引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

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メ~(アレとかコレとかの指示語が乱舞する回です)


月光仮面ヤギ人間

 会議から8時間ほどが経過し、基地は夜闇に沈んでいた。ミハルは夜の基地を工具を持って歩く。他の戦闘、運転に関わるメンバーは既に就寝している。

 

 ただミハルは寝ることができない。明日は自身も戦場に出るというのに。寝なければならないという思いと、寝不足でミスした時の恐怖の記憶が頭の中を駆け巡り、目は信じられないほど冴えていた。

 

 加えて、明日の作戦の成功率の低さもある。

 

「作戦が成功する確率は、よくて100回に1回だな」

 

 ミハルは藍田立案の作戦を検討、修正した張本人である。確かに、藍田の策には可能性がある。「アレ」が当たれば『アマテラス』とてひとたまりもない。

 

 が、そもそも当たる可能性が限りなく低い。『アマテラス』との距離、衝突する際にどれだけ速度が残っているかを考えれば当然の話ではあるが。噴射機の性能がカタログスペック通り出るのであれば、廃棄前提の限界突破駆動と位置エネルギーの力で可能性は……そう考えてから、ミハルは頭を振る。

 

 どうあがいてもこの段階で藍田が出した以上の策はない。あの熱線がある以上、いずれ基地は一撃で消滅する。なら、こちらから打って出るしかない。やるしかないからやるのだ。不安がどう、という話ではない。

 

「……ヤギ人間は大丈夫かな」

 

 ミハルが気にしているのは藍田のことであった。いくら特殊な事情があるとはいえ、藍田は一般人に見える。

 

 藍田にメンテ方法を教えていて分かったのは、少なくとも彼は軍人ではない、ということだった。濁刃という人を殺せる兵器をすごく雑に扱っている。この前は無理に濁刃を片手で持ち上げようとして手を滑らせ、危うく大怪我をするところだった。素人なら当然のミスであり、そして軍人や危険物を扱う者であれば絶対にしないことであった。

 

 なら、ヤギ人間の心は今頃恐怖に染まっているのではないか。そう思って藍田の部屋に向かったのだが不在。仕方なく外を探そうと思って、ミハルは壁の上を歩いていた。

 

 遠くには『アマテラス』と燃え盛る大地が映っていて、それに照らされて基地の壁が鈍く光っている。基地の上では明日戦闘に参加しないメンバーが最終準備を進めていた。そのうちの一人がミハルに声をかける。

 

「ミハル、言われた通りにやっといたよ、でもあれだけでいいの?」

「大丈夫だ、そもそも数十年稼働していないし、あれを据え付けたメンバーももう疾うの昔に死んだ。あたしたちが下手に触ったらさらにトラブルが増えるだけだ、だから後は爆薬の準備しといてくれ。あっち忙しそうだし」

「はーい、ミハルも早く寝なよ」

「……寝れたらな」

 

『アマテラス』対策が僅か1日で準備できるのではない。今の人員と技術、資材ではそれ以上のことは一切何もできないだけだ。その事実に、心が重くなる。

 

 

 壁の上をしばらく歩いていると、目的の男が見えてきた。相も変わらず能天気そうな顔は今朝映画鑑賞をしていた小屋の陰に隠れ、何やら呟いているのが見える。

 

 一瞬飛び降りか!? とミハルの心臓が止まりそうになるが、直ぐにそれは別の物へと変わった。

 

「……これでレベルアップ、っと。さて付与するスキルは……」

 

 藍田はスーツケースを持っていた。その中に、パンパンのアブラクサスの臓器が詰め込まれていた。それが藍田の言葉と共に光に包まれ、どこかへ消えていく。

 

 あまりにも幻想的で、非科学的な挙動。藍田は集中しているのかミハルに目を向けず、虚空を眺めている。しかし虚空を見ているはずなのに、藍田の眼は小刻みかつ規則的に動いていた。まるでそこに何かがあるかのように。

 

 

 流石にもう、間違えるはずがない。ナハトジークの言葉が脳裏に浮かぶ。まさかありえない、と思っていた。顔が違い過ぎるから。言動が違い過ぎるから。

 

 でも、藍田の異常な成長を説明するには、あまりにも的確であった。

 

「『統率者』……?」

「あ、やっべ」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

「ま、まあとにかく俺は『統率者』本人じゃない、だって顔も違うだろ? でも、能力は一緒で、冬眠から目覚めたらいつの間にか手に入れてたってわけ」

 

 十分後。藍田が手をバタバタと振りながら必死に誤魔化そうとするのを抑え込み、ようやくミハルは真実を吐かせることに成功する。……厳密にはもう少し裏がありそうな気もしたが、ミハルの観察眼によれば藍田が『統率者』ではないことも、能力が同一らしいのも真実のようであった。

 

 なお、この時藍田はこの世界が自身の引退したソシャゲの世界なのでは……という話は、意図的に省いていた。言ったらややこしくなる上に、「お前が引退しなければ!」と言われる可能性を加味したのである。

 

「ようやく戦闘教本が消えた理由が分かったぜ。てっきりむしゃむしゃと食べたのかと」

「やっぱそうなるよなー、うん、能力説明しにくいのも公開しなかった理由の一つではあるんだよなぁ」

 

 意外と。ミハルと藍田の会話は平穏であった。まあ、『統率者』としての力は別に禁忌や恐怖の対象という訳ではない。

 

 少なくとも藍田視点からすれば、「悪い予感」「祭り上げられると面倒」「説明しにくい」程度の懸念点しか存在しない。

 

 ミハルにとっても、『統率者』という存在は偉大なものであってもそれだけ。別に過去に『統率者』と共に戦って……というのは、ない。仮に『統率者』本人だとしたらひと悶着あったのだろうが、同じ能力を持つ別人に過ぎない。だから正直驚き以外の感想は無いのである。

 

「他の奴には一旦内緒で頼む。バレて信じる信じないとかで揉めてるうちに熱線で全滅したら堪ったもんじゃないからな」

「あたしは公開した方が士気は高まる気がするけど……まあ焼け石に水ではあるか。『統率者』に実績はあってもお前に実績は無いからな」

「唐揚げの味くらいかな、俺が『統率者』に実績で勝ってるのは」

「どこで戦ってるんだ……」

 

 だから驚くほどスムーズに会話は繋がっていった。藍田は2週間誰にもこのことを話していなかった反動か、スラスラとミハルに能力の詳細を打ち明けていく。ミハルはLv、スキル、対価の話を聞いて、全てを納得し信じた。

 

「しかしその能力であたしたちを強化……ってわけにはいかないのか」

「思いっきり睡眠不足って書いてあるからね、上げてもたかが知れてると思う。むしろそれよりもこういったアイテムの強化に使いたいかなーって」

「因みにその素材は?」

「ほら、コンテナにあったやつ。加工できる人がいなくて輸送も大変だからって放置されてた」

「まさかアレが役に立つ日が来るとはな。まあ誰ももう使わないだろうし、ガンガン使ってしまおうぜ。それで、どう強化するんだ?」

「とりあえずブースターの出力と強度を上昇させようかなって」

「……それだけか?」

「それだけって?」

 

 ミハルは藍田の反応を見て少し納得する。恐らく、藍田は目の前に見えている情報をある種ゲーム的に受け取ってしまっている。数字を上げ下げするもの、程度にしか思えていない。だからミハルは、少しアドバイスをすることにした。

 

「お前、『ノイルコード』の原理って知ってるか?」

「だから法則を歪めるんだろ?」

 

 藍田は何を言ってるんだと言わんばかりに聞く。ミハルは呆れたように首を振った。

 

「そうだよ、法則を歪めるんだ。あたしの先輩が言ってたんだが、昔『統率者』に強化された人の身体能力を調査したらしい。筋力は以前の数倍、素早さに至ってはさらに上。1日しか経っていないのに」

「らしいな」

「でも、『体には何も起きていなかったんだ』。この意味が分かるか?」

 

 藍田は訳分からんと言わんばかりに空のスーツケースにもたれかかり、両手を上げる。仕方がないとミハルは答えを言った。

 

「文字通り因果が逆なんだよ。『統率者』が上げた能力になるように、永続的に肉体が発生する物理現象全てに法則側からそうなるように補正が入っている。それは、単なる出力だけじゃない。お前、ナハトジーク様を知ってるか?」

「…………あ、ああ何かき、聞いた事がある気がするような気がする」

「何テンパってるんだよ。で、その人が一度言ってたんだよ。『『統率者』様の力により、私の攻撃は絶対に命中します。どこを狙っても、必ず』って」

「命中補正(極)かな……ってあ」

 

 ミハルがニヤリと笑うと藍田が驚愕する。藍田は、スキルについて勘違いをしていた。いや、厳密には「隠密行動」などのスキルの存在により理解はしていた。が、その拡張性については十全に理解を出来ていなかった。それは今までの素材の少なさは勿論、忙しさにかまけて自身のスキルの組み替えを行っていなかったから発生したミス。

 

 しかし、ナハトジークという『統率者』が攻略Wikiを元に最大強化した存在をミハルが知っていたからこそ気づけた事実がそこにあった。

 

「出力を上げるとかじゃないだろ、お前の能力。それに対価さえ増やせばルール外の運用もできるって言ってただろ? なら、これを明日ぶつける「アレ」に付与すれば……」

「なるほど……ルール外の運用として「アレ」に変なスキルを無理やりこじつけて取り付ければ……なら押し出せる可能性が……!」

 

 最終決戦の前夜ではあるが。ゲーマーとメカニックの二人の前に出されたステータスという特殊能力について話が盛り上がらないわけも無く。会話は弾み湿っぽさの欠片も無い。

 

 夜は更けていく。しかし、二人の会話は終わらず、基地の上の両者を月だけが見守るのであった。

 

 

 

 

 

「因みに本部に行くと『ノイルコード』関連の研究資料がもっとあったはずだぞ」

「マジか、行ってみたいかも」

「……まああたしがついていって説得すれば大丈夫か。そうだな、今は通信途絶中だし、『アマテラス』を倒したら行ってみようぜ」

 

 

 

 










□ルート分岐が発生しました。

・END『薬と夢うつつ』への分岐が復活しました。



ミッション
☑ ステータス画面の機能を理解しろ
☑ 濁刃を手に入れろ
☑ 自身のLvを70まで上げろ
□ 【至急】ウララの好感度を10まで上げろ【必ず!】【最短で!】 (9)
□ 【至急】ミハルの好感度を10まで上げろ【必ず!】【最短で!】 (9)
☑ アマテラスの襲来に備えよ 
☑ ウララとミハルを仲直りさせろ
□ アマテラスを撃退せよ!


次話より戦闘開始です。指示語の中身がようやく明かされます……とはいっても明示しすぎてるので流石に藍田の作戦内容はバレている気もしますが。更新は10/7昼予定です。多分。
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