引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

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誕生日ボイスを聴き忘れた時の絶望感たるや

「……何が手を抜いた、っすか。私は全力を出してるっすよ」

 

 滅茶苦茶になった会議の後、ウララは憂鬱な気持ちで基地を歩く。時刻は昼過ぎ、天気は曇りで基地には穏やかな風が吹いている。『アマテラス』上陸後の基地は、信じられない程に穏やかだった。ウララが信じたくない程に。

 

「今晩何で遊ぶ?」

「『アマテラス』の電磁波のせいで通信使用するタイプのゲームが何もできないんですけどー」

「うーん、じゃごろごろするー?」

 

 悲鳴や怒声に包まれていたほうがはるかに楽だ、とウララは思った。自分の孤独が浮き彫りになるから。

 

 会議の後、ウララは気まずくなり藍田とミハルに「部屋に戻るっす」とだけ告げ別れ、頭を冷やすために仮眠を取った。回り続ける思考を無理やり抑え込み、ミハルちゃんもこんな気持ちだったのかな、などと思いながら。

 

 ウララにとって衝撃だったのは、仲間たちに理不尽に責められたからだけではない。その状態になっても、自身を庇ってくれない二人に対しての憤りもあった。

 

「わかってるっすけど。藍田さんはここにきて浅いから発言権が低い、ミハルちゃんはミスのせいでむしろ煙たがられてる、庇っても意味がないのは明らかっすけど」

 

 それでもウララはそう簡単に割り切ることはできなかった。少なくとも二人は「こちら側」であり、戦闘を嫌がる少女たちの説得に加わってくれると思っていたから。明確に、期待していたから。頼っていたから。信じていたから。

 

 それもあって会議でのウララはヒートアップしてしまったのだ。ああ、やる気のない少女たちをさっさと無視して動ける人だけで動いても良かったのかもしれない。しかしそれもできなかった。あの少女たちの罵倒を否定せず受け入れてしまうと、今まで自分が心を殺して取り組んできた任務が、すべて意味のないものになってしまうような気がしたから。

 

 手を抜いた、いい子ちゃん、子供。罵倒だけは一人前だが本来の責務を忘れ人類を裏切り勝手に終わろうとする基地の仲間に、ウララは憤りを隠せなかった。

 

 どうして。自分たちの背後には別の基地もあるのに。どうしてそこまで身勝手になれるのか。

 

 ウララは瓦礫の上に座り思案する。時は金なりというが、自分のこの怒りがある状態で動いてもまた衝突を起こし、話を拗らせてしまう。それではどれだけ時間があっても無駄だ。だから30分1時間と、空を見上げて思考を纏め案を巡らせる。

 

 が、どれだけ考えても怒りは収まらず全てを解決する案などでやしない。それはそうだ、5年に渡る鬱憤、そして母体『アマテラス』という恐るべき存在。丸1年かけたところで解決するはずもないのだ。

 

 太陽が傾き始め、ウララの心もさらに暗く沈み始める、その時だった。

 

 

 

 

「これバスに運び込むよ、そーれ!」

「弾薬はー?」

「それは陽動部隊の方ね」

「ミハルの方にオメガ流体持って行ってあげて、何か使うらしいよ」

「…………え」

 

 いつの間にか。視界の端で異変が起こっていた。

 

 ついさっきまで、だらけて死を受け入れていたはずの少女たちが武器をバスの天面に取り付け始めている。それだけではない。続々と基地の少女たちが道具を持ち寄り、慌ただしく動き始めている。明らかに逃げるためではなく、戦うために。

 

 中にはしばらく触っていなかっただろう濁刃を取り出し、傷病兵を偽装するためのギプスを取り外す者までいる。あの会議から半日と経っていないのに、信じられない速度の方針転換だった。ウララは慌てて作業をしている一人を捕まえ問いかける。

 

「ちょ、ちょっといいっすか」

「何、忙しいんだけど」

「これ、何が起きてるんっすか?」

 

 ウララの視界内では、あの会議中に自分を冷たい目で見ていた少女すら準備を始めているのが映っていた。いったい何があったのか。聞くと、意外な答えが返ってくる。

 

「あれ、藍田君に何も聞いてないの? 今壁の上にいると思うから、聞いてみたら──ってああ、行っちゃった」

 

 ウララは話を聞き終えることもなく、高い侵食度を生かした身体能力で壁の上に向かう。三段飛ばしで階段を駆け上ると目的の人物はすぐに見つかった。

 

 藍田はいつも通りの元気そうな表情で、しかし今は右手に大きなスーツケースを持っている。壁の外を覗き込み、虚空を見つめてブツブツ言っている藍田であったが、ウララの足音を聞いて少しスーツケースを隠す素振りをしながらこちらを振り向く。

 

 藍田はウララを見つけると何事もなかったかのように「うっす」と言った。いつも通り。ウララは噛みつくかのように藍田に問いただす。

 

「何があったんっすか!?」

「あー、あの子たちの話だよな。単に認識のすり合わせをやめただけだよ」

 

 ウララの言っていることを察し、藍田は少し先回りした答えを返す。が、よくわかっていない様子のウララを見て少しかみ砕く。

 

「あー、まず前提としてさ、現状で全員の方向性を揃えるのは明らかに無理じゃん。会議で揉めてたみたいににさ、死んでもいい、戦う気力がない、士気がない、そんな奴らを奮い立たせようだなんて時間の無駄っでしょ。ほらあるじゃん、学園祭の出し物でやる気あるやつとないやつで揉めるみたいな」

「その例えはよくわからないっすけど……で、どうしてああなったんっすか」

「やる気ない奴に理想論説いても意味が無いから、正論をやめて心の隙を突いたわけ。ミハル先生監修済だから効果も抜群」

「……逃げ道っすか?」

「『別に逃げてもいいけど、普通に逃げるだけだと味方を見捨てた逃亡兵扱いで他の基地から受け入れ拒否食らうかも』『君たちが戦わないと仲間も逃亡兵として酷い扱いを受けるかも、だから形だけでも戦っておかない? 逃亡兵と命を懸けて戦った敗残兵って大分扱い違うと思うんだよね』『これだけやってくれたら逃げても死んでもかまわないからさ! 仲間の今後がかかってるんだよ!』って。正義感はなくても友人のその後を思いやる心はあるだろ、あいつらにも」

「……」

「砲撃支援や超遠距離からの妨害とか、リスクの低い作戦を手伝ってくれるだけでずいぶん助かるからな。とりあえずやれることはやってもらおう」

 

 その意見は至極当然だった。藍田は隙を突くなどと言っているが、やっていることは相手に寄り添う、それだけの話。「諦める者と戦い続ける者」といった対立構造を生まないようにする、ある種の折衷案。社会人であれば、いや藍田のような学生でも簡単に選択肢として入る提案の一つ。

 

 だが、ウララの思考には全く浮かんでこなかったものであった。精神状態と環境を考えれば視野が狭まるとはいえ、言われてみればその手があった。ウララは頬をかきながら言う。

 

「私は罵倒されたっすけどね。友人のその後を思いやる心があるはずなのに」

「耳に痛すぎたからだろ。だからあんな無理やりな反論してきたんじゃないか。なんだよ手を抜いたって」

 

 ウララと藍田は笑い合う。ウララは心のわだかまりが取れたのを感じた。少なくとも藍田は基地を見捨てたわけでもないし、死にゆく少女たちに同調したわけでもない。徹頭徹尾、『アマテラス』を倒すために必要なことをやっている。

 

「それに面白いぞ。もし俺たちが勝てば、逃げ出したあいつらはどうなるんだろうな。「『アマテラス』に襲われて敗走して仕方なく!」「え、勝ったって聞いたけど、なんで本隊に合流してないの? もしかして……」とかな」

「ふふ、性格悪いっすよ藍田さん。で、勝算はあるんっすか」

 

 ウララはその点が一番の懸念点だった。仲間が動いてくれたのは良い。だが、中心になっているのが冬眠から目覚めて2週間程度の藍田なら、一体何ができるのだろうか。そう思っていると、藍田は任せろと言わんばかりに親指を立て、作戦を説明する。

 

「ミハル先生とナナにも話を聞いて確認は取った。作戦の概要は変わらない、『アマテラス』を押し出して再び割れ目の中に叩き込み、1kmの自由落下で即死させる。そのためにまず割れ目周辺を崩落させるための特殊爆薬の準備、そして押し出すための『アマテラス』より巨大で重く硬いものを──」

「……っす」

 

 藍田の作戦を一通り聞き、ウララは頷く。穴だらけの戦略だ。勝ち筋は依然として薄い。しかし、万一全て作戦通りに行けば。熱線も、装甲も、燃える大地によるスリップダメージも、増え続けるアブラクサスも。全て押し流してそのまま勝てる。

 

 微かではあったが、光明は確かにそこにあった。

 

「だからウララとミハルには工兵として、アマテラス近辺でとどめを刺すための準備をして欲しい。その隙に、俺が『アマテラス』に単独で突っ込み奥義を打ち込み続ける」

「万一そんなことが出来たら、『統率者』って呼ばれるかもしれないっすよ」

「あの超イケメンと同列かー」

「『統率者』様の力で強化された人は二段ジャンプと対戦車ライフル直撃に耐える耐久力を得るらしいっすね」

「強化待ちの待機列とか部屋の前に出来たら嫌だなぁ……」

 

 話をしながら、ウララは自身の中で疑惑が確信に変わるのを感じる。ポロリと出した『統率者』についての例えは当然誇張している。ファンタジーのような、普通の人間ではありえない現象だ。しかし藍田は、まああり得るかというくらいの反応しかしない。冬眠していて、そんな現象を見たこともなく信じることも難しいはずなのに。

 

 だからウララは、鎌をかけた。レインとの会話を思い出しながら。

 

「藍田さんはなんのために『アマテラス』と戦うんっすか?」

「死にたくないからだよ。だって別に他の基地に起死回生の一手があるなんて話も聞かないし。逃げてジリジリ追い詰められるのとか嫌じゃん。倒せる可能性があるうちに倒さないと」

「死ぬ可能性の方が高いのに? 怖くないんですか?」

「まあそこは頑張るさ。とりあえず勝利後の美味い飯と気持ちのいい睡眠、あとだらだらした時間を夢見てさ」

「じゃあもし成功したらパーティーっすね。あ、パーティーといえば、藍田さん。誕生日はいつっすか?」

 

 無理な話題転換だったかな、怪しまれるかな、もし全く違ったらどうしようと自身の心が不安で揺れるのを感じる。ウララの極度の緊張とは対照的に、藍田は何も気づかず返事をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

「ん、1月10日だけど?」

 

 










『誕生日』
ソシャゲで入力すると、キャラが誕生日限定ボイスとかを言ってくれたりする。ボイス一覧機能がないゲームで誕生日ボイスを聞き逃すと絶望するとかしないとか。まあ大体の人は変える意味もないのでリアルの誕生日をそのままゲーム内に入力する。


□ルート分岐が発生しました。

・END『血の繋がった娘』への分岐が復活しました。



ミッション
☑ ステータス画面の機能を理解しろ
☑ 濁刃を手に入れろ
☑ 自身のLvを70まで上げろ
□ 【至急】ウララの好感度を10まで上げろ【必ず!】【最短で!】 (9)
□ ミハルの好感度を10まで上げろ (9)
☑ アマテラスの襲来に備えよ 
☑ ウララとミハルを仲直りさせろ
□ アマテラスを撃退せよ!
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