引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件 作:西沢東
『ノイルコード』、それは数年前に流行ったソシャゲのタイトルである。ジャンルとしては終末SF美少女RPG。宇宙から来た謎の金属生命体「アブラクサス」に対抗するべく、兵器「濁刃」を装備する少女たちを指揮し戦おう! というストーリーである。
なので世界観としてはポストアポカリプスに分類されており、正直ストーリーはハードだ。平然と人が死ぬしキャラクター達はしれっと人造人間だったりする。大体のマップは『旧○○市』みたいに実在する都市をモチーフにした廃墟、敵は絶妙にグロテスク、人類は子供も戦場に出さなければいけないほどの末期状態。
一方でそれに相反するキャラクターの可愛さやゲーム自体の面白さで一定の人気を得るに至った。だがこのゲーム、俺は面白かったにもかかわらずやめてしまった。
理由は二つ。一つはゲームシステム。キャラが装備する『濁刃』という武装とキャラ自身のスキルを強化する……というのがこのゲームの育成システムなのだが、これがまずややこしい。他ゲーと差別化したかったのかやたらと強化の選択肢が多かったのだ。
例えば他のソシャゲであればキャラクターの強化はLVアップと装備変更と覚醒(ガチャ被り救済)のみ、みたいな感じが一般的だ。ところがこの『ノイルコード』はそれに加えステータスの割り振りと追加スキル3枠(無数のスキルから選択可能)というさらにややこしい要素が追加されている。
これがコンシューマーRPGなら良かったのだろうが、残念ながらこのゲームはソシャゲ。選択肢の増加よりも育成の手間増加のデメリットの方が多かったのである。
そして問題がもう一つ。
「出たよ不評のステータス画面……」
そう、この世界の主人公『統率者』はステータス、なるものを設定上使うことができる。この力の存在により主人公は唯一無二の存在となり、世界をひっくり返す要因となる──のだが。
「SFの世界観と相性が悪すぎるんだよなぁ」
「どうしたっすか、お兄さん?」
俺の独り言に首をかしげる少女の下には、俺にしか見えないステータス画面が表示されている。単なるゲームシステムならともかく実際にあると違和感凄いんだよな。
なんだよLvって、現実にそんなものあるわけないだろ。……と言いたいが、このSF感ガン無視の能力が、実はタイトルの『ノイルコード』なるもので、そこから世界、宇宙から来たアブラクサスなる怪物の謎が徐々に明らかになるという仕組みらしい。
が、そんなものは初見のプレイヤーにとって知るわけも無く。SF感を台無しにする要素が物語の根幹にあるのはどないやねん、と一時期がっつり批判ツイートが伸びていたほどであった。
実際この能力、マジで強いし作中での存在感が凄いのだ。一時期のイベントシナリオは「劣勢に追い込まれる新ヒロイン発見→ステータス強化してあげて窮地を脱出→新ヒロインに惚れられる」というテンプレパターンができてしまっていたほどだ。まあ確かにSF世界観の中でファンタジー能力使えるのならそりゃあ凄いのだろうけど。この繰り返しのせいでストーリーに飽きて、試験を機に全く遊ばなくなってしまったんだよな。
そんな感じのソシャゲとしては75点くらいの、世界観的に絶対当事者になりたくない世界に俺は転移してしまったようであった。
「こっちっす、お兄さん」
「ありがとう」
金属の恐竜、すなわちアブラクサスをウララが撃退してから10分ほどが経過した。俺とウララは町から抜け出そうと路地を走る。その最中に周囲から消音された、重量物が移動しているような僅かな音がする。
どうやら先ほどの戦闘音を聞きつけたらしくアブラクサスが集まってきているようであり、ウララの誘導に従って俺は町の外れに向かって駆け抜けていく。濁刃を背負う彼女の後姿を見ながら、友人が熱弁していた設定を思い出す。
純真無垢な笑顔と、誰より長い刀──。統率者の指示には全力で応え、仲間のためなら迷わず刃を振るう黒髪の少女。まだ幼いが、その一太刀には確かな覚悟が宿る。同じく13歳のミハルと一緒に戦場を駆け抜ける姿は周囲を奮起させる。
確かこんな感じのキャッチコピーだったはずだ。友人が早口言葉の如く帰り道で呟いていたから記憶に残ってしまっている。友人の気持ち悪さはさておきとして、設定そのままである前提で考えればまだ13歳、純真無垢な少女。なら、とりあえずは信頼してついていけばいいはずだ。
俺が少し黙り込んでいたのを、自身のことを怪しんでいると勘違いしたらしいウララは穏やかな声で自身の状況を説明してくれる。
「今日の私の任務は資源回収っす。この廃棄区画から資源を取り出そうとしたのですが、そこで生存者を見つけて慌てて救出、という流れっす」
「俺が邪魔したってことか」
「いいっすよ、冷凍冬眠してた人が見つかることなんてたまにある話ですし。……ってそうだとしたら町がどうしてこうなってるかも分かんないっすよね。とりあえずミハルちゃんが装甲車で待機してくれてるので、そこで色々説明させてもらっていいっすか?」
「勿論」
こんな状態で急に現れた俺、身体検査やら拘束とかされたりするのかな……とおもっていたがどうやらそうではないらしい。
曰く、一昔前の終末論の流行の関係で、冷凍冬眠した人がけっこういたらしい。そのあとアブラクサス襲来で世界が滅び、電源喪失して何もない場所で目覚める……というのは割とお決まりのパターンらしかった。陰謀論者と勘違いされるのはアレだが、変に探られないのは転移者として助かる話ではある。まあこの場合終末論者は陰謀論者なんかじゃないんだけど。
「ふぅ、ふぅ」
「一旦休むっすか?」
「いや、大丈夫。それより体力すごいね……」
「これが私の濁刃の力っす! 、っと邪魔者は消えるっす!」
「Gyaaaaaa!!!」
ウララは走り続けても息切れ一つしない。これこそが濁刃と呼ばれる武装の力。人類の技術の結晶であり希望。途中現れたアブラクサスを一刀両断しながら駆け抜けるウララの背後を見て、俺は内心安心する。
(これならウララや『統率者』様の庇護下に居れば生き抜けそうだな)
正直この世界に叩き込まれて恐怖しかなかった。だって化け物が闊歩する滅びた世界で、戦闘経験どころか喧嘩の経験すらない高校生が身一つで生き延びるなんて不可能に近い。しかし目の前のウララのような頼れる実力者がいるのであれば。例えば彼女が守る拠点とかに住ませて貰えば、それだけで生存率は大幅UPである。
それに加えて視界内に写るステータス画面を見る。ゲームではこのステータスを弄る能力一つで戦線を何度も押し返すことができていた。この能力を俺も使える、ということは統率者と合わせて二人の使用者が存在することになる。となれば手分けして皆を強化していけば大幅に強化の効率が上がることになる。
(幸いなのはこれ、他人を強化する、って能力な点だよな。俺自身は普通の男子高校生でも、成果を期待できる。戦闘は専門の人に任せておこう)
そんな風に、他人任せな気持ちで、胸を撫でおろしていた時だった。先を走っていたウララが声をあげる。
「見えました、装甲車です! ミハルちゃん~!」
走り続けてしばらくたつが、ようやく目的地に到着したようであった。正直足が痛くて仕方が無いし息もかなり切れていたので助かる。年下の子にカッコ悪い所見せられないぜ、と強がってはいたけれど正直限界だったのだ。足を必死に前に進めながら、ウララが呼びかける先に視線を向ける。
ミハルといえばウララの親友ポジションの少女だったはずだ。確か身長も同じくらい、金髪ツンデレかつメカニックであるということで一部層からの人気が凄く熱かったことを覚えている。俺は少しワクワクしながら、ミハルの姿を探した。命の危険が、先行きが見えない不安が消えたからこそ、ゲームのキャラに出会えるという興奮が表に出てきたのだ。
ウララの先には崩壊した壁があり、その隙間からは彼女が言う通り大型の装甲車が止まっているのが見える。そこで気だるげに手を振る少女……の姿に俺は喜ぶのではなく、絶句した。
「え、あれがミハル……?」
ツナギを改造した戦闘服に、銃剣形状の濁刃。ウルフカットの金髪と気の強そうな目つきは原作通りだ。だが決定的に違うのは背丈。身長180近く、俺をあっさり超える背丈にツナギから溢れるのではないかと思う程豊かな胸。
確か、ミハルはウララと同年代のキャラだったはずだ。二人とも一緒にピックアップされていたのを覚えている、背丈も同じくらいの小ささだった。にもかかわらず、ミハルの背丈は成人並で、一方ウララは小学生と言われても違和感がない。
(ミハルだけ成長してる!? どうなっている、二人は同年代、急成長で身長が数十センチも伸びるのは考えられない。──だとすれば時系列が俺の知っている物とは違うのか!?)
俺は慌ててウララのステータスを見る。確か年齢が記載されていたような気がするのだ。視界に浮かぶ半透明のステータス画面を開き、覗き込む。すると俺の意思に呼応してか、先ほどより少し詳細な表示画面が浮かび上がった。
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ウララ=P2458PG
種族:人間
Lv:19
職業:第3階位
年齢:18歳
濁刃:
侵食度:37%
状態異常*1:[空腹]:ST(スタミナ)60%DOWN、状態異常耐性70%DOWN
[拒食]:[空腹]を解除不可、全パラメータ40%DOWN、身体成長不可
[調子不良]:全パラメータ10%DOWN
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「18歳、身体成長不可!?」
「どうしたっすか、お兄さん。行くっすよ~!」
急に立ち止まった俺を心配してかウララは声をかけてくれる。だがそれどころではない。もう色々とおかしい。
まずゲームでは彼女はこんな無数のバッドステータスを受けていないかった。ステータスがこんなに下がればキャラクターとして使い物にならない、人気になるわけもない。
しかもLv19なんてゲームならクエストEXPだけで到達可能、ログインボーナスの経験値素材を使えば一瞬で30まで上がるはずだ。しかもウララは強キャラ、まともなプレイヤーなら真っ先にLvを上げる。にもかかわらず全然Lvが上がっていないということは、『統率者』は余程のアホか、あるいはLvを上げられない状況にいる可能性が高い。
そして何より年齢。彼女は13歳であったはずだ。
俺は訝しげにこちらを見るウララを他所に、呆然と呟いた。
「もしかしてこれ、『統率者』が敗北した後の、未来の世界なのか……?」
次話で導入終了です。あまり導入や説明を長々したくないのですが、一方で「引退したソシャゲ世界に転移したと気づく」難易度が思ったより高いという問題。