引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

20 / 27
飛べないサメはただのサメ

「なにこの映画……」

「愛憎入り混じるサスペンスアクションSFファンタジーギャグコメディの金字塔! だって」

「随分ピンポイントな金字塔だな」

 

 小屋の中はファンはあれど冷房などはなく暑苦しい。監視用の望遠鏡はしばらく使われていないのかレンズに埃が溜まっている。俺達は窓を開けてカーペットの敷かれた床に座り、足をだらりと伸ばしリラックスする。部屋の中には俺含め12人もの人がいて、少し狭苦しくなっているがまあ許容範囲だ。

 

 俺たちは、だらだらと画面に映る「サメVS総理大臣VS墾田永年私財法」なる怪作を眺めていた。

 

 あらすじとしてはシンプル、空間跳躍三段突きを放つ空飛ぶサメの謎を解くべく立ち上がった総理大臣、しかしそこに墾田永年私財法が立ちはだかり……と書いている。まともなのが総理大臣だけってどういうことだよ。

 

『な、これは法則が実体化しているのか……!』

『総理、墾田永年私財法相手に空中戦は不利です!』

『飛べないサメはジェット噴射で飛翔!』

「なんでこんなクソ映画が残ってるんだよ……」

 

 うん、誰がどう見てもクソ映画であった。最低限の費用はかかっているっぽいがB級と呼ぶことすら許されない内容である。というか墾田永年私財法は施行されるものであって飛ぶものではないだろ。空中戦をするんじゃない。そんなことを思っていると、隣に座る少女がツッコミを入れてくる。

 

「サメ映画は文化だからな」

「断絶しといてほしい文化ランキング最上位だろ、なんでお前がいるんだよ」

 

 俺の視線の先にいたのはまさかのミハルであった。こいつ、なんと俺が入ってきた後に当然の如くふらりと現れたのだ。しかもこいつ身体が色々と大きいから小屋の中の密度が急上昇。ぎゅうぎゅうに座った結果、思いっきり俺の方にいろんなものが当たっているんだが。そんなミハルは俺の肩を自身の肩で小突きながら言う。

 

「こういう機器をがっつり触るならあたしの力がいるんだよ。あと、取ってきたデータのサルベージとかなそのついでに息抜きってわけ……本当のことを言うと、こういうことしとかないとハブられるんだよ」

 

 ミハルの最後の言葉にうっとなる。確かにありそう、ウララが真面目ちゃんなんてからかわれるくらいだ。メカニックとして仕事ができないミハルの肩身は狭すぎる、こういう所で貢献したり仲間感出しておかないと確かにこんな閉鎖された社会では厳しい。……そう考えると俺、かなり上手い立ち回りなのでは? ウララを手助けしつつ、こういうのにも顔を出す。実はナナとかからの好感度かなり高いのではなかろうか、知らんけど。

 

「それでもこんなのをサルベージする必要はないだろ」

「まあ名作も出ては来るぜ、でもリアルな表現は嫌な子も多いんだよ。トラウマを抉ったり、あるいは時代が違いすぎて全然心情についていけなかったり」

 

 そう言われると、少し納得してしまう。俺たちにとっては犬が死ぬ映画はちょっときつい、みたいな話なのだろう。特殊な経験のせいで、映画を楽しめない。戦闘シーンとかは特にきついだろうな、死んだ戦友とか自分のミスを思い出して定期的にメンタルやられそうである。一方そういう意味で言えば目の前の映画はアホ過ぎてそういった連想はしにくい。少なくとも墾田永年私財法との空中戦で死んだ戦友はいないだろうからな。

 

『中臣鎌足君、力を貸してくれないか』

『断る、スーパーの特売があるんでな』

「きっとこの特売が話の肝だね~」

「そんなわけないだろ」

「チェーホフの銃って言うじゃん~」

 

 チェーホフの銃とは物語の理論の一つで、『物語に「銃」が登場したら、それは必ず後で発砲されるべきだ』という感じの話だったと思う。要は、無駄な配置をするなという作者への戒めであり、一方で視聴者からすると先を読む手助けにもなる。でもスーパーの特売のどこに空間跳躍サメを倒す手がかりがあるんだよ。

 

「いや、そんなにいちいち疑ってたりしたらきりがないし、ミスリードの可能性もあるぞ。あと急にニンジャが出てくる可能性も」

「サプライズニンジャ理論!?」

 

 ちなみにサプライズニンジャ理論というのもまた、ネットで言われている物語論の一つである。正確には『脈絡も無くニンジャが出て暴れた方が面白い脚本は考え直せ』というような話なので、ミハルの反応は若干間違いではあるんだけど。

 

 でもニンジャ出てくると面白いんだよな。作品の空気ガラッと変わっちゃうし異物感すごいのは難点だけれど、なんかワクワクするじゃん。

 

 いつの間にかこの謎映画は謎のお色気シーンに突入しており、総理大臣と秘書がベッドに突入し始めている。何してるんだよ早く月面墾田永年私財法を止めに行けよ。

 

 そうやってみんなでぼけーっと映画を見ていると、『死ぬかも』という思いで走り続けてきた緊張感が少し解けてくる。

 

 そういえば、半年前くらいにこんな感じで友達と映画視聴会したっけか。結構傑作だったんだけど、眠気に負ける奴が出てきたり逆にドはまりするやつが出てきたり。そういえばあいつに貸した漫画未だに返してもらってないな。

 

 ああ、そういうのが続くべきだったのに──

 

「……大丈夫か」

 

 ふと、隣から声をかけられる。気づけばミハルは画面ではなく俺のほうだけをまっすぐ見つめていた。

 

「何というか、抜け殻のような表情をしていたぞ」

「……いや、故郷が恋しくなってな」

「……そうだよな、冬眠前の世界は今とは全然違うもんな」

 

 ミハルの問いかけに反射的にでた答えが、すんと胸に落ちる。そうか、これがホームシックというやつか。

 

 夢もなく、なんとなく流されるまま進学し流されるままだらだらと日々を送っていた。だが、こうなってみるとそんな当たり前のことがどれだけ貴重か、嫌でも思い知らされる。安心安全に日々を送れることのなんと素晴らしいことか。

 

 俺の真剣な表情にミハルは表情を白黒させる。まあそうだろう、冬眠した人間への対応なんてやったことがないだろうからな。ミハルはしばらく動揺した後、ああやはり『失敗』してしまったのだろう、突拍子もないことをしてきたのであった。

 

「まあこっちでしかやれねえことを試してもいいじゃねえか。た、例えばここじゃ男はおまえだけなんだぜ」

 

 何言ってんだ、と笑い飛ばそうとして俺は固まる。俺の手が、柔らかな温もりに沈んでいた。ミハルが俺の左手を掴み服の上からではあるが、自ら胸を触らせたのだ。ミハルと俺は二人ともフリーズする。ミハルの頬が薄紅色に染まり、互いに視線を合わせる。背後では映画のベッドシーンが映っていて、ミハルがそれに影響されたのだけは間違いなかった。

 

 自分でも耳が赤くなるのを感じる。こういう時は泰然としているのが格好いいのだろうし、普段の忙しい時であれば流せた。だが気の抜けたタイミングだからこそ、素の反応が出てしまう。え、これ本気で脈ありなのだろうか、というか胸大きすぎるだろ良いでも俺がこういうの苦手だったらどうする気だったんだこいつは。頭の中を思考が駆け巡る。

 

 そして真っ先に動いたのは俺とミハル……ではなく、周囲の傷病兵たちだった。そんな俺たちを囲んで、少女たちが興味津々で騒ぎ立てる。

 

「確かに男は藍田君だけだし、いわゆるハーレムじゃん!」

「え、今からしちゃうの!? マジで!?」

「今から基地の女の子全員攻略しにいこうよ~」

「あーやかましいからかうんじゃねえ!」

 

 半分冗談で半分からかいの混じった彼女たちの言葉で陰鬱な空気が消える。うん、こんなこと考えている場合じゃない。ホームシックになってるくらいならこの現状解消が最優先だ。

 

「大丈夫大丈夫、心配するな──―」

 

 そう言おうとした瞬間だった。地割れのような音が響き、小屋の窓の外が激しく輝く。腹の底を震わせるような爆音と共に大地が揺れた。ミハルを押しのけ埃をかぶった望遠鏡を掴む。

 

 視界の中で、再び白熱の閃光が走り、空気を叩き割るかのような衝撃波が走る。

 

「な──」

 

 俺の目の前で、視界の先の山が、まるごと消し飛んだ。砕けたわけでも抉り取られたわけでもない。

 

 溶断された、という方が正しかった。残ったのは煙と、黒く抉れた地形だけ。

 

 震えながら視線を閃光の発射先に向ける。すると、そこに、いた。

 

 それは全長百メートルに及ぶ巨大なアブラクサスだった。到底自立できない肥満体型をしており、巨大な体に反して足は短い。だが、赤く輝く二本の大きな腕だけは機敏に動いている。分厚い甲殻の隙間からは油が噴き出し、大地に炎を巻き散らす。

 

 そして化け物は、羽の生えたアブラクサス数十匹に吊られて空を飛翔していた。ついに巨体のアブラクサスは地上に降り立つ。俺達は知っている。割れ目の底にいるはずのそれを。数多のアブラクサスを従えるそれを。数多の人間を絶望に叩き込んだそれを。

 

「──『アマテラス』」











□ルート分岐が発生しました。


・ユニット『ウララ』『ミハル』の好感度が10に達しなかったため、「飛竜」の発見に失敗しました。ルート『基地オウミのエース』が消失しました。
・ユニット『ウララ』が好感度10未満の状態で『統率者』の力を公開しませんでした。END『血の繋がった娘』が消失しました。
・ユニット『ミハル』が好感度10未満の状態で『統率者』の力を公開しませんでした。END『薬と夢うつつ』が消失しました。
・ユニット『ウララ』が好感度11以上になりませんでした。END『優しき監獄』が消失しました。
・ユニット『ミハル』が好感度11以上になりませんでした。END『二人だけの逃避行』が消失しました。
・特殊条件を満たしました。ルート『焔天の果て』が解放されます。






ミッション
☑ ステータス画面の機能を理解しろ
☑ 濁刃を手に入れろ
☑ 自身のLvを70まで上げろ
□ ウララの好感度を10まで上げろ (9)
□ ミハルの好感度を10まで上げろ (9)
□ アマテラスの襲来に備えよ 
☑ ウララとミハルを仲直りさせろ
□ アマテラスを撃退せよ! ←NEW!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。