引退したソシャゲに異世界転移したらヒロインが全員病んでた件 作:西沢東
話し合いの結果、ウララの好意に甘え俺はその日の見回りに連れて行ってもらえることになった。
各種準備を終えた数時間後、俺は車内で外を眺めていた。悪路を装甲車が音を立てて走る。周囲は木ひとつない荒地であり、アブラクサスの体液らしきものが大地にこぼれ落ちている。
俺の隣に座るウララは、少し機嫌がいいのか鼻歌を歌いながら車を運転してくれている。彼女のハンドル捌きには何ひとつ問題はないのだが。
「これ、どうみても未成年運転だよな……」
「未成年運転じゃないっす、無免許運転っす!」
「ならなおさらタチ悪いだろ……」
ウララの見た目は13歳、どう見ても車を運転して良いようには見えない。実際、足がペダルに届かないのだろう、何やら小さな箱をペダルに取り付け高さを増やすことでかろうじて走らせることができている、という状況であった。
因みに無免許運転ではあるが、当然彼女を取り締まる人間など存在しない。運転免許というものは凄まじく密集した人の群れの中で使うから大事なのであり、誰もいない場所では単なる自己責任で問題ないのだ。多分。
そういえば、と俺は以前車に乗せてもらった際のことを思い出してウララに問いかける。
「前はミハルが運転してたよな?」
「ミハルちゃんに運転をお願いするのは多くの物資を運ぶ必要がある時っすね。ミハルちゃん、手伝ってくれるのはいいんっすけど、時たま運転が怖い時があるっすから」
「ああ……」
仲間からすらそう思われているのは正直可哀想だ。とはいっても命がかかった戦場で、甘いことは言っていられないのだろうけど。実際自分もミハルの車に乗るのは怖い。何ならステータスにデバフ乗りまくっているウララの車に乗るのも怖い。ちょっと運転についても学ぶべきかもしれない。そう思っていると、ウララがブレーキを踏んだ。
「ついたっす。ここが見回りのAポイント、そして藍田さん初実戦の地っす」
「おお……」
端的に言えばそこには巨大な地割れがあった。凄まじい広さの平地に、天変地異がおきたとしてもありえないような長く広くそして深い地割れができている。大地は不規則に、しかし確かに振動し、そして亀裂から時たま金属の生命体が地上に姿を現すのが見えた。ウララは地割れを指さして言った。
「っとその前に、この場所の説明っす。今この星には、12体の特別なアブラクサスがいるっす。通称『母体』、それぞれのアブラクサスには固有の名前が付けられているっす。そして亀裂の奥には『アマテラス』という母体がいるっす」
「アブラクサスが出てきてるのはそういうことか」
「っすね。こいつを監視するのが基地「オウミ」の役目だったりするっす。なので私は毎日ここを監視し、そのついでに地表の小型アブラクサスを狩るのがお仕事っすね」
そう言いながらウララは車の外に降りる(とはいっても足が届かないので半ば飛び降りるような形であったが)。俺もそれに続いてやたらと重いドアを開けて地面に降りた。荒野には数体のアブラクサスが徘徊しているがそれだけで、いずれも俺たちには気づいていない様子であった。
ウララは長い刀の形をした濁刃を構える……前に、代わりにどこから取り出したのか、黒縁の伊達メガネをかけて、宙を指さした。
「というわけで戦闘講座、始めるっす」
「まだ説明!?」
「戦う相手のことも、武器のことも知らずに何する気っすか?」
「うっ」
正直ここ2日、辛気臭い空気に包まれて過ごしていたため、いい加減体を動かして気晴らししたかったのだが、そうもいかないらしい。ソシャゲ作品の多くが碌に世界観説明もシステム説明もせずにいきなり戦闘画面に移行する理由が良く分かる。まあ現実的に考えると説明なしの戦闘がありえない、というのは全く持ってその通りであるが。ウララは自身の刀を指さして、説明を始める。
「じゃあまずは、濁刃の歴史から説明するっす。どうしてアブラクサスとの戦闘でミサイルや戦車ではなく濁刃が使われるかわかるっすか?」
ミハルの問いかけに俺は黙る。正直な回答は「その方がゲームとして映えるから」なのだろうがそれをいきなり言うのは明らかに変なやつである。ゲーム脳という半ば死語と化した言葉がこれほど適切なタイミングもないんだろう。というわけで適当に案を出すことにする。
「えーっっと、アブラクサスが硬すぎるから?」
「それなら濁刃持って戦う方が不利じゃないっすか。人の手なんて使わずミサイル叩き込みたいっす」
そう言われるとその通りだ。基本的にミサイルなどの近代兵器はあまりにも強い。つまりアブラクサスはそれに対する対抗策をもっているというわけだった。
「まあようは電磁波っす。あいつら、能力使用時に凄まじい電波とノイズを撒き散らすんで電子機器がマトモに機能しないんっすよ。加えて金属生命体っすから素でやたらと強いし硬いし、しかも電磁波はあくまで能力のオマケでしかなくて、能力本来の性能も追加される。となれば兵士を強化して戦わせた方が現実的かつ応用が効く、っという話っす」
なるほど、と俺は頷いた。ミサイルなどの兵器の強さはその自立性、そして超遠距離からの攻撃ができるという点にある。さらに、通常の銃弾はあくまで生身の人間を殺傷するためのもの、素早く動く金属生命体を倒すには色々不便があるということなのだろう。ゲーム的に銃より剣の方が映えるしね……おっと、また思考がゲームに依ってしまった。
「ちなみ戦車や対物ライフルなどは現役ですがアブラクサスのスピードに追いつけないため、拠点攻略などピンポイントで使われることが多いっすね」
「あれ、でも電子機器NGならなんでナナは携帯端末を……ってなるほど、アブラクサスが能力を使うとダメになるのか」
「そうっす。なので戦闘中は有線通信以外不可なので注意っす。で、話は長くなりましたが本題に入るッス、濁刃の機能っす。つまり侵食度っすね」
そして聞き覚えのある、非常にどうでもいい(俺基準)の話が出てきた、ウララはポケットからプラスチック製の青いリストを取り出し、俺の右手首に巻き付ける。何となく、科学の実験で使ったリトマス試験紙を思い出す雰囲気である。
「濁刃はオメガ流体を使用した兵器っす。オメガ流体を励起させることで、特殊な力を使うことができるっす。例えば私の濁刃は超高温を発生させるっす。通常のエネルギー保存則を無視した火力を出せるので、アブラクサスにも有効ですけど、一つ問題があるっす。つまり特殊能力を使用すると、侵食度が上がるっす」
「それを見るのがこのバンドか」
「そうっす。青が0%、赤が100%、黒が200%というように色が変化していくっす。侵食度向上は身体能力を強化するけれど、100%を超えると「帰ってこれなく」なったり、あるいは常時侵食という形で副作用が残るっす。因みに侵食度の下げ方は基本時間経過っすね。だから私は一日3回しかいわゆる奥義は撃てないっす」
「ふーん」
「あ、奥義っていうのは──」
ソシャゲ『ノイルコード』の戦闘システムを思い出す。『ノイルコード』では戦闘時に、通常攻撃、特殊攻撃、奥義という3つの選択肢と、HPと侵食度という二つのゲージが存在した。
ここでいう侵食度というのがこのゲームの売りで、100%を超えるとHPがいくら残っていても撤退(ゲームオーバーにはならないが、キャラクターは戦闘から除外される)、しかし侵食度を上げればステータスが上がり強い技が使えるという製作者曰くジレンマを楽しめるとのこと。初期から侵食度が高いキャラや、侵食度が上がりやすいキャラ上がりにくいキャラでキャラの差別化をできる!
……確かに世界観とマッチしたシステムだが、そろそろお気づきだろうか。ソシャゲのターン数は短い。「100%を超えると撤退」という言葉は言い換えると「100%に達するまでに奥義連打で倒せばノーリスク」「100%までは奥義打ち放題」という意味でしかないのだ。ソシャゲ製作者の意図を無視し、スキル押すだけ3ターン周回、実によく見かける光景である。
結果としてRPGゲームとしての面白さは失われていき、同時に俺の興味も……という話はさておくとして。そう、俺が取得したスキルを覚えているだろうか。
[侵食耐性(真)]: 侵食度上昇によるデメリット無効、侵食度自動減少
うん、多分これなら奥義とやらを無限に連発できるんだよな。そんな俺の予想を他所に、ウララは「それでは」と胸を張った。
「──というわけで説明は終わりっす。じゃあ早速、車のクラクションを鳴らしてアブラクサスを集めて討伐するっす。いいっすか、濁刃をしっかり握って振るうんっす。車の中で教えたスイッチを押して」
「ここだな、点火、っと」
俺は自分の手元にある濁刃を構え、スイッチを押す。すると濁刃が鈍く震え始める。機械油の独特の匂いに顔を顰める俺の後ろで、ウララはクラクションを鳴らした。
「GYAAAAAAAAAAA!」
瞬間、荒野に散らばっていたアブラクサス達の視線が一気に俺に集まる。その見た目は俺が以前見たものと同じ、金属の巨大な恐竜そのものだ。少し体がこわばる俺を見て、安心させるようにウララは言った。
「大丈夫っす、濁刃が銃器の代わりに配備された理由を思い出すっす。しっかり特殊能力を叩き込めば、必ず勝てるっす」
「……うっす」
「リストが50%を超えるか怪我しそうなタイミングで介入するから、適度に戦うっす」
「うっす!」
「っすっす真似しないで欲しいっす!」
俺は濁刃を構える。目の前に、初日に迫ってきた怨敵が近づきつつあった。
1話で戦闘回をやる予定だったのですが、ウララ視点から描いた方が異常性が分かりやすいな……となり分割しました。次話、異常行動をする主人公を眺めるウララ回です。あと一切関係ない話ですが、作者はグラブルのヨダ爺には凄くお世話になりました。神。