引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

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出会い

藍田(あいだ)、『ノイルコード』のウララとミハル、復刻したけど引いたか?」

「俺そのソシャゲ引退したから引いてすらいないわ、あとその二人は前のピックアップで10連一発で引き当てた気がする。引いただけで一度も使わなかった気もするけど」

「畜生この豪運野郎! こっちにそのガチャ運をよこせ!」

 

 高校からの帰り道。俺、藍田ショウは友人と他愛のない話をしながら道を歩く。話題は二人とも知っている、ソシャゲ『ノイルコード』の話である。とはいっても俺、『ノイルコード』は引退してもうアプリ起動すらしてないんだけどな。一応アカウントは残ってるけど。

 

 因みにウララとミハルとは『ノイルコード』の期間限定ガチャで引けるキャラクターの名前だ。そして復刻とは過去の期間限定ガチャが再度利用できるようになることを意味しており、目の前の友人は以前引けなかったキャラをこの復刻でようやく引けたらしかった。

 

「ウララとミハル、マジで好きだから少ない小遣いかき集めてようやく引いたんだぞ!」

「はいはいロリコンロリコン」

「うっせえ! 『ノイルコード』の過酷な世界の清涼剤、13歳の二人組、健気な黒髪美少女とちょっとツンデレの入った金髪美少女、ステータスも強いし好きになって当然だろ! ストーリー読んだのかよ! ウララちゃんの「っす」って口癖が溜まらねえんだよ!」

 

 友人はちょっと気持ち悪いくらいに熱弁してくる。まあシンプルにソシャゲのキャラのイラストはとにかく可愛い。加えて良いストーリーが絡んで来れば、所有したいという思いが出てくるのは当然である。

 

「読んでない気する。ウララとミハル引いたちょうどその頃レイドイベント……何だったかな、『決戦:旧オーサカ第三基地奪還』みたいなやつと試験が被ったじゃん。そこで試験のためにレイドイベント不参加にしたら、そのままやる気失っちゃって。だから二人のレベルは未だ1だな」

「一番大事な所で止まってるじゃねえか。お前、決戦で主人公がいなくなった二人のこと考えてやれよ。そのまま進んだらBADEND直行じゃねえか。最後までストーリー追いかけてやれよ」  

「そんなこと言うならソシャゲのストーリー最後まで追いかけたことあるんだろうな?」

「うっ……」

 

 まあ友人の言うことも分からなくもないが、と思う。

 

 大体のソシャゲは主人公が指導者やら支持者やら重要な立ち回りのキャラクターとして活動し、周囲のキャラクターたちと交流を深めながら世界の破滅とかをどうにかするため動いていく。

 

 そしてソシャゲの物語はサービス終了まで終わらない。とはいっても終わらないこと自体は問題ではない。

 

 問題は、ソシャゲ特有のストーリー構造である。時に単なる引き延ばしではないかと疑ってしまうような何年にも及ぶストーリーを延々と読まされた挙句、ようやく結末にたどり着けるなんてよくある話だ。そんな長い時間の間に、シンプルにゲームに飽きる、試験などのイベントや進学など私生活の変化で日常のルーティーンから外れ、気づけば遊ばなくなってしまう。

 

 そうやって多くの人々が、キャラクター達の物語を見届けずにゲームを去ってしまう。ならその端末にある世界では、主人公というデウスエクスマキナが現れないまま物語が進行している、まあそんな想像をついしてしまう人がいてもおかしくない。

 

 バッドエンドよりさらにたちが悪い。世界を救う中心人物である主人公が、ある日突然いなくなり、それでも世界の危機は進んでいく。主人公を信頼し、あるいは心の支え、時に恋心を抱いていた者たちにとっては悪夢でしかない。

 

 可能性の止まった世界で、延々と生き続ける。主人公という物語を攻略する鍵がないまま、運命という名の扉の前で立ち尽くす。

 

「まあそれは妄想のしすぎたな。とりあえずキャラ引けて良かったじゃん」

「ありがとよ、折角だし藍田も久々にやろうぜ。キャラ達も待ってるはずだ」

「なんだそりゃ」

 

 俺は笑う。キャラが待っている、そんなことがあるわけないのだ。所詮はゲームメーカーが作った電子データ。一度削除すればそれで終わりの存在。

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

「ここどこだよ……」

 

 寝て起きたら全く知らない場所にいた。一言でいえば廃墟、なのだろう。割れた壁に地面に散らばる砂粒。かつてここにいた住人のものと思われる家具たちの破片が散らばっている。生の吐息はなく、打ち捨てられてから長い時間が経っているようであった。

 

 机には「特別アブラクサス対策機関に栄光あれ!」と日本語で落書きがされている。壁は見たことのない光沢の放った金属製であり、コンクリートなどよりはるかに堅牢そうに見えるが、それらはたやすく引きちぎられていた。壁の隙間からは荒廃した外の世界が見えており、熱風が内部に襲い掛かってくる。季節はどうやら夏のようであった。日本だったら、の話ではあるが。

 

「……何か思い出せそうで思い出せないんだよな……?」

 

 自分の記憶をたどる。藍田ショウ、18歳高校3年生。良くも悪くもない普通の顔立ち。趣味はゲーム、最近は新作ソシャゲを多数味見してはなんか合わないな……とやめている、そんな男。割れた鏡に写る姿を見ても、寝る前のパジャマ(外行きの服と兼用)、どこも変化がない。

 

「姿はいつもと違わず、と。夢というには具体的すぎるし、どこかに移動したとか……?」

 

 突拍子もないことを言っている気がするが、適当にとったがれきの重み、肌に感じる風、思考のまわり方、明らかに夢ではないのは確かだ。

 

 ここにいても埒が明かない、と俺は立ち上がる。寝た時の姿そのままであるため裸足であるが、幸いにも周囲にガラスの破片が大量に転がっているということはなく、足に痛みが走ることはなかった。割れた壁の隙間に足をかけ、えいやと屋根の上に上る。

 

 金属製のおかげで重さで急に崩れ落ちるようなことはなく、俺はすぐに屋根の上に立つことができていた。そしてそこから周囲を見渡し、絶句する。

 

「なんだこれ」

 

 大地は死んでいた。街はことごとく破壊されている。人影は見えず。代わりに巨大な獣のような影がいくつも蠢いている。そして何より問題なのが町の外だった。端的に、汚染されていた。湖らしきものは、その上にオレンジと黒の入り混じったオイルが浮かび生命の息吹を残していない。大地にもいくつものオイル溜まりができており、それが染み出ているのか周囲には草木一つ生えていない。

 

「イてっ……夢か電脳世界だった、というオチは期待できなさそうだな」

 

 勢いよく自分の頬をつねり、何事もないことにため息をつく。俺の記憶ではこのレベルまで痛覚触覚を再現した仮想現実なんて聞いたことがないし、そもそもこんな世界にいきなり放り出す意味が分からない。夢ならさっきので覚めているはずだ。となれば、荒唐無稽であるが思いつくのは異世界転移、である。まあ異世界転移もありえないんだけど、この状況であれば仮想世界と可能性はトントンではなかろうか。というか、

 

「異世界転移したくないランキングNo.1だろこの世界……」

 

 どう見ても人類の生存率や環境が良い状態とは思えない。歩いて五分以内にコンビニ、それが常識な俺にとっては絶望でしかない。頬を撫でる熱い風、分厚く黒い雲に真上に登る太陽。

 

「……?」

 

 しばらく呆然としているとふと視線を感じた。背後から、深い敵意の籠った。

 

 今まで敵意を感じる、という概念は漫画の中だけの話だと思っていた。だが今、体で理解した。それはある、今、俺の背後に俺を殺そうとしているやつがいる。

 

「そうだよな、ここに人類がいないってことは、人類を排除した奴がいるってことだよな……」

 

 恐る恐る背後を振り向く。そこにいたのは体長10mにも及ぶ巨大な金属の恐竜だった。ティラノサウルスのような二足歩行に2本の小さい前足、巨大な牙。そして体を覆う金属の装甲。俺の知ってる地球ではありえない存在であり、さながらSF映画から出てきたかのような怪物。

 

「ぎゃああああああああ!」

「Grrrrrrrraaaa!!」

 

 俺は慌てて屋根から飛び降りる。先ほどの部屋の床に体を打ち付けながら降りて、すぐに建物から脱出する。その後ろを金属製の恐竜は恐るべき静かさで降りてきていた。よく見ると足は黒いゴムのようなもので接地しており、それで音を抑えているらしい。

 

「やばすぎるだろ!」

 

 恐怖により語彙力が完全に失われた悲鳴を上げながら俺は走る。こっちは普通の高校生、間違っても謎の生命体と戦えるような人間ではない。顔を真っ青にしながら転げ落ちるように廃墟から脱出する。足に石が刺さって痛いが、文句を言っていられるような状況ではない。

 

 人生で一番の全力で足を後ろに蹴り出す。体はぐんぐん加速するが、少し振り返るとすさまじい速さであの恐竜が追いかけてくるのが見える。そして恐竜の口が開き、口元に光球が現れる。

 

 とっさに路地に逃げ込む。次の瞬間、背後で光が輝き、雷鳴がとどろいた。俺が先ほどまでいた場所は黒く焦げ付き煙を上げている。

 

「特殊能力まであるのかよこのモンスター!」

 

 絶叫しながら逃走を続ける。だがそんな時間は長くは続かない。ついに俺の体力が切れ、背後にあの恐竜が迫る。足は石やガラス片を踏みつけたことにより血が流れ始めていて、痛みが足を動かすことを拒否する。

 

 逆転劇など発生しえない。特殊能力も無く、この場所の地理にも詳しくない俺に足止めする術などあるはずもない。ただ追いかけられ、体力とスピードの差で追い詰められるだけの一幕。

 

 ただただ理不尽でしかない。いきなり異世界らしき所に飛ばされ、そのまま終わる。希望の欠片もない、ただ淡々とした終わり。だから俺は周囲に誰もいないであろうことを理解して、それでも呟いてしまった。

 

「誰か助けてくれよ……」

 

 

 

 

 

「任せるっす!」

 

 次の瞬間、上から少女が降ってきた。中学生くらいだろうか、背の低い黒髪の美少女だ。幼い雰囲気に優しい笑み、美しい顔立ちに反し、制服の上から機動性を損なわない程度のゴツゴツとした追部装甲を装備している。

 

 そして何より違うのが、手に持った武器だった。2mほどの刀を彼女は金属の恐竜に対して振り下ろす。瞬間、刀より炎が立ち上がり、熱と刃の切れ味で恐竜は一刀両断された。

 

 ぐちゃりと切断面から、大地を汚染していたのと同じ奇妙な色の油を漏出させ、金属の恐竜は一瞬で停止する。

 

「お兄さん、大丈夫っすか?」

 

 黒髪の少女はこちらを振り向き、安心させるためだろうか笑みを浮かべてくる。そんな彼女の下に、見覚えのある半透明のウインドウが開いた。

 

 

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 ウララ=P2458PG*1 

 

 種族:人間

 Lv:19

 職業:第3階位濁刃操者(だくじんそうしゃ)

 年齢:18歳 

 濁刃:焔舞刀(えんぶとう)

 侵食度:37%

 状態異常:空腹、拒食、etc(省略)

 ──────────────────────────────

 

 

 ああ、思い出した。俺はこの世界を知っている。このゲームを知っている。見覚えのあるステータス、見覚えのあるキャラクター。そうだ、あのモンスターを俺は画面上で見たことがある、目の前の少女を俺はガチャで引いたことがある。

 

「ここ、『ノイルコード』の世界かよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

*1
該当人物製造に使用された人工子宮のシリアルナンバーを示す






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特ア対機関データベースより抜粋

『ステータス』
ノイルコードの一種。■■■■■■■■を経由することにより、現実の物理現象を通常ではありえない簡易の数字・文字列で表記し変更を行えるようにする能力。5年前、突如現れた『統率者』と呼ばれる人物が保持していたが、『決戦:旧オーサカ第三基地奪還』にて該当人物ごと消息を絶っている。

追記
『統率者』の消息について知っている者がいる場合速やかにレイン=G6492HTまで報告すること

追記
上記人物ではなくナハトジーク=P9937GRに連絡すること。上記人物のせいで『統率者』様は消えた可能性がある。

追記
ナハトジーク、それを言うならあなたのその冷たい対応こそがあの方の精神を(これ以降は客観的な事実に基づかない感情的なやり取りが多数含まれるため省略されている)

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