引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件   作:西沢東

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藍田の濁刃入手RTA回です。藍田視点はシリアスならぬシリアル、ヒロイン視点はがっつりシリアス、そんな感じでしばらくは進めていきます。


濁刃入手RTA

 俺達のいる拠点『オウミ』は、当時の自衛隊が対アブラクサス用に即席で設営したものを流用していることもあり、無骨な作りをしている。薄暗い照明と依然として晴れない曇り空、コンクリートの壁に張り巡らされた錆びたパイプ。

 

 そんな中で、建物の陰に隠れるように俺達は集まり、小さい画面を見つめて睨みあっていた。しばらく考え抜いた後、俺の目の前の、同い年の少女は笑う。彼女はギブスで固定している骨折した右腕をちょっと高く上げた。

 

「藍田っち、これで私の勝ちー」

「まじか、また勝てないかー」

 

 まあ別にシリアスな話なんて一つもしていないわけだが。ミハルから思いっきり拒絶された翌日の朝。俺は食堂の裏で昨日知り合った少女、ナナとゲームをしていた。どうしてだよというツッコミをしたくなるかもしれないが、これにも理由があるのだ。

 

 ちなみに遊んでいるのは携帯端末内に搭載された、将棋を魔改造したようなボードゲームだ。先ほどまでは俺が氷原一平不正送金ギャンブル戦法に成功し追いつめていたのだが、残念ながら五条梧を出されてしまい、そこからボコボコにされてしまった。将棋なのに飛車や金銀はどこにいったんだよと思うかもしれないが、五条梧に勝てない雑魚駒に居場所はないのである。

 

 しかしこのゲーム、元の世界でも見たことあったが俺の記憶とは違い対戦型ゲームとしてリリースされていたりバランスが大幅に崩れていたりと微妙に異なるあたり、やはり元の世界とこの世界はつながっていないようである。微妙に似たようなものはそこそこあるんだよな。TOYOTAはないけどTOYODAはある、なんか絶妙に歯がゆい違いである。

 

 そんな話はさておきとして。目の前の骨折した少女は俺に勝ったのが嬉しいのかご機嫌そうに何度もガッツポーズをする。もう一周回っていっそ煽りではなかろうか。

 

 そしてそんな姿は俺達に限ったことではない。周囲を見ると、建物の陰に幾人かの姿が見える。彼女たちは端末を触っていたり、単に会話していたりと様々だが、誰かから隠れていることだけは間違いない。俺は目の前の片腕を骨折した少女、ナナに問いかける。

 

「こうやって裏で遊んでるやつ多いのか?」

「結構多いよー。倉庫の裏とかは特に多いね。まあ常に戦っているわけでもないし」

「訓練とかいろいろあるだろ……」

「そういった時期はもう過ぎ去ったのさー」

「因みに隠れる意味は?」

「某真面目ちゃんに見つかると気まずいから。と、これ昨日頼まれてたやつ」

「おお、サンクス」

 

 そう言って彼女の手は建物の陰に立てかけていた大きな塊を取り出す。それは大剣の形をした濁刃だった。刃渡りは身長を超え、鋼の表面には無数の溶接痕が残っている。研ぎ澄まされた美術品のような美しさとは真逆の、荒々しい戦場の暴力を象徴するような見た目であった。また通常の武器とは異なり、オメガ流体を利用するために至る所に機械部品が取り付けられている。受け取った濁刃には、人間と同じくステータス画面が表示されていた。

 

 

──────────────────────

濁刃 爆羅剛剣(ばくらごうけん)

 ・[オメガ流体]:爆発(小)

奥義

 ・[イグニッションブースト1]:爆発を局所開放して加速および攻撃に使用。クールダウン18秒(通常条件時) 、一時的に侵食度14%上昇

 改造パーツ

 ・[放熱ヒートシンク1] :クールダウン3秒ダウン

 ・空きパーツ1枠

状態異常

 [オメガ流体漏洩(小)]:一定時間ごとに浸食度上昇

 [切れ味減少]:ATK補正30%DOWN

 [パーツ老朽化]:一定確率で追加の状態異常発生

ATK+180(-54) AGI-30 DEF+110 DEX-40

──────────────────────

 

 

「おお、いい感じのパワー系濁刃だな」

「私はこの腕でしばらく使えないから、持って行っていいよ~。何なら無くしてもOK、戦場に出れない言い訳になるし」

 

 そう、一日目の夜にあんな大層な決意をした俺が、こっそり隠れてゲームをしている理由。それは、彼女と仲を深めて濁刃を貸してもらうためだった。

 

 濁刃を入手するべくミハルに話したら凄まじい勢いで断られてしまったわけだが、そんなことで諦める俺ではない。

 

 だが、ミハルの説得は明らかに難しかった。長い間戦場で培ったトラウマを、出会って数日の男があっさり解きほぐせるわけがない。実績無し職歴無し彼女無しの男がいきなり挑むには、あまりにも無理ゲーだった。

 

 まあそもそも俺はミハルのカウンセラーでもないしギャルゲーの主人公でもない。俺のやるべきことは1にも2にもこの辛気臭い状況を打開することである。勿論この基地唯一のメカニックであるミハルといずれ踏み入った話をするべきなのだろうが、まあ今ではない。

 

 そんなわけで、俺は別ルートでの入手を考えており、そこで目を付けたのがいわゆる傷病兵の持つ濁刃であった。しばらく使う予定もなく、そもそも士気が低いのであればワンチャンあるのでは、と思っていたのだが想像の十倍はあっさり入手に成功してしまい、俺は少し戸惑った。だが本当に困惑していたのは、ナナの方であったのだ。

 

「しかし戦場に出たいなんて物好きだよね~」

「そうなの……か?」

「勿論じゃん、本部からは一向に増援が無いし、仲間も次々やる気を失って信用できない、しかも濁刃のメカニックはアレだし交換部品不足のせいでそもそも正常修理ができないしで暴発に怯えながらの出撃を繰り返す日々。こんな状況で精神をすり減らして潰れるくらいなら、基地内で最後の日までまったりしていたほうがよっぽどましじゃん」

「陥落の日が近くなったとしても?」

「もう今は死語だけどさ、昔は健康寿命なんて言葉があったじゃん? 潰れた精神で過ごす日々は意味ない気がする~」

「まあそれはそうだな」

 

 俺は適当に相槌を打つ。色々鬱憤が溜まっていたのだろう、ナナの口調は鋭くなっていく。

 

「ほら見たことあるよね、黒髪チビのウララって子。あんなになってまで戦う意味ないでしょ。責任感強いのは分かるけど、自分が潰れてまでやる意味なんてないのに。自己犠牲の英雄気取りでしょ。私は賢いから自分で腕を折ってそれを言い訳に戦場から逃げてるしー」

 

 

「おや、藍田さんこんなところにいたんっすね?」

 

 次の瞬間。驚くほどいつも通りな声が俺達の背後から聞こえた。二人してぎょっと振り向くと、そこにはやはりいつも通りの、しかしどこかぎごちない笑みを浮かべる背の低い少女の姿がある。

 

 噂をすれば何とやら。ウララご本人であった。

 

 こちらに向かってくるウララに、ナナは恐る恐る問いかける。

 

「き、聞いてた……?」

「いいえ」

「そ、そうなんだ。藍田っち、そ、それはしばらくあげるから! 気が向いたら返して! んじゃ!」

 

 ナナは捨て台詞のように言ってその場を足早に去っていった。その後ろ姿を見て、寂しそうな、諦めたような。でも怒りの一つもない表情を見て、俺は察した。

 

「聞いてたのか」

「ああいう子を、無理に戦場に出しても仕方がないっすからね」

 

 かみ合っていないようでかみ合っているその回答に、俺の心は揺れる。

 

 今、彼女はどれだけの仕事を一人でやっているのだろうか。どれだけの重圧を一心に引き受けているのだろうか。

 

 助ける、なんて上から目線に聞こえてしまいかねない言葉を正面から言う勇気はない。だから俺は言葉を選びながら、改めてウララに頼み込む。

 

「俺も頭数くらいにはなる、仕事を手伝わせてくれないか?」

 

 だがウララの回答はやはり厳しい。

 

「ダメです、普通の人に戦いは無理っす。実は軍人だったりしたっすか?」

「……」

「厳しい言い方ですけど、それなら頭数にすらなれないっすよ」

 

 ここについて、俺は返す言葉がない。一応俺視点からすればステータス、という力があるのはわかるが、彼女からすればそんなオカルトパワーが見れるわけもない。大言壮語を吐く一般高校生、それが今の俺だ。

 

「戦場で戦い方を教えるコストって結構高いんっすよ」

 

 本当に、返す言葉が無い。今の俺を教えることはとても大変だ。武器の持ち方、アブラクサスの生態、教える内容はキリが無く、しかしその労力に対するリターンは彼女視点からすればほとんどないと言っていい。ただの男子高校生がちょっと学んだからといって戦場で使い物になるわけがないのだ。

 

 勿論能力を明かせばいい、という考えもあるが。

 

(なんか危険な気がするぞ……!)

 

 絶対に揉める。理由はパッと言語化できないがすごく嫌な予感がする。俺の内心を他所に、ウララは畳みかけるように人差し指を立てながら俺に指摘を続ける。

 

「それに、メンテしていない濁刃は危険っす。オメガ流体が漏れて侵食されたらどうするんっすか」

 

 実は、これにも明確な答えがある。[侵食耐性(真)]:。侵食度上昇によるデメリット無効、侵食度自動減少の効果を持つスキルである。こいつがある限り、侵食度は全く問題にならない……のだが、それもまたウララからは分からない話である。

 

 

 だから俺は、別の切り口から攻めることにした。

 

「濁刃、きちんとメンテされたやつを貸してもらおうとしたんだけどミハルに滅茶苦茶嫌味言われて断られたんだよね」

「あー、それは本当に申し訳ないっす。あの子も色々あるんっすよ」

「いやー困ったな。冬眠から目覚めたらもう世界が終わってて、何も楽しいことが無いまま終わるのは嫌だなー。せめて濁刃っていう未来の武器を少しは使ってから死にたかったのになー。凄く残念だなー」

 

 俺がそう言った瞬間、ウララの目が凄く泳いだのが見えた。そう、ソシャゲの時もウララは純真無垢ないい子、そんなキャラとして実装されていた。なら、合理的な考えではなく、彼女の良心に訴えかければ。

 

 さらに言えば俺がこんなことを言いだしているのが善意から来ている、ということはウララも重々承知、断ることを内心では少し苦々しく思っているはずなのだ。だから俺はここだ、と一気に言葉を畳みかける。

 

「え、えーっと」

「濁刃やアブラクサスのことを一つも知らないまま死ぬのは嫌だなー、そんな状態で死ぬのは死んでも死にきれないなー」

「あ、あの……でも……。あっ」

「一回だけでいいんだよなー、世界を、アブラクサスを、濁刃を。自分の可能性を見たいんだよなーそれだけで思い残すことが大きく減るんだよなぁー」

「えっ、あっ、その……」

 

 ウララがあたふたし始める。視線を何度も宙に浮かし、手をろくろを回すかのごとく動かしては何も成せずに硬直する。ちょっとかわいい。というかこういう方向の押しに弱いにもほどがあるだろ。まあこんな状況でも戦場で戦い続けるような子だから、真面目なのはそりゃそうだけど。

 

 しばらくして、ウララはついにため息をついた。そして俺の目を真っすぐ見て、頬を膨らませたまま遂にOKを出したのであった。

 

「外では私の言うことは絶対ですからね! 仮に破ったら置いていきますから! いいっすね!」

「ありがとう! ご指導のほどよろしくお願いします、ウララ教官!」

「あと初日の夜、いきなりキツイ言い方をしてごめんなさいっす!」

「ここで言うの本当に生真面目だな!? というかこの場所に来たのそれが理由!?」




次話、遂にアブラクサスと初戦闘です。
因みに侵食度には一時的上昇と常時侵食があるのですが、この辺りはまた次話で。


ミッション
☑ ステータス画面の機能を理解しろ
☑ 濁刃を手に入れろ
☑ 自身のLvを70まで上げろ
□ ウララの好感度を10まで上げろ 
□ ミハルの好感度を10まで上げろ
□ ■■■■■の襲来に備えよ
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