引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

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ウララ:sidestory2(下)

「唐揚げって何、ナナちゃん」

「動物の死骸を粉で覆って釜茹での刑にするらしいよ~」

「あまり間違ってないけど言い方!」

 

 ウララは騒ぎの中心である食堂前に向かう。普段ならレーションを嚙み砕くだけのその場所であったが、今日は異様な熱気があった。長テーブルが何列も並べられていて、その中心の机に藍田はいた。

 

 一体どこから取り出したのか、藍田はエプロンと帽子を付けて鍋の準備をしている。周囲では手伝いを買って出た数人が、藍田が回収してきた鶏肉を水で戻している。

 

「これって食べれるの~」

 

 隣で手伝っている傷病兵のナナの問いかけに、藍田は何故か宙を見ながら答える。

 

「うん、大丈夫。色も変わってないし保存状態も良かったからだと思うけど。とりあえず半分水につけて戻しておいて」

「藍田っち、なんで冬眠してたのに数十年経過した保存食に詳しいのさ~」

 

 周囲を見ると基地のかなりのメンバー、中には見張りまで仕事を放棄してここにいるものもいる。計100人以上に及ぶ大所帯に、藍田は飯を作っていた。そしてその中にミハルの姿もあった。ウララとミハルは一瞬視線を合わせ、直ぐに逸らした。

 

「パサパサパンを粉々にしてパン粉の代用として、片栗粉と油と、倉庫に辛うじてあった賞味期限をとっくに過ぎた未開封調味料やもろもろをぶち込んで──」

「藍田っち、これどうやるの~」

「まずは下ごしらえをした肉に衣をつけて、そしてパリッと揚げるだけ! ナナ、残りのパン粉材料の量は?」

「4トン~」

「どんだけあるんだよ!」

「だって誰も食べなかったからあのパン。無味無臭だし、この機会に消費しちゃおー!」

 

 藍田の横では、本来基地の壁修復に使うはずの粉砕機でパン粉が次々に量産されていく。原料として砕かれているのは、味付けが薄く食感がぱさぱさしすぎていて倉庫の奥底に仕舞われていた通称パサパサパン。パン粉はどう見ても使わない量が作られているのだが、まあその理由は、周囲の顔を見ればわかった。

 

 彼女らにとっては、初めてのまともな料理なのだ。

 

 ウララが遠くから見守っている間に、どんどん料理は進行していく。代用パン粉に水を少し加え、塩などで下味を付けた鶏肉の表面にまぶしていく。

 

 藍田が(恐らく食用と思われる)油を加熱し、鶏肉を沈めていく。油も各種調味料も、厳密に言えばパサパサパンも、こんなに使用するのは規律違反だ。しかし終わりが近づいている状態で「規律違反っす」なんて言っても上手く行かないのはウララは何度も経験済だ。だから何も言わず、その光景を陰から見続ける。

 

 肉が油の中でジュワ、と音を鳴らし、ウララと基地のメンバーは鍋の方に視線を向ける。彼女たちの人生の中で、聞いた事のない音と匂いであった。そしてそうこうしているうちに、ついに唐揚げが揚がる。

 

「おお~」

「うーん、保存食材ばかりだからいつものよりは微妙だろうけど」

 

 隣で興味津々に見ていたナナが、皿の上に置かれた唐揚げを恐る恐るフォークで突き刺し、食べる。一瞬目を瞑り、そして目を輝かせて「おいしい~!」と叫んだ。

 

「こっちも頂戴!」

「うちにもうちにも!」

「待てって、順に揚げていくから。置いていった奴は配っていってくれよ」

 

 飢えた獣たちが藍田に群がる。その姿を見て、そろそろ去ろうかなとウララは考える。興味があったから見に来ただけで、楽しそうにやれているなら問題ない。他の基地の子たちについてはそのエネルギーがあるなら仕事を手伝って欲しい、と思ってしまうが、少なくともこれは藍田にとっては大きなストレス発散の機会になるはずだ。冬眠前の世界と違い過ぎて、食生活そのものが大変だったろうから。

 

 そう思いながら皆が楽しそうにしているのをしばらく眺め、踵を返したその時。自分の手に皿が押し付けられる。目を上げるとそこには傷病兵の少女がいた。

 

「はいどうぞ~」

「あっ」

 

 ウララの手に唐揚げの乗ったプラスチックの皿を握らせて少女はそのまま次のところへ移動していく。ウララは皿を手にもって激しく動揺した。

 

 ウララの拒食は広く知れ渡っている。誰が見ても明らかに発育が悪く、やせ細っているのだ。だからいつも周囲は多少気を使ってくれているはずだった。

 

 どうしよう食べなきゃいけないっす。せっかく藍田さんが作ってくれたのに、体を大きくするためにも食べないといけないのに。でも明らかに食べられないし衆人環視の前で吐いたらどうしよう、部屋に持ち帰る、でもそれでこっそり捨てたと勘違いされたら藍田さん悲しむんじゃ。

 

 ウララの心の中を思考が駆け巡る。周囲は初めての食感と味に目を白黒させながら舌鼓みを打つ中、ウララは一人取り残される。

 

 食べられないというのはこういった時が一番辛い。状況として明らかに食するべき場面であるのにそれができない。食べられないから、と突き返すほどの気力はウララには無かった。だから、どうすればいいのかと無言で立ち尽くす。

 

 

 

 そんな時に、肩がポンとたたかれた。

 

「……もらうぞ」

「ミハルちゃん」

 

 上からフォークが伸びて、さっと自分の唐揚げが消える。ウララが頭を上に向けると、そこには不貞腐れたような表情のミハルがいた。ミハルは一息で唐揚げを食べきり、フォークでとある場所を指す。

 

「性格の悪い奴らだぜ、ほら見ろ」

「うわー、ちらちら見てるっす」

 

 よく見ると藍田とその取り巻きは、ちらちらと不安げにこちらを見ているのが分かる。さきほどウララに皿を押し付けてきた少女も一緒だ。つまり先ほどのは偶然ではなく。

 

「話す機会を作ってくれたってやつっすか」

「野次馬集団がよ。それに作戦も雑すぎる、ガキでももっと上手くやるだろ。で、えーっとだな」

 

 ミハルは毒を吐くが、その声は以前より軽い。声をかける、という最大の難関を乗り越えたからだろう。その姿を見て、ウララは笑う。

 

 ウララもミハルが何をしていたかは知っている。彼女に悪意がなかったことも、しっている。二人は長い付き合いだから。

 

「ごめんなさいっす」

「ごめん」

 

 だから、この一言で二人の喧嘩は終了した。あまりにもあっさりとした終わり。恐らく聞き耳を立てている人々からすれば拍子抜けなのだろうけれど、二人はそんなことを気にするわけも無く。直ぐに久しぶりの雑談を始める。

 

「そっちはどうっすか、唐揚げ屋の店長さん」

「真面目にやってるよ、時たま奇声上げるが。あのメンタルがほかのやつにもあればいいんだが」

「無茶を言わないっす、それを言うなら先にミハルちゃんが寝れるようになってっからすよ」

「違いない」

「まあ頼れる人っすよね。ちょっと怪しい所もあるっすけど」

「ヤg……ああ、変だよな。まあ詮索をせずに本人から言ってくるのを待とうぜ、このご時世だ。悪意を持って、ってことはあまりないだろうしな」

「っすね。あ、そうだ。最近車の調子が若干おかしいんっすけど」

「確かこの前、タイヤ周りに違和感あったな。また一緒に確認しよう」

「……うんっす!」

 

 ウララはミハルの返事を聞いて笑顔で答える。今までこういった相談をすると、ミスするかもとブツブツ呟き続け、何度か頼んでようやく、というのが通例だった。だが今回はスムーズ。藍田との色々を経て、過剰な恐怖心が少し薄れたのだろう、と思う。

 

 唐揚げが尽きて日が山の陰に沈むまで二人は笑顔で話し続けた。

 

「ずっとこのままであってほしいっすね」

「だな」

 

 ウララは『統率者』の話を思い出す。あのレインのことを思い出す。仮に藍田がいなくなった時、自分たちはどうなるのだろうか。自分は当事者ではないからレインのことを怖い、と思える。

 

 でも仮に、全てが上手く回っていて。それがある日崩れ落ちたら。核となる人物が突如いなくなったら。自分たちは、同じようになってしまうのではなかろうか。正常な判断? この人が絶望しつつある世界に、正常などというものがどこまであるのだろうか。むしろ大事な人を失いたくないのであれば、レインの対応は、感情は案外正常なのでは──。

 

 そう思っているときに、ふと背後から肩を叩かれる。見上げると、そこにはエプロンをつけた藍田がいた。

 

「藍田さん」

「ほいよ、唐揚げ苦手な人向け」

 

 それだけ言って。藍田はウララの手に大きめの樹脂製カップを押し付けてくる。本当に何事もないかのように、受け取ったのを確認したらそのまま片付けに戻っていった。ウララは手元のカップをみて、困惑する。

 

 ウララは名前を知らなかったが、それはコンソメスープと呼ばれるものだった。ウララのために、鶏肉と芋は丁寧に細かく刻まれ一息に飲み干すことができるようになっている。明らかに、ウララのためだけに藍田が準備したものだった。

 

「いけるか?」

「……固形じゃないなら」

 

 ミハルが心配そうにする横で、ウララはコップを傾ける。すると口の中に塩気と旨味が流れ込んでくる。レーションを無理やり溶かしたものとは違う、久しぶりの味に少しせき込みながら、喉から胸に熱が落ちていくのをウララは感じる。薄く刻まれた鶏肉と芋が、スムーズに飲み込まれていく。

 

「……あったかいっす」

 

 両手でカップをもち、ふうとウララは息を吐く。良い匂いが鼻に伝わり、腹が満たされていくのを感じる。そういえば、自分にこのようなことをしてくれた人はいつぶりだろう、と思う。拒食が始まったころは、色々世話を焼いてくれる人もいた。だがもうその人々は疾うの昔に居なくなり。

 

 味だけで言うなら、よく分からない。好みかと言われると少し違うかもしれない。だが、ウララはこのスープが理由もなく好きだと感じた。いや、理由も無く、というよりは理由が分からないが、というべきか。ウララは自分の心の動きに困惑する。

 

「なんなんすかね、これ」

 

 ウララはカップを見つめる。その目には、自覚しきれていない初めての想いが揺らめいていた。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 それはそうと、翌日。ウララは腹を壊した。今日の教訓、弱った胃腸に馴れてないものを急に食べさせてはならない。

 




ク ソ ザ コ 胃 腸


ミッション
☑ ステータス画面の機能を理解しろ
☑ 濁刃を手に入れろ
☑ 自身のLvを70まで上げろ
□ ウララの好感度を10まで上げろ 8→10→9(腹痛) 
□ ミハルの好感度を10まで上げろ 8→9
□ ■■■■■の襲来に備えよ カウントダウン:2
☑ ウララとミハルを仲直りさせろ
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