受験が終わったので、再開したいと思います。
ですが、更新頻度は不定期となりますのでご容赦ください。
今回は前の話にちらっと登場したメイド♂先生についての外伝となっています。
○メイド♂
夜、キヴォトスのとある場所にて謎の集会が開かれようとしていた。
「...よし、これで全員集まったな。ではこれより━━」
集まっているのはヘルメットを被った生徒やスケバンの生徒たち......ではなく、いろんな学園の生徒たち。
一体集会の内容は何なのか。銀行強盗の段取り決め?それとも戦いの前準備?......否、この、集会は━━
「━━第5回先生ファンクラブ集会を始める!」
「いよっ!待ってました!
「くくく...私の秘蔵のフォルダが火を吹くぜ...!」
「先生とのエピソードの貯蔵は十分か?」
━━ただの先生ファンクラブによる集まりである。
「じゃあまずはあーしから〜!」
金髪のギャルっぽい生徒が勢いよく手を上げる。
「あれはあーしがテストで酷い点数を取ったから勉強を教えてもらっていた時━━」
ーーー
放課後、成績がガクンと落ちたあーしは、観念して先生の私室に向かっていた。
正直な話、説教フルコース覚悟!……だったんだけど。
━コンコン。
「どうぞ」
「失礼しまーす...って何これ!めっちゃいい匂いじゃん!」
扉を開けた瞬間、ふわっと甘い匂いがした。
テーブルの上には、綺麗に並べられたカップと小さな焼き菓子。
レースのクロスまで敷いてあって、まじでカフェ。
「え、なにこれ。女子力えっぐ……」
思わず声に出た。これ、あーしより女子力あんじゃない?
そんなあーしをおいて、先生はいつものメイド服姿で優雅に微笑む。
「それでは今から、“お勉強会”を始めましょう♡」
怒られる空気ゼロで、なんか逆にこわい。
そう思いながらも最初の問題。
「あーし、これマジで無理なんだけど」
「無理、は禁止用語ですよ」
あーしは初手の問題でもうギブアップしそうになっていたけど...
━にこ
先生が笑ってる、なのに圧がすごい。
「ヒントを出しますから、最後まで自分でやってみましょう」
うーんうーんと唸って、出されたヒントを使ってなんとか答えを書く。
「解けたー!先生どう?あってる?」
先生が覗き込む。
「どれどれ?」
一拍。
「正解です」
「やったー!」
ぽん、と頭に手が乗る。
「え、ちょ、なに急に」
「できたときは褒める。基本です」
そういうのさらっとするのズルい。
あーし、ちょっとにやけちゃったし。
でも、次の問題で普通に詰んだ。
「……全然わかんないしー」
シャーペン置いて机に突っ伏す。
「もう無理。あーしに才能ないって」
先生が隣に座る気配。
「才能のせいにするのは、まだ早いですよ」
優しい声が降ってくる。
「ここまで考えられたのは立派です。よく頑張りましたね」
……だからその言い方、ずるいんだって。
落ち込むタイミングでそれ言われると、もう一回やるしかなくなるじゃん?
で。
正直、ちょっとサボろうとしたの。
問題文読みながら、脳内で“このあとお菓子だけ食べて帰るプラン”を立ててたら...。
「……今、別のことを考えていましたね?」
「え!? いや!? そ、そんなことないし!?」
そう言ってたけど。
にっこり。
笑顔そのまま。でも目、全然笑ってない。
まぢ怖い。
「集中が切れたら、焼き菓子は没収です」
「ひどくない!?」
「成績が戻ったら、追加します」
飴と鞭うますぎー。
焼き菓子を人質に取られたらあーし、真面目にやるしかなかった。
んで、数時間後。
なんだかんだ最後までやりきった。
頭めっちゃ使った。
でもちょっとだけ、できそうな感覚あった。
紅茶を一口飲みながら、ふと思って聞いてみる。
「……ねえ先生」
「なんでしょう?」
「先生ってさー、あーしのこと怒んないの?」
少しだけ、静かになる。
先生はカップを置いて、まっすぐこっちを見る。
「叱るのは簡単です」
柔らかい声。
「ですが、あなたを伸ばすほうが、私は楽しいのです」
もー、ほんと。......その言い方、ずるいって。
「……なにそれ。先生、甘くない?」
「甘やかしてはいませんよ」
くす、と笑う。
「あなたは伸びます。ですから、信じているだけです」
なんか、胸の奥がむずむずした。
「あーしがまた成績落ちちゃったら?」
「そのときも、ここでお勉強会です」
「焼き菓子つき?」
「成績次第です♡」
ずるっ。
でも、ちょっと嬉しい。
帰り際、先生が軽く言う。
「あなたは“やればできる子”ではありません」
「え、ひど」
「あなたは、“やる子”です。今日証明しました」
ーーー
「━━ いや惚れてまうやろーー!!」
「わかる」
「これ惚れないほうがおかしいだろ」
「先生の無言の笑顔ってめっちゃ圧あるよね」
「私も赤点取ろうかな...」
「やめとけやめとけ。お前トリニティだろ?」
「え、えっと、じゃあ、次は私で...」
おずおずと、黒髪の大人しそうな生徒が遠慮がちに手を上げる。
「あ、あれは、私から先生に女子力を上げる方法を聞いた時━━」
ーーー
━コン、コン。
「どうぞ」
控えめなノックに対して、静かな声が返ってくる。
扉を少しだけ開けて、小さな影が顔をのぞかせる。
「お、お邪魔します。あ、あの……せ、先生……」
黒と白の上品なメイド服。肩までかかる髪を整え、完璧な微笑みを浮かべる先生が振り向く。
「どうしましたか?」
私は胸の前で手をぎゅっと握る。
「わ、わたし……その……じ、女子力……あげたくて……」
一瞬、先生の目がわずかに細くなる。
「ほう」
ゆっくりと椅子を引く。
「理由を聞いても?」
「み、みんな……かわいくて……わ、わたしは……なにもなくて……」
話しているうちに、視線が自然と床に下がってしまう。
...しばしの沈黙の後、先生は静かに立ち上がり、私の前に来て、顎にそっと指をかける。
「顔を上げてください」
びくり、と肩が揺れる。
「あなたは“なにもない”のではありません。“見せ方を知らない”だけです」
先生が私の背中に手を添える。
「背筋を伸ばして」
「ひゃっ」
「肩を軽く後ろへ、顎を少し上げる。...今、視線が変わりました」
先生が私を鏡の前へ連れていく。
そこにいたのは、いつもより少しだけ大人びた自分。
「……え」
これが、私?
「自信は、所作と同じです。形から作るのですよ」
先生がそう教えてくれた。
自信は、形から...
「そして、笑顔。これは一番大事なことです」
先生が近づいてくる。
きょ、距離が近い...恥ずかしい......
「さあ、笑ってみてください」
「む、むりです……」
「そうですか...では、私を見てください」
そう言って、先生が柔らかく微笑む。
優しくて、包むようで、少しお茶目な笑顔。
私の頬がじわりと赤くなる。
「き、きれい……」
「今の顔、とても素敵でしたよ」
その言葉に、私は完全に固まる。
「......え?」
「照れた顔も、必死な顔も、あなたの魅力です」
先生は軽く私の額を指でつつく。
「“完璧”を目指さないこと。あなたらしさを磨くのが女子力です」
「私、らしさを、磨く」
その言葉をゆっくりと復唱する。
しばらくの沈黙の後、私は思ったことを伝えてみることにした。
「わ、私は!その...せ、先生みたいに……なりたいです」
思っていたより大きな声が出てしまったので、どんどん小さな声になってしまった。
わ、私っていうやつは本当に...
そう落ち込んでいると、先生はふっと笑った。
「それは困ります」
「え……」
「あなたが私になったら、私はあなたを教えられません。あなたはあなたで、いいのですから」
少しだけ真面目な目。
「私はあなたが、自分を好きになれる瞬間を見たいのです」
ーーー
「━━って言ってくれて...!」
「そのお話どこで買えますか?」
「あ、あれ?もう終わり?私の先生どこ?どこ?」
「さすが先生、名言製造機だな。次の研究テーマはこれにしようかな」
「さすがにミレニアムでもそんなテーマ許容されないだろ」
その後もいくつかの話が続き、集会は次で終わりを迎えようとしていた。
「はいはーい!最後はあたし!」
最後の話を飾るのは、桃色の髪を後ろに三つ編みで纏めている小柄な生徒。
「ふっふっふ、ついにあたしの番だね?チミたちにはとっておきの話を聞かせてやろう!そう、それはこの前ついおしりを触りたくなった時に━━」
「処すか?こいつ処すか?」
「つい、じゃねぇよ」
「ヴァルキューレ突き出すぞこら」
ーーー
それは、先生の仕事をシャーレで手伝っていたときのこと。
資料を運んだり、書類を整理したり。
あたし、わりと真面目に働いてた。ほんとに。
先生は少し離れたところで端末を操作していて、そのあとあたしの横にすっと移動してきた。
「このデータを――」
……先生、距離近い。
それだけで、ちょっとドキッとするのに。
なんというか、無防備というか。
先生って普段あんなに完璧なのに、作業中はちょっと隙がある。
(……これは)
心の中の悪いあたしが囁く。
(ちょっとくらい、いいのでは……?)
先生は画面に集中している。
今なら、いける。
「……(そーっと、そーっと……)」
指先を、ほんの少しだけ伸ばす。
ほんの出来心。ほんの、軽いイタズラ。
そう思い、私は
だけど、次の瞬間。
「……あら?」
— ガシッ。
「えっ」
手首を、やわらかいけど逃げられない力で掴まれた。
「いや、あの、これは、その、違うんです!!」
自分でも何が違うのかわからないけど、とりあえず言う。
「出来心というか! 本能というか!」
「本能、ですか?」
先生はゆっくり振り向いた。
お、怒ってる?...いや、怒って……ない?むしろ━━
━クスッ。
「!?」
「もう、おいたはダメですよ?」
優しい声。
でも、しっかり手は握られている。
「先生だって人間ですから。無防備なときもあります」
「……すみません」
ちょっと反省、ちょっとだけ。
先生はあたしの手を離すと、軽く額を指でつついた。
「あなたは正直すぎます。衝動に素直なのは悪いことではありませんが、使いどころを選びなさい」
「……はい」
素直にうなずく。
怒鳴られるより、こういうののほうが効く。
先生は端末を閉じて、少しだけ距離を詰めてきた。
「それとも」
━にこ。
「そんなに構ってほしかったのですか?」
「ち、違いますし!?」
顔が熱くなる。
そんな私をみて先生は楽しそうに笑う。
「お手伝いが終わったら、紅茶を淹れましょう。真面目に働けたら、ですけれど」
私は完全に先生の手のひらの上だった。
「……やります」
「よろしい」
先生は満足そうにうなずいた。
その後、あたしはめちゃくちゃ真面目に働いた。
さっきの出来心は、ちょっとだけ反省してる。
ーーー
「━ま、ちょっとだけだけどね!」
「よし、こいつは処そう」
「異議なし」
「なんだよエデンって、エデンを汚すんじゃねぇよ」
「もしもしヴァルキューレ?ここに変態がいます......いや、私じゃないです」
「まあまあみんな落ち着いて、気持ちはわかるけど...。さて、これで全員分のエピソードは話し終えたし、今日の集会は解散!次の日程についてはモモトークのグループで決まり次第送るからそれをみといてね!」
そして今回の集会は幕を閉じる。
先生の魅力を再確認しながら。
しかし、一つ注意してほしいことがある。
━━━━だが男だ!!!
○メイド♂先生
メイドなので、C&Cと仲が良く、アカネとは特に仲良し。
常に落ち着きがあり、頼りになるお姉様。
女子力の磨き方、勉強会、料理の上達、掃除の仕方などいろんな相談に乗ってくれる。
そんな先生のファンはとても多く、ファンクラブが設立されるほど。
だが男だ。
しかし、一部過激派の生徒たちは「本人が勝手に言ってるだけ」と主張している。