引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件 作:西沢東
会議室の空気は重く沈んでいた。長机を囲む20人ほどの少女たちは誰一人口を開かず、椅子のきしむ音が妙に耳に残る。LEDは不安定に瞬き、その光に照らされる少女たちの顔も皆一様に青かった。
そして末席に座る俺とミハルは凄く肩身が狭い思いをしていた。うん、言えないもんな。『アマテラス』出現時にサメ映画見てましたなんて。そんな状況の中で口火を切ったのは、会議室前方のスクリーンの前に立つウララであった。
「それでは時間になったので会議を始めるっす。基地司令はもう亡くなっているので、代わりに私が進行するっす。まず知っての通り、2時間前に『アマテラス』の出現が確認されたっす」
そう言いながらウララはスクリーンに映像を映す。ノイズの入った映像ではあるが、そこにははっきりとあの巨体があった。
肥え太った体は大地に沈み込み、その滑稽なほど短い足では自立することすらままならない。だが、赤く大きな、8本の指を持つ奇怪な両腕でじりじり、と体を引きずるように移動を始めている。
元は通常のアブラクサスと同じ恐竜に近い形状だったのだろうが、アブラクサスの生産に特化するあまり最早爬虫類とは思えない奇妙な形をしていた。時たま腹部からのそりとアブラクサスが生み出されている様子が観測されている。そして『アマテラス』を守るように、多数のアブラクサスが周囲を歩き回っていた。
更に恐るべきはその分厚い装甲だった。戦車砲ですら容易く弾き返しそうな分厚い装甲に加え、その隙間からは絶え間なく黒い油が漏れ出している。それらが自然と発火し広がり、『アマテラス』周囲数百メートルは火の海と化していた。どうやらそこまで熱くはないらしく周囲のアブラクサスは平然としているが、人間が入れば肺が焦げ痛みにのたうち回り死に至るだろう。
そして何より、山をも溶かす熱線がある。恐らく『アマテラス』の保有するオメガ流体の能力、熱を収束、指向性を持たせて射出する力。原理は不明だが、射程も極めて長く、既にこの基地も圏内に入っている。
ウララが語る情報を聞いて、どうするんだよこれ、と思う。超火力長射程高耐久増殖能力持ちスリップダメージ有り。ゲームで出てきたら間違いなくプレイヤーから非難を浴びること間違いなしのキャラだ。ウララは淡々と状況を整理し続ける。
「周辺には100匹以上のアブラクサス、そして羽のついた特異個体『飛竜』も多数見られるっす。アマテラスがここ最近静かだったのは、飛竜を生産し自身を吊り上げ飛翔、地上に戻るためだったと思われるっす。現在アマテラスは割れ目近くの平地に滞在、徐々に移動を始めているっす」
さて、ここからどうするのだろうと俺は周囲を見ながら思う。今のところこの基地にアマテラスを倒せる戦力はない。となると一般的には息をひそめる、命からがら逃げ出す、増援がくるまで防戦を続ける、というあたりだろうか。が、ウララの答えは全く違った。
「決死隊を組み、『アマテラス』本体に直接攻撃するっす。幸い今は熱線発射後の」
「おいおいおいちょっと待ちなさいよ」
その話を遮ったのは、俺とはあまり面識のない、気の強そうな少女だった。彼女は机を叩き、冗談じゃないと叫ぶ。
「勝てるわけないでしょ、無駄死にしろっていうの!」
少女の言葉は至極真っ当に聞こえた。が、周囲の反応は微妙。俺のイメージとは違い、ウララの話の方が筋が通っている、とでも言わんばかりの空気であった。
なんでだろう、と思っているとウララが無表情に、淡々と言い返す。
「この基地は歩けないから、あの熱線を撃ち込まれたらひとたまりもないっす。見つかって先制攻撃を受ける前に、こちらから打って出るっす」
「じゃあ援軍を待てばいいじゃない!?」
「分かってると思うっすけど、今はアマテラスのオメガ流体が活性化してるっす、通信なんて届かないっすよ。私も試したけど駄目っす」
「……でも、これだけの通信妨害ならこちらをチェックしに来てくれる!」
「そうっすね、何があったか調査しにきてはくれるっす。でも援軍が来るといってもその部隊が一度報告に基地に戻った後っすけど」
俺は納得する。そうか。一般的な戦略とは違い相手は化け物。ゆったり構えたり通信して指示を仰ぐというまともなこともできないのだ。よく考えたらこの会議は、本来なら本部の偉い人とか出てもおかしくないのに、いるのはウララ達だけ。……そりゃ人類も負けるわな、近代兵器無効化された状態で各個撃破されるわけなんだから。
ウララは更に淡々と話を続ける。よく見るとウララの唇は震えている。淡々と、というよりは感情を抑えている、というような風であった。
「さらに、今なら『アマテラス』の位置は割れ目に近いっす。倒せなくても、例えば爆薬で地面を崩落させて落とすだけで大きなダメージになるっす。割れ目が近い今こそがラストチャンスっす」
ああ、ウララの言うことは正しい。あの大地を包む炎と熱線への対策など何も考えられてはいないが、確かに可能性がある。あの化け物相手に万に一つを掴めるという点では、他のどの策よりも合理的だった。
ああそうだ、所詮は合理的なだけなのだ。
「苦しんで死にたくないんだけど。死ぬなら熱線で一発のほうがマシ」
「な──」
ああそうだ。彼女たちは疲れ切っている。万に一つの可能性に全てを賭けるなど、もうできやしないのだ。
命が惜しくないから賭けに出れるのではない。その先にあるリターンと、それを得るための熱量があるからこそ賭けに出るのであって。もう、そんな熱はこの基地のどこにも残っていなかった。
机を囲む他の少女たちも、絶句するウララを尻目に好き勝手言い始める。俺とミハルはそれを呆然と眺めていた。
「うーん、私は逃げようかな。廃棄拠点周辺とか、隠れられる場所あるでしょ。まあ長く生きられるかは別として」
「せっかくだし車で逃げて、他の基地に受け入れてもらおっと。私建設系の作業できるから断られないし」
「羨ましー、私はもうゲームして基地内で寝るしかないな。一発で殺してくれるといいんだけれど」
「あなたたちはないんっすか、人類を守ろうという意思が、正義が、義務が!」
ウララと少女たちの会話はヒートアップしていき、終わりがみえない。俺とミハルは気まずそうに端っこで静かにしている。俺とミハルには矛先が向かないのだ。俺はウララの腹を大事な時に破壊し、ミハルは仕事を放棄したのに。
おそらく理由はシンプルで、あのサボり部屋に顔を出したり、彼女たちの行事に対して否定的でなかったりしたから。つまり仲間意識というやつだ。だから攻撃を控えている、うん、実に「社会」という感じである。
そして遂に、ウララを睨む少女たちの一人がチクリと嫌味を言った。
「じゃあなんであんた飛竜見つけられなかったの。あんたがきちんと偵察してればアマテラスが飛んでくることも分かったし、上陸する前に撃ち落とせたでしょ」
「あなたたちには言われたくないっす! それを言うなら、皆が手伝ってくれたら、私は……!」
「こっちのせいにするのやめてよ真面目ぶらないでよ」
「っ……!」
ウララは激昂する。ウララは彼女たちに仕事を押し付けられた側だ。善意で引き受けて、いろんなことを見て見ぬふりをして、心労を一人で抱え込んだ挙句この言われようだ。
が、それはウララ視点の話でしかない。
「だから私たち、この会議で今まで飛竜発見の責任について言わなかったんじゃん、私たちはサボってる側だから。あんたが仕事をしっかりしてるならともかく、「隠し通路」の対応とか含め色々手を抜いた上に正義やら義務やら押し付けてくれるのやめてくれる? いい子ちゃんで褒められるのは子供だけ、あああんた子供だよね。見た目も食べる量もそうだし」
「……この……!」
「ちょっと待てウララ、ミハル、そっち抑えて! 暴力は駄目だって!」
「止めないで欲しいっす。藍田さん!」
言ってはならないワードがいくつも並び、遂にウララの堪忍袋の緒が切れる。ウララは足音を立てて歩み寄り、少女の首を掴もうとするが、俺とミハルが慌てて止める。もう会議なんてもんじゃない、と暴れるウララを背後に周り羽交い締めにしながら思う。
そんな光景を見て、ウララに冷たい笑みを送り机を囲んでいた少女たちは出ていく。
共通の敵がいれば一致団結できるなどというのは完全な机上の空論であるらしい。ウララを落ち着かせながら俺は決意する。もう、基地全員で協力して立ち向かう、なんて策は捨てるしかない。
やっぱデバフかかりまくりのやつらに頼るのは駄目だ。策は思いついたのだ。無茶ではあるが、ステータス画面の力を使えば不可能ではない。後は実行する人員だけである。
俺が一人で『アマテラス』に突撃するしかない。
前話の後書きでちょっと紛らわしい書き方をしていたので補足。
・ウララとミハルの好感度10(9以下でも11以上でもNG)を特定時期までに達成すると、ルート『基地オウミのエース』に派生します。これはBADENDではなく、早期に飛竜を発見し『アマテラス』が割れ目に登ってくるのを阻止するルートとなります。戦闘難易度は比較的低いですが、英雄度の上昇値も低いです。
・ミッションの好感度についての項目は
『好感度を10”まで”上げろ』 と書かれています。
11以上はミッション失敗となります。