウララの上司にあたる。そしてかつて『統率者』と共に第一線を戦い抜いたメンバーの一人だった。
『最近はうまくやっているようね。データベースを見たら倉庫のアブラクサス素材貯蔵量が増加して驚いたわ』
「っはは、ようやく役目を果たせたというっすか……。今のところアマテラスも異常ないっす」
『ウララちゃんだけで捜査できる範囲の中、だけれどね』
「うっ」
ウララは目を伏せる。本来、ウララだけではなくもっとたくさんの人手を使って行うべき捜査は、現在は現場の独断で省略されていた。勿論この基地において動かせる人材がいないというやむを得ない事情があったわけだが。ウララが一人で任務を回していた、という側面の裏にはそういった事情がある。
レインはそれを強くは責めない。本来であれば本部が基地オウミにテコ入れをするべきであり、それを長らく放置していたのは事実ではあるからだ。
『まあでもそんな状況でもできる範囲で任務をしてくれることがあなたの良さよね。善良さというか、正しさから目をそらさないというか。そのまま、私と人類を裏切らずにいてね』
「はいっす」
ウララとレインの関係は良好だ。ウララは善良な少女であり、職務に忠実で部下として扱いやすい。レインは「一部の事態」を除き冷静沈着で、かつ広い視野を持つ。また、その実力も尊敬される理由の一つであった。
かつて『統率者』のそばで濁刃をふるった彼女は当時の力を持ち越し、いまだに第一線で人間とは思えない成果を上げ続けている。彼女曰く、スキルと呼ばれるものであるらしい。奥義の一撃で大型アブラクサスを叩きのめす映像は、戦意高揚のために定期的に基地内で流れているくらいだ。
故に彼女たちは、互いを良き上司/部下として認識していた。
『しかし顔色が少し良くなったわね』
「はい、頼れる人ができたんっす」
『そう。私も頼れる人がみつかりそうなの』
レインの返答に、ウララの背筋が伸びる、急にレインの言葉が粘性を帯びたかのようにウララは感じた。なんてことのない会話への返答。だが、その言葉こそが今日の本題であることが明らかだった。レインの喋る速度が上昇する。
『1か月ほど前に、情報波位相伝播体の履歴参照、干渉、原点座標改竄を行ったの』
「……何の話っすか?」
『『統率者』様が今この世界にいる、ということ。今。あなたと同じく、私にも頼れるものがいる。でも、まだ見つかっていない』
「え……!?」
それは、ウララにとって衝撃であった。かつて人類を率いた英雄。この世の希望が帰ってきたという事実に。普通であればありえない。だが、目の前の女性が嘘をつくとは思えなかった。
「……急に言われてもよく分からないっす。証拠はあるんっすか?」
『ないわ。学者のデータとサンプルだけ。急に現れた『ナニカ』の暴走で、研究施設は滅茶苦茶。でも、理論上は来ているはずよ』
「因みにその行ったって話の詳細は……」
『聞かない方が良いわ』
ナニカ、情報波位相伝播体。様々な単語が飛び出ては消え、ウララには理解が追いつかない。だが『統率者』の存在の重要性は明らかであった。加えて今のウララには頼れる人の重要性が痛いほど理解できた。目の前にいるレインは、基地オウミとは比べ物にならないほどの地獄に身を置いているはずなのだから。ウララは元気よく回答を行う。
「よく分からないけど分かったっす、それらしき人物を見つけたらすぐ連絡するっす!」
『ありがとう。見た目は知っているわよね?』
「はいっす! イケメンで冷静沈着、あと特殊な力を使うんっすよね、他人を強化するとか!」
そこまで聞いていて。ふと、ウララは疑問に思う。ウララは『統率者』と深く関わったことはない。では、レインにとっては彼はどういった存在なのだろうか。
「そういえば『統率者』様ってどんな人なんっすか?」
『一言でいえば、お父様、ね』
ウララはその言葉を聞いて首を傾げる。それは大人びたレインが同年齢くらいに見える『統率者』を父と呼ぶイメージが湧かなかったから──ではない。
そもそも父という概念を、いまいち理解していなかったからだ。
『私たち、父はいないでしょう。母は人工子宮、父は精子アンプル。私たちの上の世代も、全員そうだった』
「父ってことは、血が繋がっていて育ててくれる人ってことっすよね? 血は繋がっていなくても、良くしてくれる人はたくさんいたっすよ、それこそレイン様とか」
ウララの言葉にレインは熱のこもった笑みを浮かべる。残った片方の目はどこか遠くを見つめていて、彼女の手は大仰に広げられる。
『もちろん、数多くの兵の一人として私を助けてくれる人はいたわ。その人たちも皆死んだけれど』
「血が繋がっているから、親は一人に愛を注ぐ、みたいな話っすか」
『そうね。他の女の邪魔もあったけれど。『統率者』様は私個人に深く愛を注いでくださった。実際には血は繋がっていないけれど、少なくとも私にとっては紛れもない父だった』
「……友情とは違う感じなんっすね」
『簡単に言語化できるわけではないけれど。私は初めて誕生日を祝ってもらった時にそれを味わったわ。やる意味もない、年齢が上がるだけの儀式に、わざわざ手作りで料理を用意してくださって。しかも全部私の好みの物を。『統率者』様の誕生日が1月10日で、その時にお返しをしないと、と思っていたのだけれど、その日は来なかった』
じゃあどうして『統率者』はいなくなったのか、とはウララは聞かなかった。明らかな地雷であるし、仮にそれが分かっているのであれば自分のような下っ端に話されるわけもない。
代わりにウララは別の事を聞くことにした。
「じゃあ、『統率者』様が戻ってきたら今度こそ誕生日パーティーができるッすね!」
『そうね、私が置いて行かれたのは実の娘じゃなかったからだと思うわ』
「……?」
が、返ってきたのは全く別の言葉。もうレインはウララの話など聞いていなかった。自分の頭の中で急に『統率者』が居なくなったあの日のことを思い出しながら呟く。濁った眼で、宙を見つめながら。
「だからまずは四肢を切って、その断面の血管をチューブで伸ばし私と接続します。そうすればもう離れられないし、何より文字通り血が繋がります。私の心臓から出た血がチューブを介してお父様の身体をぐるぐると回る。そうです、今こそ私たちは実の父娘となるのです──」
◇◇◇◇
「とはいってもあんなイケメン、いたらすぐにわかるはずなんっすよね」
翌日朝。ちょっとした恐怖体験の後ではあるが、ウララは結局レインの『統率者』探しには同意せざるを得なかった。万一そんなことをされてしまったら可哀そう……とは思うものの、現場の人間としては二度と逃がしたくないという気持ちは事実であろうし、四肢を取られても噂に聞く特殊な力を使えるのであれば、人類全体としては問題ない。
四肢切断の件については……まあ当事者同士で解決してもらうっす、そもそも部下に拒否権はないっす。そんなことを考えながら、ふとウララの頭の中で『統率者』と藍田の姿が全く似ていないのに重なった。
急に出てきた希望。特殊な能力があるのではないかという疑惑。見た目は極端に違うが、例えば顔を変えるなどの手術は確かに存在する。例えばあの奇行が、『統率者』としての力に基づくものだとしたら。
ウララの脳内で、点と点が線でつながれ始めたその時。食堂の方から声が聞こえた。
「宇宙三大唐揚げのひとつ、基地オウミ特産品『藍田唐揚げ』販売中!」
……残り二つはどこにあるんっすか、というツッコミをウララは辛うじて飲み込んだ。
後編に続きます。
今日の17時頃に一話、明日も一話投稿予定です。
ミッション
☑ ステータス画面の機能を理解しろ
☑ 濁刃を手に入れろ
☑ 自身のLvを70まで上げろ
□ ウララの好感度を10まで上げろ
□ ミハルの好感度を10まで上げろ
□ ■■■■■の襲来に備えよ カウントダウン:3
□ ウララとミハルを仲直りさせろ ←Start!