引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件 作:西沢東
藍田、ウララ、ミハルが荒れ地の陰で見守る中、ベーゴマ「基地オウミ」は唸りを上げて『アマテラス』までの道を一直線に、淀みなく進んでいく。空力ダウンフォースはその回転を安定させ、エネルギーを減衰させずに『アマテラス』の元へ届ける。
「「「「「Grrrrrrrrrrrrr!」」」」」
周囲にいたアブラクサス達は恐れをなして逃げ出そうとするがもう間に合わない。回転する基地の外壁がアブラクサスに接触した途端、アブラクサスの身体はまるで粘土細工かのように潰れ砕け散る。小型も中型も人間からすれば大きいが、基地からすれば遥かに小さい。遠心力の暴力を受け、アブラクサスは次々と吹き飛ばされていく。
機動補助噴射機が本来のスペックを遥かに超えて噴射を行い、金属製の台風は更に加速していく。ベーゴマ「基地オウミ」により大地は『アマテラス』の炎ごと吹き飛ばされて、そして遂に。
「Bgyurrrrraaaaggggggg!」
『アマテラス』に衝突する。奇怪な悲鳴を『アマテラス』は上げる。衝撃で大地が歪み、火花と共に摩擦熱で基地の壁が赤熱する。金属がねじ切れる音が響き渡り、藍田たちは思わず耳を塞ぐ。『アマテラス』の体液が川の如く流れ大地を染めた。『アマテラス』の装甲が破れ臓器が大地を汚す。
ベーゴマ「基地オウミ」の衝突を受け、『アマテラス』が10メートル以上跳ね飛ばされる。ベーゴマ「基地オウミ」は反動で移動しながら、再衝突を行い、再び周囲に異音と衝撃を巻き散らす。それでも。
「マジかよ……基地ごとぶつけても耐えるのかよ……」
『アマテラス』の肉体は徐々に大地の割れ目に近付いている。だが、それでも距離は60m以上。落下にはまだまだ遠い距離。再び唸りを上げて接近する基地オウミに対して、『アマテラス』の腕が光った。
赤熱したままで。
「Bhhhhhhhgggg!」
『アマテラス』は醜い悲鳴を上げる。既にオーバーヒート状態の腕で無理やり放った一撃は、以前と変わらぬ威力で基地オウミを溶断する。溶けた金属が周囲に飛び散り、回転出来なくなった破片が辺りに飛び散った。
が、『アマテラス』の片腕もまた熱に耐えきれなくなり、ドロドロに溶け落ちる。大地のアブラクサスは基地オウミに弾き飛ばされ、今や『アマテラス』を守るのはオーバーヒートしたもう片方の腕と「飛竜」たちだけだった。
「ウララ、ミハル、行くぞ」
「応!」
「っす!」
その中で、飛び出す者たちがいた。藍田はバイクで、ウララとミハルは装甲車でまだ溶けた金属が周囲を舞う中、荒れ地の陰から飛び出て『アマテラス』に向かってアクセルを踏む。
大地は『アマテラス』の体液とそこから出た火に包まれ、気温は急激に上昇している。しかし藍田たちは戦闘用の呼吸器付き耐火服を装備し戦場に赴くことでそれを回避していた。
同時に、荒れ地の遥か向こうから銃弾が降り注ぐ。空を飛ぶ「飛竜」目掛けて放たれたそれは、命中こそしないものの「飛竜」たちの意識を藍田たちから逸らす。それでも何体かの「飛竜」は藍田たち目掛けて突撃してきた。
「Grrrrrrrrr!」
「藍田さん、ここは任せるっす!」
「あたし爆薬のセットを開始するぞ、どれだけやっても割れ目から50m程度、それが崩落させられる限度だ!」
「頼んだ!」
藍田の乗るバイクと二人の乗る装甲車がルートを違える。ウララは車の屋根から飛び立ち、手に握る長刀型の濁刃で降下してくる「飛竜」を迎え撃つ。
「Grrrrr」
が、「飛竜」の飛行精度は凄まじく、易々とウララの斬撃を避ける。が、ウララは空中で体をもう一度回転させる。ウララの持つ濁刃には、炎が宿っていた。
「最大点火!」
「Grrrrrrrrrrrrrr!」
濁刃から吐き出されるガスの推進力でウララの身体は強制的に跳ね上げられ、「飛竜」の身体に炎が叩きつけられる。最大点火により励起したオメガ流体は異常な熱を吐き出し、「飛竜」の身体を溶かして叩き切った。
そしてウララの付けるリストバンドの色が一気に濃くなり、そして少しずつ薄くなり出す。ウララはこれが藍田が密かにウララの余っていたスキルポイントを[侵食耐性(弱)]に割り振ったからだとは知らない。ただ、その異常に彼女の中の疑惑が更に深まった。
「よいしょ、こらしょ」
一方ミハルは田植えをしていた。
正確には田植えのような動作で、大地に爆弾をセットしていた。
そもそも、『アマテラス』を基地オウミとの衝突だけで押し出せるかは元から怪しかった。そこで第二プラン。地下に向かって炸裂するよう仕込んだ爆弾を、基地オウミとの衝突で滅茶苦茶になった大地に埋め込む。そして炸裂させることで、割れ目に対して強制的に崩落を引き起こし、『アマテラス』をそれに巻き込み地下に叩き落す。
姿は間抜けであったが、極めて重要な役目であった。
そして、藍田を援護するのはそれだけではない。「飛竜」を引き付ける銃弾に混ざり、巨大な米俵のような何かが遠くから飛翔する。それは『アマテラス』に目掛けて放たれ、空中で破裂し周囲に粉を巻き散らした。
「Brr?」
『アマテラス』は困惑する。
それは、明らかに毒物で無かった。
それは、ちょっといい匂いがした。
そしてそれは、熱した油に触れるとカリっと揚がった。
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パン粉 Lv2
スキル:[耐久度向上(小)]
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何発にも分けて空中から散布されたのは、ナナたちが潰し過ぎたパン粉。それが至る所にまき散らされる。その中には『アマテラス』が、そして露出した臓器があり。『アマテラス』の体液は大量の熱された油であり。そしてそこに大量のパン粉が付着すれば。
「Byuguuuuuuuuuu!」
またしても『アマテラス』の絶叫が響き渡る。傷口に衣が固着し、異物として離れない。衣は装甲の隙間を覆い油の漏出を止めるが、その効果よりも体液内に異物が混ざり循環し始めることへのダメージの方が遥かに多い。
あっという間に『アマテラス』の身体をきつね色の衣が覆い、『アマテラス』は苦痛のあまり体を捻る。そこに向かってバイクから飛び降りた男が、手に持つ2本の濁刃を叩きつける。
「お前は今日から唐揚げアブラクサスだ!」
「何言ってるんっすか!?」
遠くからのツッコミをスルーしながら、藍田は両手に持った濁刃から放たれる推進力を最大限に利用し、二刀でもって『アマテラス』の傷口を攻撃する。衝撃と共に肉が弾け大地に油が巻き散らされる。
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藍田ショウ
種族:人間(異世界人)
Lv:72
職業:基地オウミ兵士見習い
年齢:18歳
侵食度:70%
保有スキル:[身体能力向上(極)]: 全パラメータUP(極)
:[侵食耐性(真)]: 侵食度上昇によるデメリット無効、侵食度自動減少
:[頑健の誓い]: 物理ダメージを75%カット、ガッツ付与
残スキルポイント28
HP:207 ST(スタミナ):181
STR:180(+4) DEF:178 AGI:184 DEX:201
状態異常:[一時侵食]:パラメータ大幅向上、精神状態異常耐性付与、■■■(スキルにより無効化)
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藍田の濁刃からは、僅かであるがオメガ流体が漏れている。藍田はメンテで得た知識を利用して、意図的に濁刃からオメガ流体を漏出させていた。これにより侵食度を上げウララたちに負けず劣らずの身体能力を得ることに成功し、加えて2本同時に使用することにより奥義の使用回数と侵食度の上昇を促進。その戦闘力を大幅に向上させていた。
「くらえやチキンカツ! 侵食度を上げた俺はもう腕相撲でウララに負けることはない!」
濁刃が限界を超えて何度も火を噴く。衝撃波が『アマテラス』の身体を揺らし、鋭い金属音が藍田の耳を何度も叩く。叩きつけられるたびに少しずつ『アマテラス』は仰け反っていく。
「Byuggggggg!」
「あっぶね!」
『アマテラス』は「飛竜」たちが助けに来ないのを見て、オーバーヒートした腕を素早く動かし、藍田に叩きつける。肥満体としか言いようのない胴体と相反したその速度に、しかし短距離であれば車より早く移動する脚力を持つ今の藍田は余裕をもって対応する。藍田のいない空間に腕が叩きつけられ、『アマテラス』は情けなく悲鳴を上げる。
何度も何度も。死を目前にしてなお藍田は怯まず、限界まで濁刃を『アマテラス』に叩きつける。段々リストバンドの色は100%に近い値を示しつつあった。
「爆薬設置はそろそろ終わるぞ藍田! でも!」
「分かってる、こいつ硬すぎるんだよ!」
が、それでもなお『アマテラス』は倒れない。圧倒的巨体はネズミが齧った程度で変わらない。未だにミハルの予測した崩落可能距離からはかなり離れており、その間が縮まる様子は無い。
基地オウミにより叩きつけられ、藍田に殴られ、それでもなお。『アマテラス』の身体は2割程度しか損壊しておらず、重症には遠い。
そして『アマテラス』は、延々と自分に纏わりつく害虫に対して、苦肉の策を取った。
「やべっ」
オーバーヒートした片腕に、熱が集まる。しかし先ほどよりも薄く広く。
藍田の直感は、それは自分ごと周囲を焼き尽くす対人用熱線であると判断した。『アマテラス』にはダメージが無い程度に、しかし周囲を歩き回る猿には確実に被害が出るように。
腕は高く掲げられ、藍田たちには届く可能性はない。仮に無理やり届かせたところで、その熱線は発射され藍田が燃え尽きた後だろう。この荒野に隠れる場所などなく、間違いなく死に至る。
ウララとミハルはその光景を見て停止し、しかし藍田だけは直ぐに行動を起こした。最悪の時に取る一手を。全てを台無しにする一手を。
藍田は、『アマテラス』の千切れた臓器に手を当て、自身の履いているパンツに意識を向ける。
「さあ滅茶苦茶になってしまえ!」
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パンツ Lv1
Lvアップが可能です。保有のアブラクサス素材を使用しますか? (YES/NO)
【Tips:5年前の情■■位■伝播体によるノイルコード運用方法と異なる手法で本ノイルコードを運用する場合、通常より高コストな対価及び■■存■に感知されるリスクを負うため注意が必要】
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藍田にとって、それは何でも良かった。『統率者』が強化しないものであれば。そう、リスクは時にはメリットになる。藍田は勝ち筋が薄くなった時、この策を取ることに決めていた。
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パンツ Lv:1→12
スキル:耐久力向上(極小)
■■存■感知リスク:0.2%→回避成功
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「行けっ!」
『アマテラス』の腕が震え始める。
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パンツ Lv:12→18
スキル:耐久力向上(小)
■■存■感知リスク:0.89%→回避成功
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藍田の手もまた緊張により震え始める。残り時間は僅かしかない。
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パンツ Lv:18→25
スキル:耐久力向上(小)
■■存■感知リスク:1.2%→回避成功
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確率は僅か。だが藍田は信じていた。自分は運だけは友人に恨まれるほどいい。ここで引き当てられると。そして遂に『アマテラス』の熱線が放たれようとするその時。
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パンツ Lv:25→28
スキル:耐久力向上(中)
■■存■感知リスク:2.2%→回避失敗。■■存■が限定顕現します。
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大地に、もう一つの影が降り立った。